私とお姉さんの空気色

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何色?


「空気は何色だと思う?」


 ベンチに隣り合って座る、仲の良いお姉さんが訊いてきました。

 なぞなぞでしょうか? 良い答えが浮かばなかった私は、むむむむと唸りながら「水色……?」と自信なく答えます。


 正解なのか、不正解なのか。

 お姉さんは微笑み、少しだけ間が生まれます。どきどきします。

 どうやら公園の向こうに見える歩道を見ているようですが、焦らしているんでしょうか。ふぁいなるあんさー?


「正解は……水色。よくできました」

「おお、やりました!」


 憧れのお姉さんに褒めてもらえて、とても嬉しいです。

 でもなんで水色が正解なのでしょうか? そこはよくわかりません。


 疑問が顔にでも出ていたのか。お姉さんは教えてくれました。


「実は、あたしは空気の色が見えるの」

「空気の色がですか!?」


 私には見えません。見えるって、なんか凄い。


「あら、信じてくれるんだ」

「信じます。だってお姉さんが嘘をつくはずないですから」


「ふふふっ、あなたは純真無垢。だから水色なのね」

「水色ですか。じゃあ、私が吸ってる空気は水色で、体の中はどんどん水色になってしまうんです?」


「多分……?」

「なんでそこは疑問形なんです?」

「あなたが吸い込んだ空気がどうなるかまでは見えないから……」

「あ、なるほど」


 言われてみればそのとおりです。

 もしそこまで見えているなら、空気の色どころではありません。体の中までスケスケです。もはや透視能力。内臓まで見えちゃうグロ映像。……おえー。


「私が見える空気は、吸えはするけど人の周りに漂うものなの」

「よくわかりません……」

「言い換えるなら、雰囲気」

「ふんいき」


 ピンときません。

 お姉さんは「んー」と、顎に指を可愛くあてながら考えます。


「例えば、あっちでボール遊びをしている少年達は赤い色。勝負に燃えてる時の赤」

「熱血ですね」


「今、そこの道を通り過ぎて行った中高生の男女はピンク。付き合い初めの初々しさがあるからデートかしら」

「仲良きことは美しきかな」


「……」

「どうかしましたか?」

「ううん、あなたは子供の割に渋い言い回しをするなぁと。後、やっぱり純真無垢ね。もっと年を重ねている相手だったら『お泊りかもよ?』って、けらけら笑いながら返すから」


「どうしてです?」

「おっとぉ、それは内緒。もっと大きくなってからね」

「???」


 よくわかりません。

 渋い言い回しとやらはお爺ちゃんから教わったんですが。……あ、お爺ちゃんは大人も大人だから、聞いたら教えてくれるかも。


「ちょいちょい」

「はい?」


「誰かに今の話をするのはダーメ」

「どうしてわかったんですか?」


「そういう色が見えたから」

「おおー」


 お姉さん凄いです。

 心の色まで見られてしまいました。


「うんうん、あなたはそのままのあなたで居てね」

「水色ですか?」


「そうそう、あたしの好きな色なの。相性が良くて、一緒にいると心地よい。晴れ渡った空や水底まで見えるオーシャンブルーのような」

「お姉さん、実は私が大好きですか?」


「うん、大好きよ。空気の色が見える秘密を共有するぐらいに、ね?」

「おおー」


 秘密の共有。

 なんか大人です。私は大人に一歩近づきました!


「私もお姉さんが大好きですよ」

「……」


「お姉さん? どうかしましたか? どうして顔をそむけちゃうんです?」

「その眩いばかりの無垢さが、直視できなくて……」


 あ。

 私にも少しだけ色が見えました。


 今のお姉さんは、ほんのり赤色ですね。

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