第23話 駆けるは彗星、妖艶なる鬼の姫 其の五
「おい、お前。悪魔教だな?」
『うぬ?一般人が何故ここに?』
人が誰も寄り付かない、迷宮都市の裏社会の巣窟である北東地区の廃墟にて、僕と青色の線が入った黒フードを被った男が会話を交わす。僕の右手には、殺意が籠もった鉄槍が光り輝く。
(アイアンは僕のことを、大罪司教相手だと足手まといと判断した。でも、そんなので腐る程僕は廃れていない。)
「最短で終わらせる。《動死領域》」
僕は廃墟全体を囲むように魔力の円を展開、思わず身構えたフードの男だが、もう遅い。
『ぐぁぁぁ!?、、、』
こちらに向けて突撃しようとしたフードの男、だが地面を蹴りぬこうと動いた瞬間その両足は切断される。
「質問に答えろ、そしたら生かす。」
『ひぃぃっ!?』
僕は豪速で地面を蹴り抜き、両足を失って地面に倒れたフードの男の眼の前まで一瞬で移動して睨みつける。
「悪魔教、お前等はこの街に何をしに来た?」
『それは、、、』
「速く答えろッ!!」
答えるのに躊躇した男の顔面を容赦なく蹴り飛ばす。悪いけど、今の僕に余裕はない。必要な情報を得るためなら拷問も厭わない。
『ぐっ、、、迷宮都市を襲撃して、大迷宮のモンスターを放出しようとしたんだ、、、大迷宮にいるモンスターは、地上よりも遥かに強力、下層や深層のモンスターを放てば、この国を滅ぼすことなど容易い、、、』
「次、この街にどれだけの仲間がいる?」
『青色が一人と、黄色が一人。それと別組織の幹部が、来ている、、、』
凄くペラペラと情報を喋るフードの男、やはり裏社会の人間は口が軽いな。でも今はそれが聞けるのなら良い。
「そうか、死ね。」
『なっ!?話がちが!?』
ザシュッ!!そんな音と共に振られる槍、それはフードの男の首を見事に切断した。
(アイアンとボーロさんが出てから10分、南東方面から感じる強力すぎる圧は未だ止まない。)
そこで僕は、あることに気付いた。それはまだ確信に至らない疑問だが、僕は冷や汗が頬を伝う。
「これだけの戦力が都市に居るのに、何故早くに事件を起こさなかった、、、?」
悪魔教のメンバー、少なくとも青色が二人、黄緑が一人、黄色が一人。これだけのA級以上の戦力がいたのに事件を起こさなかった理由、そんなのは、ただ一つだ。
「アイアンにハルマさん、ボーロさんがいたから、、、?」
その時、僕の疑問は確信へと変わる。そして抱くのは絶対的な焦りと恐れ、やらかしてしまったという感情。
(今のソムニウムには、アイアンもボーロさんもハルマさんも居ない、、、それも悪魔教の大罪司教が引き付けているからしばらくは帰ってこない、、、まさかッ!?)
―――――ゴォォォォォォォォン!!!!!!
激しい爆発音が、ソムニウムの南門方向から鳴り響く。そして膨れ上がるソムニウム内の殺気と威圧的すぎる魔力、間違いなく、奴等の襲撃である。
✳✳✳
✳✳✳
✳✳✳
『まったく、いつから冒険者というものはここまで衰退してしまったのやら。』
「ば、化け物が、、、」
ソムニウムが誇る巨大門は、いまや崩れ去り田だの瓦礫の塊と化した。その惨状の真ん中に立つのは身長160ほどで、金眼の緑髪ロングストレートの女性。その足元には、顔面を踏みつけられる一人の男冒険者が居た。
『《インセクトNo.3》、【蠍】。任務開始する。』
その時、蠍の二つ名を持つ女性の背中から一本の黒くゴツく、5メートル近くあろうかという巨大な尻尾が出現する。そしてそれが振り回された瞬間、周辺の建物はまとめて倒壊、吹き飛び異変に駆けつけた冒険者たちはすり潰されて挽き肉にされる。
『弱いね〜、弱すぎる。こんなんじゃ呆気なく終わっちゃうよ。』
蠍が巨大な尻尾を振り回しながら、ソムニウムの中心へと歩いていく。そのたびに大量の建物や生物を轢き潰していき、その攻撃の格を見せつける。まるで天災、通った場所すべてを破壊し尽くす破壊の権化。
だがその時、迷宮都市の最強パーティーが君臨する。
「おいおい、遠征から帰ってきたばっかりだってのに、なんでこんな事件が起きてんだ?」
「うわアイツ、メチャクチャ美人じゃん。ムカつくな〜。」
「顔とスタイルは別嬪だけど、背中についてる尻尾が物騒すぎて俺はナッシングだな。」
「はいはい、遊びながら戦りあうと死にますよ。あの女性、恐らくかなり強いですから。」
土煙の中から姿を表す四人の強大な気配を放つ冒険者たち、それを見た蠍は獰猛な笑みを浮かべる。
『ようやく骨がありそうなのが出てきたね。』
「あったりめぇよ、こちとらS級冒険者のネメシス様だぞ?」
「同じくS級冒険者のサルファよ、アンタ美人すぎてむかつくからその顔グシャクジャにしてやるわ。」
「S級冒険者のクロフォードで〜っす!!」
「セリカです、この街で暴れた罪は清算させてもらいますよ。」
一人は金髪の180ほどのチャラチャラした剣士ネメシス、一人は赤髪の魔術師サルファ、一人は双剣をチラつかせるハゲのクロフォード、一人は金髪ロングのストレートで物凄い美人のセリカ。彼等のパーティー名は《夜明けの剣》、迷宮都市においてパーティー最強の四人である。
『んま、取り敢えず小手調べ。』
蠍が舌で口の周りをペロッとすると、背中から出現する尻尾がさっきまでとは次元の違う速度で夜明けの剣の面々に向けて放たれる。
「散開!!」
パーティーリーダーであるネメシスが叫ぶと、夜明けの剣全員が横に飛び退き尻尾を回避。身体能力がそこまで高くないヒーラーであるセリカはネメシスがお姫様抱っこで抱えて脱出する。
『へぇ?少しはやるじゃん。』
「そっちこそ、正直舐めてたぜ。絶対そのたわわに実った胸部を触ってやる!!」
「戦闘中に馬鹿言ってんじゃないわよ!!」
ネメシスがとんでもないことを口走るとサルファの鉄槌がネメシスの頭に降り注ぐ。こんな馬鹿みたいなやり取りをしているが、彼等に隙はない。
「隙ありィ!!」
『そんなのあったかな?』
気配を完全に絶ち、蠍の背後に忍び込んだクロフォードがその双剣を閃かせる。だがその連撃は背中に出現している尻尾によって全て防ぎ切られる。
『そろそろ、潰そうかな?』
蠍が獰猛な笑みを浮かべた瞬間、さらに上がったスピードで尻尾が振られる。ネメシスはセリカを抱えたまま脱出するが、近くに居たクロフォードは避けられずその腹部を尻尾によって切り裂かれる。
「がはぁっ!?、、、」
「クロフォード!?」
しかし、ただ切り裂かれただけではない。クロフォードは激しく血を吐き切り裂かれた腹部周辺を毒々しい紫色に染める。
「セリカ!毒だ!!解毒できるか!?」
「駄目ですね、この毒は毒龍王の王毒レベルの毒です。」
クロフォードは地面へと倒れ込み、その意識を失う。このままではすぐに死んでしまうと思ってしまうほどに強力な毒だ。
『蠍の尻尾には毒がある、そんなのは常識だよね〜。』
「許さないぞ、貴様。」
先程までふざけていたネメシスの表情は一気に真面目な顔になり、未だ笑みを崩さない蠍を睨みつける。
「【閃剣】」
ネメシスが冷徹に呟いた瞬間、ネメシスの全身が金色に光り輝き瞬間移動の如き加速を見せる。次の瞬間、蠍の懐に侵入しその金色の剣を振り抜く。
『スピードは良いけど、威力が足りないよ〜。』
「そうかよ!!」
首に向けて振り抜かれた剣は、蠍を守るように展開された尻尾によって防がれる。
だが、防がれたことを認識したネメシスは即座に後退し再び駆ける。次に繰り出すのは速度を生かした尻尾の防御の隙を狙った連撃である。
『ごめんだけど、隙なんて無いんだよね〜』
「化け物が、、、」
「ネメシス!!退きなさい!!」
2秒間という時間で繰り出された剣撃は200を超えるが、その全ては後手に回ってもなお一切崩れることのない鉄壁の尻尾の防御によって防がれる。
だが、魔力を練り終えたサルファはネメシスに後退の指示を出しその赤色のロッドを蠍に向ける。
「《ヘルズ・ライトニング》!!」
光り輝くロッドの先端、刹那の瞬間に放たれるのは王雷の結界であり、蠍を囲うように数億ボルトの電撃が結界を組み内部の蠍に向けて全方位から大量の雷撃を放つ。
王級魔術師サルファ=リーベン。彼女の持つ強大な魔力によって放たれる強烈な魔術が蠍を襲う。
『うんうん、ちょっと焦ったよ。』
「無傷、、、」
「サルファ、動揺するな。奴が今のを防御するために使った魔力はかなりのものだ、このまま行けば勝てる。」
自分の全力の魔術を受けても、土煙の中から無傷で飛び出てくる蠍に動揺するサルファ。だがサルファの冷静さを取り戻させたのは、リーダーの一言だった。
「セリカ、俺に強化を。あとは尻尾がサルファに行った時に防御を頼む。」
「了解。」
リーダーとしての的確な指示を出したネメシスは魔力による身体強化を発動し、ユニークウェポンである自身の閃剣の能力も発動して全身を金色に光り輝かせる。
「ハァァッ!!!!」
『軽いよ〜ん』
セリカという大司祭級の僧侶によるバフを受けたネメシスの、先程からさらに上がったスピードでの突進斬りは鉄壁過ぎる尻尾の防御によって防がれる。だが、先程までとは蠍の殺意が違う。
『少し力を使うよ〜』
その瞬間、蠍の右手には突如真っ黒なまるで尻尾を剣の形にしたかのような刀身が2メートル近くある大剣が出現する。それは尻尾と鍔迫り合いをしていたネメシスの腹部に向かって放たれる。
(不味い!?)
ネメシスの脳裏に蘇るのは、コイツの攻撃を食らって今もなお地面に失神して倒れ込むクロフォードの姿。だが、ネメシスがクロフォードのようになることは無かった。
「【星穿】」
刹那。
ネメシスの脳天目掛けて振り下ろされる死の黒大剣、その剣の腹に強烈過ぎる『鉄槍』の突きが放たれそれを受けた蠍は右方向に3メートルほど吹き飛ばされる。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。すまない。」
「良いですよ、それに今はこの女を殺すほうが先です。」
絶体絶命な状況に現れたのは、青髪と金髪が入り混じった髪を持つ好青年。その全身に纏っている魔力量は近くにいるだけでS級であるネメシスが酔いそうになるほど多い。
『なるほど、君も来るなら少し本気でいかなきゃかもね。』
蠍は未だ、その獰猛な笑みを崩さない。それどころか黒大剣を両手に持ち尻尾と合わせて三刀流のような構えを取る。
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