第22話 駆けるは彗星、妖艶なる鬼の姫 其の四


「で、うちにどう抗う?」


『ぐ、、、』


「あ、逃げるのはナシ。」


リリスの左眼が青色になると、リリスを忠臣に半径100メートルほどの結界が展開される。それはフォビアから見ても、アイアンから見ても絶対に破れないものと納得してしまうほど強大な圧を放っていた。


『うらァァァァ!!!!!!』


「はい駄目、単純すぎん?」


全身に堕天を纏いリリスへ突撃するフォビア、だがリリスの眼が白色に変化するとフォビアの肉体には強烈すぎる重力が掛かり、地面へと叩きつけられる。


『死ね!!!』


血走ったフォビアの眼がリリスを睨みつけると、200を超える黒光線がリリスに向けて放たれる。だが、リリスの左眼は無慈悲に青く光った。


「馬鹿の一つ覚えしか出来ないん?」


『クソがァァァ、、、』


リリスの全身を囲うように青色の結界が構築され、黒光線の全てを防ぎ切る。さらに右眼はピンク色へと変化する。


「光線っていうのは、こう打つんだよ。」


『ぐぁぁぁぁ!!!???』


重力によって地面に縫い付けられたフォビアの全身は、まるで落雷のように降り注いだピンクの光線によってズタズタにされる。フォビアの肉体の内部はもう致命傷レベルの傷を負っている。


フォビアの黒光線とは威力も速度も規模も次元が違う超高精度の光線。そんな化け物級の技が見るだけで発生させられる。


「言っておくけど、肉弾戦も出来るで?」


『ぐはぁっ!?、、、』


未だ重力によって縫い付けられるフォビアの顔面は、アイアンに迫ろうかという速度で放たれた蹴りで吹き飛ばされる。それはかけられている重力事吹き飛ばしているため、その威力のほどが知れる。


(流石だな、リリス。なんとか時間稼ぎした甲斐があった。)


古い付き合いのアイアンから見ても、リリスの戦闘力は異常である。面倒くさがりで薄情者、人をいたぶることに躊躇がなく、小国の王がリリスの機嫌を損ねた結果国を滅ぼされるなど、戦闘以外はかなり壊滅的な性格だが、戦闘力だけはこの世の誰よりも頼りになる。


「ふぅん?『強欲』は重力だけで潰せたけど、中々硬いじゃん。」


『げほっ!?げほっ!?化け物が、、、』


リリスの蹴りを真正面から受けたフォビアは激しく吐血し、吐瀉物をまき散らす。そして受けたダメージすべてが、何故か再生できない。


「10秒、10秒間魔眼を使わないであげるよ。」


『舐めるなァ!!!!』


フォビアは激昂し突進する。それはアイアンと戦闘していたときよりも心なしか速く、その漆黒の拳をリリスの整った顔面に抜き放つ。


『オラオラオラオラァァァァ!!!!!!』


次々に放たれるパンチに蹴り、そして同時に展開する数百の黒光線に漆黒の糸。その攻撃密度は尋常ではないほどに高く、アイアンやボーロでは捌ききれない手数である。


だが、リリスには無意味である。例え魔眼を使わなくともリリスの基礎的な戦闘力はアイアンやボーロを軽く上回っており、攻撃の全てを見切り僅かな攻撃の隙間を狙い攻撃の全てを回避して見せる。


『なぜッ!?なぜ当たらない!?』


「さて、なんでだろうねぇ?」


更に増す手数、フォビアのスピードは徐々に上がっていき0.1秒に繰り出される攻撃の数は100を超えているというのにリリスには傷どころか埃一つさえつけられない。フォビアは段々、怒りではなく恐怖の感情を覚えるようになっていた。


「10秒経過、残念だったね!!」


『ぐはぁぁっっ!!!??、、、』


リリスが狂気的な笑みを浮かべた瞬間、リリスの右眼は赤色に光る。


次の瞬間、フォビア体は不自然な挙動を起こし豪速で後方へ吹き飛び、崖に叩きつけられる。その攻撃を受けた時点で、フォビアの肉体はもう動くものではなくなっていた。


(赤の魔眼磁操眼、磁力を操りフォビアと後ろの崖に極を付与したのか。)


アイアンですら、リリスの保有する魔眼の全てを理解している訳では無い。だが知っているだけの知識でも、リリスの化け物具合がよくわかる。


本来魔眼とは、数百万人に一人の確率で先天的に持って生まれる超絶強力な特殊体質。魔眼は一つだけを持っているだけで、S級にすらなれるほどのポテンシャルを控えていて、それを生まれつき50個も保有しているリリスは本物の天才なのである。


「全身粉砕骨折、なんでこれで死んでないのか不思議すぎん?」


『ぐぁぁ、、、』


リリスの左眼が白色に光ると、フォビアの肉体はどんどん崖にめり込んでいく。骨なんて簡単に砕け散り、内臓もひしゃげているだろう。それを悪魔の生命力で誤魔化しているだけである。


『魔眼、王、、、貴様等、は!見誤った、、、』


「うちがなにを、見誤ったって?」


フォビアは先程から変えなかった恐怖に迫った顔を突然ニヤケ顔へと変貌させる。それはまるで、何かに気付いたかのような容貌だ。


『なんで僕が、一人で来ていると決めつけているんだ?』


フォビアの口角は釣り上がり、リリスとアイアン、そして青ざめた氷上のボーロを見つめた。その時、北西の方向から爆音が鳴り響く。


「ッ!?リリス!!コイツはブラフだ!!本当の目的は、、、」


「迷宮都市の壊滅、強力な冒険者たちを一掃して人類の戦力を衰えさせるってところかな。」


北西から聞こえた爆音、それは確実にソムニウムで争いが起きている証拠であり、S級だって存在するソムニウムに仕掛ける奴が弱いわけもない。それこそ、大罪司教クラスだ。


「取り敢えず、お前は死ね」


リリスの右眼が金色に輝くと、フォビアの全身は降り注いだ光の剣の雨によって風穴だらけになる。フォビアは呆気もなく死んだ。


「ここから全力で移動しても5分はかかる、それだけの時間だと来ているのが大罪司教なら都市は壊滅するな。」


「いや、リリス。大丈夫だ。」


「一体なぜ言い切れる?」


アイアンはリリスが戦闘している間に傷を全て治し、その全身から青白いオーラ、彗星を立ち昇らせて言い切った。


「あそこには、シオンがいる。今の彼ならばきっと街を守れる。」


アイアンはそれだけを言い残すと北西へと走り出す。その速度は、例え全力のリリスであったとしても追いつけないほどだ。


「まったく、アイアンはいつから厨二病になったんだか。」


「元からよ。」


そんな会話を交わしたリリスとボーロも、ソムニウム目掛けて走り出すのであった。





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