第13話 蒼牛鬼
「うわ、、、さむ、、、」
19階層に到達して最初の人一言は、それだった。道長さんとの遭遇から1時間、少しスピードを上げて攻略してようやく階層主の一つ前の階層までたどり着いた。
19階層の第一印象は、雪国だ。あたり一面に雪が降り積もっていて、吹雪のせいで視界が悪い。それに体を蝕む寒さは0度を下回る寒波だろう。
(火魔術で体を温めるのも良いけど、魔力が勿体無いな。)
現時点での残り魔力は8割と言ったところだろうか、正直まだまだ有り余っているが、階層主がどれだけ強いか分からないから魔力を取っておくことに越したことはないだろう。
「さて、早速お出ましか。」
『モグぅ!!』
雪を踏みしめて歩いていると、白い殻に身を包んだアルマジロのようなモンスターが現れる。名前は『スノードエディクルス』、尻尾の先端に鋭利な棘が無数に付いており、尻尾振り回しの攻撃に当たると致命傷を喰らう。
『モグぅ!!!』
スノードエディクルスの初手は、転がり。殻の中に全身を隠し驚異的なスピードで雪をローリングしてこちらに近づいてくる。まぁ今まで戦った強者たちに比べれば遅いものだ。
「ハァッ!!!!」
だが、威力は高い。ローリングでこちらに激突するスノードエディクルスに対して槍を突き出すととんでもなく重い衝撃が手に伝わってくる。ぶつかり合いだとこちらが不利だな。
「《ブレイズニードル》!!」
『モグ!?』
槍の先端とスノードエディクルスの全身で鍔迫り合いを行っている最中に魔術を発動、使ったのは上級火魔術ブレイズニードル、二重構造の炎の棘を連射する魔術だ。
硬い殻を直接突破するのは、不可能だが、とんでもない熱量を持つブレイズニードルがスノードエディクルスの全身に50を超える量が突き刺さると、熱によって内部の本体がダメージを受けていく。それによってローリングが緩まった瞬間、僕は身体強化を8割まで引き上げる。
「《星穿》!!!!」
『モグぅぅ!!!??』
勢いが緩まったスノードエディクルスの殻を、身体能力の暴力によって繰り出した突きで粉々に破壊する。その衝撃は内部にも伝わり、本体はかなり柔らかいため本体の全身の骨は粉々に砕け散った。
「ふぅ、モンスターも強くなってきたな。」
スノードエディクルスのランクはB、だがソレルスネイクやナッシャーよりも強力で、Bの中では限りなくAに近いモンスターだ。
さらに言えば、この19階層にはもう一種類のB級モンスターが出現する。
「出たな、害悪鳥。」
『ホウ!!!!』
スノーシュライク。B級モンスターで全長2メートルの巨大なフクロウ、永遠に空を飛びながら氷魔術を放ってくる凶悪なモンスターだ。
『ホウ!!!』
スノーシュライクはその翼をバサバサと羽ばたかせ、氷の槍を大量に発射してくる。その威力は普段この魔術をよく使う僕が一番知っているからこそ、見極められる。
「いくら凶悪でも、僕との相性は最悪だな。」
スノーシュライクは戦士では届かない場所から永遠に強力な魔術を放つため、冒険者からは害悪鳥と呼ばれている。だが超遠距離でも届く魔術を使える僕にとってはカモだ。
放たれる氷の槍の全てを、槍で捌き続ける。スピードは速いが威力はそこまで高くないため、槍で砕くことが出来る。
「死ね、《フレイムランス》。」
僕は氷の槍を落とし続ける最中で、左手を奴に向けて翳す。その瞬間マッハ20を超える速度で炎の槍が放たれ、スノーシュライクの心臓を一瞬で貫いた。
「よし、速く階層主まで行こう。」
僕はスノーシュライクの魔石を回収し、モンスターなどお構い無しに走り出すのだった。
✳✳✳
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吹雪が吹きすさぶ19階層の最奥、今までの階層の分かれ目と違い重厚感のある扉によって分かたれた分かれ目は間違いなく階層主のいる20階層への入口だろう。
(ちょっとテンション上がってきたな。)
僕は年頃の17歳、正直言って大迷宮での冒険はメチャクチャ楽しい。それにボスモンスターとの戦いなんてテンション上がるに決まっているのだ。
だが油断は禁物、僕の残り魔力は7割と言ったところだ。相手は事前に名前とランクだけは調べてきたが詳しくは調べていないため慎重に行こう。
「楽しませてもらうよ、蒼牛鬼。」
僕は重厚感のある扉を身体強化した足で思い切り蹴り開ける。するとそこはとても広い広間のような空間が広がっており、19階層の雪国とはまったく雰囲気の違う洞窟だった。
そして、その中央には圧倒的な存在感を放つモンスターがいた。見た目は身長3メートルはあるだろう体躯に青い皮膚、そしてムキムキすぎる筋肉の塊。その右手には巨大なナタのようなものが握られていて、荒い鼻息はここまで響いてくる。
『グモォォォォォォ!!!!!!』
ブルーミノタウロス。別名蒼牛鬼、青い肌と異常な程盛り上がった筋肉を持つミノタウロスの上位種で、そのランクはA。あのセルスが自分のことをAランクと表現していたため、コイツはランク的にはあのセルスと同格なのである。
「いざ尋常に、勝負!!!!」
僕は全身に魔力を巡らせ、身体強化を100%発揮する。まだ引き出しはあるが、取り敢えず娘で調べていこう。
僕は地面を蹴り砕くほどの加速で、30メートルほど離れていた距離を一瞬でかき消す。その右手からは既に槍は振り抜かれていた。
『グモオオォォォ!!!!』
「ハァァッ!!!!」
僕が首めがけて放った一閃と、ブルーミノタウロスの振り下ろしたナタの一撃が衝突する。ぶつかった瞬間激しい轟音が鳴り響き、周囲の地面にヒビが入るほどの力のぶつかり合いが行われる。
「《星穿》!!」
『グモォォ!!!』
だが、いまのは小手調べ。ぶつかり合いでは勝負がつけられないのを確認した僕は槍を傾けてナタの一撃を完全に受け流し、そのまま強烈な突きを放つ。
一撃必殺の突きはブルーミノタウロスの腹部を狙って放ったが、一瞬にしてブルーミノタウロスの全身に展開された蒼色の炎によって防がれる。
(さすがは数十人で挑んでようやく勝てるレベルの化け物、一筋縄じゃ行かないな。)
僕は防がれたのを認識した瞬間うしろに飛び退き、事前情報通りの強さに感嘆を浮かべる。だがそれはあくまで想定内だ。
「《ライジングサン》!!」
次に展開するのは超威力の爆撃の嵐、煌々と光り輝く爆弾を大量に発射しブルーミノタウロスを爆撃する。
だがその全てはブルーミノタウロスの全身を覆う蒼色の炎によって防がれる。炎に耐性かあるのだろうか?
『グモォォォォォォ!!!!!』
次の瞬間、ブルーミノタウロスの激しい雄叫びを上げ突撃してくる。巨体に見合わぬ驚異的なスピードを見せたブルーミノタウロスは、冷徹に見つめる僕の頭目掛けてナタを振り下ろす。
「力任せじゃ、僕には届かない。」
『グモォォ!!??』
だがそれは、奴の圧倒的な身体能力任せの暴力的な一撃。僕は数万時間と槍の鍛錬を積んだ扇子だ、元から防御や受け流しが得意な槍の使い手である僕にそんな力任せな攻撃、受け流してくれと言っているようなもの。
僕は振り下ろされたナタを、槍の側面にて完璧に受け流す。こちらに一切のダメージが入らず、ナタが地面にめり込む完璧な受け流しは、奴に大きな隙を作り出す。
「《アクアブレイク》!!!」
『グモォォォォ!!??』
一閃。
隙だらけのブルーミノタウロスの腹部を、槍の一閃にて切り裂く。炎を纏っているため水が弱点なのではと思い、高密度の魔力で形成した水を槍に纏わせる上級水魔術を発動しブルーミノタウロスを切り裂いた。
結果は成功、ライジングサンでは傷一つ付かなかったブルーミノタウロスの腹部は割と深く切り裂かれた。
『グモォォォォォォォォ!!!!!!』
だが流石は階層主、受けたダメージに一切ビビることなく全身から蒼色の炎を発射する。言うなれば全身火炎放射器のような状態である。僕は地面を蹴り抜き後ろに飛び退き回避する。
「いったいなぁ、、、」
しかし、避けたと思ったはずが僕の左腕は激しく焼け爛れていた。想像以上に火力が高いようで、掠っただけでこれだ。まぁまぁ痛い。
「ハハ、それでこそ階層主。楽しくなってきたじゃないか。」
思わず笑みが溢れてしまう、僕だって一人前の戦士たぞ?これだけの強敵を目の前にビビるなんて言語道断、ピンチというのは、最高に楽しい状況なのだ。
「勝つのは僕だ!!!!」
戦闘が始まって以来の叫びを上げ、僕は火炎放射器状態のブルーミノタウロスに走り出すのだった。
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