第1話 黒髪ロングのクールビューティー
「転校してきた柏木 秋人です……よろしくお願いします」
必要最低限の挨拶を暗めの口調で済ませると、秋人は担任の先生から指定された自分の席へと歩いていく。その際、うつむき気味になって暗そうな性格を演出することも忘れない。
(これなら俺に対して興味を持つやつなんていないだろう。もう前の高校のときみたいに面倒なことになるのはごめんだ)
しかし、それでも転校生というものはやはり物めずらしいのか、それとも秋人の演技が不十分だったのか……周りの生徒達は話しかけてきた。
秋人は最低限の返答だけをして、基本的にフリーな時間は寝たふりをしてやりすごしことにした。
(距離を作っておけば、そのうち誰も話しかけてこなくなるだろ)
そうして1日をやり過ごし、放課後となった。
秋人は荷物をまとめると、一瞬で教室を出た。クラスメイトと親睦を深めたり、部活動に入ったりする気はないからだ。
しかし足早に昇降口へとたどり着くと、そんな彼よりも早くここにたどり着き、靴をはき替えているクラスメイトがいた。
腰のあたりまでまっすぐに伸びた鮮やかな黒い髪。色白な肌に凛とした切れ長の瞳。短めのスカートから伸びる長い脚には黒タイツを身につけている。
クールビューティーという言葉がしっくりくるその美人な女子生徒。確か
ものめずらしさからほとんどの生徒が転校してきた秋人に好奇の視線を向けてくる中、美麗だけはまったく彼に視線を向けたり話しかけたりしてこなかった。
それは別に秋人にだけ興味がないというわけではなく、彼女はクラスメイト全員に一切の興味を示していないようだった。休み時間も昼食もずっとひとりで過ごしていたのだ。
そんな彼女が靴をはき替え、外に出ようとしたとき……。
「ひひっ、待ちくたびれたぜ美麗ちゃんよぉ」
ひとりの男子生徒が下駄箱の影から姿を現し、美麗の腕を掴んだ。
「ちょっと、誰……やめてくれないかしら」
「忘れたとは言わせねぇぜ……この前はよくも俺のプライドを傷付けてくれたなぁ」
「あぁ、この前図々しい態度で告白して来た……。こっちは顔も名前も知らなかったのに初対面で俺と付き合えとか偉そうに言って来たうじ虫に、そもそも傷つくだけのプライドがあったなんて驚きね」
美麗が掴まれていない方の手で長い髪を後ろに払い歩き出そうとすると、今の言葉で爆発したのか男子生徒が彼女に掴みかかった。
「てめぇ! ちょっと顔がいいからって調子のってんじゃねぇよ!」
そして腕を振り上げて美麗の顔に殴りかかる。
――パシっ
「自分勝手な上に女子生徒に手を上げるとか、最低な男だな」
しかしその拳は秋人の手の平によってたやすく受け止められた。
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