茜の場合
翌日、俺はクリスマスイブという特別な日を誰と過ごすか決意ができていた。昨日までの迷いはない。今日という日を一緒に過ごすのは――茜だ。
茜は小悪魔系で振り回されてばっかりだが、それが一種の楽しみになっていた。次はどんな誘惑をしてくるのだろうか、と。
俺は勝負服を着ると待ち合わせ場所である駅の西口を目指して歩き出す。今は7時40分。駅は近いから8時には間に合う。俺を待っている三人は7時前には家を出ていた。俺と出発時間が一緒だと誰のもとに行くかバレるからだ。いつまでも冬の寒さの中で待たせるのも悪い。さて、少し早歩きするか。
7時50分、無事駅の西口に着いた。大きな駅なだけあって、出入り口は人であふれている。こりゃ、茜を見つけるのは苦労するぞ。
8時5分。茜の姿が見つからない。いくら人込みとはいえ何かがおかしい。これは事故か何かに巻き込まれたに違いない。スマホに連絡がないのがその証拠だ。そんな心配をしていると、いきなり視界が真っ暗になった。
「だーれだ」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。この声は――茜だ。
「茜、大事な日にまでイタズラをするなよ……」
俺はあきれた。
「いいじゃん。お兄ちゃん、ドキドキしたでしょ? 私もドキドキしてたんだ。他の二人のところに行くんじゃないかって」
茜にしては珍しく弱音を吐いた。俺が逆の立場なら同じ気持ちになるに違いない。
「まあ、今日は何をしても許すよ。特別な一日だからな」
「さすがお兄ちゃん。いっぱいイタズラしーよ、と」
さっきまでのしおらしさはどこえやら、いつもの元気のよさが戻っている。こりゃ、今日はいつもより大変な一日になりそうだ、いい意味で。
俺は茜の手を握ると歩き出す。
「お兄ちゃん、いきなりどうしたの?」
「レディをエスコートするのは当然だろ?」
その瞬間、茜がパーっと眩しい笑顔を浮かべる。今日は忘れられない一日になりそうだ。生涯をともにする人との初めてのデートなのだから。
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