14話 新しい武器とアクセサリー
ニアは文字通り、歩いている大戦車みたいだった。
人差し指を挙げれば黒い光線が放たれ、俺が危ない目に遭おうとしたら目を光らせて、大規模の魔法をぶちかます。
そのおかげで俺は12層にたどり着くまで全く戦わせてもらえず、魔石も手に入れられなかった。
でも、ニアが敵だと認識した途端にスキルを使うから、俺としても仕方がなかった。まあ、おかげで楽に12層までたどり着いたけど。
「よし、ニア!ここで一旦止まろうか」
「うん?どうして?」
「ちょっと用があるんだ、ついてきて」
短く説明した後、俺は洞窟型の壁に手を添えて、それをゆっくりなぞっていく。
一歩一歩を慎重に踏み出しながら、俺は考える。確か、ゲームと違わなければ右側の壁に門が……
あ、これだ!他のとこより突き出ているところ!
「よし、ニア。ちょっと下がってて」
「うん」
ニアが下がるのを確認したのと同時に、俺はありったけの魔力を拳に込めて―――壁を打ち付けた。
闇属性の魔力が纏われていたパンチは、容易く壁に穴を空ける。それから一瞬で、目の前の光景が変わった。
穴が空けた時点から広がるように、壁が崩れ始めたのだ。轟音が鳴り響くと同時に煙が取り払われると、大きな門が姿を見せる。
ニアは、目を見開いてその門を見つめた。
「カイ、これって……」
「まあ、ちょっとした隠し部屋ってこと。ほら、行こう?」
そのまま石門を開けて中に入ると、細長い一本道が俺たちの前に広がる。俺は口角を上げたまま、道に沿って移動した。
そして、その道の突き当りで―――俺は、ある宝石箱を見つける。
「よかった……本当にゲーム通りなんだ」
安堵を覚えながら箱を開くと、中にはネックレスと指輪、そして真っ黒な片手剣が置かれていた。
「カイ、これは?」
「アーティファクトだよ。着用者の能力値を引き上げてくれる古代の遺物なんだ」
そして、ゲーム内で俺がもっとも長く装備していたアイテムでもある。
俺が片手剣を手に取ると、間もなくしてアイテムを説明するホログラムが目の前に浮かび上がった。
【ブリトラ】
古代の守護者、ブリトラが愛用していた片手剣。着用者の能力値を大幅に引き上げる。
細部の能力値までは記載されていないけど、ゲーム内でブリトラはいわゆる必須級の武器だった。
低レベルでも装着することができるのに、アイテム自体の性能が優秀過ぎるおかげでレベル100に至っても武器を変える必要がないのだ。
それに、俺にとってはもっとも愛着のあるアイテムでもあった。ゲームでこの剣を最初に発見したのが、俺だったから。
『よろしくな、パートナー』
ニヤニヤしながら剣を装備すると、隣に立っているニアが何故か不機嫌そうに目を細める。
「……カイが浮気する」
「ちょっ、なんでこれが浮気判定なの!?」
「さっきのカイ、すごく嬉しそうだった。私にはそんな顔、見せてくれたことない」
「い、いやいや~~ニアのことも大事に思ってるからね?本当だよ!?」
「ぶぅ……」
ニアがパンパンに頬を膨らませる。ああ、まいったな……これ、どうしようと悩んでいたその時。
ちょうど、箱のなかにあるリングやネックレスが目に入ってきて、俺はそれらをそのままニアに渡した。
「ほら、プレゼント」
「……これっ、て?」
「ブリトラのネックレスと、リング。着用者の魔力を大幅に強化させてくれるものだよ?」
まあ、元々は俺が装備するつもりだったんだけど、ここはさすがに譲るべきだろう。
ニアは俺の命の恩人でもあるし、大切な仲間だから。感謝の気持ちをちゃんと表現しておきたい。
リングとネックレスを受け取ったニアは一瞬目を丸くしたけど、すぐに頬を染めながら俺を見上げてきた。
「嬉しい。カイからのプレゼント」
「ふふっ、よかった。大事に使ってね?」
「カイ、お願いがある」
「うん、なに?」
「このネックレス、カイにつけて欲しい」
……え?
「えっ、つけて欲しいって……?ほら、こちらの留め具を外して、そのままつければ―――」
「つけて欲しい」
「…………」
「おまけに、リングも」
……ああ。これ、選択権がないやつだ。
まあ、でもいいっか。俺は苦笑しながらネックレスを受け取って、そのままニアの後ろに回った。
自然と体の距離が近くなり、ニアの首元にチェーンを巻いて溜めようとしたところで―――
「……ちゅっ」
「!?!?!?!?」
ニアは急に振り返って、俺の頬にキスをしてくる。
慌てて体を離すと、ニアはいたずらに成功した子供のような顔でクスクスと笑った。
「カイ、驚きすぎ」
「な、な、なっ……!?!?」
「リングも、つけて欲しい」
「いや、そこはさすがに自分でつけてもいいじゃん!」
「カイにつけて欲しい。好きな人だから」
「うっ……!?!?」
な、なんだ……!?なんなの、この子!?こういうタイプだったの!?いや、前からストレートすぎるから、なんとなく察しはついてたけど!
急に心臓がドクンと鳴り出して、顔に熱が上がる。そんな俺の反応を、ニアは楽しく見つめていた。
「これ、薬指につけて」
「っ……!?い、意味分かってないよね!?あのね、ニア。左手の薬指に指輪をつけるってことは、すなわち―――」
「ちゃんと、分かってる」
その瞬間、俺は言葉が詰まってなにを言えばいいか分からなくなった。
しかし、目の前の銀髪赤眼の美少女は幸せそうに、俺に左手を差し出していた。
「分かってて言ってる。だから、つけて」
「……っ!?」
「カイに、つけて欲しい」
……これは反則だろ、これは。
しかし、つけてあげないと納得してくれなそうだから、俺は仕方なくニアからリングを受け取る。
何故か俺の指先がぶるぶる震えたけど―――俺は、ニアの薬指にちゃんと指輪を嵌めてあげた。
すると、ニアは嬉しそうに指輪を手で包んで、頬を染める。
「……嬉しい。ありがとう」
「あ…………う、うん……」
……なんだろう、この展開。ニアにここまで好かれるとはさすがに思えなかったけど、大丈夫かな。
そこまで思っていた、その瞬間。
『きゃあああっ!!』
遠くから聞こえてくる悲鳴に、ハッと意識が取り戻される。
反射的にニアを見つめると、彼女も同じく驚いた顔をしていた。
「ニア」
「うん」
俺たちは長く話さず、そのまま隠し部屋を出た。
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