第3話 雪うさぎ ~手向ける思いは、それぞれで……誰も彼には敵わない~


 【洗浄球 Part.3 (帰省後のエピソードの予定)】が、どこをどこまでどう出すか、なかなか整理しきれずにいるので…――ってか。できるのかな、これ。

 不発に終わったら、なかったことになるかも……本編でちらとその片鱗だすことはありそうですが……💦


 ともあれ、気分転換にこちら参ります。


 寒暖差があるなかに、陽射しが強く感じられる日も増えてきたので、心だけでも涼しくほっこりできたらいいな……と。


 いまの彼以前の彼——セレスの幼いころのエピソードになりますので、これという道具は出てきません。

 あと、前の彼の瞳の虹彩に、異色のひらめきは現れておりません(ひらめきはなくとも、人間の虹彩として不自然ないていどの、虹彩模様はございます)。


 亀甲カッコ〝〔〕〟であらわすセリフは、ある方面の特殊言語になります。

 くわえて、ここで上がっている呼び名は、部分的な韻をふくむことはあっても、すべて愛称通名です。


 微妙そうなところで、こちらの野菜や動物の名称は、それに類似する形のものと受けとめていただけましたら幸いです(こちらとの接点はほぼ無いものとしたいストーリーだったりするので、野菜名は、完全にアウトだと思います)。

 あと、〝なむなむ〟は、完全にNGですね……。

 かなり好きな幼児表現ですが、どうするか、少し考えてみます(当面は放置)。手の合わせかたも思案の対象になりそう……💦

(〝雪うさぎ〟に関しては、セレス編を出す機会があれば、過去の事実として出てくるものです)。


 ▽▽ 本文まいります ▽▽



 ふわりふわり……。

 灰色の空から舞いおりてくる綿菓子のような白い結晶のまとまり。

 彼がその季節を迎えるのは、本人がそれと明確に記憶していないのもふくめて、四度目になる。

 ぱっと、ひらめいた少年は、そのすてきな思いつきを胸に。きらきらと。赤ワイン色の瞳を耀かがやかせながら、屋外へくりだした。


 地面におちたものと、空中を舞う白いもの。

 小さな手で、それをかき集め、にぎって、まるめようとする。

 けれど、あつめる過程で土がまざりこんでしまう雪のかたまりは、彼が望むような白にはならない。


(そうだ! おちてくるの、つかまえて、あつめればいいんだ……)


 思いつきのもとに、おちてくる雪片を手のひらでうけとめ、じっと、息をひそめて、それなりの量になるのを待つ。

 けれども、ふわふわして、まとまりのゆるいぼたん雪それは、彼の小さな手のひらにうっすらと積もっても、はしっこや下のほうから融けだしてしまうのだ。

 その手のひらがぬれて、じりじり、びりびり、赤くかじかんで、雪と同じくらい冷たくなっても、結果はあまり変わらなかった。

 辛抱強くがんばってみても、ほとんどたまらずに、融けて消えてしまう。

 えとした大気にさらされ続ける小さな体がこごえ、震えをもよおしていた。


(う~……ん。どうしたら、しろいのができる?)


〔セ~レス♡ 何してるの? 雪遊び? わたしも入れて〕


〔あそんでない。あつめてルネにあげるんだ〕


〔そっか……(また、おそなえものをするのね。雪なんてあつめて供えて、なんになるのか、わからないけど…)。わたしも手伝う♪ ――うわ、手ががちがちじゃない。だめだよ? 降ってくるじゃ、あつまらない。積もってるところのなら……〕


〔あ! はたけそっちのはだめ。かあさんにおこられる〕


〔ちょっともらうくらい、いいんじゃない? まだ、寒いんだし、平気よ〕


〔だめだ。〝あらす〟と、せっかくいけた《やさい》が、だいなしダメになっちゃうんだ〕


〔荒らそうというんじゃないのに…——しょうがないな…。こっちので、なんとかするか……〕


 後から参戦した十二、三歳ほども年上に見える少女といっしょに、地面をおおっている雪をかき集め、それぞれ〝にぎにぎ〟と、まとめまるめようとする。


 さほどなく。家から出てきた十四、五歳ほどの外見の少年が、ふたりに声をかけた。


〔…――セレス。外で遊ぶのはそのへんにして、中に入ろう。寒いだろう。体が冷えきっている。ヴィネ(※ セレスの母)が探してるよ?

 ルーシィ、君。いっしょになって遊ぶのはいいけれど、配慮もしなよ(セレスが体調くずしても、ぼくには治せないんだから……)〕


 いっぽうの少女が、つんとあごをあげ反らすのをよそに。

 小さな少年が、声をかけた銀色の髪の少年にむかって、ままならない思いをうったえた。


〔……しろいまま、ならないんだ……ぐじゅっ(あ…は、はなみず、でてた…)〕


 その手には、土がまざりこんだ融けかけの雪玉が乗っている。


〔……(白いまま? …慎重にすくいあげれば、この積雪でも、できないことはないだろうけれど…)もう少しもらないとむずかしいと思うよ? (地面じゃなく、枝や格子に積もった雪なら、まざりも少ないだろうし――でも……)。なにか作りたいの?〕


〔ん……うさぎ…………。しろいの。ルネ(が)、すきなんだ。だから……。でも…………しろくならない……〕


〔……(生きものを書くのは、好きじゃないんだけど……そうだな……)。……おいで。ぼくが描いてあげるから。中に入ろう〕


〔トミィ、かいてくれるの? やったぁ♫〕


 ❄️❄️🐇🐇🐇❄️❄️


〔うわ! ありがとう、トミィ! ルネにあげてくる……〕


〔うん。体が冷たくなる前に、家に入るんもどるんだよ?〕


〔わかってる! あげてくる〕


 小さなカンパスに描かれた白いうさぎの絵を手に、小さな少年が家を飛び出してゆく。

 

 さほどなく。彼らがいる木造の家の片翼。

 ひっそりと築かれている礎石もない墓所を前に。もらった白うさぎの絵をそなえて、つつましく手を合わせる小さな少年の姿があった。


 それは、そこに墓標が築かれたころ。母がしていた行動を真似て、彼がときおり見せるようになった行為おこないだ。


〔ふん。あれくらい、わたしにも出せるもの〕


 ルーシィが主張すると、トミィが、表面おもてには出すことのない考えをめぐらせた。


(君のは盗品ルートだろう。いざという時、重宝はするけれど、必要以上の行使はセレスにも不評だ。でもたしか、この、生きものは……)


 そこに、いまひとりのここの住人。赤毛の少年がつっこみをいれる。


〔おまえ(に)、動物は無理だろ。いつかリクエストした鳥なんて、ミンチだったじゃねーか〕


〔あれはっ! あれは、たまたま失敗したのよ。しようと思えば、(きっと)できるのよ(たぶんだけれど。生物だと、かなり手ごたえが微妙アレで……むずかしいけれど……セレスのためなら、わたしだって…。そうよ。ウサギの小物くらいはよゆーよ……)〕


 ぷんすかする少女を横目に、赤毛の少年は不敵な笑みを浮かべる。


(絵なんて、大したことねぇぜちゃっちぃちゃっちぃ。ふっふっふ……俺なんて、もっと、セレスを喜ばせられるぞ)


 さっそうと野外に出たその赤毛の彼が、なむなむと手を合わせている少年に声をかける。


〔セレス。後ろを見な〕


 なんだろうとふり返った少年の目に映しだされたのは、小さな家ほどもある真白な《雪のうさぎ》だ。


 うっすらと雪におおわれた小さな広場のかたわらに一体。ひとまたたきのうちに形成された物体。

 焚き木が目として組みこまれた糸目いとめ風味の真白な雪の彫刻が、どっしりと、場を占めている。


〔……ぅわ!! すごいやタフィ! あつめてうさぎ、つくったんだ〕


〔あぁ。こんなんでいいなら、おまえにやるよ〕


〔すごい。すごいや。まっしろのだ! ありがとう。でも、どうして? (しろいうさぎ)すきなのは、おれじゃなくて、ルネだよ? ルネにじゃないの?〕


〔……(俺は、あの女に興味ねぇしな…。もう死人だし。セレスもそのへん、理解はしているようだけど……それでも、〝どうでもいい〟なんて言ったら、とまどうか……)もらったものをどうするかは、自由だ。もらったおまえがそうしたいと思ったら、ルネそいつにくれてやればいい〕


 幼い少年は、つかのま不思議そうにしていたが、思い直して、背後の墓標に向きなおった。 


〔ルネ、タフィがすごいのつくってくれた! それで、ルネにあげてもいいって。よかったね。あれ、ルネのだよ? タフィって、すごいんだ……〕


(うん、そうだろそうだろ。すごいだろ? おまえが喜んでくれれば、それでいいんだ……)


 ❄️❄️🐇🐇🐇❄️❄️


 ——翌 朝——


「――誰っ!? あんなもの畑の上に置いたの(…って)……たずねるまでもない。あんなことをするのは、タフィね! 

 寄せてどかしてちょうだい! ほどよく! やわらかい雪床(を)残しながらして、いますぐに!! ——(雪の下)野菜が掘り起こせないじゃない!」


〔……知らねぇーな〕


「その言語言葉でしらばっくれたって無駄! あなたのほかに、あんなことするヤツはいないもの。違うというなら首謀者みつけだして、これと白状させてみせなさいよ。それができたら、わたしも信じるわ」


「くっしゅん……。タフィ。しってるのに、しらないってなに? かあさんが、〝よせて〟って。それにかあさんにそのことば、ダメだから。わからない〝ことば〟で、はなしてもとどかない」


〔タフィは、理解してわかってやっているんだよ〕


 横合いから言葉をさしはさんだのは、トミィだ。


「どうして? つうじとどかないのに?」


〔(そんなことより)行こうぜ、セレス。もっと、でっかいの造ってやる〕


「ほんと? でも、あれは、ちがうところによせてほしいって。あそこ、〝ていれ〟と〝しゅうかく〟はよくても、〝あらす〟のはだめなんだ(そういえば、いつも、いわれていたんだ……)。かあさんがこまるって。で、おかずがなくなるんだ」


〔あぁ、わかった、わかった。俺に任せとけ〕


「セレス。罰として、そいつにニンジン´六本とキャベツ´二玉ふたたま、ほうれん草´十かぶくらい、掘り起こしてくるように言って!」


「かぁさんが、あーいってるよ? ばつだって。いたずらしたって、おもわれたみたい」


〔しかたねぇなぁ……〕


「やっぱり、ルネにあげるのは、ちいさいのでいいよ。おくところないし……。ルネがつぶれちゃうもの」


〔そうだな。あの女やつには、小さいのをふたつもくれてやれば充分だ。雪でも土でも、木でも水でも氷でも。おまえには、もっとすごいの造ってやるぞ〕


 はりきっている赤毛の彼の背中に、数枚の紙面と向き合っていた真珠光沢のある銀色の髪の少年(トミィ)がそれとなしに声をかける。


〔タフィ……。作るのは、いっこうにかまわないけど、邪魔にならないていど・環境の妨げにならないていどでね……。ほどほどにおさめて、セレスを凍えさせるな。あと、海岸から目につくようなものは禁止だ〕


(んーなの、わかってるさ。普段はすかしてるくせに話しだすと、ほんと、うるさいやつだぜ……)



 ——当時ある特性をのぞけば、か弱い人間ヒトの子供。

 けれども、ここでは誰も、その子には敵わない……。




今生こんじょうの生い立ちはけっこう不遇ですが、前身の彼は、周りをかためているのが、実母と自分が呼び込んだ者たちなので、めちゃくちゃ溺愛されて育っております。

 まぁ、ひがみ根性でもなくば、おさなくてかわいくて素直でがんばる子には、甘くなってしまうものですよね(彼らの場合は、呼ばれたからだけでもない、複合的な由縁を用意しております)。


 ちなみに共同生活者は(この時点では)ほかにあと二人——少しばかり格闘もこなす知性型白兎風(※白うさぎは印象)女子と生体寿命が尽きかげんの武闘派男子/ふたりは恋人同士——が、いて、たまに舞いもどるというか、立ち寄る、外見はノーブル風味な大食漢が一名存在します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る