第9話 悪魔教の恐ろしさ


「《アイシクルバージ》」


僕は槍を引き抜き魔術を発動する。発動したのは聖級氷魔法アイシクルバージ、氷柱をマシンガンのように発射する魔術で、12個の魔術陣から大量の氷柱をデュランに向けて放つ。


『意味、ありませんよ?』


放った氷柱の全てはデュランの肉体を貫通し、即死させたかのように見える。だがデュランは全身に風穴を開けたグロい状態から元通りに一瞬で再生する。


(馬鹿げた再生速度だな、王級の治療魔法でもその再生は無理だぞ。)


『今度はこちらから行きましょう』


デュランはそう言い放ち、右手をこちらに向けて翳す。すると幻想的な淡い色の炎が出現し、まるで不死鳥のような形を為す。


『【悪魔術行使権発動】。――――フェネクス』


術名が告げられると、不死鳥を象った炎がこちらにとてつもないスピードで突っ込んでくる。僕の暴力的な魔力量を最大限活用した身体強化を持ってしてもそれは危機一髪回避できるほどの速度だ。


「ぐはぁっ!?」


だが、奴の方が一枚上手だった。不死鳥は追尾式だったらしく、避けたと思った僕の肉体は不死鳥によって貫かれ、超高熱に蝕まれる。


「《アークヒール》!!」


僕は咄嗟に聖級の治療魔法を発動させ、大火傷を治療する。だが次の瞬間にはまた眼の前には不死鳥が迫っていた。


「ぐぅぅ!!!!」


僕は咄嗟に槍を突き出す。それは僕の全身を貫こうと突進してくる不死鳥と激突し、激しい金切り音を鳴らしながら鍔迫り合いを行う。


「《バーストメテオ》!!!」


不死鳥の動きを止めた瞬間、僕は聖級の土魔法を発動する。それはセルスの放ったフルバーストメテオの下位互換で、5つの小隕石をやつに向けて豪速で放つ。


『学習しないですねぇ、意味ありませんよ?』


5つの小隕石は確かにデュランの肉体を木っ端微塵に爆散させた。だが次の瞬間には元通り、気味が悪いほどの再生速度だ。


(悪魔教。これほどまでに厄介なのか。)


デュランからは強大な魔力も、馬鹿げた身体能力も感じられない。だがひたすらに、扱う術が強力過ぎる。それだけで僕は押されている。


「ならば、こちらもステータスで押し潰す。」


僕は全身に巡らせる魔力量を一気に500倍に跳ね上げ、廻す速度もそれに合わせて引き上げる。僕の骨や筋肉は悲鳴を上げるが全て無視だ。これをするだけで身体能力は数百倍になるのだから使わずにはいられない。


「《星穿》」


僕は冷徹にその技名を口にして、マッハ20を超える速度にて突きを繰り出す。それはこちらに迫る不死鳥すらも打ち砕き、デュランの肉体に巨大な風穴を開ける。


『だから、意味ないって。』


「それを確認するためさ。」


次の瞬間には、僕は奴の懐へと侵入している。そこから繰り出すのは光をも断つ斬撃の連続。デュランの肉体を切り刻んで破壊して燃やして凍らせて破壊するを繰り返す。


そうして1分もの間ひたすらにやつの肉体を破壊したが、その再生速度が衰えることはない。なるほど、この再生は術ではなくコイツの肉体に刻まれた特性なのか。


『フフフ、いくら強くても、殺せなければ意味がないですねぇ?』


「っは。ひとつだけ、哀れなお前に教えてやるよ。」


僕は槍を中段に構え、魔力を全開放する。それだけで周囲の建物にはヒビが入り、じきに衛兵や冒険者が駆け付けるだろう。だがそれはどうでもいい。


「僕の眼は、もう捉えた。」


刹那。


瞬き一瞬の間に、僕は突きを放つ。星すら穿ち通す最速の突きは先程と同じく奴の肉体を破壊するが、これでは再生されてしまう。誰もがそう思ったことだろう。


しかし。


『再生、出来ない!?』


突きによって右腕を飛ばされたデュランは、その事実に本気で驚く。まぁ再生だよりの戦法を取っているのだから当たり前か。


「お前の再生は魂に刻まれた特性だ。ならば魂に直接ダメージを与えれば良い。」


僕の眼なら、それが出来る。今まで散々人の魔力を見てきた僕の眼にしか捉えることの出来ない人の魂、それが役に立つ日が来たのだ。


「殺すぞ、デュラン。」


僕は冷徹にそう吐き捨て、地面を蹴り抜き突撃する。もうヤツに抵抗する術は残されていない、不死鳥も星穿で破壊できる。負けはありえない。


だが。


『ふひっ!』


デュランは、笑った。自身の死が迫りくるこの状況にて奴は笑った。僕は急いで防御姿勢に入るが、それは遅かった。


『【悪魔術行使権発動】―――【魔戒】』


刹那。


デュランの全身から黒いオーラが爆発する。激しい暴風により僕は吹き飛ばされ、近くの建物に激突する。そして、デュランの全身は黒い煙のようなものに包まれていた。


「ははっ、アイアンが気を付けろって言うわけだ。」


黒い煙が晴れるとそこには、左頬に黒い紋章を浮かべたデュランが立っていた。その姿から感じる魔力は先程の比ではなく、間違いなく僕と同等クラスはあるだろう。


『まさか、魔戒を使うことになるとは思いませんでしたよ。侮るのは良くないですねぇ?』


「疾ィィィ、、、」


僕は奴の戯言をスルーし、息を深く吐く。ここからは本気で行かなければ死ぬのは僕の方だということを悟っているのだ。


「《業鎧》」


僕は肉体を覆うように魔力を鎧のように張り巡らせる。当然ただの魔力の鎧ではない、魔力を薄く薄く層ごとに分け、2000を超える魔力の層によって構成された鎧はとてつもない防御力と身体強化を促す。


『【悪魔術行使権発動】――――フェネクス』


次の瞬間。幻想的な炎によって象られた不死鳥が『8体』出現する。一体だけでも十分な脅威となりうる不死鳥が8体、これはやばいな。


「《ラウルス・ヒルド》」


僕は走り出すと同時に魔術を発動する。使ったのは聖級雷魔術ラウルス・ヒルド、自身の半径5メートル以内の敵意を持った全てを雷で自動迎撃する魔術。


音速を容易く変える速度で突っ込んでくる不死鳥は、自動迎撃によって尽く撃ち落とされる。だがそのたびに復活し、あらゆる方向から僕の心臓を狙って突っ込んでくる。


「《アイシクルランス・バレット》」


次に発動するのは上級氷魔術アイシクルランス・バレット、高密度の魔力で練り上げた氷の槍を銃のように大量速射する魔術。だが身体能力も魔戒によって強化されているデュランは容易く全てを素手で撃ち落とす。


『【悪魔術行使権発動】―――【エンペラーブレイズ】』


デュランがニヤリと口角を釣り上げると、デュランの前方に幻想的な炎が集約していき、一体の炎の巨人が出来上がる。


エンペラーブレイズ。帝王の炎によって象られた炎のゴーレムはその両手をこちらに翳した。


「来いよ、打ち砕いてやる。」


僕は冷静さを崩さずに、槍を中段に構えた。その瞬間エンペラーブレイズから放たれるのは幻想的な炎が極限まで濃縮された火炎放射だ。それは炎龍王のブレスにも迫る熱量である。


「《星穿》!!!!」


全体重、頭の先からつま先までの全ての力を使った突きはこちらに迫る喰らえば即死の火炎放射を一撃で切り払った。


かのように見えた。


「ぐぅぅぅ!!!???」


火炎放射を切り払ったと思った瞬間、僕の眼の前にはエンペラーブレイズが忍び込んでおり火炎を纏った右拳を僕の腹部に向けて思い切り放つ。僕は激しく血を吐き、受けたダメージの深刻さに驚く。


(肋骨骨折、背骨損傷、腹部大火傷。かなりのダメージを受けてしまった、マズイな。)


僕はパンチによって後方に吹き飛ばされ、後ろの建物に思い切りぶつかる。そのときに背骨もかなりのダメージを受けただろう。


(これが、悪魔教。悪魔という未知の生物の力を借りる災厄の組織か。)


「上等だよ、僕の覚悟を甘く見るんじゃない。」


僕は即座に治療魔法を発動。流石にここまでのダメージだと完治は出来ないが動ける程度には回復した。業鎧のおかげでなんとかダメージを最小限に抑えられたのだろう。


『フフフ、さぁエンペラーブレイズ。あの愚か者を討ち滅ぼしなさい。』


エンペラーブレイズは無言で頷き、その全身から放つ熱量をさらに上昇させる。近くにいるだけで焼き切れそうな熱さだ。


僕は槍を構えず、ただエンペラーブレイズを見つめる。対するエンペラーブレイズを右手を上に翳し魔力を集約させる。


第2ラウンドの始まりだ。




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