占い師さんの後悔

@ku-ro-usagi

読み切り

横浜でデート中に

彼氏と占いしてもらった

ホントに軽い気持ちで

誰も並んでなかったからね

さらっと視てもらえた

そしたら

いきなり

「あら

彼氏さんはバツイチさんか

前のお嫁さんはしっかり幸せになってる

縁はしっかり切れてるから大丈夫、安心して」

って

(はっ?バツイチ?お、お嫁さん?

何言ってるのこの人、適当にも程がある)

と思って笑いそうになったら

隣で変な顔して固まってる彼氏

占い師さんは

「え?え?

嘘、やだ、まさかそんな大事なこと伝えてないなんて思ってなくって!

えー?うわ、どうしよごめんなさいね」

慌てながらもしっかり追い討ちかけてきた

私の方は

「金運凄くいいよ金運」

っておまけもおまけみたいなこと言われて終わり

その後のデートの気まずいこと気まずいこと

中華街のレストランも予約してたからさ

「バツイチなの……?」

「うん……」

「知らなかった……」

「……」

なんか私より彼の方が落ち込んでるって言うか不機嫌?

いやなんでお前が不機嫌なの?

みたいな

結局乗る予定だった観覧車も乗らずに

彼の車で来てたけど

電車で帰るって言ったらあっさり了解されて

それにもモヤモヤしながらそのまま帰るのも癪だし

1人で自棄食いしてみたりお土産を自棄買いしてさ

陽も暮れてきて帰る前に何となく

もう一度あの占い師さんのところへ行ったら

数人並んでた

私の番になって入ったら

「お?クレームでも入れに来たのか」

って顔で少し構えられたけど

「もう一度、今度は一人でお願いします」

と頼んだら

「あー、その、さっきは、ごめんなさいね」

って謝られた

「いえ……」

悪いのは彼氏だしね

私が一人のせいか

占い師さんは昼間より断然真剣な顔で

テーブルの上の小さいクッションに手を乗せられて

その手に手を重ねられた

「ご両親、裕福なのね」

「あ、はい」

「商才があるのね、お二人とも

でもあなたは商才ではなくて

ご両親からの金運のみを受け継いでいるのね」

そうなんだ?

確かに2人で仕事をしているけれど苦労している様子はない

私自身は

「金運は当たり前にあるからそれに気づかないのね」

小さく笑った占い師さんは

私は夜の方がよく視えるのと私の顔を見てきた

あぁそうか

だから夜は人が並んでいたのか

知っている人は夜に並ぶのだ

「昼間の彼氏さんは

……そのね

あなたよりあなたのご両親に取り入りたいのね」

バツイチの事実すら隠されている事は凄くショックだったけど

その言葉も

まだ二十歳越えたばかりの私には十分ショックだった

「でも、うん、ご両親はバツイチなんてふざけるなって思うタイプ

自分達が成功してきたから人の失敗を受け入れられない」

それは

少し解る

私のことも愛してくれるけれどそれは私が逆らわないから

両親の

バツイチを失敗と言い切る考え方の古さも好きではないけれど

「あの彼氏さんは、まぁその、バツイチ関係なく駄目ね」

昼間の一件で何となく察してはいた

「でも彼氏さんはね、そうね、待ってね、うん、デキ婚に持ち込んで結婚しようとしてるみたい

ご両親もさすがに堕ろせとは言えないだろうから」

確かに

色々心当たりがありすぎる

最近

「ゴム破けた」

とか見せてきたり

(私が予備持ってたけど)

「俺は授かり婚もありだと思う」

なんて言ってたことも思い出した

彼氏には黙ってたけど

生理痛緩和のためにずっとピル飲んでるから

彼氏の思惑通りなんてね、そう簡単には出来なかったんだけど

それよりも

なんだかもう

昼間からの出来事に

私は心底力が抜けて

「……何でも、視えるんですね」

ショックで声が平淡になり、嫌味に聞こえたかもしれない

「そうね、だからお客様を幸せにはさせられないかも」

占い師さんの少し悲しそうな笑顔にハッとさせられる

「……ごめんなさい」

私の言葉はただの八つ当たりだ

ホント

自分から視て欲しいとやってきたくせにね

「大丈夫よ

幸せにはさせられなくてもね

占いは不幸から少しだけ道を逸らせることが出来る時もあるから」

と言って小さく笑ってくれる

そんな微笑みに

私は

「占い師さんって、強くないとなれないんだなぁ」

って思ったし尊敬もした


その日の夜に

電話で彼氏に別れを告げると滅茶苦茶渋られた

当然だよね

彼は私ではなくて私の両親に取り入りたいんだから

結局

私自身はもし彼から話してくれていたら全然気にしていなかった

「バツイチ」

を理由に別れた

そしたら

電話越しの

「あの占い師……」

って低い声を聞いて鳥肌が立った

気になって数日後に占い師さんのところへ行ってみたら

昼間でも数人並んでて

「本日予約の方優先」

とあり

ちゃんとお店を開いていることにホッとして

私は改めて看板のホームページをメモして帰った

1ヶ月くらいは数日おきにホームページチェックして

更新されているか確認して

その度に

「生きてる」

安堵してた

でも

数日おきに予約サイト見ていたせいかね

気付いたら空いてる日に予約を取っていた

ザイオンス効果だっけ?

単純接触効果的な

ちょっと違うかな?

占い師さんのところへ向かうと

「あら?」

と意外な客が来たと言わんばかりの顔をしたけれど

迷惑そうではなくて安心する

私は

元彼の呪詛じみた言葉を伝えて

申し訳ないがまだしばらく気を付けて欲しいと伝えたら

「あぁ大丈夫、大丈夫、そんなの日常茶飯事」

と笑い飛ばしてくれ

「あのタイプは口だけ、なーんにも出来ない」

とも言われた

まだ若そうなのに達観してる

そして

ずっと気になっていたことを聞いてみる

「占い師さんは自分を占うんですか?」

って

「ううん、私は信頼できる人に占ってもらってる」

そうなんだ

それから

数ヶ月か半年に1回くらい

頼りになる知人

くらいのスタンスで

友人関係の悩みや就職先のことを聞いてもらった

占い師さんは

私のその時の悩みだけを汲み取り

それ以上は視ないし

過不足なく

それ以上は何も教えてくれなかった


占い師さんは途中で河岸を変えた

別に珍しいことではないらしい

常連さんがいるから出来ることなんだろうね

私は近くなって通いやすくなったけど

通うペースは変えなかった


数年後に

「今の彼氏?

うん、性格の相性いい、よく働く、真面目

鈍感、気は全く利かないね

でも鈍感だからアクの強いご両親ともうまくやっていける」

そんな言葉で

彼氏からのプロポーズを受けて結婚して2年

少しご無沙汰な占い師さんの所へ行ったのは

一年と半年ぶりくらいだった

子供できないなぁと思って

占い師さんはまた河岸を変えてて

少し郊外の一軒家を借りてた

お菓子の差し入れしたら喜んでくれた

悩みと言うかね

「いつ頃子供ができるか」

と聞いたんだ

安心したくて


そしたらね


「今の最新医療なら授かることはできるよ

でも

その子は決して

あなたに幸せを運んでくれるわけではない

それでも欲しいなら止めない」


って

久しぶりに笑ってくれなかった

子供っていう奇跡を

当たり前に授かれることを前提で聞いていた自分もおかしいけど

その占い師さんの答えも

充分おかしかった

占い師さんは

いつでも今とほんのちょっと先を視ている

聞いたことだけに答えてくれる

占い師さんは

「今の私」

を幸せにしてくれようとしている

いつでも

それなのに


「ごめんね」

済まなさそうに謝られた

その謝罪で

伏せられた瞳で

その言葉が

嘘偽りない

私の先の未来なのだなと

解ってしまった


そして

それをどうするかを

決めるのは私で

選ぶのも私



3年後かな

久しぶりにホームページ覗いてみたら

海の見える別荘を借りたと更新があったけれど

私が住んでいる所からは

車では優に3時間はかかる場所に仕事場を構えていた

夫と2人で旅行がてら行ってみた

夫は釣りをしたいと言うから

占い師さんの所まで送ってもらった

海沿いのとても綺麗な別荘だった

「お金持ちが建てたんだけどすぐに飽きたんだって」

久しぶりに会う占い師さんも結婚していて

結婚相手がこちらに住んでいたから引っ越したと聞いた

でも

「引退?」

「……お腹に宿った途端に、どうしてか視えにくくなっちゃったんだ」

あぁ

また平らなお腹だけれど

ちいさな命が宿っているらしい

「おめでとうございます」

私は

本当に心からの言葉だったけど

「ごめんなさい」

また謝られてしまった

占い師さんは

私に

自分が言ってしまった言葉を

未だに後悔しているらしい


私はあれから悩みに悩んで

病院で夫婦でそれぞれ診てもらい

結果

私も夫もそれぞれ少しずつ

弱かったり少なかったりした

お医者さんには決して不可能ではないと言ってもらえたけど

私はそこできっぱり諦めた

夫もそれでいいと言ってくれた

それでも私と一緒にいたいと

両親は

今の現代科学の力でならとか言ってきたけど全部無視した

占い師さんに

「赤ちゃん生まれたら見に来てもいいですか?」

って聞いたら

「うん、今度は友達として会いに来て」

と言ってくれて嬉しかったな


信じる信じないは人それぞれだけど

私は信じたんだ


私は

今の自分を幸せにすることに決めた


数年後の今も

真面目で鈍感な夫と2人で仲良く暮らしている

自分の選択を

後悔はしていない

本当に


また近々

占い師さんのところへ遊びに行くんだ

娘ちゃんへおもちゃをたくさんお土産で持っていくんだ

そう

占い師さんは

赤ちゃんを生んだら

「また視える人ようになった」

って仕事をぼちぼち再開してる

不思議だね


今の私は

占い師さんには

何が視えるんだろう

少し幸せな未来なら

いいな







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