21話 人員追加

 事後処理なんかも終わり、今後のグラント聖王国との関係についてのすり合わせなんかを終えた俺たちはエルゼルドとリリアと別れ、ロビンウェイクの基地に帰って行った。


 道中は、エヌルの運転で帰宅。

 異世界を車で移動すると言う、ファンタジーをぶっ壊しに来るかのような状況になりつつ、外の景色を眺めていると、不意にイグラスから念話が届く。


『どうしたの? イグラスから連絡するなんて、よっぽどのことかしら?』

『はっ。急ぎ、アリス様にお伝えせねば、と思ったのですが…………おや、そうですか。かしこまりました。アリス様、基地にお戻りになりましたら、すぐさま総帥室へ。アリス様をお待ちの方がおりますので』

『私を? わかったわ。すぐに戻る』

『では、お気をつけて』


 念話終了。


 俺を待ってる人って……一体誰だ?

 この世界で俺のことを知ってるのなんて、NPCくらいだと思うんだが……一体誰だ?

 怪訝な表情を浮かべる俺だったが、この時、何故総帥室にその人物が待っているのか、という部分について深く考えなかったのか、その人物と再会して思うことになる。




 基地に戻り、エヌルと二人で総帥室に向かうと……


「な、なななっ……!」

「おや? 再会したばかりでもミックスボイスのままとは、ふふ、君のロールプレイは筋金入りだね。尊敬するよ、ボクは」


 そこには、我がロビンウェイクのNPC――などではなく、れっきとした俺と同じプレイヤー、しかもロビンウェイク所属のプレイヤーがそこに一人いた。


 その人物は、背丈は俺とほぼ同等……もしくはほんの少し高い程度で、太腿の中ほどまで伸びた髪と瞳は透き通るような水色。

 顔立ちはかなり幼く見えるものの、どこか大人っぽさも感じさせ、かなりアンバランスな人物に見える。

 肌も所謂玉子肌と言う奴で、すべすべぷにぷにの、色白だ。

 そして何よりも、外見ロリなのに、白衣を身に纏い、葉巻を吸っていると言う、ものすんごい法に抵触しそうな行為。


 それらを総合し、ここにいる人物は……。


「た、探☆偵さん!? なんでここに!?」


 その人物とは、俺が産業的な意味で来てくれないかと思っていた、『探☆偵』だった。


「あはは! いやーなに、気が付いたらこの世界に、という奴さ」

「ま、マジかよ……」


 なんでもないように答える探☆偵に、俺は笑みを零す。

 自分のことをそして、相手のことも知っている人物がいる、その事実に、俺の感情は大きく揺さぶられ、歓喜の気持ちが胸中に広がる。

 なんて、心強いんだ……!


「いつ……いつ、ここに来たんですか!?」

「昨日だね」

「昨日って……」

「本当、この基地は立地が良くていいね。今のボクは、なぜかスキルも魔法も使えないし、何よりアイテムボックスも使用できない。非力な状態だったから、最初は内心びくびくしながら進んだものさ」

「いやいや、仮にスキルが使えなくとも、探☆偵さんだったら、何とかしそうですけどね」

「すぅー……ぷはぁー……ふふ、いかにボクと言えど、現実とは違う。故に、かなり慎重に来たさ。もちろん、ちょっとした暴漢程度なら、対処は可能だったけど、ね?」

「十分だと思うんですが」


 少なくとも、この世界の暴漢は、前の世界のチンピラなんかよりも圧倒的に強いと思うしな。

 まあ、スキルや魔法が使えないとは言っても、自身の培ってきたステータスが消えるわけじゃないから、そう言う意味では問題ないと思うけどな。

 スキルと魔法縛りみたいなもんだろうし。


「さて、早速話を聞かせてほしいな。ボクとしても、わからないことだらけなんだ。是非、現在の状況を教えてほしい」

「了解です。つってもまぁ、俺も知ってることは少ないんですけどね。あ、一応向こうの事情も聞かせてくださいよ?」

「もちろんだとも。ボクの方も、それを伝えるために来た部分もある。……ま、こちらの世界に来てしまったのは、不慮の事故のようなものだけどね」


 まあ、事故だよなぁ、これに関しちゃ。


「それじゃあ、話しましょうか」

「うむ、頼んだよ」


 葉巻を咥える幼女……やっぱ、ビジュアルが色々と問題な気がする……。




「――というわけでして、今のロビンウェイクは一応グラント聖王国所属の裏組織、ということになります」

「ふむふむ、随分とたったの二週間で様変わりしたようだね。しかし、あの国王は死亡したのか」


 ぷは~、と煙を吐きつつ、国王の末路に呟く。

 ちなみに、エヌルとイグラスは今はこの部屋におらず、基地の管理業務に戻っている。


「まあね。あいつら、碌なことをしてなかったですから」

「『奪魔の禁呪』か……ボクも使用できるけど、あれは今の世界では行使してはいけない魔法だね」

「そうですね」


 やはり、現実となったこの世界においても、探☆偵さんも俺と同じように思ったらしく、『奪魔の禁呪』は使ってはいけないと言う結論を出したらしい。


「まぁ、外道魔法はゲームだからこそ、だね。……それで、君の話をしようか、アリス君。いや、この場合は瞬君の方がいいかな?」

「あー、まぁあっちの俺の話なら、そうですね。それで、俺は向こうじゃどういう状況なんで?」


 早速とばかりに、俺は前の世界の俺について尋ねた。

 そして、探☆偵さんから帰ってきたのは、俺も覚悟していた内容だった。


「そうだね……まず、君は今、行方不明扱いとなっている」

「……行方不明? 死亡じゃないんですか?」

「そう。ある日突然、君が忽然と姿を消したのさ。部屋は特に荒らされた形跡もなく、財布や端末のような貴重品を持たず、更には普段使いの靴も玄関にあった。所謂神隠し、という状態だったね」

「ま、マジか」


 ってことは俺、一応死亡したんじゃなくて、あの体がこの体に変化した結果ってわけか……。

 まぁ、死んだんじゃないならいいや。

 いや、行方不明になってる以上同じようなもんだわ。


「そして、君のVRチェアのシステム領域がどうしようもないくらいに破損していた」

「ええ、マジで!?」

「マジだよ」

「うわぁー……」


 VRチェアが壊れたってことか……なんか、すんごいショックなんだが……あれは、父さんがまだ生きていた頃に買ってくれた、ある種形見のようなもんだったんだが……。

 すげぇショック。


「そして、ボクはそのVRチェアに何かあるのではと踏んで、システム内からなんとか手がかりになりそうなものをサルベージした結果……とある一通のメールを見つけた。もっとも、そのメールは酷い文字化けをしていたけど。とはいえ、時間はかかったが何とか解読はできた結果、どうやら君は謎のメールに招待された、と言うことが判明したわけだ。合っているかな? 瞬君?」

「あ、合ってます。ってか、よく文字化けを解読できましたね」

「そこは、自作の解読ソフトを使ってちょちょいと、ね」

「そ、そうですか」


 何その無駄にすごいソフト。

 なんでそんなソフトを作ってるんだろう、この人。


 実際、この人がロビンウェイク内じゃ一番謎な存在だったっけ。

 リアル仕事が探偵業ってのは知ってたけど、なんかやたら多才だったし。


「……ん? じゃあ、探☆偵さんも同じように、メールが?」

「そういうことさ。君の調査が行き詰まり、バーチャルワールドにいたら、招待メールがね」

「マジか……」


 俺と同じ経緯ってことか。

 しかし、なぜ探☆偵さんの所にも?

 基準は一体なんだ?


「探☆偵さんは、元の世界に未練とかは?」

「んー……まぁ、無いと言えば嘘になるね。これでも、探偵事務所の営業をしていたからね。助手君たちもいたから、ボクという事務所の大黒柱がいなくなって大変そうだなと」

「あー、そう言えば探☆偵さんは、知る人ぞ知る超優秀な探偵って聞いてますけど……」

「あはは、それは言い過ぎさ。ボクは、ボクに遂行できる依頼しかこなしていないさ。ボクの手に余る依頼は断っているよ」

「それでもですよ。自分ができることとできないことを理解してるわけじゃないですか? だったら、それはすごいことだと思うんですが」

「ふふ、君にそう言われるのはなんだか嬉しいね」


 くすくすと笑いながら、葉巻をふかす探☆偵さん。

 ってか、もう三本目くらいなんだけど、この人ヘビースモーカーすぎん?


「それにしても……君の声、ミックスボイスではなく、自然な物なんだね。この世界で、その姿になった影響かな?」

「多分。この世界じゃ、VEOのアバターが生身みたいですし。そう言えば、探☆偵さんも姿が現実と違うわけですよね? それ、苦労しないんですか?」

「ん? あぁ、ボクのこの姿はリアルと同じだよ?」

「……え?」


 今、なんかさらっととんでもないことを言われた気がするんだが。

 え、リアル? この姿が? HAHAHA、まっさかー!


「どういうわけか、あまり背丈が伸びなくてね。もちろん、アバターの身長を高くすることも考えたけど……正直、リアルの姿の方が動きやすいと考え、そのままにしたのさ。もっとも、髪と瞳の色は違うがね」

「え、じゃあ、それ以外は……」

「うん、リアルまんま」

「ご、合法ロリ……」

「それは君もじゃないかい? 今はボクと同じ合法ロリだろう?」

「いや、そうですけど、探☆偵さんのリアルには負けますよ、いやほんと」


 俺、てっきりリアルは背の高い女性だとばかり思ってたんだが……まさか、これがリアルの姿だったとは……。

 ってか、その姿で探偵業してたの? マジで? 色々とギリギリじゃない? 大丈夫? それに、今煙草吸ってるよね? ってことは……。


「ち、ちなみに、リアルで煙草は……?」

「ボク、ヘビースモーカーなんだよ。後はほら、この見た目だったから、少しでも実年齢に見せるために、ヘビースモーカーで酒豪でね」


 酒豪でもあるんかい!

 ってか、え、この見た目で煙草に酒……?

 えぇ、ギャップで風邪引きそう。


「そう言えば、瞬君はいくつなんだい? リアルの方で」

「俺ですか? 俺は二十歳ですよ」

「あぁ、そう言えば大学二年生だったね。そうか……それなら、今夜晩酌でもどうかな? 幸い、アイテムボックスに……っと、そう言えばアイテムボックスは使えなかった。ふぅむ、あの中にはお酒類なんかもあったんだけど……少々残念だ」

「あ、そうか。探☆偵さんは、使えなくなってるんでしたっけ」

「探☆偵さんは、って……瞬君は違うのかい?」

「あぁ、俺は使えますよ」

「へぇ、ずるいなぁ、それは」


 じとーっとした目で俺を見つめてくる探☆偵さん。

 なんか可愛い。葉巻咥えてるけど。


「いえ、俺も最初は使えませんでしたよ?」

「そうなのかい?」

「はい。えーっと、ちょっと待っててくださいね」


 俺は断りを入れてから、一旦総帥室を出て自室へ。

 そして、引き出しの中に入っていた例の錠剤を持ってくる。


「これです」

「これは……錠剤かな?」


 差し出された錠剤を受け取り、興味深そうに見つめる。


「はい。なんか、俺の部屋の引き出しに入ってて、これを飲んだら使えるようになったんですよ、魔法とか」

「へぇ、そうなんだ。それなら……これは一錠でいいのかな?」

「そうですね。俺は一錠だけ」

「了解。それじゃあ……」

「あ、そう言えばそれ、めちゃくちゃ体調を崩す――」

「ごくんっ……ん? ――んんんんんんんんんんんんんっっっ!??」

「あ、しまった遅かった!」


 俺が錠剤を飲んだ直後は体調を悪くすることを伝えようとする前に、探☆偵さんはぶわっと汗を噴き出しながら、ひたすらに悶えていた。


「はっ、あぐぅっ……んんっ、くっ、ふぅ……ぁっ」


 ……あの、すみません、なんでそんなにちょっと艶めかしいんですかね、探☆偵さん。

 妙な声、出さないで下さいよ、いやほんとに、頼むから。


「はぁっ、うくっ……んんっ! はぁ、はぁ……や、やっと落ち着いた……凄まじい不快感、だったけど…………なんだか、すごくすっきりとした感覚があるね。あとは……『解析』。おぉ、本当に使えるようになっているね。これは……ふむふむ、とりあえず、ボクの喘ぎ声で瞬君がドキドキしていることがわかったよ」

「なんでそんなんわかるんですか!?」

「ふふ、ボクのジョブは『解析者』と『錬成師』。解析なら十八番という物だよ? ワトソン君」

「いや俺ワトソンじゃないんですが」

「ふふ、細かいことは気にしない。とはいえ、これはいいね。うん、かなりいい。もともとの種族とも相まって、かなりの相乗効果だ」

「あー、そう言えば探☆偵さんって、吸血姫でしたっけ」

「そうだよ。吸血姫は魔法能力が高く、同時に身体能力も高い。サキュバスには劣るけど、精神干渉系魔法も使用できて、更には読心術紛いのこともできると、かなり優秀な種族だからね」

「けどまぁ、上位種の吸血姫だからいいけど、普通の吸血鬼だったら日中外に出るとえらいデバフがあるから、夜型種族なんですけどね」

「そこは言わないお約束さ。それに、ボクは日光を克服済み。フルスペックでの行動が可能だから」


 吸血姫というのは、吸血鬼が種族として進化を果たした結果の種族で、日中にかかるデバフ効果が消え、更には身体能力もかなり向上すると言う、かなりの強種族だ。

 魔族でも、一、二を争うレベルで強い種族だ。


 サキュバス? まあ、一応進化もあるけど……というか、一応俺、進化を果たしてるが、魔力量が増えるのと、精神魔法の効力が上がる事、特攻が強まるのと、後は身体能力が多少向上する、特性が強化される以外には特に何もないので、周囲にはサキュバスで通している(意外と多いな……)。


 ……あとはまぁ、名前がなんかこう、『淫魔姫』とかいう種族名だから、というのもある。

 なんか、サキュバスよりも変態みたいに感じたので。


 ちなみに、どういうわけか、魔族の進化には、『王』もしくは『姫』が付くと言う謎の仕様がある。


「それじゃあ、そろそろ今後のお話と行こうか?」

「あ、そうですね」


 お互いの事情もわかったし、後は今後の話だけだな。

 行動指針はどうしようか、と考えていると、何か言いたげな探☆偵さんの表情が目に入った。


「あの……どうしたんですか?」

「んー……一つ、ボクたちの関係性を確認しようと思って」

「関係性、ですか? そんなの、組織のトップと幹部、じゃないんですか?」

「そうそれ。けど君、ボクに対して敬語だよね? ボクの方が組織的には下なのに」

「え? いえほら、探☆偵さんは、俺より年上っぽいですし……」

「そこは否定しない。けど、さほど離れていないよ? 二つ程度だし」

「二十二歳なんですか!?」

「あぁ、そうだよ? どうしたんだい? そんなに驚いて」

「いえ、だって、普段の落ち着きっぷりから、二十代後半だとばかり……」

「まぁ、年齢の割に冷静とは言われるね」


 いや、それは多分子供だと思われてるからなような……ま、まあ、そこは言わないでおこう。


「二つ程度しか離れていないし、何よりボクは君の部下。であれば、ボクに対し敬語というのは変だろう?」

「まあ、そうかもしれないですけど……」

「と、言うわけで、ボクはため口を所望するよ。それに、この世界じゃたった二人だけの日本での同士だ。ならば、それこそ敬語は不要だと思わないかい?」

「たしかに……」


 現状、日本からこの世界に来ているのは俺と探☆偵さんくらいのものだろう。

 ただ、俺はまだこの世界について隅々まで見て回ったわけではなく、かなり狭い範囲での情報だから、もしかすると他国には俺と同じように来てしまった人がいる可能性はあるだろう。

 そう言う意味では、本当に知り合いとは俺と探☆偵さんくらいか。


「どうだい? そもそもボク、敬語はあまり好まないから、普段通りに話してくれるとありがたいんだよね」


 なるほど、そう言う事なら、まあ。


「俺としても、警護じゃないのはありがたいよ。んじゃ、今後は普通に話させてもらうよ。探☆偵さん」

「うんうん、それでいい。……それから、『探☆偵』と言うのは、結構ふざけて付けた名前だから、本名を教えよう。そちらの方がいいだろう」

「いいのか?」

「もちろん。ボクの名前は『小鳥遊恋乃花たかなしこのか』気軽に恋乃花ちゃん、でいいよ?」

「いや、普通に恋乃花さんって呼ばせてもらうよ」

「む、つれないなぁ、君は。ま、そう言うところが可愛いんだけどね?」


 どこが可愛いと言うのか。

 あ、いや、見た目だけなら今は可愛い部類か。

 ……めんどくせぇな、これ。


「ともあれ、改めてよろしく、恋乃花さん」

「さん付けもいらないよ?」


 などと、にっこりやんわりと告げているが、その表情は明らかにそう呼べ、と言っているように思えた。

 はいはい、呼び捨てにしろってことですね……わかりました。


「……よろしく、恋乃花」

「うん、よろしくね、アリス君」

「俺に対しては君付けなんだ」

「そこはほら、ボクは基本的に敬称を付けるから。お気になさらず」


 そう言えば、恋乃花はメンバーに対しては基本君付けだったっけ。

 二人称が君付けで統一されてる人とか、この人以外に見たことないわ。


「さて、改めて今後のことを話そう。アリス君は、どう動いていくつもりで、ボクに何をしてほしいのかな?」

「そうだなぁ……現状、うちはこの国の裏組織、とはなっているが、実際にはリリアから要件が無い限りは、街の運営をメインに活動していく予定かな」

「ふむ。では、要件があった場合は?」

「その場合は、適度に動く。俺たちが名目上悪の組織である以上、派手に動いてバレたら色々と厄介なことになりかねないじゃん?」

「そうだね。その判断は正しい。ボクたちは義賊ではあるが、それを知るのは身内や治めている土地の人間だけ。知らない方が圧倒的多数だ。なら、バレないよう上手く立ち回り、尻尾を掴ませないようにする。……ふふ、なかなかに面白いことになっているね」


 くすり、と恋乃花は面白そうだと小さく笑う。

 まあ、俺も別の奴が先にこの世界に来ていたら、普通に面白そうだとは思うかもしれないが……うーん。


「だが、直近の問題として、資金面がある、ということだよね?」

「そうなんよ。あんの愚王共がやらかしてくれたから、三ヶ月以内にどうにかしないと、その先の資金がヤバくて……」

「ふむ。それなら、ボクも色々と動けるね。というより、そちらの方面しかできない、と言うべきかな?」

「俺も、金銭面はクルンか探☆偵さんのどっちかだ、とは思ってたかな。だから、恋乃花には、産業部分をメインに動いて欲しいと思っている」

「となると……主に魔道具の販売、かな?」

「そう」


 俺がクルンか探☆偵の二人が早く来て欲しいと言っていたのは、産業部分で早期解決が出来そうなのがこの二人だったからだ。

 他のメンバーは基本的に戦闘面がメインだからな。

 その点、あの二人は作成がメインだからな。


「ふふ、もちろんいいとも。客層はどうするんだい?」

「そうだな……まずは、平民向けでいいんじゃないか? 材料なら俺が作れるし」

「ふむ……となると、生活用品関連の方がいいかな」

「護身用の魔道具は?」

「うーん……ま、それもありだろうね。ただ、色々と制限を設けないと売れないかな」

「そうなのか?」

「もちろん。簡単なことさ。簡単に人に危害を加えられる魔道具が身近に売られている、それはかなり危険なことな気がする。犯罪に用いられるのは嫌だからね」

「たしかに」


 そこは恋乃花の言う通りか。


 実際、前の世界でも、銃が普通に売られている国々は存在したし、それで事件を起こす奴らなんてのも存在した。

 それは身近に人に危害を加えられる物が売られているからだろうな。


 あとは……そこから来る興味、と言うべきかな。

 とはいえ、それはVR技術が発展する前であって、発展後は限りなく少なくなったんだけどな。


 だが。


「だが、この世界は魔物なんかもいる世界だ。やっぱ、護身用の魔道具は必要じゃないか? それに、恋乃花よりも早くこの世界に来たから言えるんだけどさ、どうもこの世界、前の世界に比べて命が軽すぎるんだよ」

「……あー、そう言えばあのゲーム内でも、やたら盗賊イベントや襲撃イベントが多かったね。となると……たしかに、平民であれば確かに必要かもしれない。特に、女性の方かな?」

「だなー。俺、何度か人攫いやら盗賊に出くわしたけど、原因はこの見た目らしいからさ」

「ほほう? やはり、見目麗しい女性は狙われやすい、ということか。……しかし、君のその背丈で狙われると言う事は……やはり、ロリコンが多いのかい?」

「まあ……求婚もされたから、否定できねぇなぁ……」

「おや、そんなことにもなっていたのかい? ふふ、君は面白いね。ただ…………その求婚してきた相手、と言うのは許せないがね」


 ふふふふふふ……と笑いながら、殺気を体から溢れださせている。

 なんか怖いんですが。


「あの、恋乃花さん? 何故、殺気が漏れ出ているので……?」

「……おっとすまない。君の貞操が狙われると知って、少々」

「俺、男相手は絶対嫌だよ?」

「サキュバスなのに?」

「俺の中身は男だよ! だから、好みは必然的に女性だよ!」

「……ほう!」


 あれ、なんか俺が好みについて言ったら、なんか目が爛々だとしだしたんだが……え、何? 恋乃花って百合趣味でも持ってるの?

 俺が女性とくっつくのを見られると思って、目を輝かせてるとか?


 マジか……。


「となれば、作らなければならない物がいくつか……いや、しかし、ここにはクルン君もいないし……それに、話を聞いた限り例のリリア君とやらも可能性が……まあいいか」

「恋乃花? 何をぶつぶつ言ってるんだ?」

「ん、あぁ、いや、すまないね、こちらの話さ。……さ、話の続きをしようか」

「あ、お、おう」


 なんか今、クルンとかリリアの名前が出た気がするんだけど……まあいいや。

 そんなことよりも、今後の話だよ。


「売り出し方は、どうするんだい? まずは露店から、かな?」

「うーん……その方がいいか。まずはそこで資金を集めて、いずれは商会にしたいと思っててさ。まずは土台作りからだ」


 もちろん、いきなり物件を購入して早速店を! というのもまぁありっちゃありだが……物件は普通に高いし、許可証なんかの発行も必要になってくる。


「そうだね。それがいいだろう。そうすると、最初の販売場所は……」

「試験的に、アルメルの街がいいと思うんだ。あそこは今、愚王の一件以降ちょっと人が増えて来てるからさ」


 それに、アルメルの街であれば、エルゼルドが治めてる以上、許可証の発行が容易い。

 ……かなりずるい方法ではあるが、俺たちの方も組織の者たちの生活が懸かってるんだ、これくらいは許してほしい。


「そうなのかい?」

「あぁ。なんでも、あの時救出された住民たちが、エルゼルドやイグラス、エヌルなんかの話を広めたせいで、今エルゼルドが治めるアルメルの街への移住者や移住希望者が増えてるんだとさ」

「へぇ……エルゼルド君というのはたしか、マッスル権蔵君が作成したNPCだったね? ふぅむ、NPCが実際に生きて動いている、と言うのは不思議だね。試しにイグラス君と喋ってみたけど、受け答えが本当に生きている存在で驚いたものさ」

「それはわかる」


 俺もこっちに来たばかりの時は、二人の正確な返しに驚いたもんだよ。


「となると……ボクが作成したNPCなんかも、同じようになっているのかな?」

「多分な。でもま、木乃香が作成したNPCはここから結構離れてるし、会うのは少し先になるんじゃないかな?」

「そうだね。けど……一年もいなかったと考えると、こちらから会いに行くべきなのかな?」

「あー……どうもこの一年、うちのNPCたち、ずっと働いていたっぽくてさー……」

「……え、それ君の地雷じゃないかい?」

「うん、地雷も地雷。超地雷」


 うちの組織のメンバーは、全員が俺の事情について理解しており、同時に俺とクルンが従姉の関係性であることも知っている。


 ってか、俺が組織を作り、そこの加入条件に変に動きすぎないこと、と言うのがあるくらいだしな。

 この動きすぎない、というのは、組織のためにずっと何か動いてしまっている、と言う意味のことを指す。


 ようは、組織をもっとでかくしたいから、組織の資金をもっと増やしたいから、などと言った物だ。

 さすがに、自分のプライベートを捨ててまで組織のために動いて欲しいわけじゃないからね。


 やはり、楽しむことが前提だからね、ゲームって。


「だから、近い内に各地のメンバーをこちらに招集して、順番に休暇を取らせようかなと」

「へぇ、それはいい試みだね。それなら、ボクはしばらくはこちらにいようかな。どうせだ、君と一緒の生活をするのも悪くない」

「はは、それは俺も助かるよ。やっぱ、同郷の奴がいると気が楽だからさ」

「……そうか。それなら、色々と相談に乗ってもらおう。どのような商品にするか、などね」

「あぁ、任せろ」

「よし、じゃあ早速商品についてだが――」


 と、俺たちはああでもない、こうでもない、とアルメルの街で売り出すための商品のアイデアを出し合いつつ、同時に他愛のない雑談をして過ごした。

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