No.03 嶋岳村地蔵堂

 埼玉県池羽いけう市、縞岳しまだけ中腹にある廃村、縞岳しまだけ村の地蔵堂。しばしば「S岳村」「S集落」とも呼ばれる。標高1000mを超える山中にあり、意外にも道は舗装され、綺麗な状態で残っている。付近にある稼働中のダムへも続いているからだろう。

 昔から有名な廃村であり、かく言う私もはるか昔、まだ只の廃墟愛好家だった頃に一度訪れたことがある。また、それだけでなく心霊スポットとしても有名であり、度胸試しに行く者が後を絶たない。


 今回、奇怪廃墟である可能性が持ち上がったのはこの廃村自体ではない。この村の入口近くにある地蔵堂がそれだ。

 地蔵堂は横幅2m、奥行き1.5mといったところだろうか。柱は一本折れており、地蔵尊の笠や赤い前掛けはボロボロだが、村民から大事にされていたことがうかがえる。


 そんな地蔵堂は、数年前に起こったとある事故に関していわくがある。

 数年前、某動画配信者が心霊スポットと聞きつけ、この縞岳村を訪れた。何か心霊現象が起これば動画の再生回数も伸びると思ったのか一晩生配信を行ったが、結果は失敗。何も起こらず朝を迎えることとなった。寝ずに配信をし続け、イライラしていたのだろう。あろうことか地蔵堂を蹴りつけ、柱の一本をへし折ってから配信を終了した。もちろんその行動は瞬く間に拡散され非難を浴びることとなったが……配信者はその帰りにハンドル操作を誤り、村近くのダムに沈んでしまった。それからというもの、地蔵堂を傷つけた罰だ、祟りだと噂になり、縞岳村は心霊スポットとして一躍有名になったのだそう。

 死ぬことで有名になるとは、皮肉なものである。


 まぁ、完徹した後に車を運転したのが原因だとは思うが、それはともかく。その動画を見た霊感のある友人が「地蔵堂に違和感がある」というので来たはいいものの、あいにくオカルトには興味がない。なので正直、期待はしていなかったのだが……驚いた。

 地蔵堂の周り、半径4mほどの草が枯れている。他のところは雑草が青々と茂っているのだが、地蔵堂の周りは茶色くしおれた草が地面と同化している。その土を採取し、後日知り合いの研究所に送ってみたが、除草剤の成分などは検出されなかった。


 例の動画を見返すと、地蔵堂の周りに異変は見当たらなかった。確認のため、昔自分が撮影した縞岳村の写真を見てみる。やはり、その時は枯れていない。むしろ地蔵堂は草木に飲み込まれそうなほどである。

 そこで、ネットに散らばる縞岳村地蔵堂の映る写真を全て確認していく。すると、例の動画が撮影された日を境に、地蔵堂周りの草が突然枯れ始めていることがわかる。写真と今の地蔵堂を見比べると、枯れている範囲は、地蔵堂を中心にじわじわと広がっているようだ。


 このままでは一帯の森が枯れてしまうだろう。廃墟愛好家として、節度と礼節をもって行動したい。地蔵尊に手を合わせる。怒りが、気休め程度でも収まってくれればいいのだが。


奇怪廃墟探索家・でーる

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