256色の奇跡【KAC20247】

藤澤勇樹

第1話 プロローグ

高校二年生の悠は、いつも通りのつまらない毎日をただ過ごしていた。


ところがある日の放課後、思いがけない出来事が彼の日常を一変させる。


「君に、これを託したい」校門を出るなり、見知らぬ老人に声をかけられた。


老人は悠に、一風変わった256色ものクレヨンセットを手渡したのだ。


「このクレヨンは特別なんだ。描いた内容は現実に影響を及ぼせる。ただし色選びを間違えると、予想外の結果を招くかもしれないから気をつけるんだよ」


老人はそう告げると、返事も待たずにさっさとその場を立ち去ってしまった。


半信半疑ながらも、悠はそのクレヨンを使ってみることにした。


まずは自分の成績アップのため、青と緑で「良い点数」と書いてみる。


すると次のテストでは、なんと満点を取ることができたのだ。


「本当だ...このクレヨン、すごい力があるんだな!」悠は驚きと喜びを隠せない。


彼はクレヨンの力を使って、日常のちょっとした悩みを次々と解決していく。


宿題が終わらない?

オレンジで「宿題完了」と描けばあっという間だ。


朝起きられない?

黄色で「スッキリ目覚め」と描けば、気持ちよく起床できる。


悠の親友で同級生の美咲は、そんな彼の変化に気づいていた。


「悠君、最近なんだかいい調子みたいだね。何かいいことでもあったの?」


「ふふん、俺には秘密の武器があるんだよ」悠は得意げに笑うが、クレヨンのことは明かさない。


彼は、この力を自分だけのものにしておきたかったのだ。


しかしクレヨンの力は、いつも良い方向に働くわけではなかった。


ある時、赤で「彼女ゲット!」と描いたら翌日、女子から告白されたものの、そのコのストーカー被害に巻き込まれる羽目になってしまった。


紫で「楽して金持ち」と描いたら、詐欺に遭って大金を失ってしまう。


「クソっ...! このクレヨンのせいだ...!」悠は頭を抱えるが、もはやクレヨン無しでは生きられない。


彼はすっかりクレヨンの力に依存してしまっていたのだ。


そんなある日、美咲から衝撃の事実を告白される。


「悠君、実は私...いじめに遭ってるの...」美咲はクラスの男子からひどい仕打ちを受けていた。


陰湿ないじめや暴力...。それを聞いた悠の怒りは頂点に達する。


「絶対許せない...! 美咲を助けるのは俺の役目だ...!」


悠は迷わずクレヨンに手を伸ばし、黒で「いじめっ子どもよ、いなくなれ!」と激しく描き殴った。


すると次の日、美咲を囲んでいたいじめっ子たちの姿が学校から消えていた。


みんな引っ越したのだという。「これで解決だ!」悠は喜ぶが、美咲の表情は晴れない。


「悠君...まさか、あなたが何かしたの...?」美咲は小さな声で尋ねる。


悠は躊躇したが、ついに


「そんな...あまりにも危険すぎるわ...」美咲は悠からクレヨンを取り上げる。


「あなたが心配...このクレヨンに頼りすぎないで」その言葉は、悠の胸に突き刺さった。


「俺は...何てことをしてしまったんだ...」悠は初めて、自分の行動を後悔する。


クレヨンの力は確かに魅力的だ。だが、その代償はあまりにも大きすぎた。


彼は美咲と共に、クレヨンをしまい込むことを決意する。


だがその時、不吉な予感が悠の脳裏をよぎった。


「待って...もしかして、このクレヨンを返さないと...何か起きるんじゃ...」


窓の外を見ると、見慣れない黒い影が校庭を埋め尽くしていた。


それはまるで生きているかのように、うごめいている。


「くっ...! 美咲、危ない!」悠は彼女を守るように抱きしめた。


二人の目の前で、黒い影がゆっくりと教室のドアに近づいてくる。


はたして、悠と美咲の運命やいかに――。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る