13話  ニアに好かれすぎている

中級ダンジョン、灰色クライデン。


ゲーム内ではあまり人気のないダンジョンだったけど、俺はこのゲーム世界――ダーク・ブラッドオンラインに1万時間も注ぎ込んで、世界ランク1位も取ったことがある身。


当然、ここのモンスターたちがなにをドロップして、このダンジョンでなにを得られるのかを知り尽くしていた。



「いきなりダンジョンに来てしまったけど……本当に大丈夫、ニア?まだろくに休んでないでしょ?」

「ううん、私は疲れを知らない。魔力が常に体中を巡っているから、睡眠もあまり必要ない」

「ほぉ、そっか……」



そういえば、確かに俺も全く疲れてないよな。あの収容所から脱出して、スラム街までずっと歩いてきたのに。


これも、悪魔の魔力のおかげか。滑稽なものだなと苦笑しつつ、俺たちはダンジョンの入り口に立った。


巨大な洞窟を連想させるダンジョンを見上げてから、俺はニアに振り返る。



「じゃ、行くよ?ニア」

「うん、いつでも大丈夫」



ニアと頷き合った後、俺はゆっくりとダンジョンの石門を開けた。確か、ゲーム通りだと中に入った途端にモンスターが……



「ぐるっ、ぐるぁああああ!」

「うわあっ!?」



モンスターが現れるのは知ってたけど、襲ってくるのは聞いてないぞ!?


咄嗟に飛んできた唾の塊を躱した。さっきまで踏んでいた地面が腐食されて行き、俺は失笑をこぼしながら前を向いた。



「ぐるっ、ぐるぅう……」

「があっ、があああ……!!」

「なるほど、ずいぶん派手な挨拶だな」



入り口付近に集まっている、10を超えるグールたちが俺とニアを出迎える。


こんなにモブの数多かったっけ……?なんにしろ、力を試すには十分だろう。俺がそうやって、好戦的な笑みを浮かべたその時―――



「……カイを、殺そうとしたの?」



うん?


今、後ろからめっちゃ低い声が聞こえたけど……そう思って振り返ると、そこには。



「あなたたち全員、殺す」



両目を真っ赤に光らせて、どす黒いオーラ―を発しているニアが。


片手をあげて、目の前のグールたちに狙いを定めていた。



「あ、ちょっ!ニア!?あとで魔石もドロップされるから、なるべく力を抑えて―――」

「全員、殺す!!」



普段のニアからは想像もできないくらいの大声と共に、魔力の塊が放たれる。


正しく、黒い光線。矢のように鋭い魔力は的確にグールの心臓を射抜いてしまった。とっさに起きた出来事に、俺はポカンと口を開く。



「ぐるっ、ぐるぁあああああ!?!?」



しかし、それだけじゃない。一筋の光だった黒い魔力は徐々に膨張されていき、一帯を飲み込むほどの巨大な爆発を起こした。


手から放たれる炎の衝撃波。それを食らったグールたちはろくな悲鳴も上げれずにチリとなり、ドカーン!!!と凄まじい爆発音がダンジョン内に響き渡る。


そして、辺りが荒廃化してグールたちが全員消し去られた後。



「うう~ん……抑えてって言ったのに……」



俺は呆れが滲んだ苦笑をこぼしながら、隣にいるニアに振り向く。


当のニアは未だに敵愾心に満ちた目をしており、全然落ち着いてない様子だった。


これ、完全にラスボス戦に出たスキルだよな……。しかし、もうここまで悪魔の魔力を扱えるようになるなんて。


やっぱりニアの才能は恐ろしいなと思いつつ、俺はニアに語り掛ける。



「ニア、ニア?」

「うん、なに?」

「モンスターを倒すのはいいけど、次からはもうちょっと威力を抑えてくれないかな?俺も試したいスキルがいくつかあるし、なによりギルドに魔石を持って帰らなきゃいけないからさ」

「ダメ。カイの敵は全員殺さなきゃいけない」

「……に、ニア?目がちょっと怖いよ?」

「徹底的に殺さなきゃいけない。跡形もなく消し去らなきゃいけない。カイの敵は、私の敵」

「…………」



だ、大丈夫かな……?ニアがめっちゃくちゃ怖いけど。


俺は冷や汗を掻きつつ前を向いた。爆発のおかげで地形が変わってしまったダンジョンは、すぐに修復されそうには見えない。


まあ、いいっか。魔石は俺が倒したヤツから持っていけばいいし。この調子なら、もう少し深く潜ってもいいかもしれない。



「ニア、もう少し戦える?疲れてるならいつでも言ってくれていいからね?」

「ううん、まだ戦える。カイが帰ろうと言うまで、ずっと戦う」

「……そ、そっか」



……どんだけ好かれてるんだ、俺。俺の言葉に絶対服従するラスボスなんて。


これはさすがにちょっと怖いなと思いつつ、俺はニアに一度頷いてから前を歩きだす。


目的地は、宝箱のある12層だ。

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