第7話 旅立ち
「今までお疲れ様、セルス。ゆっくり眠ってください。」
僕は、Cellsと記された墓石の前で目を瞑り手を組む。返答は返ってこないけど、それでいい。
昨日、セルスと死闘を繰り広げた後にセルスの体は燃やした。そして骨は壺に詰め、お墓も作った。誰のためでもない、僕がそうしたかったのだ。
(もう泣かない。いつか必ず、僕もそっちに行くのだから永遠の別れではない。まぁそう簡単に死ぬつもりは無いけど。)
「セルス、去年のあの日、あなたが僕を拾ってくれなければ今の僕はいません。だから、ありがとうございました。」
僕は最後にそう告げて、墓石の前から立ち去る。返事は無い、死者は喋らない。当然だけど、僕は少しだけ寂しくなった。
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「へぇ?セルスが死んだ?」
「えぇ、ベルフェゴールの呪いによってもう魂は残りカスしか無かった。あれではあと数日で動けなくなっていました。」
ボロボロの廃墟のような場所にて会話を交わす有資格者たち。その内容はかつての英雄、セルスの死についてだった。
「
「そこまでの逸材なのか、セルスの弟子は。」
「リリス、あのセルスの弟子だよ?間違いなく化け物でしょ?」
12個の魔眼を持つ現代最強と、各地を飛び回る有資格者であるアイアンの会話に混ざるのは知神と呼ばれる有資格者だった。
「まあそれはおいおい詰めていくとしよう、アイアン。久し振りに会ったんだ、酒でも飲むか?」
「是非受けたいところだが、私にはまだやるべきことがある。遠慮させてもらおう。」
「そうか、何かあったら私を頼れ。暇だったら手伝ってやる。」
「はは、何処までもあなたらしいですね。」
アイアン=ボーンはそれを告げると、廃墟から姿を消す。向かう先はかつての戦友の墓である。
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「おいしょっと。」
一年と少しを過ごした森の中の家を整備する。これからはセルスも居ないし、僕も旅立つから整備できない。
最後にこの家を出る前に、今まで使ってきた家具や食器、そして家全体を掃除する。それが敬意だと僕は思っている。
「はは、懐かしいな。」
僕はリビングを掃除していると、とある懐かしいものが出てくる。それは去年の今頃、まだセルスに拾われた頃最初に見た冒険譚の本だ。
主人公がエルフで、どこかセルスみたいな人が世界にはびこる悪を打ち倒したり、困っている人々を助けて最終的に魔王を倒して終わるというストーリーの本。確か倒した魔王の名は、、、
「《ベルフェゴール》、だったかな。」
僕は懐かしい気持ちになりながらも、その本をそっと本棚へと戻した。これらは全てセルスの遺品なのだ、丁重に扱わないとな。
「ん?なんだこれ、、、」
そして、僕は見つけた。厳重に保管されている訳でもないのに、どこか大事な物なのではないかと思わされる1つの本を。タイトルには、日記とだけ記されていた。
「セルスの、人生日記、、、?」
1ページ目を捲ると、そこにはセルスがまだ子供の時のことが書かれていた。どうやらエルフの集落に生まれたらしい。
「本当に、なんだ、これ、、、」
僕は絶句した。何故かと言うと、読み進めていくうちにセルスの壮絶な人生が明らかになってきたからだ。
セルスがまだ幼いときに、両親は人魔大戦の影響によって死亡。エルフの集落は滅び、その時にセルスは自分が有資格者ということを知る。
そっからなんやかんやで、同じ有資格者の仲間を見つけるも敵と戦い失う。そして今に至るまでの5000年、ずっと戦い続けてきたのだ。
「そっか、、、セルスも、辛かったんだな、、、」
日記の中盤には、ベルフェゴールと呼ばれる冒険団にも出てきた悪魔との戦いが記されていた。そして、その戦いにはアイアン=ボーンも居て彼女を蝕んでいた黒い紋章はベルフェゴールに付けられたようだ。
資格、敗北者、歴史の闇、魔王。まだ何も分からないけれども、セルスが戦い続けてきたことはわかる。彼女は自分のことを絶望から逃げた敗北者と言っていたが、それは違う。彼女はずっと戦っていた。
「ッ!、、、これは、、、」
僕はページを読み進めていくと、とあるページに辿り着く。そこには、左腕と右足、両目を失い全身から血を垂れ流している緑髪の青年の姿があった。そう、チエリだ。
(チエリさんとセルスには何らかの繋がりがあるのは確定したな。それに、この絵だとチエリさんはもう確実に死んでいる。死者というのも本当だろう。)
「セルス、あなたが僕に何をさせたかったのか、何を託したのかは分からない。だけどこれから精一杯生きるよ、セルスが戦い続けてきたのは絶対に無駄にしない。」
これは独り言だ。誰に言ってるわけでもないし、誰かに伝える気もない。だが僕の中で、セルスという一人の人物への尊敬の現れなんだ。
「よし、続きだ。」
僕は日記を閉じ、そっと冒険カバンの中にいれる。持っていくのが良いか分からないけど、何故かセルスが持っていけと言った気がした。
「目的地は、迷宮都市。取り敢えず今のこの国の現状を知らないとね。」
僕は旅の準備をしながら、そう呟くのだった。
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