茜の秘密

 舞さんに案内されて辿り着いたのはおしゃれな喫茶店だった。客は女性ばかりっだった。つまり、女性に免疫のない俺にとっては居心地の悪い空間だった。いや、目の保養になるのに何考えているんだ、と他人から突っ込まれそうである。


「君は何を頼む?」


「俺は……こういう店に慣れてなくって。舞さんと同じでお願いします」正直に言う。


 舞さんは「お姉さんにまかせなさい」と言うなり、店員さんを呼び止めると何か注文しだした。しかし、外国語のようなカタカナ言葉ばかりで何を頼んでいるのかさっぱり分からない。まあ、舞さんのことだ、味は確かだろう。


「ところで、今日は茜のことで相談だったわね」


「ええ。最近、茜が外出しているのを見たことがなくって……。何か事情があるのでしょうか」


 舞さんは俺をじっと見つめるなりこう言った。「おおありよ」と。

 舞さんは以前、俺が家庭教師になってからだと言っていた。俺は茜の機嫌を損ねるような地雷を踏んだのか? いや、それなら俺をクビにすればいい。家にこもる必要はない。


「面接のときのこと、覚えている?」


 舞さんの問いかけに頷く。忘れようもない、あの問答はいまだに謎だった。


「そうね、まずは茜の家庭教師募集のところから話をするわ。あの子がね、急に『家庭教師が欲しい』って言いだしてね。知っていると思うけれど、私と茜は血が繋がってないの。お父さんの連れ子だから。つまり、茜はお母さんの一人娘なわけ。だから甘えん坊さんで、欲しいものはなんでもお母さんが与えたの」


「それって……家庭教師もですか?」


 まさか、そんな理由はあるまい。


「ええ、そうよ」舞さんはあっさり肯定した。


 のどまで出かかった俺の言葉は、店員が注文の品を持ってきたことで遮られた。目の前に置かれたのは見事なまでにフルーツが盛り付けられたパフェだった。


「どこまで話したかしら。ああ、家庭教師の話だったわね。そんなわけで家庭教師の募集をしたのだけれど、あの子ったら自分で面接するって張り切ってね。他の応募者は君と同じように質問をされては、あえなく撃沈。ところで君はなんで自分が合格したか分かる?」


「それは……茜の求める答えをしたからです」


「もちろん、そうよ」


 あれ、俺は茜の引きこもりの相談に来たはずだが。


「それで、君の相談につながるわ。君は家庭教師に採用された。それでうちに住み込みで教えるようになった。そこで予想外の事件が起きたわ」


 事件? 俺が理由で?


「そうね、これは私の勘だけれど、茜はね、君に恋したの」


 舞さんがパフェを口にしながら言う。なるほど、恋ね。うん、恋? それも俺に?


「あれ、その反応は気づいてなかった感じね。これで茜が引きこもりのわけが分かったでしょう? それは君と一緒にいたいからよ」


 舞さんがパフェをつつく。なるほど、それなら筋が通る。茜が引きこもる理由。そして、俺がクビにならない理由。


「でもね、もう一つ予想外のことが起きたわ」


 舞さんが真剣な表情をする。こんな顔は初めて見た。


「それはね……」

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