第二章 共闘 - アラインメント
2-1 旅は道連れ、幼女ではなさげ①
立ち昇る黒煙の後ろに白い蒸気を噴き上げて、迫力の汽笛がソハチェフ駅プラットフォームに鳴り響いた。
蒸気機関車の先頭車両付近に集まった子供達は、お腹に響く大音量に興奮し、立ち昇る煙のコントラストに目を輝かせている。
その中に背の高い男女が二人――黒髪黒目の青年と艶やかな金髪の田舎娘も、子供達と一緒になって蒸気機関車を見上げ歓声を上げていた。
「すごい音だなー! SLって初めて見たよ」
「へへーっ、そうでしょうそうでしょう。蒸気機関車はポーラ科学技術の結晶。大陸スヴァトヴィート全土、どこの国にだって行けちゃうんだから!」
ロッティは胸を張る。蒸気機関なんて
「なんでロッティが得意げなのさ。君は科学とは正反対の、音叉武道の狂戦士だってのに」
「音叉魔導の共鳴士! そうやってあたしを体力バカって決めつけないで。それに、普通にスゴイって思ったものは素直に褒めるの! 音叉魔導も蒸気機関も、ポーラが誇るスゴイ技術なのは間違いないんだから」
「確かに汽笛の音は凄かったけど……正直、あとはそこまで……」
ついこの前まで音楽バカだった伊織には、ロッティの言う「普通にスゴイ」という感覚が馴染まない。
そんな調子だから、ジェラゾヴェイ村から馬車に揺られて二時間。ようやく辿り着いたソハチェフの町並みにも、伊織が強い関心を抱くものはなかった。
ガス灯立ち並ぶ舗装路、四頭立ての馬車、たまに通りかかる蒸気自動車……ポーラ公国には電気がなく、蒸気機関が動力源なんだなーくらいの感想で、あっさり通り過ぎてしまう。
「これはこれで凄いんだろうけどさ、なんかもっとこう……魔法の絨毯とか、でっかい鳥に乗って移動する飛行機とか、ないわけ?」
「そんなファンタジーな乗り物、あるわけないじゃない」
「音叉で竜と戦う方が、よっぽどファンタジーだと思うんだけど!?」
「音叉魔導で蒸気機関車を動かせって事? そんなの無理無理カタツムリ~」
「なんでさ」
「音叉は誰にでも扱えるものじゃないし、
異世界は、思ったより現実的だった。
実際、魔音叉とは無縁のヒトがほとんどなわけだし。なんでもかんでも音叉魔導で片づけられないってのは、その通りなんだろうけど。
「あーあ。映画みたいに、竜の背中に乗ってひとっ飛び! とかしたかったなあ」
「映画?」
「えーと、演劇みたいなもんだよ。ドラゴンに乗って現れた伝説の勇者! みたいな?」
「だからー、そういう子供じみた妄想を本当にやっちゃう人がいるから、共存不干渉の原則が大事なの! 過去に起きた竜害のほとんどは、ヒトの好奇心がきっかけなんだから」
確かに、ヒトの好奇心は止められない。現に伊織は何か他に面白いものはないかと、きょろきょろ辺りを見回しているのだから。
ふと、売店脇で新聞を立ち読みしてる男性客に目が留まった。新聞の一面には大きく『またも竜害か!? ヴァルソヴィア郊外マゾフシェの森』と書かれている。
「なぁ、竜害って森に住んでる竜が、人里に降りてくる事を言うんじゃないの? あの新聞の見出し、『森に竜が現れた!』みたいに書いてあるけど、それって普通の事なんじゃ?」
伊織の指摘に、ロッティは呆れた口調で答える。
「最近の竜がらみは、どこで起きても竜害扱いになっちゃうのよ。そもそも竜は絶対数が少ないし、見た事ないヒトも多い。森でばったり出くわしただけで、大騒ぎになっちゃう事もあるのよ。その場合どっちかっていうと、ヒトが竜に干渉してるのにね」
「へぇ……じゃああの記事も、この森には竜がいるから近付くなって、注意喚起してるって事?」
「ほらほら、もうすぐ出発しちゃうから。続きは席を確保してから!」
ロッティは伊織の背中を押して、車両内に押し込めようとする。アマゾネスパワーで押された伊織は、プラットフォームでたたらを踏んだ。
踏みとどまったその先に、今度は長い行列を見つける。列の先頭では何かが飛ぶように売れてるみたいだ。
「なぁロッティ、あの行列って……」
「あーっ、お弁当買うの忘れてた! 伊織は先に入って席を確保しといて。あたし、急いで買ってくるから!」
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