第5話 突然の訪問者
「ほらほら、まだ土すらついてないよ?」
「ここからですよ!《フレイムバースト》!」
僕は地面を蹴り抜き、セルスに向かって突撃する。放つのは上級火魔法フレイムバースト、超高速で超高温の火の粉を大量に放つ至って単純な魔術。だが、威力や速度はそれ故に高い。
だがすべての火の粉は、セルスが展開する緑のバリアによって防がれる。硬すぎないか?
「まだまだ!!」
「なっ!?」
次に繰り出すのは、膨大な魔力によってあり得ないほど強化された身体能力で放つ突きの連撃。
たった一点のみを狙って時間にすれば1秒、数にすれば160の突きを放ったことによって緑のバリアを破壊する。これにはセルスも驚いたようだが、僕は間髪入れずに蹴りをセルスの腹部に叩き込む。
「《アイシクルホーリー》!!」
蹴りによって吹き飛ばされるセルスは、右手をこちらに翳し魔術を発動する。
次の瞬間、マシンガンのように大量の氷柱がこちらに向かって発射される。しかもその全てに膨大な魔力が凝縮されている。
「相変わらず!馬鹿げてますね!!」
僕は足を止め、氷柱の対処に集中する。襲い来る氷柱は恐らく音速を超えるだろうが、その全てを僕は槍の一閃にて防ぎ続ける。
「《ジャッジメントライトニング》!!」
「ぐあっ!?」
だが、氷柱の対処に追われる僕の頭上から降り注いだのは地面にクレーターを作るレベルの落雷。恐らく数千万ボルトにも登る電流は僕の体を容赦なく貫き、意識を刈り取る。
「まだァ!!!」
しかしその程度の衝撃では、まだ止まらない。電流によって内部が破壊されているせいで体の自由が効かないが、全力で魔力を使えばあと一発なら動ける。
「貫けェェェェ!!!!!!」
気合で立ち上がった僕は、門司通り最後の力を振り絞って乾坤一擲の投擲を為す。それは流石のセルスでも予測不可能、勝ったと思った。
だが思っただけで、セルスは何も無い空間からいきなり杖を取り出し、それを媒体として緑の結界を展開する。それにより僕の乾坤一擲の投擲は防がれた。
(ちょっと、ずるくね?あの杖なにぃぃ?)
「《グレーターヒール》」
僕の電流によって傷ついた肉体は、セルスの上級治療魔術によって完治する。僕は勢いよく立ち上がり、セルスの両肩を掴んだ。
「その杖なんですか!?てか、最後の投擲を防ぐとか反射神経どうなってるんですか!?」
「待って、落ち着いて、待って、そんな振り回さないで、、、」
「あ、すいません。」
僕は我を取り戻し、両肩から手を離す。でも最後のアレに反応するとか今までのセルスじゃ絶対に無理だと思ったのに、実力をまだ隠してるのか?
「この杖はね、普段は別次元空間に仕舞ってるんだけど、ガチの戦闘をするときは使うんだよ。それぐらい強力で、使い方を間違えれば世界を揺るがしかねない力を持ってる。」
「そんなのを僕に使ったんですか?」
「使わなきゃ、死んじゃうと思ったからね。おめでとう、君は今日初めて私を脅かしたよ。」
「あ、ありがとうございます、、、?」
僕は少し困惑するが、なんだかめでたそうだったので一応拍手していおいた。
だが、こんな和やかな雰囲気は一人の人物の死登場によって一気に崩れ去る。
「おやおや、こんなところで戦闘音が聞こえると思ったら、敗北者のエルフじゃないですか。」
「貴様、何故ここを知っている?」
僕は気付かなかった、森の中から家の庭にコイツが姿を表すまで、一切の気配が感じられなかった。つまり、僕よりは確実に格上だ。
それにセルスはとてもピリついている、僕を相手にするときとは比べ物にならないほどの臨戦態勢だ。
「いやなに、今回の依頼先は面倒くさがりでね。代わりに仕事をこなしてるまでだよ。」
「その仕事が、私の殺害か?」
「どちらかというと、チエリの気配を感じるこの青年の方かな。」
「私の弟子に手を出して、どうなるかわかってるのか?」
殺伐とした雰囲気は一切感じないのに、背筋が凍るような冷たさを併せ持つ銀髪の180ほどの男は、僕の方を見つめた。その瞬間、セルスの怒気が強くなる。
「君、名前は何て言うんだい?」
「答える義務はないけど、聞くなら先に名乗って欲しいね。」
「あぁ失敬、私はアイアン=ボーン。君と同じ有資格者さ、まぁ私も彼女と同じ敗北者だがね。」
「シオンだ。なんだか不気味な雰囲気な貴方とは喋りたくないからよろしくしないでおくよ。」
こうして会話を交わしているだけで、いつ殺されるかは分からないので冷や汗が止まらない。マジでなんでこんなヤバイ奴に襲われるん?
それにまた出てきたな、有資格者。それにセルスとアイアンは敗北者?何に敗北したんだ?
「アイアン、何をしに来た?」
「君は黙っててよ、今日は君に用はない。」
セルスが口を開くと、うるさいと言わんばかりにアイアンが口を挟む。どうやら、本当に僕に用があるらしい。
「シオン君、1つ問おう。君は何故強さを求める?」
「理不尽に抗うため、理不尽に全てを奪われる人間を一人でも減らすため、戦うために強さを求めている。」
僕は自分でも驚いた。何故、僕の信念をこんな怪しい奴にペラペラと喋っているのだろうと。僕は喋る気は微塵もないのに、勝手に口が動いたのだ。
「そうかい、でも君はいつか、絶望を目の当たりにする。魔王なんて比べ物にならない、大きな厄災が資格を有する君には待っている。私達はそれに敗北して、君たち次世代につなげる選択肢を選んだ。」
アイアンはセルスを見つめて、懐かしそうな目線を送る。どうやら訳ありのようだ。
(魔王なんて比にならない厄災、それに立ち向かうのが僕の役目?)
「それを含めて、もう一度問おう。君は何故強さを求める?」
勝手に口が動くのは、もう解除されている。自分の意志で喋れという事か。
「変わらない。僕にとって人が困ってるのなら助ける。その道中に例えどんな敵がいて、どんな絶望が待ち受けていてもそれで死ぬのなら後悔はないよ。」
僕は自分の意志を、アイアンの白銀のどこまでも見通しているような眼を見つめながら語る。これは全て事実で、僕の本音だ。
「待ち受ける絶望は、君が想像している程度ではない。君の大切なもの全て壊れるかもしれないのに、君は立ち向かえるのかい?」
「構わないですよ、僕が全員を守り切れるくらい強くなれば良いだけです。」
僕がそう言い返すと、アイアンは黙る。5秒ほど目を閉じて静かな空気が流れると、アイアンは口を開いた。
「シオン君、君は強いね。負けた私達とは大違いだよ。だけど先輩として、1つだけ警告だ。」
アイアンはしみじみしながらそう呟き、その細い瞳を全開まで開いて、僕を見つめた。
その時。
「ッ!!??」
全身にとんでもない悪寒が走る。目があっているこの瞬間が、まるで永遠に感じられるほど強烈な圧が全身を襲う。
「《悪魔教》という組織には気を付けろ。あそこには世界の闇、歴史の闇が全て詰まっている。」
アイアンは最後にそう告げると、ヒラリと翻して家の庭から出ていく。だが、出ていった後でも全身に走る悪寒は今だ治らない。
「セルス、彼は、一体どれだけの絶望を乗り越えてきたのですか?」
「、、、分からない。少なくとも、途中で逃げて託した私よりかは、多くの絶望を知っている。」
僕はまだ何もわからない。世界の闇とか、待ち受ける絶望とか。正直知りたくもないけど、いつか向き合う日が来ることは分かってしまった。
なら僕がやれることは、ただ1つ。さらに強くなることだ。アイアンにあれだけ啖呵を切ったのだから強くならなければ、それこそ誰にも負けないくらい。
「シオン、今日はもう戻ろう。少し私も調べてくる。」
「分かりました、気晴らしにいつもより豪華に夜ご飯にしますね。」
「ありがとう、じゃあちょっと行ってくるよ。」
そんなこんなで、僕は家に戻り夜ご飯づくり。セルスは険しい顔のまま森をでていった。なんだか、歯車が嵌ったように動き出したな。
「僕は、ちっぽけだな、、、」
突然とそんなことを思いつつ、家の中に入るのだった。
✳✳✳
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「アイアン、何故シオンに会いに来たんだ?」
「なんだセルス、こんな所まで追いかけてくるなんて君も私が好きだねぇ。」
「はぐらかすなよ、あれだけ自暴自棄になっていたお前が何故シオンに会いにきたんだ?」
夜の闇の中、冷たい風が吹きすさぶ草原にて二人の有資格者が言葉を交わす。
「私はね、あのクソッタレな『悪魔』に紅蓮を殺されてからずっと探してたんだ。敵を殺す以外考えていないような奴を。」
「それがシオンだと?」
「いや、彼はむしろ護るために戦う人間だ。そういう戦士は必ずいつか死ぬ、でも不思議なものだよね。彼からはそんな中途半端を感じられなかった。」
アイアン=ボーン。ずっと薄ら笑いを浮かべて細い目を輝かせる古の英雄はシオンを見ての率直な感想を述べた。
「アイアン、私は確信しているよ。私達が逃げてしまった化け物共を討ち滅ぼすのはシオンだ。誰よりも他人のために戦うシオンだからこそ勝てる。どこまで行っても自分しか頭にない私達とは違う。」
「ははっ、アレだけ頑固者だった君が随分柔らかくなったものだね。」
「そういうアイアンは、感情的な人間から大分変わってしまったね。『紅蓮』が死んだから?」
「それもあるさ、人間年を取れば変わるんだよ?まぁ私達に寿命は存在しないがね。」
アイアンは立ち上がり、全身で冷たい風を受け止める。その口角は少しだけ上がっており、口を開く。
「ならば、私も賭けてみようか。《魔眼王》と《知神》、《妖鬼》に、《隠匿》にも伝えておくよ。」
「魔眼王が動くの?」
「分からない、だけど今最前線で戦っているのは彼女だ。逃げてしまった私達よりかはシオンに興味を示すだろうね。」
二人の敗北者は、繫げるべき希望を見付けた。シオンと言う一人の青年を中心に、これから起こり得る躍動は誰にも想像できないものになるだろう。
「それにセルス、君はもう永くないだろう?『ベルフェゴール』の呪いは日に日に強まっているのだろう?」
「あぁ、シオンももう気付いているだろう。だからこそ最期まで、シオンに繋ぐよ。」
「寂しいものだね、旧友が死んでしまうなんて。」
「それは私ではなく、別の者のために取っておいてくれ。わたしの死なんて悲しむ者、必要ない。」
セルスの背中にずっと張り付いて消えない紋章は、日に日に大きくなっている。一年前シオンが背中を見た際よりずっと大きくなり、今ではもう全身を黒い紋章が覆っている。
「アイアン、私が死んだら、シオンを見守ってあげてくれない?」
「暇だったらね。」
「頼んだよ。」
セルスは立ち上がり、最後にアイアンを一瞥する。アイアンは見つめ返し、最後にこう告げて帰った。
「後の世界は、任せてくれ。君が成した偉業はは決して無駄ではなかったと証明して見せる。」
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