29話 内装の掃除

「――というわけよ」

「なるほどね。大きな魔力を感じたから何事かと思えば……眷属にしたんだ」

「えぇ」

「それで……その元幽霊……いや、半分幽霊の彼女が、例の人かい?」

「……それについては、触れないで貰えると」


 恋乃花の私的に、俺は顔しかめながらそう返す。

 いや、うん、だってさ……


「え、えへへ~、アリス様ぁ~~~」


 なんかさっきから、ず~~~~っと! 俺の腕に抱き着いて甘ったるい声出してんだぜ?

 どう見ても、惚れてます! みたいな反応なんですよ、いやほんとに。


 さて、今し方恋乃花が気になる発言をしたかと思う。

 そう、半分幽霊、と言う部分だ。

 これに関しては、まあ、種族が変化したからな。

 元々のメルアさんの種族は人間だったのだが、今回の蘇生――というより、転生によって、今は種族が半分魔族で半分幽霊という、なんとも不思議な種族になった。


 その名も『半霊半魔』という。

 そのままではあるが、その特性としては不老不死が挙げられるだろう。

 幽霊だからね、半分。


 だからまぁ、歳を取る、という概念がほぼほぼない。


 とはいえ、聞けばメルアさんは予想通り十二歳だそうなので、一応成長はするが、途中で止まるようになっている。

 VEO時代にもこの種族は存在しており、なんだったらこの種族になったプレイヤーもいたくらいなので、大して問題はない。


 あと、半魔の部分だが、今回俺の眷属としたために、半分はサキュバスとなっている。

 と言っても、俺が上位種族の『淫魔姫』なので、従来のサキュバスよりもかなり高いスペックにはなっているがな。


 あとは、今回俺が用いた蘇生方法だろうか。

 あれは『転生魔法:外転輪廻』と言って、魔族が用いる転生魔法の一種で、肉体(最低限全骨格があればOK)と魂さえあれば転生が可能と言う、かなり強力な魔法だ。

 しかも、元が人間であっても、今回みたいな種族として生まれ変わるので、かなり強くなる。

 さらに言えば、この魔法を行使する者が主人となるので、メルアさんは俺の眷属だ。


 まぁ、眷属とは言っても、さほど制限もないし、やりたいことがあれば、好きなように、みたいな感じなので、割と適当である。

 ただ、この魔法にも当然欠点は存在しており、大前提として、元となる骨格が全て残っていなければならないと言う制約がある。

 つまり、指先の骨だろうが、小さい骨だろうが、一本でも骨がなければ転生は果たされない。


 そして、転生する側も、絶対に生き返ってやる! という気持ちがなければこうはならないのである。

 あとは、眷属になることを了承しなければいけないので、了承しなければ成立もしない。


 ……あとこれは行使側だが、この魔法はかなりの魔力を消費するため、規定量無ければ失敗するし、そもそも行使すらできない。

 それと、この魔法はぽんぽん行使できるわけではなく、一度使用すれば一ヶ月のインターバルが必要なので、そこも要注意。

 その間に転生対象の骨が無くなったら蘇生できないしな。


 ……まぁ、そもそもの話として、骨と魂がセットなので、幽霊にならなきゃ使えないんだけどね、この魔法。

 一応、アンデッドとして復活させる『蘇生邪法:外道蘇生』とかいう、字面も酷ければ中身も酷い魔法がある。

 実際、腐った死体か、スケルトンにしかならないからなぁ……あれ。


「メルアさん? 少し離れてもらえるかしら?」

「さ、さん付けは、い、いりませんっ、からっ!」

「いえ、離れて――」

「メルア、って呼んで欲しいです!」

「……メルア、今は離れてもらえる?」

「嫌、ですっ!」

「なぜ?」

「あ、アリス様は命の恩人、なんです! わ、わたし、大好きになっちゃったから……だ、だから、離れたくないです! わたしは、アリス様にお仕えするんですっ!」

「でも、さすがに四六時中ずっとはちょっと……」


 おかしい、さっきまではずっとおどおどした幽霊少女だったはずなんだが……生き返った途端、なんか若干おどおどはしつつも、でれっでれになったんだけど。

 今なんて、我が世の春と言わんばかりの満面の笑みだよ? 乙女の表情だよ? 可愛いよ? あの、マジで離れてほしいんですよ、ほんとに。切に。


「むぅ~っ!」

「ふくれてもダメよ。それに……わたしたちは少しやることがあるから」

「や、やること、ですか?」

「えぇ。まずは、この建物を掃除しないといけないの」

「お、お掃除、ですか?」

「そう。ここをわたしたちは購入して、魔道具店を開くの。だから、ここへ来たのだけれど……」


 その結果、この元幽霊少女を見つけてしまったわけで。

 なんか、勢いで蘇生して、眷属にしちゃったけど……。

 だけどさ、監禁されて暴行された挙句、放置で死亡とか、前世でどんな業を背負ったらそうなるんだよ、と言わんばかりの不運に、さすがにそのまま放置ってのも問題あるだろ……こう、精神的に。

 もちろん、成仏させる、という方法も取れたが、生き返りたいとのことだったし、それなら蘇生するか……ともなるさ。


「じゃ、じゃあ、お二人は元々、わ、わたしを退治するつもりだった、んです、か……?」

「……そうなるわ」

「そうだね。君を退治すれば半額、と言われていたから」

「ひっ――」

「安心して、今はそんなつもりはないわ。恋乃花にも、ね」

「もちろんだとも。ボクとて、生き返った人をわざわざ殺すような真似はしないさ」

「ほっ……」


 自分が殺されると思ったみたいだったが、恋乃花の言葉に安心した表情を浮かべるメルア。

 なんつーか、一度殺されてるもんなぁ……。


「じゃ、じゃあ、わたしも、て、手伝いますっ……!」

「いいの? でも、あなたはここで……」

「だ、だからこそ、ですっ……! い、いやな記憶があるなら、なくなるくらいにすればいい、と思って……」

「……一理あるわ。それに、あなたはわたしの眷属だから……そうね、手伝いをお願いできる?」

「ま、任せてくださいっ……!」

「はは、随分と可愛らしい眷属が出来たね、アリス君?」

「……そうね」


 そこは否定しないでおこう。




 というわけで、三人で建物の掃除を始める。

 普通であれば、モップや雑巾、箒などを使って掃除をするのだろうが……生憎と、こちらは科学文明が発達した日本出身者×2だ。

 しかも、片方は腕のいい魔道具職人でもある。

 つまり……。


「こ、この、そうじき? という魔道具、す、すごいです、ね!」


 掃除機があるのである。


 VEOは変なところでリアルなゲームだった。

 そのリアル、の部分には掃除も含まれていたのだ。

 リアルと同じ時間分の汚れが溜まり、掃除を必要とする。

 そのため、掃除用の魔道具なんかは割と作られていた。

 ただ、そういった物を売りに出すプレイヤーはほぼおらず、掃除機はあまり普及していないっぽいんだがな。


 さて、そんな掃除機を使用しているのはメルアだ。

 いの一番に役に立ちたいと言ってくる姿が、なんとも微笑ましかったので、掃除機を与えてみた。

 すると、なんかやたら器用に使うようになり、随分と上手く扱っている。


 まぁ、掃除機って誰でも使える便利な道具だから別段驚くことはないんだが……メルアの場合、それどうやってんの? と疑問になるくらいのことをしていた。

 特に、部屋の隅の所とか。

 なんで綺麗に吸えてるんですかねぇ?

 普通、無理だと思うんですが、はい。

 なんだろう、メルアには家事系のスキルでもあるんだろうか?


 まぁ、床掃除はメルアに任せて問題ないだろう。

 俺たちの方はと言えば、空が飛べるので天井や通常じゃ手の届かない場所を掃除していた。

 ただ、上から埃を落とせば、メルアに降りかかってしまうので、ここも魔道具を使用している。


 つってもまぁ、ゴミを吸いつける布なんだけどな。

 一度拭けば、水に浸けない限り、絶対にゴミが落ちないと言う、高性能な雑巾型魔道具だ。


 いやぁ、ファンタジーはいいねぇ。

 科学じゃできないことがバンバンできる!

 なんか、元の世界とかどうでもよくなるほどのだよ、まったく。


 とまぁ、こんな感じで、掃除を続けること二時間。

 俺たちの身体能力が高いというのと、便利な掃除系魔道具があったため、掃除がかなり早く終わった。

 いやはや、便利な物だ、魔法。


「これで綺麗になったわけだけれど……ふむふむ、かなり綺麗な物件だったのね」

「そうだね。これなら、かなりの集客も見込めそうだ」

「わ、わたしが監禁されてた頃より、き、綺麗、です……」


 うん、メルアさんや、マジでその感想は心に来るのでやめてくれないだろうか。

 デリケートな話題だから、あまり言わないけどさ。


「それじゃあ、次は内装の準備かな? その辺りは……原型をアリス君が、魔法効果をボクが付与すればいいかな?」

「そうね。ちょうど、わたしのIBMの中に、いい感じの物があるわ。それを活用しましょう」

「さすがだね、ボス」

「ボスはやめてと言っているでしょう。……ささっと終わらせましょ」

「「おー!」」


 ノリいいな、メルア。

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