20話 再会は唐突に

「ふぅ……いやー、まーじ疲れた」

「お疲れっす、大将」

「お疲れ様です~」

「おう、ありがとなー」


 牢獄から帰り、エルゼルドの屋敷に戻った後、疲れたのでそのまま就寝。後日、俺は三人だけで寛いでいた。


 ある意味、ようやくやることが片付いた感がある。

 あの姿を見りゃ、満足ってもんよ!

 あと、元の口調に戻せるのがマジででかい。

 リリアさんがいたり、人通りの多い場所だったりで、ずっと口調を戻せなかったからなぁ。

 いやはや、やっぱり自然が一番!

 ……まあ、あの口調も普通に自然に出るようになっちゃったけどな。


「ったく、マジで面倒だったわー。こっちに来て初めて使った魔法がメテオって。マジ疲れたよ」

「いやぁ、あれは凄まじかったすね。アルメルの街からでも大将の膨大な魔力が感知できたし」

「ですね~。私は間近で見ていましたけどね~」

「すごいっすね、エヌル。俺、絶対近づきたくないっすよ、あれは」

「ははは! ま、殲滅魔法だしなー」


 ってか、そんな魔法を間近で見て、なんとも思わないエヌルは一体何なんだろうか。

 俺は俺で、街の人に被害が出ないよう、イグラスの張った結界があったとはいえ、かなり調整したんだが……正直、威力がヤバすぎて、内心冷や汗がすごかったぜ……。


「……あ、そうだ。お前らに訊きたいことがあったんだ」

「はい、なんで答えますよ~。私のスリーサイズは、上から9――」

「言わんでいいよ!? ってか、普通に困惑するよ俺っ!」

「え~、知りたくないんですか~?」

「知りたい。って違うっ!」


 クソッ! 思わず条件反射で言っちまったよ!

 考えろよ俺! 相手は俺の娘みたいなもんだぞ!? 何を思春期の男子高校生みたいな反応してんだよバカか俺は! いやバカだったわ。


「遠慮なさらずに~」

「遠慮するわっ! ってか、普通にエルゼルドがいるからな!?」

「いえ、エルゼルドは男として認識してませんし~」


 うわひでぇ!


「エヌル、それは酷いぜ!? ってか、普通に傷つく!」

「そうだぞエヌル! お前なぁ、女性に『男として認識してない』ってのはマジでぐっさぐっさするんだからな!? 死ぬぞ!? 主に精神が!」


 実際、俺の友達が好きな女子に告白したら、


『ごめん、男として見られないの』


 って言われて七日くらい寝込んだ奴がいたからな!?


 俺でもあれは死ねる!


「でも、アリス様って女性ですよね~? 素が男性のような喋り方ですけど、なぜエルゼルド側なんですか~?」


 あ、俺やっぱ女って認識されてるんだ。

 まあ、ですよね!


「いや俺、普通に中身男だぞ?」

「「え?」」

「言ってなかったんだけどさ、俺、この世界の人間――あー、ヒトじゃないんだよ、実は」

「そ、そうなんですか~!?」

「おうとも」

「マジっすか?」

「うん。ってか、こんな見た目で俺っ娘ってなかなかいないじゃん」


 クール系ロリだぞこちとら。

 そんなビジュアルの奴が、生まれてから俺っ娘って……ないない。いや、いるのかもしれないけど、通常はあり得ないだろ。

 いてもこう、ヤンキーっぽい奴らじゃね?


「で、ですが、今は女性ですよね~?」

「いやまぁ、そうなんだけどさ……でも俺、前の世界じゃ普通に男だったしなー」

「マジっすかー。大将、中身男なんすか……」

「まあなー。別に隠すようなことじゃないしさ、どうでも――」


 ばたばたっ!


「……ん?」


 笑いながらどうでもいいと言おうとしたら、不意に部屋の外から何やら物音が。

 慌てた様な感じがあるが………………あ。


「そう言えばエルゼルド、この部屋ってさ、俺たちが最初に来た時は違う部屋だよな?」

「まぁ、そうっすね。あっちは大事な話をする用で、こっちはだらだら過ごす用っすからね。それが何かあるんすか?」

「あー……うん、まあ、なんつーか……不慮の事故」


 煮え切らない俺のその言葉に、二人は小首を傾げるが……その直後に俺が何を言いたいのかを理解。

 あ、とやっちまった、みたいな表情を浮かべていた。


「あー、こほん! リリアさん、入って来て」


 俺が咳払いを一つし、扉の向こう側に向かってリリアさんを呼んだ。

 すると、ぎぃ、と扉が開き、そこから申し訳なさそうな様子のリリアさんが入ってきた。


「えーっと……聞いたかしら?」

「そ、そのぉ、あのぉ、えっと………………はい」


 聞いたかどうか確認すると、リリアさんはしどろもどろになりながらも、最終的には観念したのか、聞いたことを認めた。

 あー、まあ、仕方ないわ、これは。

 俺がぽろっと言っちゃったのが悪いわ。

 仕方ないね、うん。仕方ない。


「とりあえず、扉を閉めて、こちらに座って」

「は、はい……」


 まるで借りてきた猫のように、不安そうにおずおずと座るリリアさん。

 これ、何か制裁されるのでは? って心配してる感じだよね、どう見ても。


「とりあえず……あー、まぁ、知っちゃった以上は仕方ないから、元の口調で行かせてもらうけど……悪いね、実は俺、中身は男なんだよ」

「は、はぁ……あの、わたくしに何かすると言う事は……?」

「ないぞ?」

「じゃ、じゃあ、秘密を知ったわたくしを縛り上げ、その上であーんなことや、こーんなことをするということも……」

「絶対ないぞ!? ってか、それだと俺マジもんの悪人だろう!?」

「アリスちゃんは、悪の組織の総帥ですよね……?」

「いやそうだけど!」


 ややこしいな此畜生!


「で、では、秘密を知ってしまったわたくしを、あの手この手で篭絡し、果ては裏からこの国を支配しようと考えているのですね!?」

「あんたのその妙な想像力は何!? 俺、そんなこと絶対しないからな!? って、エヌルとエルゼルドも『あー』みたいな顔はしないでもらえますかねぇ!? え、待って? 俺、そんな風に見えてんの!?」

「いえ、一応悪の組織の親玉ですし~……」

「正直、一国の女王一人を篭絡しても、まあ、普通じゃね? とはなるっすね……」

「なんてこったいっ!」


 くそぅ、やはりヒーロー側にするべきだったか……? いやしかし、それじゃあ意味がない! 俺は義賊の方が好きなんだから!

 だが、まさかその想像が裏目に出るとは……くっ、おのれリリアール=クオン=グラント!


「ともかく! 俺はそんな野蛮なことはしないし、第一女性相手にそんなことできるかっ!」

「……そうですか」

「なんで残念そうなんだよ!?」


 実はこの人Mなんじゃないだろうな!?

 なんか不安になってきたんだけどこの国!

 ……協力するの、早まったか……?


「まったく……いいか、俺のことは絶対秘密だからな? 一応、身内以外じゃ素は出さないつもりだし、出してねーんだからな?」

「では、身内以外ではわたくしが初……!? ありがとうございますっ!」

「なんでお礼なんだよ」


 わからん、わからんぞこの王女もとい、女王。

 一体何があったと言うんだ。


「じゃあ一つ、条件があります!」

「じゃあってなんだじゃあって。……まあいいけどさ。何? 変なのは無理だぞ? 縛るとか、そう言うのもな」

「え、アリスちゃん、わたくしを縛りたいんですか……?」

「そんなわけないからな!? ってか、お前がさっき言いだしたじゃん!」

「縛ってとは言っていませんよ?」

「めんどくせぇなぁ!」


 自分で変な想像を口にしておきながら、いざ俺が冗談っぽく言ったら、めんどくさい返答が返ってきたよ。

 なんなんだマジで。


「なるほど、アリス様はドSと~……メモメモ」


 その横では、なんか誤解をしちえるバカメイドが一人。


「別にSじゃないからな!?」

「では、アリス様はドMと~……」


 なんで今度はMなんだよ!


「それも違うっ! っていうか、なんで0か100かしかないんだよ! ノーマルだよノーマル!」

「……つまり、アリス様は両刀~……」

「なんか余計酷くなった!?」


 混ぜるなよそこは!

 いや、サキュバスだからある意味間違いではないような……はっ! って違う違う! 俺はマジで至ってノーマルだからっ!


「大将が、両刀っすか……」

「両刀ですか……」

「なんでお前らそんな生暖かい目を向けてんの!?」


 くそぅ、ついさっきまで俺が一番偉かったような気がするのに、気が付いたらひたすらツッコミを入れさせられているッ……!


「はぁ、はぁ……まったく……それで、条件って?」

「あ、はい。それなのですが……わたくしを呼ぶ際に、『リリアさん』と呼んでいますよね?」

「ん、まあな。一応、王女だし」


 そもそも、俺はいきなり王族の人を呼び捨てで呼べるほどの度胸はない。


「ですが、わたくしとしましては、できればさん付けをやめてほしいな、と思いまして」

「なんだ、そんなことでいいのか?」


 条件なんて言って来たから、てっきり国との関係性の方で、何か追加条件でもあるのかと身構えていたんだが、随分とまぁ可愛い条件が来たもんだ。


「は、はい。その、王族ですから、お友達などという存在がおらず……で、できれば、アリスちゃんとはお友達になりたいな~、と思って、ですね……い、いかがでしょうかっ!?」


 途中までの乙女な反応はいずこへと言わんばかりに、リリアさんがずいぃ! と綺麗な顔を近づけてきた。


「ちょっ、近い近い! わかったわかったから! もうちょい離れて!」

「い、いいのですか!?」

「いいからマジで離れてくれ!」

「わーい! お友達が出来ました!」


 はぁ、はぁ……なんか、疲れるな、リリアさん……もとい、リリアは。

 ってか、随分と可愛らしい反応だなぁ。

 あと、あんなに顔を近づけられると、すんごいドキドキするから勘弁してほしい。

 皮は女でも、中身は男なんだ。

 恋愛対象は中身準拠だからな、ハッキリ言ってドギマギするわ。


「ともかく、これからよろしくな、リリア」

「~~~っ! はいっ! よろしくお願いします、アリスちゃん!」


 うわ、すんごい綺麗な笑顔。

 これは魅力的だな……やはり、王族ってのは、綺麗どころが多いんかねぇ。


「ってか、俺はちゃん付けなのな」

「はい、可愛らしいので」


 理由がしょうもねぇ……。

 そんなこんなで、異世界に転生(転移?)して二週間、女王の友達が出来た。

 順調で何よりだよ、本当に。

 俺は目の前でわいわいと話す三人を見ながらそう思い、笑みを浮かべている口元を隠すように、ティーカップに口を付けた。


 ……そう言えば俺、エヌルたちに何かを訊こうとしていたような……なんだったっけ?




 リリアと友達になってから二日経ち、その間にグルドゥスの処刑が執行された。

 俺的に、発狂状態で死刑ってのも、国民からすりゃ溜飲が下がらないだろうと考え、精神に干渉し、壊れる前に戻した。

 その結果か、グルドゥスは執行される直前まで喚きに喚きまくっていたが、最後は呆気なく首を落とされて死んだ。


 正直、あんまし関わらなかったが、やったことがやったことなだけに、関りが薄くとも、いい気味だと思ってしまった。

 やはり、精神が少々変化しているような気がする。

 人間ではなく、魔族になった影響だろうなぁ。


 あとは、この世界の命が、前世よりも軽い、というのもあるのかもしれない。

 やらなければ、こちらが死ぬことになってしまうからな。

 そうなれば何の意味もなくなってしまう。


 それに、俺としてはいつあいつらが来てもいいように、生きてなきゃいけないしな。

 まあ、正直な所、俺以外のプレイヤーが来るのかどうか不明だし、そもそも来ない可能性もあるんだがな……。


 と、そう思っていた俺だったが――




「……」

「やぁ、瞬君。いや、今はアリス君、だったね。随分と探したよ。ともあれ……久しぶりだね」




 ――再会は、思いの外すぐにやってきた。

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