着飾る猫
鳥頭さんぽ
第1話
俺の部屋に隣に住む幼馴染みが突然やってきた。
何事かと思って尋ねるととてもくだらない用件だった。
ああ、「俺にとっては」と付け加えておく。
「いきなりどうしたんだ?」
「実は今ちょっと悩んでることがあって相談に乗って欲しいんだ」
「ほう、なんだ?」
「これなんだけど」
そう言ってウェストバッグからいくつものリボンを取り出した。
全て同じデザインで色が違うだけのように見える。
「リボンがどうしたんだ?」
その質問を待っていたかのように俺と幼馴染みの間に猫が割って入ってきた。
この猫は幼馴染みが飼っている猫だ。
って、それよりこいつ、いつ入ってきたんだ?
幼馴染みがやって来たときはいなかったよな?
その猫がなんか誇らしげなポーズをする。
そこで気づいた。
その猫は青色のリボンをつけていたのだ。
「この子さあ、どの色も似合うでしょ。だからどの色にしようか悩んじゃって。取り敢えず青をつけたんだけど」
「……悩みってそれ?」
「とても重要でしょ」
「……そうだな」
ここはちょっと視点を変えてみよう。
実は俺に会う口実が欲しくて……
「違うわよ」
あれ?
俺、今、口に出してたか?
「何が違うんだ?」
「今、なんか見当違いの事考えてたみたいだったから」
「見当違い、とは?」
「見当違いは見当違いよ」
まあ、深く追求するのはやめよう。
「でもよ、俺の意見聞いても無視するんじゃないのか?」
「ええ」
「おいっ、否定しろよ」
ムッとした俺の表情を見て幼馴染みは言い直した。
「いえ、そうね、除外対象になるかもしれないわ」
「おいこらっ!そういう否定じゃねえよ!」
まったく困った奴だ。
「……そんなに悩むなら無理に選ぶ事ないだろ。もう買った後なんだし」
「そうはいかないわ。やはりナンバー1は決めておくべきじゃない!」
「いや、無理に決める事ないだろ。どれも似合ってるって言うなら」
俺は幼馴染みの顔を見て失言したことを悟った。
「その言い方だとまるでどれも似合ってないように聞こえるけど」
幼馴染みは俺を睨みつけながら言った。
「いや、そんなこと言ってないって」
「……」
めんどくせー。
「じゃあ、こうしたらどうだ?」
幼馴染みは俺の提案を聞いて「じゃあそうしてあげるわ」と何故か上から目線で言って帰っていった。
俺が自室に入ると猫がいた。
俺んちの猫じゃない。
隣に住む幼馴染みの猫だ。
「お前、また勝手に入ってきたのか。ここはお前んちじゃないぞ」
「みゃ」
俺の言葉に返事したが出て行く気はないようだ。
猫がつけているリボンが目に入った。
「赤か」
俺が幼馴染みに提案したのは曜日毎にリボンの色を変えることだ。
そこまで悩むならじっくり検討したほうがいいと。
リボンも七種類だったのでちょうどよかったのだ。
だが、そこで首を傾げる。
赤色のリボンは火曜日につけると言っていたはずだった。
俺は左腕にはめているデジタル腕時計に目をやる。
そこには時刻だけでなく、月日、そして曜日も表示されている。
水曜日だった。
「……やっぱあいつ、ガサツだなあ」
俺の呟きに幼馴染みの猫が「みゃ」と相槌を打った。
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