25話 売り出す物
知る人が知れば、とんでもないことをしでかした恋乃花のことはさておき、俺たちはエルゼルドの屋敷に到着。
防音の結界が張られている部屋に入り、俺と恋乃花が隣り合って座り、その対面側にエルゼルドが座る。
それと同時に、給仕の人たちがお茶菓子と紅茶を置いて、一礼してから部屋を出て行った。
「ふぅ……よし、もう大丈夫だな」
「君、あの口調の方が似合うんじゃないのかい?」
「外見はなー。けど、中身的には似合わないだろ? つーか、恋乃花だってちょっと笑いそうになってなかった?」
「それはもう。君の素の性格やら話し方やらを知っている以上、笑わないわけがない」
「だが、俺はゲーム時代も同じことをしてだろ? しかも、五年も付き合いがあんのに」
「そこはら、君の声があまりにも可愛らしい声になっていたものだからね」
「……くっ、なんでこの声に……」
この姿が生身になっちまった以上、仕方ないけどさぁ……もっとこう、ね?
「そう言えば、君はまだ声を変えることができるのかい?」
「……そういや試してなかった。ちょっとやってみるか」
恋乃花の単純な興味による疑問なんだろうが、個人的に俺も気になってはいた。
だが、試す機会がなかったり、そもそも忘れていたりなど、試すことをしていなかったので、ちょっとやってみることに。
となると、イメージは……アリス=ディザスターではなく、繰木瞬としての俺の声だな。
よし。
「んー、あーあー……んんっ! これでどうだ?」
「おぉ、これは見事にアリス君ではなく、瞬君の声だね。ほう、その体でもできるのかい」
「――うん、俺もびっくりだわ」
試しにと発声してみたのだが、結果は成功。
前の体の声となんら遜色のない、元の俺の声が出た。
だが……なんだろう、この違和感。
今の俺からすれば、この体が生身であり、尚且つ普段の声が今の俺の声なわけだ。
通常、今のは自分の声なのだから、大して違和感なんてないはずなんだが……どうにも奇妙な気分だ。
今の俺がどこからどう見ても女性で、その女性が男の声を出しているからだろうか?
多分そうだろうなぁ……。
「しかし、どうやって出しているんだい?」
「いや、俺にもさっぱり……あー、いやでも、これもサキュバス……というか、サキュバス、インキュバス特有の能力か?」
「ふむ……たしか、サキュバスとインキュバスというのは、夢の中や現実において、自身の体を相手の好みの年齢に合わせることができると、VEO内では説明がされていたはず……つまり、サキュバスやインキュバスは、肉体操作の延長で、声帯も変えることができるのではないかな?」
「あー、なるほどな。それはあるかも」
考えてみれば、声帯も肉体だ。
当然、声帯を変えることができてもなんら不思議じゃないし、むしろできて当然にさえ思う。
……待てよ? ということは……
「例えばこんな声も……おー、普通に出た」
「おや? 随分とロリロリしい声だね。どうしたんだい? その声は」
「あー、いや、試しに元の世界の声優の声が模倣できないものかと思ってさ」
「なるほどね。聞き覚えがある。たしか、ロリ系キャラをやることに定評のある声優、だったかな? ふむふむ……かなり面白い能力だ。それ、かなり有益 だね」
「あぁ。なんかこう、潜入捜査とかに使えそうだよ」
思わぬ収穫だ。
俺はもとより、肉体を操作できる。
基本的な姿はこのロリっ娘だが、大人にもなれるし、さらに幼くもなれる。
あとは、老婆にだってなれるし、熟女にも。
……とはいえ、前にも説明したように、この体の延長線でしか変化しないので、大人とは言っても、アリス=ディザスターが成長したらこうなる、という姿にしかなれないがな。
だが……それはあくまでも、サキュバスに限った話。
俺の場合、種族『淫魔姫』なので、実は姿を変えたりができるが……まあ、そこはいいだろう。
それに、変えたところで、魔力の質や量、スキル、身体能力が変わるわけでもない。
強いて言えば、リーチが伸びるくらいだし。
あ、いやでも、それはゲームの中の話だったし、今は現実……つまり、肉体的な差は出るのではないだろうか?
うーむ、ちょっと調べておこうかな。
「そうだね。あと、日本だったら君、絶対に声優としての才能があったよね」
「いやまぁ、ロールプレイとはつまるところ、演技だからな。いかに理想になりきるか、が大事だったわけで。そりゃぁ、演技力も磨かれるよ」
「ふふ、実際にVRゲームでロールプレイをメインとしたプレイをしている人達の中では、声優が現れるのも少なくないことだったしね」
「まあなー」
事実、俺の知り合いにもロールプレイをメインとした人に、マジで声優デビューした人がいた。
あれはマジですごかったね。
デビュー早々、いきなりメインヒロインをかっさらっていったんだもん。
ちなみに、その友達は、ロールプレイ勢の間で伝説になっていたりする。
「あのー、お二方、そろそろいいっすかね?」
「おっと、すまんエルゼルド。ついつい……」
「悪いね。久しぶりにアリス君に会ったものだから、ついね」
「いやいや、それはいいっすけど。んじゃ、早速話を聞かせてもらうっすよ」
「えぇ」
そんじゃま、仕事の話と行きますか。
俺と恋乃花は、俺の話をそこそこに、昨日話し合ったことをエルゼルドに話していく。
もちろん、突発的なことだとは思うが、いくつか街を治めている俺たちからすると、この計画はかなりのアドバンテージがある。
通常であれば、見知らぬ土地で新しく人脈を作らなきゃいけないが、俺たちはその必要がない。
何せ、その街を治めるのが、うちの組織のNPCたちだからな。
とはいえ、売れるか売れないかは全くの別問題。
なので、まずは試験的に、という意味合いで売ることにする。
そして、売り出す商品だが……昨日簡単に話し合って、商品は三つある。
「『治癒の呪符』に、『護身の呪符』、あとは『危機知らせの呪符』っすか……うん、いいっすね!」
俺たちが提案した商品の説明を受け、エルゼルドは一瞬考える素振りを見せた後、すぐに笑みを浮かべて賛成の言葉を口にした。
今回、俺たちが売ろうと思っているのは、今エルゼルドが口にした三つ。
一つ目の『治癒の呪符』は、その名の通り怪我の治療ができる呪符だ。
効果としてはあまり大きくないが、ちょっとした切り傷や擦り傷、刺し傷なんかはすぐに治り、時間を掛ければ打撲等が治せる治癒系の魔道具だ。
骨折などの大きな怪我になると、さすがに治すことはできないが、治りを早くすることならできるので、結構いいだろう。
それに、この世界の回復手段と言えば、魔法と薬草、それからポーションなんかのアイテム類が多い。
この手の物は、錬金術師や薬剤師が主に作成しているな。
だが、錬金術師や薬剤師というのはプレイヤー側としては少なくなかったが、NPCなどはあまり多くなかったことを考えるに、あまり売られていないだろう。
それに、この呪符は十回までなら使用可能であることも大きい。
と言ったような理由から、治癒の呪符は売れると考えた。
二つ目は『護身の呪符』。
これの効果は二つ。
一つは、致命傷を二回だけ避けることができるというものと、もう一つは敵に向かって投げることで、三十秒ほど痺れさせるという物。
この時点かなり破格と言えるが、もちろん欠点もある。
特に前者。
致命傷を避けるには、その呪符を身に付けていることが前提だ。
カバンに入っている、と言う状況なら全く問題ないのだが、そのカバンを身に付けていなかったり、落としてしまっている状況で致命傷になり得る傷を貰ってしまったら、その時点でアウトだ。
それと、あくまでも致命傷を避ける物なので、重症でも致命傷になるような攻撃でなければ避けることはできない。
とはいえ、これは事故なんかも避けることができるので、しっかり身に付けていればかなり有用だろう。
そして三つ目の『危機知らせの呪符』。
正直、これが一番売れなさそう、と俺と恋乃花は思っている。
と言うのも、この呪符の効果は使用後、予め設定しておいた人物に、使用者が危険であることと場所を教えることができ、一定時間強固な結界を張る、という効果だからだ。
これだけならばかなり有用に見えるかもしれないが……結界の効力は二分程度で、尚且つその時間の間に救援が来なかった場合、間違いなく助からなくなる。
なので、本当に時間稼ぎにしかならないわけだ。
それに、こちら側の攻撃も通さない、というのも欠点だ。
あと、これが一番の欠点なんだが……そもそも、設定してくれる人がいなければ、救援はこない。
なので、二分延命できるだけの呪符と言える。
……それに、たったの二分で人が来れるかと訊かれると……正直難しいだろう。もちろん、そいつが奇跡的に転移魔法が使えるのならば、話は別だけどな。
とまあ、これらが俺たちが売り出そうと思っている魔道具だ。
「客層は……冒険者っすかね?」
「いや、冒険者も客層と言えば客層だが、主に平民かな」
「冒険者に限らず、誰でも使える呪符、ということっすかね?」
「おうよ。恋乃花が作成した魔道具なら、飛ぶように売れるはずだろうからな!」
「恋乃花様って、魔道具職人としちゃ、かなり上っすもんね……」
「買い被りさ」
その買い被りだとか言ってるロリが、『涙花の蜜飴』を作成したり、ぶっ壊れアイテムを平気で作ったりする奴なんですがね、奥さん。
「とりあえず、試験的に売ってみますか! それで、いつから売るんで?」
「明後日」
「へぇ、明後日…………明後日!?」
「ナイスリアクション、エルゼルド」
なんともまぁ、綺麗な二段階での驚き方よ。
しかし、エルゼルドが驚く理由も理解できる。
そもそも、魔道具は物によるが、一日二日ですぐ販売! なんてできるものじゃない。
もちろん、一点ものならその限りじゃないが、その場合はかなりの日数かけて制作する場合が多い。
反対に、大量に売る場合だが……これに関しては魔道具を作成する人の技量による。
ただ、どんなに優れた人でも、大量生産は通常できない。
じゃあ、なぜ俺たちが昨日話し始めた物を、明後日に売ろうとしているかと言えば……まぁ、俺と恋乃花だからこそできる、ずる、と言う奴だ。
「俺が設定してるサブジョブは『創造士』。その中のスキルに、複製という物があるだろ? それで、呪符を大量に複製するんだよ」
「なんすかその反則技」
「ふふ、しかし、資金面は早急にどうにかしれなければならないものだからね。四の五の言っていられない。とはいえ、もちろん欠点もある。だが、そこはボクがいれば解決するのさ」
「欠点っすか?」
「あぁ。この複製だがな、転移魔方陣のような、所謂魔力で構成されたような物であれば、何の問題もなく複製が可能なんだが、魔道具のようなものはそっくりそのまま複製できるわけじゃないんだ。複製されるのは、あくまで、その器ってわけだな」
「器、っすか?」
「そう、器さ」
俺の説明を、恋乃花が引き継いで続きを話す。
「この呪符は、『呪符』という魔道具の器の中に、何らかの魔法的効果を入れるわけだが、アリス君ができるのはその器を複製すること。なので、中身の魔法的効果までは複製できないのさ」
「え? でも、魔方陣はできるんすよね? なんでできないんすか?」
エルゼルドのその質問はもっともだ。
魔方陣は魔法効果を発揮する物。
そして、呪符も特定の魔法効果を持った魔道具。
どちらも魔法的効果があるのに、なぜ複製できないのか。
まぁ、大きな違いとしちゃ……。
「前者は魔法的効果のみを複製しているからだ」
「えーっと……どういうことっすかね?」
「要するにだね、この複製と言うスキルは、一度に一つの物しか複製できないのさ。今回で言うなら、魔道具の器と、魔法的効果を同時に複製するため、同時にできない、というわけだね」
「あぁ、なるほどっす!」
恋乃花の説明でようやく理解できたようで、ぽんと手を打つエルゼルド。
まぁ、結構ややこしいよな、このスキルの制約。
「じゃあ、器だけを作っても意味がないんじゃないんすか?」
「そこで、ボクの出番と言うわけさ」
そう切り出し、恋乃花は大量生産する方法を話す。
恋乃花はサブジョブが『錬成師』だ。
このジョブは、主に装備品やアイテムに対するエンチャントや、魔道具の作成がメインのジョブだ。
ちなみに、『錬成師』と『錬金術師』は同じように見えて、別のジョブだったりする。
この『錬成師』だが、思いつく限り魔道具を作ることができるため、主に想像力が問われるジョブだ。
そのため、かなりプレイヤー側に色々な物を要求されるためか、あまり人気のあるジョブじゃなかった。
だがこれ、一応は上位のジョブだったりする。
VEOではジョブシステムが採用されており、最初は一般的なジョブから上位のジョブに派生したり、稀にレアなジョブに就いたりすることもあるという、実力でどうにかなる物や、運でどうにかなるジョブもある。
俺の持つサブジョブ、『創造士』は『錬金術師』から派生したレアジョブだ(錬金術師も上位のジョブ)。
一応、メインもレアジョブなんだが……そこはおいおい。
話を戻して、優れた『錬成師』というのは、それはもうすごい魔道具を作ることができる。
例えば、目の前にいる恋乃花がそうだ。
恋乃花が今までに作ってきたものの中に、特定の魔法的効果をまとめて付与することができると言う魔道具があり、今回はそれを使うことになっている。
つまり……。
「俺が器を複製して」
「ボクがその器に魔法的効果を刻み込む。そうすることで、大量の魔道具が出来上がる、という寸法さ」
「……いやほんと、ずるいっすね、その力」
「ま、元々『錬金術師』と『錬成師』の親和性は高いからな」
「とはいえ、ボクとしては、なぜ両方とも同じようなジョブであるはずなのに、全く違うジョブとして存在しているのかが不明だけどね」
「それは俺も思う」
どう見ても同じだろ、と思わず思ってしまいそうなこのジョブだが、ちゃんと中身は違う。
『錬成師』は主に魔道具や魔法的力が込められた物の作成、既存の装備品に魔法的効果を付与することに長けているが、『錬金術師』はどちらかと言えば武器や防具、ポーションなどの消耗品などと言った、装備品の作成に長けている。
と言うのも、この二つのジョブはそれぞれ『魔術士』と『鍛冶師』から派生したものだから。
『錬成師』の方が『魔術士』で、『錬金術師』の方が『鍛冶師』だな。
理由は良く知らん。
ただ、難易度的には『錬金術師』の方が楽だと言っておこう。
だって『錬成師』の方はマジでプレイヤーの才能がかなり必要になるからな。
反対に、『錬金術師』の方は『錬成師』ほどは才能が必要ない。
地道にコツコツと努力を積み重ねれば大成できる可能性があるジョブだな。
だからか、VEOの時は『錬成師』よりも、『錬金術師』の方が多かったくらいだ。
俺も『錬金術師』の方だったしな。
今は『創造士』だが。
「というわけで、だ。どうだ? エルゼルド。まずは明後日、試験的に、そうだな……各呪符、二十ずつで売ってみようと思ってるんだ」
「ん? もっと多くてもいいんじゃないっすか?」
「まぁ、それはそうなんだが……あまりに多すぎても、むしろ怪しまれるだろ?」
「魔道具は、どんなに大きな店でも、そこまでの数は仕入れていない。いや、仕入れられない、と言うべきかな? 事実、一年前までは、店の品揃え自体はあまり良いとは言えなかったからね」
恋乃花が話す店とは、NPCが経営している店のことだ。
実際、最初の街の魔道具が売られてる店とか、マジで品揃えが良くなく、かなりの競争率だった。
俺もその競争に混じったことがあったが、マジでこの世の地獄か? と思わず思ってしまうレベルだったので、さっさと次の街に行ったり、『錬成師』を生業としているプレイヤーの店を探し、フレンドになることで、競争を回避するようになったからなぁ。
……ちなみに、その時にフレンドになったのが、ここにいる恋乃花だったりするが……正直、恋乃花との最初の関係性は結構面倒だったんだがな。
「それに、見知らぬ店が突然オープンし、さらには大量の魔道具を売り出していたとしたら……それはそれで怪しまれるだろうね。もっと言えば、碌でもない連中に狙われる可能性すらある」
「だな。ってか、今この国は、新体制への移行や、半数近くの貴族が捕まったことで、若干荒れてるってのもある」
とはいえ、国民からの不満なんかは、今の所無いと聞く。
少なくとも、前国王のあのバカが敷いた悪政の象徴とも言うべき法律なんかは全て無くなったからな。
そこは大きいだろう。
「そうだね。今はまだ、この街に犯罪者はいないかもしれないが、いずれは来るだろうね。何せ、昨日のイグラス君からの報告で、グラント聖王国各地で犯罪が発生しているそうだから」
「あぁ、そう言えば言ってたなぁ。あれ、大丈夫なんかね?」
「今のところは、軽犯罪で済んでいるそうだ。だから、各街の衛兵や駐在兵でどうにかなっているようだよ?」
「そうか」
だが、それでもいつまで持つかわからない。
早急にどうにかしなきゃいけない問題だろう。
ならどうすればいいのか、と考えた時、今回の計画が役に立ってくる。
そもそもの話、犯罪行為に対しての抑止力になるのが、騎士や衛兵などなわけだが、あの一件のせいで、この国の国力はガタ落ちしたと言っていい。
かと言って、あのまま放置していも良かったかと言われると、そうじゃない。
もっとややこしいことになっていただろうから、あの時やっておいて正解だった、というのもまあなくはない。
なんだったらあのバカ、禁術を行使しようとしたみたいだしな。
その点で言えば問題はない。
だが、あのバカが遺した証拠やらなんやらで、結構な貴族が逮捕。
その貴族共だって、『一応は』犯罪の抑止力にはなってはいた。
こらそこ、抑止力が犯罪行為をしていただろ、とか言わない。実際にその通りだけども。
……で、だ。
国力が下がり、国は不安定になっている状況なんだから、当然その隙に犯罪行為に手を染めようとする、そんな輩が出るのは何ら不思議じゃない。
かといって、今は人材不足にもほどがある状況……それなら、一般人が自己防衛が出来ようになればいいのでは? ということに繋がってくる。
そこで、今回売りに出す三つだ。
特に、『護身の呪符』と『危機知らせの呪符』が有用になってくる。
これを使えば、ある程度は身を守れる。
特に『護身の呪符』はかなり有用だろう。
数枚持っておけば、致命傷を回避できる回数も増えるし、相手を痺れさせて、その間に逃げることも可能。
かなり便利と言える。
だからこそ、かなり売れると思うわけだ。
ということを、エルゼルドに説明する。
「なるほどっす……よくもまぁ、そこまで考えるっすね、大将は」
「まあ、半分くらいは恋乃花の考えだけどな。一般人に流すのなら、この三つでいいだろう、ってことで」
「そうっすね。じゃあ、売れて来たら数を増やす、感じっすか?」
「そうだね。今回はお試し販売だ。だが、もしも売れて来たら、今度は本格的な物を売ろうかなと思っているよ。それに、ボクとアリス君が組めば、それはもう素晴らしい装備品も販売できる」
「おー! さすがっす! じゃあ、早速明後日の販売に向けて、色々準備しなきゃっすね! あ、どんな店が希望っすかね?」
「露店で構わないぞ」
「え、ろ、露店? 露店でいいんすか? もっとこう、立地が良く、立派な店も出せるんすけど……」
店の条件を聞かれたので、予定通り露店でいいと答えたら困惑しだした。
いやまぁ、わかるよ? その気持ち。
だって俺、組織のトップだもんな……トップが経営する店が、露店って、そりゃぁ部下たちからしたら、示しがつかねぇ! みたいな感じなんだろうきっと。
「いやほら、いきなり知らねぇ奴がいい店で商売してたら、なんか反感買いそうだし。いくらお前が街の住民から慕われてても、嫌ってる奴がいないとは限らないだろ? だったら、露店から商売していこうかなと」
「いえ、普通に大将たちに何かしでかしたら……普通に消すっすよ?」
怖いよ、お前のその笑顔と刀は。
ってかどっから出した、その刀。
「君、愛されてるねぇ」
「いえ、コノカ様が何かされても、俺はキレる自信があるっす。闇に葬り去るっすよ」
「……ごめん、ボクの方もヤバかった」
「……俺たち、さ、侮辱されたり何か悪いことをされたら……」
((絶対、NPCたちがキレるよなぁ(ねぇ)……))
NPC、怖い。
それが、俺たちが抱いた感想だった。
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