第2話 日常編【出会い】

 好幸との出会いはmixiというSNS。当時私には家庭があり、旦那(元)と小学生と中学生の娘が二人。
リラクゼーションサロンの仕事についたばかりの私は、公私共に順調…とは素直に言えないが、仕事に関しては希望に胸を膨らませてた。

 一方で旦那とはそれ以前から倦怠期を迎え、一緒に居る意味を失っていた。それは積雪が屋根に重くのし掛かり、家を軋ませるように、私の心傷音に彼が気付くことはなかった。
彼には友人やテレビの声しか聞こえていない。私の声は、取るに足らないコマーシャルか、良くて朝の占いコーナー。


興味本位で見ては見るものの、ラッキーアイテムが林檎などと言われようものなら、一気に馬鹿馬鹿しくなるあれと同じなのだ。

背中合わせで一人涙を溢した夜も何度とあったが、泣きながら鼻をぐずつかせている私に『風邪でもひいたのだろう』と無神経な言葉を投げるだけだった。


勿論彼だけの所為ではないのも分かっている。私も彼とは向き合わなかった。諦めていたのだ。互いに除雪作業を怠ったが故に家が重みに耐え切れず悲鳴を上げるのは必然だっただけのこと。


 今思えば、腹の立つ内はまだ幸せだ。どんな嫌味を言われようとも無関心になってしまったら、もう後戻りは出来ない。
マザーテレサの言うように愛の反対は無関心なのだ。そのマザーテレサが墓場まで持って行き、隠し仰た悪行ですら無関心よりは優しい。


 それでも娘達の気持ちを考えると、簡単には離婚に踏み切ることが出来ない。結局は自分が変わるしかないと、納得させるように自己啓発本を読み漁る日々が続いた。


心理学から、宇宙や神様といった空想じみたものまで幅広く読み漁った。自分が変われば人生が好転し始めると信じて。

 リラクゼーションサロンに就職するのを決めた時期も、丁度その時だった。自分を変える為に、何かに挑戦する姿を旦那に見て貰いたかったのだと思う。
長女の受験という大切な時期に、研修で東京まで行ったのも、人はどう言うか分からないが、私なりの決意の表れだった。けれど雪は私の熱意だけでは溶かしきれなかった。


 その頃に、私はやたら宇宙というキーワードを目にするようになっていた。
 例えば、大好きな作家さんの本の表紙が宇宙だったり、偶然入った雑貨屋のコンセプトが宇宙だったり、お気に入りの指輪が宇宙を模したものだったりと、宇宙に関連するものとの出会いが頻発していたのだ。

ある日細々と続けていたSNSのmixiにダイレクトメールが届いていた。正直これまでにも出会い目的の男性からのDMは度々あったので、今回もそうだろうと思っていた。



『まぁ見るだけならタダだし。』


 
そんな軽い気持ちでDMから送り主のページに飛んでみた。


『また宇宙や…。』


 ホーム画面の背景を宇宙の星々に見立て、アイコンを宇宙に浮かぶ地球に見えるように設定していた男性のページが表示される。
携帯のメールさえ教えなければ、mixiのDMはただのコミュニケーションツールに過ぎない。
何か運命のようなものを感じた私は、躊躇うこともなく宇宙の創造者に返信をしていた。


『はじめまして!DMありがとうございます!』


 この男性が後に旦那となる好幸であることは、言うまでもないが、この時の私はまだ知る由もない。この好幸という男が…いかに面倒くさい人間であるかを。思考回路が普通ではないかを。愛にうるさい人間であるかを。


【続く】

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