第14話
月のものが終わり、私は再び、二人の夫と夜を過ごすようになりました。
最初の夜の夫はアイテルでした。
ですがその夜、アイテルが部屋に来た後も、私は星見に夢中でした。
月のものが終わり、すっきりしたこともありますし、今宵は貴重な
アイテルとの夜にも慣れ、気が緩んだこともありますわね。
久しぶりに遠見の筒を夜空に向けてのぞき込みますと、朱色の火星が鈍く光っています。
星見では、日や刻限、風の強さや雲の多さ、それと星の様子を記録します。
何時にどの高さまで昇り、どのように見えたかということですわね。
そうして記録したものを過去の記録と比べてみますと、同じ部分と違う部分が明らかになるのですわ。
「微風、雲少なく晴天、南中、八の刻」
私の報告を、傍らでアイテルが書き留めてくれます。
このところ、星見の依頼が増えておりますの。今夜の火星の星見もそのひとつですわ。
テフォンが言うには、この間、防壁を王都に出現させたのが大きいのだそうです。
最初に防壁を張った時も大きな噂になったそうですが、この間の防壁は、前からあまり間もなく張られたため、他国では大変な騒動になったとか。
王都を行き交う商人たちが噂を広めたそうでしてよ。
おかげで国境地帯は安定し、軍や学術院も、星見を活用する余裕が出てきたそうですわ。
星見は、今後の天気や気候を教えてくれます。
星見は、軍の運用はもちろん、国の行く末にも大きく影響する。防壁と巫に頼らない防衛の礎となる。
そう、テフォンは言っておりました。
それにしても、今宵の火星は、ひときわ赤く輝いていますわね。
あまりに美しいので、私は傍らのアイテルに声をかけます。
「アイテルも見てみませんこと? 今宵の火星はとても赤くて綺麗でしてよ」
「よろしいのですか?」
「ええ。必要な調査は終わりましたわ。それに、これからは少し雲が出てくるでしょうから」
私は遠見の筒から離れますと、アイテルから冊子とペンを受け取り、場所を譲ります。
冊子には、指示したとおりの記録が、美しい文字できちんと残されておりました。
アイテルは身をかがめて遠見の筒を覗き込むなり、ため息を漏らします。
「これは……美しゅうございますね。目で見るのとはずいぶんと違うのですね」
「でしょう?」
「ミティス様が夢中になる理由が少しわかりました」
「ふふっ、気に入ったようでよかったですわ。また、条件がいい時にご覧になって?」
「はい、ぜひに」
アイテルは遠見の筒から目を離して笑います。屈託のない笑顔は美しい少女のようで、見蕩れてしまいます。
するとアイテルは真顔になり、じっと私を見つめながら口を開きます。
「ミティス様、これで、星を見る時間は終わりですか?」
「そうですわね」
「なら、ここからは俺たちの時間ですね」
言うなりアイテルは私を抱き寄せます。
その体は、熱を帯びておりました。
外の風があるからでしょうか、アイテルの熱が、体に染みこむように強く感じられます。
アイテルの指が、そっと私の耳に触れます。
淡い快感が身を走り、声が出そうになるのをなんとか堪えます。
「相変わらず、耳が弱いですね」
「それは」
「ここも」
大きな手が胸元から滑り込んできて、先端をまさぐります。
今度は声が抑えきれませんでした。
「いけませんわ、こんなところで」
「どうしてです?」
「だって、声が」
「テフォン殿に聞こえるかもですね」
アイテルは笑いを含んだ声で囁きますと、首筋に唇で触れてきます。
同時に、大きな手が、胸元を撫でながら降りていきます。
「ずいぶんと熱心に星見をしていましたね? 俺が隣にいたのに」
アイテルは低い声で囁きながら、私の下腹に触れてきました。
「テフォン殿に言われたからですか? 彼が夫になってから変わりましたね」
アイテルの指が、やさしく入り口をまさぐります。
ああ、そうされますと、心地よさを感じて、奥から蜜が溢れてくるのですわ。
「テフォン殿とは外で契らないのですか?」
さらに快楽が強まってきますが、なんとか声を押し殺します。
このままではよろしくありません。アイテルを咎めることにします。
「いけませんわ。やめなさい」
「駄目です。もう、こんなに濡らしているのに」
夜に限っては、最近、アイテルは私の命令を聞かないことも多いのです。
「そこへつかまって」
アイテルは私の手をつかみますと、露台の手すりへと導きます。
「待って……」
私の言葉を無視すると、アイテルは私の腰を掴み、衣をたくし上げます。
「今宵の夫は、俺です」
風がすうっと、露出した肌をなで、下には熱い物が触れてきます。
「最近、あなたは少し意地悪でしてよ」
「はは、そうかもしれませんね。ですが……」
アイテルがゆっくり動いてきて、私は必死に声を押し殺します。
「ミティス様が本当に嫌がっておりましたら、決してこんな真似はいたしません」
アイテルが、明確に快楽を与えはじめますと、もう声が堪えられなくなってきます。
「可愛い」
アイテルはそう囁きますと、大きな手で私の口を覆ってきました。
「そうです……感じてて……くださいね」
囁き声と共に、アイテルが強く腰を押しつけてきます。
こんな外で、なんとはしたないことでしょう。
でも、咎められませんでした。
それほどに、アイテルが与えてくる快楽は素晴らしいものでしたのよ。
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