第12話 大迷宮の魔力
迷宮都市ソムニウムの中心には、一つの大きな穴のようなものがある。その中には巨大な迷宮が広がっており、その迷宮のことを世界三大魔境の一つ《大迷宮》と呼ぶ。
大迷宮は1000年前まではただの大きな洞窟に過ぎなかったが、千年前のとある日豹変し、中に大量のモンスターと希少な資源を内包するようになった。それが大迷宮の始まりである。
そして、大迷宮は階層ごとに分かれている。階層が深くなればなるほどシュツゲンスルモンスターは強力になり、内包する資源は希少なものになる。1階層から20階層を上層、21階層から40階層を中層、41階層から60階層までが下層、61階層から80階層が深層と呼ばれており、現在の人類が到達した最深階層は86階層である。
「ふぅ〜、、、初の大迷宮、少し緊張する。」
僕は息を深く吐き、眼の前の巨大な穴を見つめる。この奥こそが大迷宮で、未だに底が分からない世界的にも危険視される魔境。興奮半分恐れ半分と行ったところだ。
(今日の目標は上層の踏破、上層には『階層主』以外なら強くてもB級のモンスターしか出現しないから階層主だけ気をつければ突破できるだろう。)
そのために上層全ての地図も購入済みだ。今日で上層は踏破する気まんまんである。
ちなみに、大迷宮には上層、中層、下層、深層ごとに階層主と呼ばれるボスモンスターが存在する。このモンスターは本当の化け物で、上層の階層主でもA級の強さを誇る。中層や下層の階層主はまだ情報を持っていないけれど、風の噂だとS級らしい。
「大迷宮、楽しませてもらうよ。」
僕は鉄槍を引き抜き、大穴へと乗り込む。身体強化は全力の3割ほどだが10階層まではこれで行けるだろう。
「おぉ、、、本当に迷宮だな。」
僕は1階層に足を踏み入れるとそこは、ガチガチの迷路広がる迷宮だった。パット見だと洞窟なのだが、中の魔力濃度は地表より遥かに高く、ここのモンスターの強さを示している。
「おぉ、初めて見た。」
『グギャギャ!!』
3分ほど迷宮を歩くと、早速モンスターに遭遇した。遭遇したのは緑色の小人、一般的にゴブリンと呼ばれるD級のモンスターだ。
「《アイシクルランス》」
だが、こんな雑魚に時間をかけるほど暇ではない。僕は中級氷魔術を発動し、氷の槍を発射。氷の槍は見事にゴブリンの心臓を貫き一撃で魔力の灰へと変化させる。
「これが魔石か。」
大迷宮のモンスターが地表のモンスターと違う点は、殺したときに『魔石』と呼ばれる高密度の魔力を宿す石を落とすことだ。これを使って魔剣や魔槍などの特殊な武器を作ったり、強いモンスターの魔石ならば飛行船の原料にしたりも出来るらしい。
ゴブリンの魔石は小石ほどの大きさで、紫色の微妙な光を放っていた。まぁ最底辺のモンスターの魔石だからこんなものか。
「よし、この調子でどんどん進んでいこう。」
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大迷宮に挑戦してから2時間。僕は13階層まで辿り着いていた。
ちなみにここに来るまでこれだけ時間がかかった理由はモンスターではなく、純粋な自然のせいである。
5階層から8階層はマグマ溢れる火山のようなエリアで、9階層から12階層は暴風が常にふきすさぶ平原。そしてこの13階層は触れただけで激痛を催す毒を持つ葉っぱや、踏んだら吐き気や頭痛を引き起こすキノコ等で溢れ返る森である。
「モンスターも、大分強くなってきたな!!」
『ギシャア!!??』
13階層の森エリアには、噛まれたら1時間以内には死んでしまう猛毒を持つ2メートルほどの蛇モンスター《ソレルスネイク》が出現する。他にも毒のある棘をマシンガンのように発射してくるハリネズミ《ナッシャー》や炎を手足から出現させる《エンバーメーン》という羊も出てくる。どれもB級のモンスターだ。
そして僕は、槍を一閃しソレルスネイクの首を刎ねる。もう身体強化は五割ほどまで発動している。コイツ等の攻撃は毒があるため即刻殺さねばならないのだ。
「《ライジングサン》!!」
聖級の火魔術ライジングと聖級の雷魔術ゼリアスサンの組み合わせであるライジングサンを発動。これにより出現するのは、12個の赤色の球であり、地面へと着弾すると激しい爆発を引き起こす。
辺り一帯の森を吹き飛ばすほどの爆発を引き起こし、僕を囲むように大量発生していたソレルスネイクの群れを一掃する。あたりには50を超える魔石が転がった。
「この魔石を売るだけで10万ゴールド、、、大迷宮は稼げるなぁ、、、」
13階層に来れるレベルの冒険者は、恐らく冒険者全体の4割ほどだ。B級モンスターが大量に生息しこれだけの危険植物があるこの階層は僕ですらかなり気を付けて進んでいる。
だからこそ、僕は今見付けてしまった状況に驚いた。何故なら、明らかに戦闘が得意ではなさそうな黒髪ロングの女性がナッシャーに追い詰められていたからだ。しかも右脚には毒棘が深く刺さっている。
「《カルス・ヒルド》」
僕は左手をナッシャーに向け、魔術を発動する。発動したのは上級雷魔術カルス・ヒルド、1000万ボルトの落雷を落とす超攻撃魔術をまともに食らったナッシャーは全身を焼き焦げさせて魔石へと変化する。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい、すいません。ありがとうございます。」
僕は女性に声を掛けると、女性はこちらを振り向く。その容姿はとても端麗で、まさに美少女と言うべき整った顔立ちだった。身長は150ほどだろうか?
「すいません、失礼しますね。」
僕は彼女の右足に右手をかざし、上級治療魔術グレーターヒールを発動。棘によって空いた穴と全身に回っているであろう毒を解毒する。
「上級の治療魔術、、、もしかして高ランクの冒険者ですか?」
「いえ、昨日登録したばかりの新人ですよ。」
「期待の新人って奴ですね、私はロングロードと言います。周りからは道長と呼ばれていますのでそうお呼びください。」
「ご丁寧にどうも、僕はシオンです。自力で地上まで戻れますか?」
「大丈夫です、これでも逃げ足には自身があるので。」
「なら良かった、気を付けて帰ってください。」
僕がそう言うと、もう一度頭を深く下げる道長さん。正直心配だけどまぁ本人が戻れるというのなら大丈夫だろう。
道長さんは頭を上げると、地上へ向かって歩き出す。僕は非常に驚いた、彼女が何かぼそっと呟くと道長さんは透明になり一切の気配が感じられなくなったからだ。
(とんでもない隠密性能、本業は諜報員か何かなのか?そんな人が大迷宮に来るとか陰謀を感じざる終えないんだが。)
まぁ良いか、悪い人ではなさそうだったし今日の目標である上層の階層主に向かって進もう。一応野営道具も持ってきたけど、大迷宮で日を跨ぐのは少し嫌だからね。
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「へぇ、アレがアイアンの言ってた子かぁ。」
『隠匿』の二つ名を持つ世界最高峰の諜報員、ロングロードこと道長は大迷宮の隅にて呟いた。
(わざわざピンチなフリして誘い出した甲斐があったね、確かにあの子は強いや。まだ未成熟だけど磨けばさらに光る。)
「それにしてもリリスの奴、私をこき使いやがって。これでも情報収集に関しては世界一位なんだけど。」
直属の上司の悪口を言えるのは、誰も見ていない大迷宮だけ。まぁリリスならば見ている可能性もあるけどそんなのはどうでもいいのだろう。
(さて、もう少しあの子を観察したら戻ろうかな。リリスにも報告しなきゃだし。)
世界最強の上司がニヤニヤとしている姿を想像して勝手に腹が立ってきた道長は、完全に気配を絶ちながらシオンの後を追いかけるのだった。
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