No.02 ホテル・プリズ■
「各部屋にデスマスクが飾られている」という噂を聞きつけ、私が向かったのは「ホテル・プリズ■」だった。
ホテル・プリズ■は、静岡県は伊豆半島、
正式な名前は、記録が残っていない上、看板の文字も一部かすれて読めなくなっているため不明。「ホテル・プリズム」ではないかと言われているが、その特徴的な構造から「ホテル・プリズン」とする説も存在する(一室に手錠が残っていたがために、こちらの説の方が広く知られているのだとか)。
ホテル・プリズ■は円形で4階建て。円形の監獄、パノプティコンのような構造である。開業・閉業時期のどちらも不明であり、開業していたのかも疑わしい。建物自体は1985年頃の空中写真で確認できるため、1980年前後に建設されたものと思われる。
このように情報がかなり少なく、多くの廃墟マニアが情報提供を求めているが、現時点で有力な情報は見つかっていない。そもそも泊まったことがあるという人も極めて少なく、その証言も食い違っている。
建物はかなり前から放置されているようで、窓ガラスは全て割れ、周辺には草木が生い茂り、建物はツタに飲み込まれつつある。山中に埋もれるように建っており、周辺に施設もないため、道はひび割れたまま、倒木も放置状態である。
建物の中は割れた窓から入ってきたツタが床や壁に這っており、かなり歩きにくい。ドアもほとんどが歪んでいたり、壊れていたりする。
部屋の中は天井が一部剥落し、脚の折れた質素なベッドや机が乱雑に置かれている。そして件のデスマスクは……あった。海を望む大きな窓の上に、壁に掛けて飾ってある。他の部屋に入ってみると、違う人物のモノだが、同じところに飾ってある。
なんとも悪趣味だと思っていると、ある事に気が付いた。私は、この顔を知っている。おぼろげな記憶を頼りに調べると、デスマスクと同じ顔をした人物の写真が出てきた。二十年ほど前に大きな殺人事件を起こし、全国指名手配になったのちに逮捕、死刑になった男だった。現在すでに刑が執行されているようだが、そんな男のデスマスクがどうしてこんな廃墟に。
気になってほかの部屋も確認すると、やはり同じく、なんらかの犯罪を犯し捕まった人物のデスマスクであるようだ。ある者は死刑が執行され、ある者は獄中で自殺し、ある者は控訴してすぐに病死している。
しかし一部屋だけ、デスマスクが飾られていない部屋があった。その部屋は他の部屋と何も変わらない部屋だった。
……正直、私はこの記事をまとめている時点では、この廃墟をデータベースに入れるつもりはなかった。たしかに異常ではあるが、これが廃墟の持つ奇怪な性質によるものであると判断しきれなかったからだ。しかし、数日経った後に居ても立ってもいられず再訪したとき、私はここが奇怪廃墟であると確信した。
再訪時、その日に刑が執行された死刑囚のデスマスクが、例の部屋に飾られていたからである。
奇怪廃墟探索家・でーる
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