15話  いい仲間になれそうだけど

阿鼻叫喚という単語が、目の前に広がったような感覚だ。


それほど、クロエが見ている光景は悲惨なものだった。隅っこにぶち込まれて気絶した仲間たちと、絶対に勝てそうにない醜い魔物。


エインシャントグール。急に現れた中間ボスであり―――たかが13層では絶対に表れないはずの、Bランクモンスター。



「あ………ぅっ」



勇者パーティのヒーラー、アルウィンは悲鳴を上げた直後にグールの攻撃を受け倒れてしまった。


普通のグールは爪で引っかくか、噛みつくかの一般的な攻撃しかしてこない。


だけど、さすがに中間ボスだからか、このグールは魔法まで使うのだ。


遠距離で爪をひっかくと、そのままダメージを受けてしまう仕組み。その上に変な骨の羽まで生えさせて、空中から一方的に攻撃をするやっかいな戦い方まで。



『くっ、だから言ったのに……!!慎重に進むべきだって、何度言ったら分かるのよ!?』



一人だけ取り残されたクロエは、心の中で勇者―――カルツに対する悪態を吐く。


そもそもこの場所にいること自体、おかしいのだ。もう何時間も戦ってたのに、カルツはもっときつく訓練すべきだと言うだけ。


このままじゃ全員倒れてしまうと忠告したにも関わらず、カルツは全く聞く耳を持たなかったのだ。


たぶん、例の集団―――影が現れてから、彼は焦燥感を抱いていたのだろう。



『どうしよう?どうすればいい?いくら私でも、この3人をかついで魔物から逃げきれる実力は―――』



正に絶対絶命だった、その瞬間。



「ダークピアス」



……え?


今、女の子の声が―――そう思ったクロエが反射的に横を向くと、光線が見えた。


あまりにも禍々しくてどす黒い、闇の光線。その魔法は一気にエインシャントグールの方を貫いて、爆発する。



「ぐるっ、ぐるぁああああああああ!?!?」

「ふぅ~~間に合ったようでよかった……って!」



次に聞こえてくるグールの雄たけびと少年の声。クロエは目を見開いたまま、二人を見つめた。


黒魔法を使いこなし、悪魔の象徴である赤い目をしている少年少女。それに、魔力視野でくっきり見える悪魔の力。


間違いない、彼らは……影だ!!



「クロ、エ……?えっ、どうしてここに?」

「え?あなた、どうして私の名前を……?」

「え?あ、あ~!?!?そ、そうだった!ごめん、ごめん!」

「……カイが浮気する」

「俺なにかした!?ねぇ、ニア?俺がなにかしたの!?」

「カイは浮気者。女の敵」

「なんでこれが浮気判定になるんだよ!ニア!?」



信じられない光景だった。


Bランクモンスターであるエインシャントグールを目の前にして、こんなにも余裕綽々にじゃれ合っているだなんて。


緊張感というものが全く見当たらない二人を見て、クロエはついぽかんと口を開いてしまう。しかし、魔物は違った。



「ぐぁ、き、ぐやぁあああああ!!」



骨でできている羽で、グールはまた空中に飛ぶ。地上で戦うことが不利だってことを、さっきの一撃を食らって分かったのだろう。



「エインシャントグール……か。まあ、こいつが出るのは記憶通りだけど、でも……」



少年の目が、隅っこで気絶している勇者パーティーに向かれる。突っ伏したまま倒れているカルツと、エルフ弓使いであるブリエン。ヒーラーのアルウィンまで。


だけど、何故か少年はやや複雑な顔をした後、クロエを見てピシッと笑った。



「まあ、肝心な人は無事だから、別にいいっか」

「……………え?」

「戦える?じゃ、俺の実戦テストも兼ねてちょっと手伝って欲しいんだけど―――」

「カイ!」



銀髪赤眼の少女が叫ぶと同時に、天から骨の羽が振り下ろされる。


一度でもひっかかれたら、皮膚がズタズタに切り裂かれるだろう。それほどの鋭さを持っている羽を、少年は。



「―――爆ぜろ」



手に取っていた剣を掲げて、さっきの少女が使っていたスキルをそのまま駆使した。


だけど、さっきの光線とはレベルが違った。もっと大幅になった黒い魔力は一瞬で目の前を覆い、襲ってくる骨に直撃して―――そのまま、爆ぜてしまった。


信じられないくらいの爆発音が、ダンジョン内で響き渡る。


次に聞こえるグールの鳴き声。空気中に漂う黒魔法のチリと、片方の羽が吹き飛ばされたグールが見える。



「へぇ、本当にイメージ通りになるのか……面白いな、これは」

「え……えっ?あなたは、なに……?」

「うん?ああ、そうだった」



そして、悪魔が宿っているとは思えない無邪気な少年は、ニヤッと笑いながらクロエに語り掛ける。



「よかったら、一緒に戦わない?俺たち、いい仲間になれそうだけど」

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