第17話 VS上位龍、其の参
「俺の後輩を、随分可愛がってくれたようだな?クソトカゲ。」
『グ、グオオオ?、、、』
あの複製体が、気圧されている。アレだけ殺意に満ちあふれていた奴がハルマさんから放たれる殺気によって後退りする。
良く考えてみれば、この人は一体複製体をぶっ殺してからこっちに加勢に来てるんだよな。ボーロさんが加勢に来ないしあの人はまだ戦ってるんだろう。
「《鎧鬼纏零》」
ハルマさんがボソッと呟くと、彼の全身を赤黒くて強烈な迫力を持つオーラが囲む。そしてその瞬間、紅が駆けた。
「《死斧撃》!!」
『グオオッ!!??』
刹那。
僕の動体視力では、ハルマさんの姿を捉えることは叶わなかった。僕が観ることができたのは、ハルマさんの一撃で右翼を切り落とされ後方に60メートルほど吹き飛ばされた複製体の姿だけであった。
「速い、、、」
『グオオオオオ!!!!』
斬り飛ばされて激昂した複製体は激しい雄叫びを上げるも、次の瞬間には春ハルマさんに顔面を蹴り飛ばされて再び地面に叩きつけられる。
そこから始まったのは、戦闘ではなくただの虐殺だった。ハルマさんの振るう戦斧は僕どころか複製体すらも認識することはできず、複製体の肉体は切り刻まれていった。
「ハハ!!上位龍の割には弱いな!やっぱり複製体だからか?」
『グオオオオオォォォ!!!!』
ハルマさんの単純な煽りに、複製体は激怒してボロボロの体で突進する。だがハルマさんの蹴り上げによって顎を蹴り飛ばされ、空中に20メートルほど浮かされる。
そして。
「終わりだ。《死斧・乾坤一擲》!!」
ハルマさんは、空中に浮かび上がらせた複製体目掛けて赤黒いオーラを纏わせた戦斧をぶん投げる。
それは恐ろしいほど正確に飛んでいき、複製体の太い太い首をいとも簡単に切り落とした。
「すごい、、、」
僕はそれを見て、ただ一言。そう呟くしか無かった。感嘆しか出ないとはこのことだろう、本当に今の僕とは次元の違う戦闘だった。
(いつか僕も、あれだけ強くなるんだ、、、)
僕の中で、そう強く決意した。今この瞬間でハルマさんは実力者という認識から憧憬という認識に早変わりしたのだ。
「おしシオン、大分ボロボロだな。」
「あ、すいません。今直しますね。《アークヒール》。」
僕は腹部に風穴が二つほど空いていて、右腕が食われて無い状態だ。出血も大量にしててイマにも貧血で倒れそうなくらいだし、ハルマさんが心配そうな顔で言うのと頷ける。
「ボーロの奴、帰ってこないな。戦闘音は終わってるしアイツ遊んでるな?」
「そういえば、ボーロさんとはどういう繋がりなんですか?」
僕は前々から気になっていたことをハルマさんに聞いてみる、するとハルマさんは少し険しい顔をして答えた。
「戦友、というのが一番正しい表現だな。昔一緒に戦ってたんだ。」
「二人のパーティーとか、最強ですね!」
「っふ、そうだな、、、」
僕は本心で、心の底からの本音をハルマさんに伝えるとハルマさんは少し悲しそうな顔をしながら遠くを見つめた。なんだか、聞いちゃいけない話題だったのだろうか?
「てか、本当に帰って来ないな。何をしてるんだ?」
『何をしてるんだろぉねぇ?』
「「ッッッ!!??」」
刹那。
僕の両足は黒色の熱光線のようなもので切断される。ハルマさんは即座に反応して自身の首に向けて放たれた熱光線を切り裂いたようだ。
僕は激痛に涙と叫びを堪えながら、後ろを振り向く。そこには、黒フードに『紅色の線』、そして赤色の文字で『堕天』と書かれた身長170ほどの白仮面を被った男が立っていた。
「テメェ、悪魔教だな?」
『博識なんだぁねぇ?そうだよぉ?僕は
「よろしくするかよ、ボーロはどうした?」
フォビアと名乗った男に、ハルマさんは少しの冷や汗をかいている。僕をいつでも守れるように、最大限の警戒をしているのだろう。
『あの小娘のことぉ??僕の眷属を2体ほど仕向けたからぁ、死んでるか戦ってるかのどっちかかなぁ?』
「そうか、じゃあ良い。死ね。」
ハルマさんは僕では負えない速度で突撃し、その赤黒いオーラを纏う戦斧を振り下ろす。だが上位龍と同じようには行かなかった。
『アハッ!良い一撃だねぇ!でもまだ軽いよぉ!!』
「はっ!!言ってろ!!」
フォビアの頭をかち割らんと振り下ろされた戦斧は、奴の漆黒のオーラを纏った人差し指と中指だけで止められる。ハルマさんはその状態から豪速の蹴りを繰り出すも、それは後ろに飛び退くことで回避される。
『今度は僕から行こうかなぁ?』
後ろに飛び退いたフォビアは、右手をハルマさんに向けてかざした。そして、漆黒のオーラを右手に集約させる。
『【悪魔術行使権発動】―――堕天鎮魂歌』
フォビアが右手を開くと、50を超える黒光線がハルマさんに向かって放たれる。その速度は先程のハルマさん以上で、僕はもう何が起きてるか捉えられない。
(でも流石ハルマさん、全部しっかりと避けている。)
「《死斧撃》!!」
『軽いよぉ!!』
ハルマさんは速射され続ける黒光線を避けながら斬撃を繰り出すも、フォビアが纏う漆黒のオーラに掻き消される。
『アハッ!!ギア上げるよぉ!!』
「ぐぅっ!?」
次の瞬間、黒光線が小さな粒子状になりさらに速い速度で分散する。その数は1000を超えているに違いない。
流石のハルマさんでも、この数の粒子は避けきることができず腹部に何発かあたってしまう。そしてその当たった周辺は肉が弾け飛び、とてもグロテスクな見た目になっていた。
「《アーク、ヒール》!!」
僕は自身の両足を再生し終わったので、ダメージを受けたハルマさんに治療魔術を発動する。正直戦力になれる気がしないので、後方支援に徹しよう。
『ん?邪魔な羽虫だなぁ?』
白仮面を被っているはずのフォビアが、こちらを睨みつけたような気がした。僕の肌は全力で鳥肌が立ち、気圧されてしまう。
(ビビるな!ここで死ぬ方が怖いだろ!)
僕は自分のビビる心を叩き直し、奴を睨み返す。だが決意は無駄なものとなる。
「シオン君、逃げろ。」
「なっ!?それじゃあなたが死んでしまう!」
ハルマはとても真剣な表情で、そしてとても落ち着いた声音でそう言った。僕は思わず反発してしまった。
「後輩を守るのは先輩の仕事だろう?それにもうこれ以上強くなれない俺より、まだまだ成長するシオン君を生かす方が良い。」
「でもっ、、、」
「最期くらい、カッコつけさせてくれ。シオン君、君のような有望な有資格者を最期に見れたんだ。悔いはない、後は託すだけだ。」
僕は言葉を止めてしまう、ハルマさんと目があった瞬間に、彼の覚悟を見てしまったからだ。ハルマさんは本気で、自身が殿となろうとしている。
(僕は後輩らしいことを何もしていないのに、なんでこの人は、ここまで命を懸けられるんだ、、、)
僕は思わず困惑する。だってそうだろ?僕は後輩らしい事をなにもしたことはない、なのにハルマさんにとって僕は後輩で、ハルマさんは先輩だったのだ。
(僕は、助けられてばかりだ。でもそのたびに、いろんな人から託されてきた。)
母さんにも、父さんにも、セルスにも、そしてハルマさんにも、僕は託された。明日を照らす希望という名の呪縛を、だからこそ、僕は死ぬわけには行かない。
『ハハ!!逃がすわけないじゃん!!』
「行け!!シオン!!!」
フォビアは左手に漆黒のオーラを集約させ、再び50の黒光線を放つ。放たれた先は僕の心臓、ハルマさんは自身の身体を盾にして僕を守る。
「ぐっ、すいません、ハルマさん!!」
僕はハルマさんを見つめ返して、全力で逃げ出す。絶対に止まってはいけない、ハルマさんの覚悟を無駄にすることになるから。
「あぁそうだ、それでいい。」
ハルマさんは走り出した僕を見てそうつぶやき、フォビアを強く睨みつける。対してフォビアは不敵な笑みを崩さなかった。
『羽虫の邪魔は消えたねぇ?これで思う存分殺りあえるねぇ!!』
「生憎だが、楽しむつもりはない。」
ハルマさんはそれだけを呟くと、再び戦斧を持って走り出すのだった。
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