第4話 死だって厭わない
『精々楽しませろ、小僧。』
黒龍王の厳かな一言によって開始された究極の鍛錬、先手を取ったのは炎龍王だ。
『オラよォ!!!』
炎龍王はその赤く巨大な豪腕を振り回し、純粋なステータスでゴリ押そうとする。普通ならばこの異常なまでの範囲と速度、そして威力に轢き潰されるのだが、僕の一年間を見くびらないで欲しい。
「疾ィ!!」
『ほう?やるな。』
右方向から迫りくる豪腕を防ぐように槍を突き出す、本来ならば押しつぶされて終わりだが豪腕に槍が触れた瞬間俺は飛び上がり、奴の攻撃そのものを利用して上空へと飛び上がる。
「《ライトニングパニッシュ》!!」
そして放つのは全方向へ向けた雷撃の乱射、巨体を持つ龍王たちでは避けることは出来ない攻撃なのだが、龍王たちは馬鹿みたいに濃い魔力で全身を覆って雷撃を防ぐ。
『遅い』
「ぐぅっ!?」
だが相手は龍王、数千年前の支配者だ。上空という無防備な場所に飛び上がった俺は地龍王バスクの地面を隆起させ棘のように変化させる攻撃で腹部を貫かれる。
『シャアァァァァ!!!!!』
そして放たれるのは黒龍王の暗黒ブレス、一目見た瞬間アレは不味いと感知し、腹部を貫かれる激痛の中空中を蹴って回避する。
『甘いぞガキ』
だが、回避した先に居たのは緑の龍王。まさに風の如く放たれた爪一閃は俺の背中を激しく切り裂く。なんとか反応したから致命傷は防いだが大量出血だ。だが、、、
「そっちもね!!!」
『なっ!?』
爪による一閃をまともに喰らったら、普通は痛みで行動が停止する。だが俺は喰らったとほぼ同時に槍を振るっている。そして溢れんばかりの魔力で身体をがむしゃらに強化したおかげで風龍王の肉体に僅かながら切り傷をつけられた。
「《ブレイズガトリング》!!!」
次に起こすのは火の上級魔術。3000度を超える熱量の火球をガトリングのように放ち続ける魔術のため、消費は激しいが僕には関係ない。
『我に火など愚策ゥ!!!』
「誘導したんだよ」
炎龍王を除いた龍王は僕の全力魔術で多少は足止めできるが、コイツだけは無理だ。火には耐性があるせいで止まらない。だけど、だからこそそれを利用したのだ。
炎龍王の立ち位置を調整し、どこから攻撃が来るかを予測。結果は巨大な爪による振り下ろしだったので深く観察していた僕は槍でいとも簡単に受け流す。
『死ね、ガキ。』
だが、次の瞬間には僕の太ももには再び隆起し棘に変化した土塊が貫通していた。地龍王の仕業だ、奴は魔力制御が上手いのかこの攻撃の予測が出来ない。
(まだだ、もっと観察しろ。勝てなくて良い、今はこの化け物共が何を考えて、どうやって魔術を使うかを見ろ。)
セルスがここに連れてきたのはきっとこのためだ、睡眠時間すら惜しんで特訓する僕にとって龍王たちは最高の修行相手、それに自分以外の強者との戦闘経験を積んでほしいのだろう。
「なら応えるよ、僕は。強くなるためだったら、死だって厭わない。」
『ッ!?』
僕は覚悟を決めて五龍王を睨みつける、ほんの少しだが一瞬、僕の殺意に彼等は揺れた。
「ハァァッ!!!!!」
爆発的な身体強化、今の僕の魔力量で出来る最高の身体強化を全身に施して突貫する。その速度は先程の数倍はある、全身が軋むように痛いが無視だ、痛みすら進む力へと変えろ。
『すまぬ小僧、いやシオンよ。我らは貴様をガキだと思っていた、だがその認識は撤廃しよう。』
俺が全力で放った突きを、その馬鹿げた魔力で包んだ爪による一閃で受け止めた黒龍王は淡々と告げる。そして目があった瞬間、絶大な殺意を感じた。
『お前は戦士だ。故に、殺すべき敵だ!!!』
黒龍王は叫ぶと、その大きな口を開けた。暗黒ブレスが放たれる。
「ぐっ!?」
思わず逃げようとすると、すでに僕の真下の地面は変化しており、鎖となって僕の四肢を捉える。逃げられない。
『死ぬが良い!!!』
炎龍王が叫ぶと、僕の真下からはセルスが放つフレイムストームが比べ物にならない業火の柱が登る。その熱量は数千度に登るだろう。
『シャアァァァァ!!!!!』
放たれる暗黒ブレス、先程とは違い魔力が凝縮された異次元の破壊力を持つ暗黒ブレスは拘束され、地獄の業火にさらされる僕の肉体に直撃する。
激しく上がる土煙、流石に殺したか?と疑問に抱く五龍王。だが、土煙の中からとんでもない存在感と殺意が膨れ上がる。五龍王は再び警戒レベルを上げる。
「そうか、そういうことか。だから龍王たちの魔術は威力が高いのか。」
僕の全身はボロボロだ、全身の皮膚が黒く焼け焦げていて暗黒ブレスのせいで全身のA穴という穴から血が吹き出している。だが、今はそんな痛みすらどうでもいい。
(解析に成功した。龍王たちは今の魔術方式とは全く違う魔術形態を取っているな、魔術式も独自のものだ。)
『セルス、話が違うぞ。お前は子供に擬態した化け物を連れてきたのか?』
「いんや、正真正銘の16歳の子供だ。ただ彼は強さへの執念が常人のそれではないんだよ、強くなれるなら文字通り死んでもいいとすら思うほどにね。」
新たな魔術形態、どうやら消費が激しそうな魔術式が組み込まれているがまったく初めて見る式も組み込まれている。これを理解したのなら、僕にだって使えるはずだ。
「ふぅ、、、」
集中しろ、もっと心の奥の奥の奥の底に沈め。今は眼の前の強者を打倒すること以外何もいらない、痛みも邪魔だ。
『ッ!?死ね!!!!』
炎龍王は今、確かに恐怖した。眼の前の自分より数千歳年下の人間相手に恐怖し、己の極めた炎の術を放ち、確かに焼き殺そうとした。
人間の中には、時に世界に選ばれた天才が歴史を塗り替える瞬間がある。
それが今だ。シオンは天才でもなんでもないが、今シオンはまさに歴史を覆した。そしてそんな偉業を成し遂げたシオンは今、新たな境地に至ろうとしていた。
「ここ、どこだ?」
僕は目を開けると、真っ黒な空間にいた。どこになにがあるのか、自分の姿が認識できないほどの闇の中に、1つの扉があった。そこから一人の緑髪の青年が出てきた。
『へぇ、自力でここに来たのか。しかもサタンが選んだ傑物ではない、本当に人間が自力で来たなんて久々だな。』
「すいません、ここ、何処ですかね?」
『いずれ分かるさ、ここに辿り着いたのなら君もこの争いに参加する資格がある。時が経てば嫌というほど思い知る。』
緑髪の青年は、ペラペラと上機嫌そうに話す。僕はハッキリ言って状況が読み込めない。
『そうだね、ここまでたどり着いたご褒美を上げるよ。ここから戻った時、君はさっきよりほんの少し強くなっている。』
緑髪の青年がそう告げると、僕の意識は徐々になくなっていく。本当に、最後まで状況が読み込めない。
「ハァッ!!!」
僕は目を開けた瞬間、槍を1振りする。すると目の前まで迫っていた業火の火球はかき消され、辺りに散布する。
(なんだ今のは、いや、今は眼の前の敵に集中しろ。)
『少し本気を出すぞ、シオン。』
風龍王はそう呟き、その巨大な両翼を大きく羽ばたかせて無数の竜巻を発生させる。それは一様にこちらに向かってきており、奴等が自分の肉体を覆う魔力以上に強大な魔力が込められているのがよくわかる。
そう、その魔力の流れが《見えてしまった》。
「疾ィ」
『なっ!?』
向かってくる竜巻全て、そう、全てを槍の一振りにて霧散させる。風龍王はひたすらに驚き、黒龍王は目を細めて訝しんだ。
(魔力のつなぎ目が見える、そこを切り開けば魔術は霧散する。)
魔術は魔力の集合体、僅かながら魔力と魔力にはつなぎ目が存在するため、そこを槍で切り開けば魔術は一撃で霧散する。分かっていても普通はできない強硬手段だ。
その繋ぎ目を理解してしまえば、より効率的な身体強化が発動できる。自身が行う魔力による身体強化でも繋ぎ目を極限まで減らし、魔力そのものの量を増やすことで、身体強化を究極まで大きく発動できる。
『なんなんなのだ!?貴様はッ!?』
「見えた」
風龍王は恐怖し、無数に竜巻を発生させまくる。だがその全ては一閃の元に打ち砕かれ、ついには懐に侵入する。そして何万回と放っていた技を繰り出す。
頭のてっぺんから、つま先までのすべての力に加えて今走った全ての衝撃、重力、遠心力。その全てを乗せ究極の一撃を放つ絶技、その名も、、、
「《龍穿》ァッ!!!!!」
『グアァァァァ!!!!????』
放たれる渾身の突き、たった16歳の戦士が放ったとは思えない一撃はまともな防御を取ることが出来なかった風龍王の巨体に、大きな風穴を開ける。風龍王は白目を向いて倒れ、僕もまた地面に転がり落ちる。
「はぁ、、、はぁ、はぁ、、、」
肉体の限界が来た。既に全身いつ死んでもおかしくない重症を負っているのに魔力切れも起こして体力も切れた、動けなくて当然なのだ。
「お疲れ様、ゆっくり休んで。」
セルスのそんな言葉が聞こえ、頭をポンポンと叩かれると僕の意識は闇へと沈んでいくのだった。
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