第18話 屈辱の敗北


「はぁ、はぁ、はぁ、」


僕を大きく息を乱して、ソムニウムの中で膝をつく。そして、大粒の涙を流した。


(僕が、弱いからッ、ハルマさんが、殿になったッ、、、僕が、弱いから、、、)


ハルマさんの表情、仕草、そしてあの冷や汗からしてフォビアはハルマさんにとっても格上。そしてあの次元の武人のハルマさんが、その力量差がわからないわけ無いのだ。その上で、ハルマさんは自分が残ることを選んだ。


「なんで僕はッ、人に助けてもらってばかりなんだよッ、、、」


僕は困っている人を助けるため、守りたい人を守るために強くなった。そのために自分の趣味や空いてる時間すべてを鍛錬に捧げ、日々強くなることしか考えてこなかった。


それなのに、僕は弱い。僕の力不足が原因で、ハルマさんは死んでしまう、、、その事実が、今の僕には耐え難いものなのだ。


「クソッ、クソォ、、、」


悔しい、悲しい、それ以上に、逃げることしか出来なかった自分に腹が立つ。一年前のセルスに拾われた日、誓ったはずだったのに。僕がみんなを守るって、決意したのに。このザマだ。


本当に、なんでだよ。なんで僕にばかりこんな不幸が降り注ぐんだよ、理不尽じゃないか。


「わかってるよ、僕だけじゃないって、、、」


分かってるんだよ、辛いのは僕だけじゃないことくらい。今この世の中には、理不尽と悲しみにまみれてることくらい。その理不尽から人々を守るために、僕は強くなったっていうのに、それなのに理不尽に抗えなかった自分が、とても許せないんだよ。


「随分、派手にやられたみたいだね。」


「っ、、、アイアン、、、」


後ろから声を掛けられ、思わず振り返るとそこには長身銀髪の男、アイアンが立っていた。彼は、ものすごくピリピリしていた。


「リリスの魔眼で見たけど、なるほど。大罪司教が動いたのか。」


「ッ!なにか知ってるんですか!?」


「もちろん、私はアイツ等にハルマ含め何人もの戦友を殺されてきたからね。」


アイアンは怒りをあらわにしながら、南東の方向を向く。そしてただてさえ細い目を更に細めた。


「シオン、私が知っている限りの悪魔教の情報を教えよう。それを聞いてなお、君が報復に行くと言うのなら、私も同行する。」


「、、、よろしくお願いします。」



アイアンはそう伝えると、重たい口を開いて話し始める。それは、悪魔教の闇を語るものだった。


「悪魔教、これは略称なんだ。正式には悪魔信仰宗教団体、悪魔界に巣食う悪魔と契約を交わし、メンバーの一人一人がA級以上の強さを持つ。それ故に闇組織の中では最上級の強さを誇る。」


まぁ、それはほんの序章だけど。とアイアンは皮肉ったようにつぶやき、話を続ける。


「悪魔教は契約している悪魔の強さによって階級が分かれている。それはフードに入っている線によって代わり、下から順に青、水色、黄緑、黄色、白、赤、紅の七段階で、白から上は『真魔天戎』と呼ばれる術を使用する。悪魔との完全融合、一度使えば人間ではなく悪魔として生きていかなければならなくなる術。だけど使用時の戦闘力はS級と同等かそれ以上の力量を誇る。」


アイアンは地面に文字を書き始める、左には術者と書き、右には悪魔と書く。そしてその上に真魔天戎と書くと、術者と悪魔が融合する。


「そして大罪司教は、全員が紅色。支配者を除いた悪魔教のトップだ、それ故に奴等は一人で国を滅ぼせる強さだ。万が真魔天戎を使われたら最悪私もシオンも死ぬけど、それでも行くかい?」


「っ、、、」


僕は本当に詰まってしまった、死ぬのが怖いわけじゃない。でも、僕が死ぬことは皆から託された希望も一緒に死ぬのと同義なのだ。だからこそ、僕は返答に詰まった。


「はは、そうだよね。」


アイアンは放っていた怒気を沈めて、柔らかな笑顔でこういった。僕は一瞬で絆されてしまった。


「じゃあ、うちを連れてってよ。」


再び後ろから聞こえる声に、僕は振り向く。次に来たのは黒髪ボブで透き通るような茶眼を持つ145センチほどの女性、『タマゴ=ボーロ』と呼ばれていた人だ。


「へぇ、貴方もこの街に来ていたんですね。」


「えぇ、あと、これを見て。」


そう言ってボーロは両手で抱えている死体を地面に置く。ソレは、左目をくり抜かれ、全身に風穴を開けたハルマさんだった。


「アイアン、あんたなら一人でも勝てるでしょうけど私も行く。これでも30年くらいは一緒にコンビを組んでたんだから、仇ぐらい取りに行く。」


「はは、そういうことだ。シオン、今は私達に任せてくれ。君はこれから、まだまだ強くなる。」


「でもっ、、、」


アイアンが酷く優しい声音で、喋り続ける。その瞳は、僕を真っ直ぐに見つめていた。


「セルスに最期、言われたんだ。『シオンを頼む』、ってね。」


「ッ!?」


「安心してよ、これでも2000年くらい生きてるんだ。たかだか数百年生きた大罪司教如きには負けないさ。」


(それは、ズルいじゃないか、、、)


僕にとってセルスは誰よりも大切な存在だ、そんなセルスの遺言なんて言われたら言い返せないじゃないか。


「シオン、だっけ。」


ボーロさんは僕の名前をあやふやそうに言いながら、僕の方に歩いてくる。その腰には、妖しい雰囲気を放つ刀が差されていた。


「アンタにとって、ハルマがどれだけの存在なんて分かんないけど、後はうちに任せて。」


僕の目を見つめる茶色の瞳を見て、僕は思い出した。この人は、確かセルスが言っていた

《悪友》だ。


《タマゴ=ボーロっていう、変な名前の子がいるの。私にとっては、悪友みたいな大切な友達。》


《その人も、その有資格者なんですか?》


《そうだよ、それも今の私なんかよりも全然強い。》


セルスとの追憶は、眼の前で怒りをあらわにしている少女を自分よりも強いと言っている。それを思い出してしまったら、もう、肯定するしかないじゃないか。


「わかり、ました、、、頼みます、、、」


「あぁ、任せてくれ。」


アイアンとボーロさんは任せろと告げたら、南東の森へと飛び出した。


僕が出来るのは、ハルマさんの遺体についている血を拭ききれいにすることだけだった。





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