舞さんの秘密

「でもね、もう一つ予想外のことが起きたわ。それはね……」


 それは?


「私も君を好きになっちゃったことよ」


 なるほど、それは問題だ。いや、大問題だ。


「今サラッと言いましたけれど」


「ええ、本気よ」


 冗談ではないらしい。つまり、茜から好かれ、舞さんからは告白されたというわけだ。この場合、どのような反応をすればいいのだろうか?


「返事は今じゃなくても大丈夫よ。私はお姉さんだから。それと今日の話は二人には秘密よ。特に茜には」


 舞さんは唇に人差し指を当てるとウィンクしてきた。果たしてそんなことができるだろうか。溶け出したパフェを見つめながら思った。




 その夜は平常心を保つので精一杯だった。いや、平常心を保てていたかは怪しい。どうしても舞さんを見てしまうし、それに気づいた舞さんからは微笑みが返ってくる。おそらく顔に出ていたのだろう。茜からの視線は痛いし、美里さんからは苛立ちを感じた。そして、ふと思った。もし、俺と舞さんが付き合ったら、果たしてこのまま住み込みを続けられるのだろうかと。


◇ ◇ ◇


「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんってば!」


 茜が俺を見上げてくる。そうだ、今は茜に勉強を教えている最中だ。


「もしかして、お兄ちゃん……私に惚れちゃった?」


 惚れてはいない……はずだが、舞さんの言葉を聞いてから茜を意識しているのは確かだ。舞さんの勘違いかもしれないが。


「お兄ちゃん、顔が赤いよ?」


 額に手をやると少し熱い気がする。もしかして、風邪でもひいたか?


「お兄ちゃん、動かないで」そう言うと茜は顔を近づけてくる。


 茜の薄い唇が近づいてくる。まさかキスをする気か!? いきなりそれは大胆すぎる!


 と、目をつぶったがそれは俺の勘違いだった。茜は俺の額に自分の額をぶつけてきた。そりゃ、いきなりキスはないわな。いや、少し期待していた自分がいる。


「お兄ちゃん、これは……」


 これは?


「私にお熱をあげてるのね!」


 そうきたか。いや、それは違うと思う。これは明らかに風邪の症状だ。



「茜、俺から離れろ。風邪がうつる」


「お兄ちゃんから離れるのは嫌。そうだ、お兄ちゃんにイイコトしてあげる」


 茜は俺の部屋に向かいながら言った。

 イイコト? まさか……。

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