第2話 黒い影が教室に忍び寄る

悠と美咲は、忍び寄る黒い影に息を殺している。


「どうしよう...このままじゃ...」


「クレヨンを使うしかないよ...! 美咲、離れてて!」


悠は覚悟を決めてクレヨンを手に取った。どの色を選べばいいのかわからない。


「く、くそ...! 何色なんだ...!?」


その時、美咲がポツリと口を開いた。


「悠君、落ち着いて。色じゃなくて、あなたの気持ちが大事なの」


美咲の言葉に、悠ははっとする。そうだ、色なんて関係ない。大切なのは、自分の心なんだ。悠は目を閉じ、クレヨンを握りしめる。そして全ての色を使い、心のままに絵を描き始めた。


「うわぁぁぁ...!」


悠の絵は、まるで命を宿したように動き出す。色とりどりの光が教室中に満ちる。すると黒い影は徐々に弱々しくなり、やがて消え去った。


「消えた...! 悠君、やったね!」


美咲が歓喜の声を上げるが、悠の表情は晴れない。


「美咲...俺、君に言わなきゃいけないことがあるんだ」


悠は美咲に向き直り、真剣な眼差しを向ける。


「このクレヨンの力...友達や家族にも影響が出始めてる。親友の拓也とケンカした時、つい怒りで赤のクレヨンを使っちまって...次の日、拓也が熱出して倒れたんだ」


「え...」


「お袋の誕生日に黄色で『元気でいてほしい』って描いたら、お袋が宝くじに当たったんだけど...浮かれすぎて、変なネットワークビジネスに手を出しそうになってる」


悠は涙を浮かべて語った。クレヨンは悠の意図を超えて、周りの人々の運命を翻弄し始めていたのだ。


「...わかったわ。でも悠君、あなたは悪くないの。クレヨンに頼りすぎたのが問題なだけ」


美咲は悠の手を取り、優しく微笑む。


「そうだな...クレヨンはもういい。俺は俺の力で、みんなを助けたい」


悠は力強く宣言し、改めて美咲のいじめ問題に立ち向かうことを誓った。


「美咲、俺は君の味方だ。一緒にいじめっ子と戦おう。...クレヨン無しでね」


「...うん!」


二人は固い握手を交わす。その時、悠のポケットの中で、クレヨンが小さく震えた。


それから数日後、悠と美咲はいじめっ子と直接対決した。真剣な話し合いを重ねた結果、いじめは嘘のようにやんだ。


「ありがとう悠君。あなたのおかげよ」


「いや、美咲の勇気あるメッセージが彼らの心を動かしたんだ。俺は君を信じてただけさ」


学校生活が平和を取り戻す中、悠の頭からクレヨンのことが離れない。


「やっぱり、このクレヨンを老人に返さないとダメなのかな...」


そう思い悩んでいたある日、美咲から衝撃の報告が入る。


「ねえ悠君、この写真見て!」


美咲が差し出したのは、一枚の古い白黒写真。そこには見覚えのある老人が写っている。だが隣に立つ少年の姿に、悠は息を呑んだ。


「この少年...俺にそっくりだ...!?」


写真の少年は、まるで悠の分身のようだ。そして少年が手にしているのは...256色のクレヨンに違いない。


「ど、どういうこと...?」


悠が混乱する中、美咲が言う。


「悠君...この少年もこのクレヨンを...」


果たして、クレヨンと少年、そして老人の真の正体とは?悠と美咲は、運命の謎を解くことができるのだろうか――。


(続く)

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