第2話

 俺の部屋に猫がいた。

 隣の家に住む幼馴染みの飼っている猫だ。

 こいつのことをうちの家族も気に入っていて顔パスで自由に出入りしている。

 こいつ自身は俺んちも飼い主の家だと勘違いしている可能性がある。


「何しに来たんだお前」

「みゃ」


 猫はひと鳴きすると顎をくいっと上げた。

 なんか誇らしげに見えたのは俺の気のせいか?

 それはともかく、見覚えのない首輪が見えた。

 どうやら新調したようだ。


「なんだお前、自慢しに来たのか……ん?」


 よく見ると首輪にメモらしきものが挟んであった。


「お前は猫の宅急便かよ」


 ……ちょっと自分で言ってて恥ずかしくなった。


 それを抜き取って広げてみるとQRコードが書かれていた。

 それだけだった。


 あいつはなんでスマホで連絡して来ないでこんなん使うんだ?

 やっぱ首輪自慢したいからか?


 俺はスマホでQRコードを読み取りそのサイトを表示した。

 猫の餌のページだった。

 特別な日に、と書かれているだけあって高価だった。


「まさか俺に買えって言ってんのか?」

「みゃ」


 猫は俺の言葉を理解しているかのようにタイミングよく鳴いた。


「いやいや。それはお前の飼い主に頼めよ。なんで俺に頼むんだよ?俺だって今月ちょっと厳しいんだぞ」


 猫相手に話しかけてて恥ずかしくなった。


 俺はそのメモの裏に「自分で買えよ」とシャープペンで書くと折りたたんで猫の首輪に戻そうとしたのだが、


 ぺしっ、


 猫が俺の手を叩いた。

 いわゆる猫パンチだ。

 どうやら俺の行動がわかってしまったようだ。

 いやマジかよ?


 その後何度もチャレンジするが悉く失敗。

 どうやらこいつは俺が餌を買うまで居座るつもりのようだ。


「お前はだだこねる子供かよ」


 って、まあ、猫の知能は幼児くらいだって聞いたことあるからそんなに間違ってはいないか。



 埒が明かないので幼馴染みに電話をかけることにした。

 俺が電話をかける事を読んでいたのだろう、1コールで出た。


『なに?』

「何じゃねえよ。お前んとこの猫が俺に餌買えって居座ってんだぞ」

『買ってあげればいいじゃない。けち』

「ケチじゃねえよ。お前のペットだろうが。お前が買ってやれよ」


 向こうでため息が聞こえた。


『あのねえ、見たでしょ。新しい首輪を。私はもうお金がないの』

「親に頼めよ」

『あんたも知ってるでしょ。『自分で面倒みる』って言って飼うの許可してもらったんだからそんなこと頼めないわよ』

「じゃあ、我慢させろ」


 ぺしっ


 ん?と思って足元を見ると奴が猫パンチ放ってやがった。


 いや、マジでこいつ、本当に人の言葉わかるんじゃないか?


 

 結局、今回も俺が折れた。

 もちろん、無条件降伏じゃないぞ。

 今度、映画に付き合わせることに成功したのだ!

 つまりデートだ!


 ……いや、しかし、ちょっと待て。

 何を観るかはあいつが決めるんだよな。

 それにさっきの口振りだと俺が奢るような……。

 いや!

 考えるな!

 考えたら負けだ!

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