第3話 龍脈
「ハァッ!!!!」
「《フレイムストーム》」
セルスが僕の地面から巻き起こすのはとんでもない熱を持った竜巻。僕は地面を蹴り抜き一瞬で加速することで回避し、そのまま渾身の突きをセルスに放つ。
「《アイアンクォール》」
「《パワーステップ》!!!」
セルスは自身に向けて放たれた豪速の突きに表情1つ変えず、鋼鉄の壁を作り出す。僕は槍を止められた瞬間身体強化を発動し、槍を支点鋼鉄の壁を跳躍して飛び越える。そして左手をセルスに向けた。
「《ライトニング》!!」
「《アースウォール》」
放つのは3つの雷撃、ボルトにして数千万は下らない超高威力の雷撃はセルスの目の前に出現した土壁によって受け流される。だがそれはブラフだ、本命は違う。
「《アイスバインド》!!」
「っ!?」
地面に着地した瞬間、僕は足と地面のバイパスを同化させて魔術を発動。無数の氷の縄がセルスの四肢を拘束する。
「《フレイムストーム》」
だが、セルスは自身の真下から炎の竜巻を起こして氷の縄を溶かす。自分ではなった魔術は自分の魔力のためダメージを喰らわないのを上手く利用しているのだ。
(ぽんぽんと上級魔術を扱いよって、僕はそんなスムーズに発動できないぞ。)
フレイムストームは火属性と風属性を重ね合わせた上級魔術。僕でもノータイムで発動は難しいのにぽんぽんと使ってくるセルスは相変わらず化け物だ。
「《ライトニングステップ》」
だがこちらも負けない、雷属性の中級魔術を発動し全身に電雷の加護を受ける。僕は先程とは比べ物にならない速度で突貫し、磨き上げた遠心力と重力を利用する一撃を槍で繰り出す。
「《アースニードル》」
「ハァッ!!!!」
渾身の突きはセルスを守るように展開された土の棘によって防がれたが、僕はその勢いを利用して命を奪いかねない鋭い蹴りを放つ。流石にそれは予想外だったようでセルスは左腕で防御するが、左腕からは骨が折れる音が聞こえた。
「ふぅ、大分強くなったね、シオン。」
「一年間みっちり扱かれましたからね、そっちこそなんでそんなスムーズに上級魔術使えるんすか。」
「年の功だよ、それに私に傷を負わせるのはほんの一握りの戦士しか出来ないことだよ。誇って良い。」
セルスに一撃いれるのは、それほどまでに大変だ。実際彼女はもう治療魔術で左腕を完治させている。それも上級の治療魔術だろう、本当に底が知れない。
それと、鍛錬開始から一年が経過した。ちなみに大体3ヶ月位で六属性の中級魔術まで習得できたが、上級魔術は本当に難しい、魔術式が複雑すぎるしさらにその掛け合わせなのだから、難易度が馬鹿げている。
だが俺は、地水火風雷氷の六属性すべての上級魔術を習得した。魔力量は毎日毎日魔力切れになっても鍛錬していたため鍛錬前の数千倍まで膨れ上がっている。槍の熟練度も上がり、セルスから直々に凄腕の戦士と褒められたほどだ。
「シオン、この後ピクニックがてら森の奥に行こうよ。」
「良いですけど、なんかあるんですか?」
「鋭いね、そろそろシオンの器が育ってきた頃合いだしアレに触れる良い機会だと思ってね。」
セルスが何年生きてるか知らないけど、純粋なエルフのさらに上位互換、ハイエルフであるセルスは少なくとも500年は生きているだろう。そんなセルスが険しい顔で語るアレとは一体何なんだろうか?
「んじゃ、行こうか。ご飯とか準備して〜」
「はいはい、先に待っててくださいね。」
僕は困惑しながらも、サンドイッチを作り始めるのだった。
―――――――――――――――――――――
「いやぁ、今日は良い天気だね。」
「ですね、太陽が暖かいです。」
「まぁそんな日にシオンをあそこに連れて行くのは申し訳無いけどね。」
「良い加減教えてくださいよ、あそこってなんですか?」
「行ってからのお楽しみ〜」
出掛ける格好に着替え、サンドイッチを作って出発した。セルスは戦闘もできるし尚且つ可愛い服を着ており、白髪ロングが引き立つ感じだ。
僕はこの一年、死ぬ気で鍛えた。身長は175を超えたし魔力量もセルスの10分の一はある。更に言えば身体強化の精度は熟練の戦士並だし、素の身体能力も文字通り怪物級だ。
そんな僕の体が、震えている。20分ほどゆったり歩いていると、僕の体が異変を示した。これ以上近づいていてはならない、そんな世界からの警告を感じるほどに。
「シオン、身体強化を発動して。」
「もうしてますよ。」
「早いね、まぁもう着いたよ。」
セルスは歩くのを辞め、視線を下に下ろした。そこには超巨大な渓谷があり、縦幅は数百メートル、深さはもはや底が見えないほどに深いまさに地獄への入口のような渓谷だ。
そして何よりやばいのは、この渓谷から感じる魔力だ。近くにいるだけで酔い潰れそうなほどに濃い魔力が、渓谷から発せられている。本当に何がいる?この渓谷。
「《龍脈》、古の五龍王が封印されている渓谷。ここからはかつての厄災が今も化け物みたいな魔力を垂れ流してるんだ。」
「道理で、馬鹿げた魔力ですね。」
俺は身体強化のついでに魔力で全身を膜のように覆って正気を保っているが、セルスは生身の状態で普通に喋りかけてくる。やはり彼女は規格外だな。
「さて、降りるよ。」
「は???」
「ほら早くして、大丈夫、ちょっとちょっかい掛けにいくだけだから。」
僕は耳を疑った、このひと正気か?とも思った。だけどセルスは至って真面目にここに潜ると言っている。
僕が拒否したところで、強引に連れて行かれるのがオチだ。僕は本当に戸惑いながらも覚悟を決めて、セルスと共に龍脈へと豪速で落下する準備をした。
「それじゃ、フラァァァイ!!!!」
「うあぁぁぁぁ!!!!!」
やけにテンションの高いセルス、暴風によって声が全く聞こえない僕。テンションの温度差で風邪引きそうだけど僕は鍛え上げた身体能力の暴力で強引に着地する。
「いってて、、、深すぎない?」
「まあ大英雄が作った穴だからね、それにシオン。もう無駄口を叩いている暇はないよ。」
俺は全身の埃を払いつつ立ち上がる。そうして顔を上に上げると、視界には五人、いや、五体の怪物がいた。
『随分久しいな、セルス。』
『待ちくたびれたぞ。』
『男連れとは、喧嘩を売っているのか?』
『なにぃ?男だと?、我等のセルスが男に取られたというのか?』
『これが寝取られ、、、』
そこにいたのは、五体の龍。自分がちっぽけに思える巨大なトカゲのような体躯に、大きな翼。五体の色はそれぞれ違く、赤、青、茶、緑、黒の5色だ。
(これが、五龍王。3000年前の人類がまだ発展していない時代の支配者たちか。)
僕は怯えもせず、怖がりもしなかった。この一年間と、あの日の夜のせいで僕はとっくに狂っているのだ。今更恐怖なんてものは湧いてこない。あるのは、強者への興奮のみだ。
『して、セルス。今日は何用だ?』
「私の弟子を鍛えに来たの、五人でちょっと死なない程度に揉んでくれない?」
僕の表情は一切変わらない、だが五龍王は違った。あれ弟子?いやいやまだガキだぞ?てか我らが相手とか普通に殺してしまうんだが?とか聞こえてくる。うん、そこまで言われたらやるしかないな。
「安心しなよ、まだまだひよっこだけど素質はある。こちら側の領域に足を踏み入れる資格は持っている、存分に鍛えてくれ。」
『そこまで言うのなら仕方ない、小僧、我は黒龍王ヴァルハラだ。』
『炎龍王ブレイズオルドだ。ボッコボコにするからよろ。』
『水龍王シャルトエデン、殺したらごめん。』
『風龍王セイレーンよ、よろしく。』
『地龍王バスク。よろしく頼む。』
各々が自己紹介をするたびに、渓谷は揺れる。全員が絵本などで出てくる超有名人であり、人類のために戦った龍王も居れば呑気に暮らしていた龍王もいた。
だが共通点はその圧倒的な強さ、こうして目の前にいるだけで馬鹿げた圧を感じる。だが僕はメチャクチャに興奮していた、これだけの強敵を相手にするのは初めてだからだ。
『小僧、名は?』
「シオンです、よろしくお願いします。」
『シオンよ、死んでも知らんぞ!!!』
こうして、五体の龍王たちによる鍛錬もといいじめが始まるのだった。
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