第14話 逆境でしか得ることの出来ない成長、それを覚醒と呼ぶ


「ハァァッ!!!!」


『グモォォ!!!!』


振り抜かれる一閃は、ブルーミノタウロスの放った蒼炎の一撃と激しい鍔迫り合いを行う。だが不利なのは僕の方だ。


(熱いなまったく!!)


こうしてぶつかり合っている瞬間にも、ブルーミノタウロスから常に放たれている蒼炎は僕の肉体を蝕んでいる。このナタが掠りでもしたら僕は激しい火傷を伴うだろう。


「治療魔術はまだ使わないよ、使ったら追い込まれるのは僕の方だ。」


治療魔術は強力だ。だがそれ故に消費魔力は多く無闇に使えばジリ貧になる、そうなってしまえばソロで来ている僕は死ぬ。


『グモォォォォ!!!!!』


ブルーミノタウロスはナタを最上段に振り上げ、渾身の力で地面に叩きつける。するととんでもない異変が起こる。


「遠距離攻撃もあるのかよ!!??」


このとても広い広間の床全体に大きなヒビが入り、そのヒビからとんでもない熱量を持った蒼炎が噴水のごとく吹き出す。僕は避けきれずに左半身が激しい火傷に襲われる。


『グモォォォォォォ!!!!!』


「《アクアヴェール》!!!!」


高速回転した僕の脳が弾き出した最適解は、上級水魔術アクアヴェール。僕の頭上から降り注ぐ津波のような大質量の水は吹き出す蒼炎や、火炎放射をしながら近づいてくるブルーミノタウロスの炎も全てかき消す。


「《カルス・ヒルド》!!!」


『グモォォォォォォ!!??』


次に発動するのは落雷の魔術、目一杯魔力を込めた1000万ボルトの落雷はブルーミノタウロスの肉体の内部を破壊する。


『グモォォォォォォ!!!!!』


「ぐっ!?」


だが、止まらない。ブルーミノタウロスの超耐久は落雷による内部破壊をものともせずそのままナタを振り下ろし僕の左肩を大きく切り裂く。


「ハハ!!じゃあこっちもそうしてやるよ!《アクアブレイド》!!」


そんなブルーミノタウロスに対して僕は、同じことをする。やつがダメージを気にせず攻撃してくるのならば、僕も被弾覚悟で槍を閃かせる。その斬撃はブルーミノタウロスの左足に大きな切り傷を与えた。


『グモォォォォォォォォ!!!!!』


「《サウルス・ヒルド》!!!」


ナタを力任せに振り抜くブルーミノタウロス、僕はそれに合わせて聖級雷魔術サウルス・ヒルドを発動する。サウルス・ヒルドは高密度の魔力によって形成された雷で、攻撃に対して自動で反応し防御するというラウルス・ヒルドの正反対の魔術であるろ、


僕の首めがけて振り抜かれたナタは、自動で反応した雷によって。弾き返される。その瞬間生まれる隙を、僕は見逃さない。


「《アクアブレイド》!!」


一閃。100%発揮された身体強化による暴力的なまでの槍の一振りは思わず回避に徹したブルーミノタウロスの左腕の肩から先を切り落とす。まったく、ようやく大ダメージが入った。


『グモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!』


鼓膜が破けそうになるほどの雄叫びが上がる。僕はその時、思わず口角を釣り上げた。今さっき奴の左腕を切り落としたはずなのに、僕は一切警戒を緩めることを許されなかったからだ。


「第2形態は、ボスの特権だよね。」


雄叫びを上げたブルーミノタウロスは変貌していた。先程まで青く光り輝いていた瞳は真っ赤に変化し、全身を覆う蒼色の炎は熱量が更に上昇しオレンジ色のような炎になる。そして何よりの変化として、その額に二本の巨大な角が生えていた。


(ククク、肌がひりつくような緊張感。良いね、これこそが冒険だよ。)


格下のモンスターを殺すのばかりではつまらない、そんなのは冒険ではない。今この、自身と同格以上の相手との死闘こそが真の冒険だと僕は思う。


そして、だからこそ。


「全力で殺すべき敵として、容赦はしない。」

 

僕は冷静さを取り戻し、ひどく冷徹な声音でそう呟いた。槍は中段に構え、ブルーミノタウロスの真っ赤な瞳を見つめる。


『グモォォォォォォォォ!!!!!』


「《業鎧》!!」


走り出すブルーミノタウロス、その速度は先程までの比にならず、たった2回地面を蹴り抜いただけで一瞬で僕の眼の前まで辿り着き、そのナタを振り抜く。


対して僕は、何もしない。ただナタを振り抜くブルーミノタウロスを見つめ、限界ギリギリまで引き付ける。その間に業鎧も発動して身体能力の底上げと防御を上昇させる。


「ここォ!!!!」


僕は限りなく引き付け、首の皮一枚切れる瞬間僕は一瞬でかがむ。それにより本当に薄皮一枚切れ、血が少しだけ流れるが、僕は既に構えていて奴は隙だらけという状況を作り出せたので問題なし。


「《星穿》!!!」


放つ強烈な突き、これだけ有利な状況から放ったのであれば普通ならばとんでもない風穴を開けることが出来る技だが、そうは行かなかった。


(硬すぎるだろ!!)


星をも穿つ突きを腹部にまともに喰らったブルーミノタウロスは、ノックバックで後方に吹き飛ぶ。だがそこには腹部に僅かな傷を付けたブルーミノタウロスが立っていた。


『グモォォォォォォォォ!!!!』


「《ラウルス・ヒルド》!!!!」


自動迎撃する雷の包囲網を展開するが、奴の進撃は止まらない。全身に数千万万ボルトの雷撃を絶え間なく浴び続けているというのに僕に向かって走り続ける。


「《メテオバースト》!!!」


『グモォォォォ!!!!』


上級土魔術メテオバースト、小隕石を銃弾のように放つ魔術を発動しブルーミノタウロスの全身に放つ。だがそれはかすり傷程度にしかならない。


『グモォォォォォォ!!!!』


「ぐはぁっ!?」


僕は咄嗟に後ろに飛び退くが、それは間に合わなかった。さっきまでとは次元の違う速さで振り落とされた斬撃は僕の肩から腰にかけてを深く切り裂く。間違いなく致命傷だ。


「ぐふぅっ!?」


僕は後ろに飛び退き、激しく血を吐く。さっきまでに喰らった大火傷に加えてこの致命傷、更には残った魔力は4割ほど、もう無闇に治療魔術は使えないと来ている。


(これが、最後の治療魔術。)


「《アークヒール》」


僕は聖級の治療魔術を発動して、大火傷と致命傷を近い切り傷を治療する。細かい傷は直しきれないが、取り敢えずこれだけ直せれば動ける。


(聖級や治療魔術は消費が激しい、残り魔力はもう3割、全開の戦闘をするなら10分が限度だな。)


「流石に、笑えないな。」


『グモォォォォォォォォ!!!!』


僕はここで死ぬわけには行かない、今も向かってくるブルーミノタウロスは僕に強大な殺意を持っているが、そんなのは知らない。


(母さんに、父さんに、そしてセルスに、僕は託された。皆の命と期待を持って僕は今生きてるんだ。)


――――――死んで良いのか?


良いわけ無いだろ。


――――――負けて良いのか?


絶対に駄目だろ。


「じゃあ勝て!!死ぬわけには行かない!!」


僕は叫びを上げ、瞳孔を見開きブルーミノタウロスを睨みつける。


『グモォォォォォォ!!!!!』


振り落とされるナタ、このままではさっきと同じことをして魔力が尽きる。いくら覚悟を決めても死ぬときは死ぬ。


(考えろ考えろ考えろ考えろ!!!!!)


僕は確実に人生史上で一番頭を回した、もはや走馬灯の域にある思考は生きるために高速で回る。そんな時、天啓が舞い降りた。


(今考えて動いている行動全てを反射で出来たら、もっと余裕が生まれるんじゃないか?)


『グモォォォォォォォォォォ!!!!!』


放たれる斬撃、命を刈り取る攻撃が僕の頭に振り落とされた瞬間、僕の槍が閃いた。


『グモォォッッッ!?!?』


刹那。


瞬き一瞬、誰も感知することのない出来ない速度で放たれた一閃はブルーミノタウロスの右腕を切り落とし、ナタごと空中へと舞い上がらせた。そして、僕の口角はひたすらに釣り上がっていた。


「そうだよ、そうだよな。考えて動いている全てを反射で出来たらまだ余裕あるよな。」


僕は自身を中心とした半径20メートルを魔力の円で囲んだ。そしてその中にいる敵意を持った行動全てに対して、僕の体は反射で行動する。それは思考で動くのよりもずっと速く、言うなれば脊髄反射を意図的に起こしていると言って正しい。


『グモォォォォォォォォ!!!!!!!』


怒り狂うブルーミノタウロス、冷静さと両腕を失ってなおこちらに向かってくるその根性は褒めるが、もう無駄なあがきだ。


「《光断》」


光をも断つ速度の斬撃が、半径20メートル以内に入ったブルーミノタウロスの上半身と下半身を分断する。


――――バゴォォォン!!!!


激しい音が鳴り響くと、ブルーミノタウロスの全身は消失し、そこには紫色のバスケットボールくらいのサイズの魔石だけが残った。


「はは、、、僕の、勝ちだ、、、」


残り魔力1割、体力も集中力も既に使い切った。そして未だ全身に残る火傷や切り傷はヒリヒリと痛む。


(はは、また一歩、成長した、、、)


自分の成長、新たなこの脊髄反射の戦法を習得できたことがもうメチャクチャ嬉しい。


そうだな、この脊髄反射戦法の名前は、、、


「範囲内で動いたら死ぬ領域を作り出す技術、

《動死領域》とでも名付けようか。」


僕は魔石を回収して、ボスの居なくなった20階層に座り込む。取り敢えずここで耐力だけでも回復して地上に戻るとしよう。

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