大文字伝子が行く254

3つの事件（前編）

　＝＝＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝＝＝

　==============　主な登場人物　================

　大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

　大文字（高遠）学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

　一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

　久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

　愛宕（白藤）みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。現在は、降格中。

　愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

　斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

　夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

　馬場（金森）和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

　高木（日向）さやか一佐・・・空自からのEITO出向。副隊長。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

　馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

　大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

　田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

　浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

　新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

　結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

　安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。

　稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。

　愛川静音（しずね）・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。

　青山（江南）美由紀・・・､元警視庁警察犬チーム班長。警部補。警視庁からEITOに出向。

　工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向の巡査部長。。

　伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。

　葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。

　越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。

　小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。

　高坂（飯星）満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

　財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。

　仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。

　七尾伶子・・・警視庁からEITO出向の巡査部長。

　大空真由美二等空尉・・・空自からのEITO出向。

　高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。

　青山たかし・・・元丸髷署刑事。EITOに就職。

　馬場力（ちから）3等空佐・・・空自からのEITO出向。

　筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

　原田正三警部・・・新宿風俗担当の潜入捜査官だったが、EITO出向。

　渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。

　河野事務官・・・EITOの警視庁担当事務官。

　早乙女愛・・・元白バイ隊隊長。EITOに出向していたが,娘の轢き逃げ以降、退職していたが、EITOに就職。EITO準隊員。

　みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。

　玉井静雄・・・コスプレ衣装店｛ヒロインズ｝店長。

　玉井優香・・・玉井の姉。ヒロインズの本店店長。

　新里警視・・・あつこの後輩。警視庁テロ対策室勤務。

　久保田警部補・・・あつこの夫。

　久保田嘉三・・・管理官。久保田警部補の伯父。

　みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。

　高島軍平・・・伝子の1年後輩で、翻訳部元部長。フィットネス社員。

　橋爪警部補・・・本来は、丸髷署生活安全課刑事。

　中津健二・・・中津興信所所長。

　高崎八郎・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。

　藤井康子・・・伝子の区切り隣のマンション入居者。モールで料理教室を開いている。EITO協力者。

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　==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

　==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

「期待します。」玉井の姉は、短く応えた。

　翌朝。午前6時。恩賜上野動物園。

　熊の檻の中でクマと飼育員が死んでいた。初め、飼育員が餌をやっている最中に襲われたものと思われた。

　だが、飼育員の肩には、『コブラの入れ墨』があった。

　事件は、単なる事故死と発表されたが、久保田管理官はダークレインボーが絡んでいると判断し、EITOの案件になった。

　午前7時。伝子のマンション。

　EITO用のPCが起動した。久保田管理官用のPCも起動した。

「早起きだな、大文字君、高遠君。」久保田管理官が事件の事を話した。

「寝ていない、というのが正解です。朝食を食べながら、動物園の事件は今、ニュースで聞いたところです。プリントでなくタトゥーだったという事は、コブラチームの関係かな？」と、伝子は呟いた。

　午前9時。

　EITOに向かう準備をしていたら、愛宕から伝子のスマホに電話がかかって来た。

「先輩。山村編集長が通っているフィットネスの元トレーナーが殺されました。今、現場の目黒川に来ています。そのトレーナーは、右肩にコブラのタトゥーがあります。今度の模様は、プリントじゃありません。中津興信所の中津所長に来て貰っています。ひな祭り事件の時のモノに似ているデザインだと言っておられます。橋爪さんに、フィットネスに向かって貰いました。ああ、実はフィットネスの名刺と個人で開いていたらしい、治療所の名刺を持っていたんです。」

「治療所？どういうことだ？愛宕。」「以前の事件の時、警視が山村編集長や、先輩の大学の後輩の高島さんや社長から聞いたところでは、トレーナーとして雇っている理学療法士や看護師は、契約社員であって、正社員ではないんです。だから、副業で治療所を開いていたのでしょう。」

　午前10時。EITO東京本部。司令室。

「コブラの絵がプリントではなく、コブラの入れ墨だったから、コブラチームの紋章で、今回の２件は、マングースチームの悪戯ではない、と言うんだね。大文字君。」と、夏目警視正は言った。

「じゃ、マングースチームはお休みか？」

「そうでも無さそうですよ。警視庁のサイバーチームから、Redに、コブラ＆マングースが『犯行予告』をしたので、と連絡がありました。」

　河野事務官が、そのメッセージをマルチディスプレイに出した。警視庁のサイバーチームは24時間体制でSNSの監視をしているのだ。

《

　やあ、またまた、お待たせしたね。私もアナグラムで勝負しよう、と決めたから、私なりに知恵を絞ったよ。これでも流行に敏感なんだ。今度こそ、自信はあるよ。『お題』は『暇なら浮くわ、烏賊』だ。解けたら、その場所で、一緒におやつでも食べよう。ははっはっははっははは。

　》

「理事官。今度は、コブラチームらしき声明です。サイバーチームから届きました。画面に出します。Base bookの投稿です。」

［裏切り者は処刑。いかなる者もルールを破ることは許さない。コブラ。］

「え？これだけですか？」と、原田が念を押した。

「これだけ、じゃ不満か？原田。」と、理事官が訪ねた。

「いえ。確認です．済みません。」

　その時、伝子のスマホに電話がかかって来た。あつこだ。

　伝子はスピーカーをオンにした。

「おねえさま。犯人から電話がかかって来ました。今度は逆探知出来ませんでした。この前のアジトがバレたから、用心したのだろうと思われます。」

「あつこ。玉井君のＤＤバッジや追跡ガラケー等は、さっき渡さんに確認したら、全く動かないそうだ。正月の事件の時のように、着替えさせたのかも知れない。それと、こっちも、『こぶまん』から犯行声明が出て緊急性が高まった。『手下』のことは『親分』に任せよう。お前となぎさは、引き上げてこい。『こぶまん』は、アナグラムと時間だけ言って来た。日付は分からないから、今日なのかも知れないんだ。しかも、コブラらしき事件が2件起きている。」

「了解しました。」電話の向こうで、みちるのすすり泣きが聞こえる。

　見捨てられた、甘酒の事件で、まだ腹を立てているのだ、と思っているだろう。

　伝子は、自分が悪者になっても、事態の収拾に当たらざるを得ないことを悟った。

　EITOの電話が鳴った。河野事務官が出た。

「理事官。中津興信所の高崎氏からですが・・・。」

「私が出ましょう。」と、伝子は言い、河野から受話器を受け取った。河野は、スピーカーに繋いで、理事官達に聞こえるようにした。

「ヒロインズの本店ですが、リストラがあったようです。大幅なリストラではなく、2名。会社への背信行為ということで。白藤隊員が連絡を入れてくれと言うので・・・この電話で良かったですか？」「ええ、大丈夫です。それで、背信行為とは？」

「実は、EITO大阪支部で扱った案件で、老舗の呉服屋『楊貴妃』のライバルチェーンの『クレオパトラ』っていう和服衣装レンタル屋があるんですが、その東京のチェーンは店に『コスプレ・クレオパトラ』って名前で出店しているんです。早い話、ヒロインズの店員が産業スパイをしていることが発覚、解雇されたんです。玉井優香本店店長は、口が重かったんですが、社員から我々が聞き出して問い詰めたところ、認めました。それで、浅草寺で人質交換する、と言ってきました。午後3時です。」

「高崎さん、お願いがあるんですが。」「皆までおっしゃるな。事情は聞いています。警察署の捜査員も来ますが、我々は全員警察官出身です。人質交換をしながら、相手の身柄を拘束しますよ。」

「お願いします。」伝子は電話に向かって、お辞儀をした。

　向こうは『単なる』誘拐事件。こっちはテロ事件。同時に発生してしまったのだ。

　なぎさのことだ、みちるに出来るだけ多くの武器を持たせている筈だ。それに、中津興信所のメンバーは全員警察官上がりだ。ドジは踏むまい。

　伝子は、高遠に、アナグラム解析を急ぐよう、メールをした。

　午前11時。

　EITO隊員達が集まって来た。

　なぎさが声をかけようとすると、伝子はスマホで誰かと話していた。

　理事官は、これまでの推移を話した。

「分かった。高島。お前もいい後輩だ。嬉しいよ。社長によろしく言っておいてくれ。」

　電話を切ると、皆に向き直り、伝子は言った。

「フィットネスの元トレーナー殺人事件だが、怨恨の線が出てきた。社長が、以前フィットネスに通っていて退会した会員に連絡を取ってくれた。トレーナーの皆藤義男は、在籍当時から、自宅の治療所でマッサージをしてあげると女性会員を誘っていた。占いから入って信用させ、わいせつ行為をしていたらしい。占いは別料金だが、よく当たるとSNSで知られていた。占い師は免許なんかないからな。免許があったから、マッサージの治療は出来た。皆も知っている通り、レイプは親告罪だ。泣き寝入りをするケースが多い。法律が多少変わっても状況は同じだ。」

「隊長。レイプされた女の人が殺した、あるいは関係者に殺された、ということですか？」と、最近口数が多くなった、越後が尋ねた。

「うん。被害者を絞り込んで、張り込みをする、と橋爪警部補からも連絡が来ている。西部警部補と早乙女準隊員にも協力して貰う。白藤副隊長代理補佐には、ヒロインズ支店長誘拐事件を担当させた。」

「させた・・・。」と、財前が呟いた。何か言おうとして、言葉を飲み込んだ。結城が目配せをしたからだ。隣にいる仁礼も気づいた。

　隊員の任務の采配は、隊長の責任だ。隊員が口を挟む余地はない。

「おねえさま。コブラが『裏切り者』って言ってたのが、気に掛かるんだけど。」と、あつこが言った。

　いつの間にか来ていた、河野事務官が言った。

「動物園の飼育員殺害事件ですが、動物園の飼育係ではないそうです。詐欺の前科があったので、人物が特定出来ました。佐幸一郎、46歳は、時々来園客として動物園に来ていたことが防犯カメラで分かりました。そして、死亡推定時刻のカメラのデータが消えています。何者かがクマを殺し、佐幸を檻に入れたのではないか、と警視庁では見ているようです。」

　なぎさが、「おねえさま。コブラの『枝』だった筈が、何かしでかして、見せしめの為に殺された、ってことかしら？」と伝子に言った。

「恐らく、元トレーナーもな。2つの事件は繋がっている。我々は、アナグラムが解け次第、マングースが誘い出している場所で対決する。自信たっぷりのようだったから、兵隊は少なくないと考えていい。コブラチームの内輪もめは、警察の方に任せよう。原田君、撮影と、付近のパトロール、しっかりな。期待しているぞ。」

　伝子の依頼と励ましにすっかり心酔して、原田は「了解しました。」と大きな声で応えた。

「では、一旦解散しよう。場所がいつ特定出来るか分からないから、基地は離れないでくれ。」と、理事官は締めた。

　皆が出て行くと、なぎさ、あつこ、日向、田坂、あかりは残った。

「おねえさま。みちる先輩は・・・。」今にも泣きそうな顔で言いかける、あかりに、「あかり、おねえさまも辛いのよ。イジメじゃないことは理解しなさい。みちるの活躍に期待しましょう。」と、あつこが言った。

　正午。伝子のマンション。

「いつも夫婦揃って、激務ね。高遠さん、お寿司作っておいたから、後で食べて。私は料理教室に行くわ。」と言う藤井に、「いつもすみません。行ってらっしゃい。」と、高遠は作業をしながら、応えた。

　正午。シネコン映画館。

　警視庁のリモート記者会見が行われていた。

「管理官。クマと一緒に殺されていた飼育係は、動物園の飼育係じゃなかった、と動物園側は言っているそうですね。」ある記者が、詰め寄る発言をした。

「また、こたつ記事ですか。週刊誌の記者しか取材に行かないのは残念ですね。コロニーは、とっくに終ってますよ。取材して、コロニーのウイルス貰うのが恐いんですか。それと、『一緒に殺されていた』というネタは、どこからかな？まだ警察は発表していません。その方には、別途お話を伺いましょう。」

　その記者に、近くにいた警察官が2人、腕を掴んで会場を出た。

　以前は、こういう場合、シネコン映画館内の別室を借りていたが、取り調べに使うのは勘弁して欲しい、と申し出があった為、怪しい人物はパトカーの中で『取り調べ』をすることになっている。

　シネコン映画館の外。ワゴン車が駐まっている。記者と警察官が乗り込もうとすると、パラパラと警察官に3人は取り込まれた。

「3人揃って、春うらっら～」と、歌いながら、新里警視が登場した。

「じゃあ、ゆっくり話を聞かせて貰うわよ。今日のルージュ、決まってる？ムチもね、新調したから早く使いたかったの。全員連行！！」

　最後は険しい表情で、新里は部下に命じた。

「気の毒に。あっちゃんの方がましかな？」と言って、久保田警部補は、どこかへ電話をした。

　―完―