第16話 VS上位龍、其の二
「オラァァァ!!!!」
先手を仕掛けたのはハルマさんだった、全身を赤いオーラで包んだハルマさんは僕でも目で追うことしか出来ない速度で跳躍・加速してハクロウの顔面の前まで一瞬で到達する。
「《紅斧一閃》!!!」
振り落とされる戦斧、ハクロウはそれに反応して自身の強靭な右爪を振り抜く。
戦斧と爪が激しい金切り音を鳴らす中、他の冒険者達は動き始め、各々が得物を持ちハクロウに突撃する。そんな中、ボーロさんだけは突撃せず様子を見計らっていた。
『グオオオオオオオ!!!!!!!』
ハクロウが激しい雄叫びを上げると、上空に鋭利な鋼鉄の針が大量に生成される。その針たちは一斉に地面へと降り注ぎ、まるで鋼鉄の雨が降り注いでいるようだった。
「《アースシールド》」
僕は中級土魔術アースシールドを発動、全身を囲うように展開される土壁によって鋼鉄の針を防ぎ切る。だがそれはほんの序章であった。
『グオオオ!!!!』
次の瞬間、僕たちが立っている地面は激しく変形し、落とし穴のような形になる。その底には鋼鉄の棘が針山のように大量に生成されていた。
「《セイントブルムアイシクル》!!!」
僕は右手を落ちていく地面へとかざし、聖級氷魔術を発動する。それは針山の少し上に氷の地面を作り出すほどの大質量の氷を展開し、冒険者たちが針山に落ちるのを防ぐ。まぁハルマさんは壁を蹴って脱出しているし、ボーロさんに至っては空中浮いてるなら関係ないけど。
「いや、マジか、、、」
僕はハルマさんと同様に壁を蹴って落とし穴から脱出する。そして視界を見上げるとそこには、信じたくない光景が広がっていた。
「鋼鉄龍が『3体』、なるほど、こりゃ閃剣のメンバーが殺される訳だ。」
元の鋼鉄龍に加えて、鋼鉄で全てを構成した鋼鉄龍が2体作られている。強さは本体よりは劣るのだろうけど、それでもこの巨体の龍が3体に増えたのは絶望的だ。
『グオオオォォォォォォ!!!!!!』
本体が雄叫びを上げると、複製体2体が同時に動き出す。一体は僕、一体はハルマさんの方へと向かい、本体はボーロさんを標的にしたようだ。
「やってやるよォォ!!!!!」
『グオオオ!!!!』
僕は槍を思い切り振り下ろし、複製体の噛みつきと鍔迫り合いを行う。剥き出しの鋼鉄の牙は敵ながら、美しい光を放っていた。
「《ヘルフレイム》!!!」
聖級の火魔術を発動、巨大な火球を生成するシンプルながら5000度を超える魔術を鋼鉄で出来ている複製体へと放つ。
『グオオオォォォ!!!!』
複製体が取った行動は回避。やはり火が弱点なのだろう、思い切り翼をはためかせ空へと羽ばたくことで火球を回避してみせた。だが、それは予想通りである。
「いらっしゃい!!!」
『グオオオ!!??』
僕は奴が飛んで回避することを予想しており、魔術を放った時点で空中に跳躍している。
そんな僕がいる場所にわざわざ、複製体は飛んできたのだ。そりゃ一発、重たい一撃を奴の背中に叩き込まないわけにはいかないでしょ。
「《バーストメテオ》!!」
僕が強烈な突きを複製体の背中に叩き込むと、複製体は地面へと叩きつけられる。これだけの高度からあの巨体が落下したことによって尋常ではないダメージが入ってるだろうが、攻撃の手は緩めない。
僕は左手を地面に落ちた複製体へと翳し、魔術を発動。5つの小隕石をマッハ20で放ち複製体の巨体に5つの風穴を開ける。
「《星穿》!!」
さらに追い打ちとして、空中を蹴り加速。そのまま奴の大きな尻尾の根本にマッハ15まで加速した状態で強烈な突きを叩き込む。
『グオオオオオオオ!!!!????』
激しい雄叫びを複製体が上げる、その理由は僕が奴の巨大な尻尾を根本から切り落としたからだろう。
だが、一筋縄では行かないのが龍だ。尻尾を切り落としたことで激昂した複製体は全身から尋常ではない殺気を発する。
『グオオオォォォ!!!!!』
全身から魔力を滾らせる複製体は叫びを上げると、自身の周りに100を超える鋼鉄の槍を出現させた。そしてそれをマシンガンのごとく高速で連射する。それもリロードが恐ろしく速く常に100発が打ち込まれている状態だ。
「《ブレイズランス・フルバレット》!!」
ならばこちらも、炎の槍をマシンガンの如く連射する。相手が手数で勝負してくるのならそれ以上の手数と質量、そして相性によって叩き潰せば良いのだ。
炎の槍と鋼鉄の槍の弾幕がぶつかり合う、互いが相手の術者を殺そうと数を増やすたびに双方の弾幕の量が上がっていく。
だが先にダメージを負ったのは僕の方だった。
「ぐはぁっ!?、、、」
弾幕の打ち合いに集中していた僕は、後方から伸びる鋼鉄の棘に気づかず、腹部を貫通される。
そしてその一瞬の緩みに反応され、鋼鉄の槍の物量は一瞬だけ膨れ上がり、鋼鉄の槍の一本が僕の左腕を切断する。
「《アークヒール》、《ブレイズヴェール》。」
僕は冷静に魔術を展開、聖級の治療魔術にて左腕を治療、上級の火魔術にて僕に襲い来るすべての鋼鉄の槍を熱量で溶かすほどの大質量の炎の波を展開する。
『グオオオォォォォォォ!!!!』
だが、奴は龍。この鋼鉄を操る特殊能力の前にそもそもの身体能力が化け物級に高い。その身体能力は、炎の波を展開して少しだけ警戒が緩んだ僕に突き刺さる。
「ぐあっ!?」
複製体はなんと、炎の波をダメージ覚悟で突っ切って僕の元まで辿り着き、その巨大な翼で僕を激しく打った。
僕は後方に激しく吹き飛ばされ、木々にぶつかり止まる。だが今ので喰らったダメージはとても高い、到底無視できるレベルの怪我では無かった。
(治療したばっかの左腕は完全に骨が逝ったな、背骨と肋にも酷いダメージだ。)
「流石に、ヤバいな。」
出し惜しみをしている場合ではない。僕はそれを再認識させられたように感じた。ならばもう全力で行かせてもらおう。
「《業鎧》、そして《動死領域》。」
僕の全身を覆う多重構造の魔力、そして半径20メートルにも渡る魔力の円を展開する。さぁ、かかってこい。
『グオオオオオオオ!!!!!』
複製体はとんでもない叫び声を上げながら、再び炎の波を突っ切る。だが次の瞬間、奴は僕の射程圏内に入る。
「死ね」
僕の槍が、脊髄反射+全開魔力身体強化で振り抜かれる。その斬撃は複製体の左翼を根本から切り落とし、滑空でこちらに向かって加速する複製体を地面に落とす。
「《ブレイズブレイク》!!!」
まだ20メートル圏内に入っている複製体の腹部を、炎を纏わせた一閃にて激しく切り裂く。
だが、倒れない。龍の恐ろしさはその凶悪な引っ搔きや噛みつきでもなく、操る権能でもなくこの圧倒的な耐久性能である。
『グオオオオオオオ!!!!!』
複製体の取った行動は、被弾覚悟の殺し合い。文字通りお互いの命を削り合うドッグファイトだ。
(良いぜ、付き合ってやる!!)
僕は冷徹に、だがテンションを上げながら槍を一閃する。それは複製体の肉体を確かに切り刻む。だがそれと同時に鋼鉄の棘が僕の左腿を貫通する。
また一閃、複製体の右足を切断したと思った瞬間には鋼鉄の槍が僕の腹部を貫いた。総ダメージでは僕のほうが多く負っている、このままでは先に死ぬのは僕の方だ。
「まだまだァ!!《ラウルス・ヒルド》!!」
僕は自動迎撃の雷の包囲網を展開し、次々に襲い来る爪の引っかきや噛みつき、鋼鉄の槍や棘の全てを雷撃によって撃ち落とす。
「《カルス・ヒルド》!!!」
『グオオオオオオオ!!!!!!』
次に放つのは1000万ボルトの落雷、だが鋼鉄で作られた複製体にはダメージが薄くあまり内部を破壊できたような気はしない。
なのに、複製体の攻撃は徐々に苛烈さを増していく。噛みつきや引っかきの速度がどんどんと上がっていき、鋼鉄の槍や棘の物量も増えてきた。次第に、捌ききれなくなってくる。
「ぐぅッ!?」
複製体の噛みつきによって僕の右腕は奪われ、槍は虚しく宙を舞う。その時、僕は絶望を悟った。
「あ、、、」
刹那。
ラウルス・ヒルドの限界値を超えた速度で放たれた引っかき、僕の目はそれをギリギリ捉えていたが迎撃できる槍はもう無い。もうすぐ目の前まで、死は迫ってきていた。
誰もが諦めた、あの執念深い僕ですらこれはヤバいと悟ったこの瞬間。ある一人の男だけはニヤリと笑った。
「オラァァァァァァ!!!!!!!」
僕は閉じてしまっていた目を、強烈な叫び声によって開けられる。そこに居たのは、複製体の爪と戦斧で鍔迫り合いを行うハルマさんの姿があった。
「遅くなった、すまない。」
戦斧を強引に引き抜き、複製体の右腕を斬り飛ばすとハルマさんはこちらを振り向き、ニヤリと上げた口角は見せた。
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