駆けるは彗星、妖艶なる鬼の姫
第8話 迷宮都市ソムニウム
「ふぅー、、、こっちは寒いね。」
白い息を吐き、全身を襲う寒波に身を震わせる。森から北へ随分歩いてきたけどメチャクチャ寒いな。
(そろそろ着くかな、まったく、結構遠いじゃないか。)
リンドブルム王国の北端、世界三大魔境と呼ばれる【大迷宮】が存在する巨大都市ソムニウムが僕の目指すべき場所である。
そして北端と言うだけあってこっちはとても寒い。正直馬車を使うより歩いていく方が速いから歩いているけど、こっちの地方は雪も降ってるし凄く寒い。
「大迷宮にもう近いからかな、モンスターが多くなってきた。」
『キシャアァァァ、、、』
槍を引き抜いた僕の前に現れたのは、全長10メートルほどの緑の
『キシャア!!!!』
地面を削り取る大質量を持つナーガは、その巨体に見合わな速度でこちらへ襲いかかる。その牙が僕の頭を狙った瞬間、僕は槍を振り抜いた。
「《光断》」
『ギシャア!!??』
光をも断つ一撃。セルスとの死闘から更に増えた魔力量によって行われる強力無比な身体強化を有効活用した斬撃は、ナーガの首を一瞬で刎ねた。
モンスターには危険度が設定されており、上から順にS級、A級、B級、C級、D級、E級でナーガはC級のモンスターだ。ある程度経験を積んだ戦士ならば余裕を持って勝てるモンスターだ。
(今の僕がどれだけの強さなのか、少し気になるけど今はどうでもいい。)
「ようやくついたな、迷宮都市ソムニウム。」
僕は槍を背中に担ぎ直し、頭を上に上げる。そこには巨大な城壁によって護られる円形の
未知と危険、豊富な資源と貴重な素材で溢れ返る大迷宮を内部に宿す
(世界的な実力者が集まるソムニウム、だからこそセルスやチエリ、アイアンたちが抱える世界の闇を突き止められるかもしれない。)
あれからアイアンとは会えていないから、彼やセルスが度々語る世界の闇とやらを僕はまだ詳しく知らない。だが、少しずつその領域に足を踏み入れてきているのはわかっている。だからこの都市に来たのだ。
「さて、行こうか。」
僕は顔を隠すための白い仮面のようなものを顔につけて、巨大都市ソムニウムの門を通るのであった。
✳✳✳
✳✳✳
✳✳✳
「おおおお!!!!!」
門を通ると、そこには今まで見たこともない景色が広がっていた。
人、人、人。見る限り一面人が溢れかえっていてそこら中に出店や商人が冒険者に向けて売り込みを行っている。そして街行く戦士や魔術師はパーティーを組んでいるものもいれば、ソロで行動している者もいるようだ。
(今まで小さな街で過ごしてきたし、森では僕とセルスしか居なかったからこれだけの人混みは凄く新鮮だ。なんだか別世界に来たみたいだな。)
「よし、まずはギルドに登録しに行こう。」
迷宮都市ソムニウムでは、《冒険者》と呼ばれる独自のシステムが取られている。
そのシステムとは、冒険者ギルドと呼ばれる管理組織に登録することで大迷宮へ挑戦することが出来る
ここで問題発生。ソムニウムの地理はまだ把握してないので冒険者ギルドの位置が分からないです。こんな初歩的なところで躓くとは、、、
「むむ、どうしたものか、、、」
「ん?どうしたんだい君?迷子かい?」
僕が冒険者ギルドの位置がわからず思わず足を止めると、後ろから声をかけられる。そこには赤髪で小柄な戦斧を担いだ男、恐らく戦士だと思われる人物が立っていた。
「すいません、冒険者ギルドってどこにあるか分かりますかね?」
「知っているとも、俺は現役冒険者だからね。君も冒険者志望?」
「はい、道案内頼めますか?」
「任せてくれ。新人の力になるのも先輩の役目だからね。」
そんな会話を交わすと、着いてきてという一言と共に赤髪の男は歩き出す。
どうやら面倒見が良さそうな人だ、でも僕は少し身構えてしまう。なんだか強い気配はしないのに油断できないような雰囲気があるのだ、まるでアイアン=ボーンのような独特な空気感をこの男は持っている。
「そういえば自己紹介がまだだったね。俺は『ハルマ=ンヘッセ』、君の名前は?」
「シオンです。一応槍と魔術を少し扱えます。」
「へぇ、『少し』、ねぇ、、、?」
ハルマと名乗った赤髪の男は、僕をニヤニヤと見つめる。どうやら僕がある程度の実力を持っていることを見抜いているようだ。
やはり予想は当たっていると見て良いだろう。僕はできるだけ魔力は隠してるのに実力がバレた、しかもそれを知ってなお冷静という事はそれなりの実力を持っているはずだ。
「まぁ俺は見ての通りの戦士で、戦斧を使う。これからよろしく頼むよ、シオン君。困ったことがあれば俺を頼れ。」
「ありがとうございます。」
どうやらこの人は悪い人ではなさそうだ。悪人特有の邪悪な気配が一切無い、むしろ燃え滾るような情熱を彼からは感じる。
(ソムニウムに来てからすぐ、こんな人物と知り合えるなんてラッキーだ。)
相対してる感じ、実力はセルスと同等近く。今戦っても勝てるかは怪しいレベルだ。そんな人物が有効的な態度なのは有り難い。
「ほらシオン君、着いたよ。」
「おぉ、、、ここが冒険者ギルド、、、」
「いや〜懐かしいね。俺も初めてここに来た時は少し驚いたよ。」
ハルマは歩く足を止め、着いたことを告げる。眼の前には大きな建物がたくさんあるソムニウムの中でも一際大きい剣が交差したエンブレムが壁についている建物があった。これが、冒険者ギルドだ。
「俺はここまでにしておこう、一緒にいるのを他の冒険者が見たら騒ぎになるからな。」
「ありがとうございます、ハルマさん。」
「ハルマで良いさ、いずれ対等な立場になる。」
ハルマは最後にそう告げると、身をヒラリと翻して人混みの中へと消えていった。今度あったらお礼しないとな。
それはともかく、今は冒険者登録だ。さっさと済ませて今日の宿を取らなければ。
「すご、、、」
冒険者ギルドの扉を開けた最初の一言は、感嘆の言葉だった。その理由は、冒険者ギルド内にはとんでもない量の武装した冒険者がいたからだ。
どこを見ても冒険者しかいない、その力量は十人十色だが強い人は強い。テーブルや椅子、カウンター等が用意されていて冒険者たちは酒を飲んでいる者もいれば食事を楽しむ者も居る。
「すいません、冒険者登録お願いします。」
「はい、かしこまりました。」
僕は出来るだけ目立たないようにカウンターへと歩いていき、鏡越しに居るピンク髪の受付嬢に話しかける。
「冒険者の説明をさせていただきます。よろしいですか?」
「はい、お願いします。」
ピンク髪の受付嬢は僕に確認を取ってくる。正直冒険者に関しては概要程度しか知らないので是非説明はお願いしたい。
「冒険者とは、この街でソムニウムの中央に存在する大迷宮に挑戦するために必要な資格です。冒険者以外の者が大迷宮に入れば即刻衛兵によって逮捕されます。そして、その冒険者を管理する組織が冒険者ギルドとなります。」
たしか冒険者以外が大迷宮に入れば、軽くても数千万ゴールドの罰金、最悪の場合死罪すらあり得る重罪だ。僕も罪に問われないのであれば冒険者登録はしなかったが、やらなければ面倒くさいことになりそうなのでする。
「さらに、冒険者には階級が存在します。下から順にD級、C級、B級、A級、S級となっておりモンスターの危険度と同じ設定となっています。この階級が上がれば、当ギルドは冒険者に様々なサポートを行います。」
このサポートとやらも気になるが、恐らくこの階級を上げる一番のメリットは名前が売れることだろう。冒険者は自分が有名になるのな大好きな人種だ、S級にもなれば『二つ名』がギルドから授けられるらしいし冒険者にとって階級はとても大事なものだ。
「大方の説明はこれで終了となります。登録にあたっては本名をお伺いしますがよろしいですか?」
「問題ないです。名前は『シオン』です。」
「承知いたしました。」
ピンク髪の受付嬢はベテランなのだろう。すぐに説明を終え、必要な事項だけ迅速に伝えた。そして受付嬢はペンを取り出し一枚のカードのようなものにシオンと言う名前を刻む。
その瞬間。
「おぉ、、、」
名前を受付嬢が書き終えた瞬間、カードは青白く光り輝き、魔力を宿す。これが本人確認のための身分証明書『冒険者カード』なのだろう。
「登録終了しました。シオンが様はD級からのスター徒歩となります、依頼を達成したり、大迷宮の深い階層の素材を提出すれば階級は上がるので頑張ってください。」
「ありがとうございます。」
僕は冒険者カードを受け取り、感謝を述べる。スムーズに登録が終わって一安心した僕だが、そう簡単には終わらせてくれないのが運命様のようだ。
「ふぅー、、、おい、つけているのは分かってる。さっさと出てこい。」
僕は冒険者ギルドを後にすると、わざと人気の少ない路地裏へと移動する。ソムニウムに来てからずっと僕の後ろを付けてきている変体を誘き出すためだ。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか。)
僕は生唾を飲み、冷や汗が頬を伝るのが鮮明に分かった。そうして、路地裏の闇から一人の黄緑の線が入った黒フードを被った男が出てきた。そのフードには『37』の数字が書かれていた。
『おやおや、バレないようにつけていたのに凄いですねぇ?』
「答えろ、お前は誰だ?」
『つれないですねぇ。私が誰かなどどうでもいいでしょう?』
「どうでもいいわけあるか、お前の全身からただよう邪悪な気配がすべてを物語ってんだよ。」
僕は静かに槍を引き抜き、身体強化を発動する。油断できない相手だ、さっきのハルマと言いこの街には強者で溢れているな。
『しょうがないですねぇ、そこまで言うなら名乗りましょう。私は《悪魔教》No.37、デュランです。』
「悪魔教、、、アイアンの言っていた組織か。」
僕の警戒はさらに高まった。あのアイアンがアレだけ警戒する組織のメンバーが僕の眼の前に明らかに殺意を持って立っている、その事実が僕の背筋を凍らせる。
「ハハ、やっぱどうでもいい。僕に敵対するなら、殺すだけだ。」
『喧嘩っ早くて結構、こちらも遠慮せずに殺せそうです。』
デュランの全身を、魔力とはまた違う漆黒のオーラが囲う。悪魔教というだけあって、やはり悪魔の力を借りているのかな?
それはともかく。
「死ね。」
戦闘開始だ。
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