18話 その後のこと

「さて、と……全員、集まったわね」


 アルメルの街にある、エルゼルドの屋敷にて、俺、エヌル、イグラス、エルゼルド、そしてリリアさんの五名でとある一室に集まっていた。

 あれから一週間が経過し、様々な事後処理に追われていた俺たちは、ようやく落ち着いたため、こうして集まっている。


「わたしはあまり関わらないようにしていたけれど……例の件、どう進んでいるのかしら?」

「それに関しては、思惑通りと言いますか、むしろそれ以上と言いますか~……」

「どういう状況?」

「……簡単にも申し上げますと、此度の一件はかなり問題視されましてな、周辺諸国からそれはもう非難が殺到しております」

「へぇ……リリアさん、そこのところ、どうなのかしら?」

「そう、ですね。イグラスさんたちの言う通り、現在グラント聖王国は、周辺諸国からお父様たちやそれに関わる貴族への非難が書かれた書状が送られてきております」

「なるほど」


 一週間でそこまで、か。

 正直、期待以上と言えばいいのか、想定外と言えばいいのか……。


 もとより、今回の一件は表沙汰にしなければいけないものだったからな。

 こればかりは仕方ないだろうが……。


「それで、リリアさんはどうするんすか? 王族への非難、って話っすよね? なら、リリアさんも矛先が向いているんじゃ?」


 ここで、イグラスとリリアさんの話を聞き、リリアさんの今後に関することをエルゼルドは尋ねる。

 確かに、それは俺も気になるところだ。

 リリアさんは俺たち側に回ったとはいえ、王族は王族。


 ならば、リリアさん自身もかなり非難されているんじゃないか、と。

 などと、俺たちは思っていたのだが……どうやら、リリアさん自身はさほどでもないらしい。


「その、此度の件で、お父様やお兄様たちは投獄され、現在はお父様が死刑執行待ちで、お兄様たちは奴隷に落とされる予定です。ですが、そうなると国を治める王がいなくなる、とのことで……周辺諸国からはわたくしが女王になるように、という内容の書状が多く来ており……」


 と苦笑い気味に現状を話してくれる。

 なるほどなぁ。


「それじゃあ、リリアさんは女王になるのかしら?」

「そう、ですね。それに、国民の皆様からもその……期待されるような声が多く……副団長様……いえ、団長様からも是非にと」

「なるほど、ね」


 俺は統治とかは良く知らんが、少なくとも王制の国ならば、トップが必要だろう。

 日本じゃ、立憲君主制だったが、この国は基本的には君主制だしな。

 そうなれば、トップが不在と言うのは色々と不都合なんだろう。


 あとは、王という物は、総じて血筋というものが重要視されてくる。

 いや、この辺りは貴族なんかもそうかな。


 現在、直系の王族というのが、リリアさんしかいないからこそ、リリアさん以外が女王になるのはできないのだろうな。

 うぅむ、なんとも面倒な状況だなぁ。


「それにしても、あの愚王は死刑なのですね~」

「あ、それ自分も思ったっすよ。大将、その辺りどう思います?」


 おいエルゼルド、なぜ俺に振った。

 俺はド素人なんだが……まあ、仕方ない、思ったことをそのまま話してみるか。


「……そうね。わたしは政治についてはさっぱり。だから、完全に素人の考えだけれど……今回の件、おそらく自国民からも、そして他国からもかなりの非難が集まっているでしょう?」

「そうっすね」

「それはつまり、今回の件はよっぽどだった、ということ。そもそも、『奪魔の禁呪』なんて、してはいけない邪法よ。もちろん、やむを得ない事情……例えば、このままでは全滅するかもしれない、というシチュエーションで、且つ生贄になる者が合意した上で使用するのならば、問題ないのかもしれない。けれど、愚王たちが行ったのは、自国民やエルフたちを無理矢理集め、強制的に生贄とする行為。ならば、ヘイトはかなり集まる。仮に、そのような者たちが、生きていたとしたら……どう思うかしら?」

「……あー、かなりの暴動が起きるっすね」

「そういうこと。それに、エルフは受けた恩は何倍にして返すような種族であると同時に、受けた悪意に関しても何倍にして返す。故に、下手に生かしていると、エルフたちが敵対する可能性がある、ということよ」

「はぁ、なるほどっす」

「つまり、下手に生かしておくよりも殺して、もう悪意をある者はこの世にはいません、今後はこういったことが起こらないようにします、とアピールするのが目的、ということですか~?」

「えぇ。……もっとも、あくまでも想像だから、本当の思惑は知らないわ」


 だが、おおよそこんな感じなんだろうな。

 一応、犯罪奴隷と言う形で、鉱山などで働かせる、と言うのは実際にあるんだが、そんなことをしたら間違いなくえらいことになる。


 そもそも、周辺国が許さんだろう、これは。

 一応、他国は口出し無用、と言うのは当然と言えば当然だが……あのバカが攫ってきた人間の所属が色々と悪かった。

 俺はてっきり、グラント聖王国の住民とエルフだけなのかと思ったんだが、どうやら他国から観光目当てで来ていた者たちも誘拐していたらしい。

 さすがにそんなことをすりゃ、いくら他国の事情とは言っても、突っつかないわけにはいかないだろう。


 俺だって、もし王をやるんだったら、絶対そうするし。

 それに……エルフがいたのも問題だった。

 エルフを敵に回すと、えらいことになるから。

 少なくとも、高度な魔法で蹂躙されかねない。

 厄介なことだ。


 だが、あの三バカは死刑じゃないんだな。


 ……おそらく、グルドゥスに関しては国王であり、尚且つ禁術を行使しようとしたからこその死刑ではあるが、三バカたちは禁術の行使を知りつつ、手伝いなんかをしたから、だろうな。

 直接計画を立案し、実行に移すまでの計画をこなしていった国王と、その計画を知り、手伝いをしていた三バカとでは、微妙に違うのだろう。


 俺的には、あいつらも普通に死刑にしてもいいとは思うが……多分、三バカは見せしめの意味も強そうだな。

 後は……奴隷落ちが確定している以上、今までの行いが帰ってくると思うし。

 ま、自業自得だ。


「リリアさんが女王になることはわかったけれど……正直、かなり兵力が低下しているわよね?」

「はい……正直、そこが問題でして……」


 痛い所を突かれたと、リリアさんはしゅんと俯く。

 元団長のあのバカたちだが、あれでも一応武力は人間にしてはある方だった。


 しかし、今回の不祥事がバレ、国王共々投獄。

 一応、王族のバカたちとは違って、あいつらは犯罪奴隷として今後を生きることになるんだが……ハッキリ言って、あれでも兵力と言う意味では高かった。


 しかし、その兵力がごっそり減ったのだ。

 甘い蜜を吸っていた騎士団員たちも、酷い者では奴隷落ち、さほど出ない場合は、騎士団で強制労働。

 なので、かなり厄介なことになっているわけだ。


「……そのぉ、アリスちゃん、いえアリス様。一つ、お願いがありまして……」


 と、ここでリリアさんがものすご~く申し訳なさそうにしながら、お願いがあると言ってくる。


「……まぁ、何が言いたいかは想像できるわ。とりあえず、聞きましょう」

「ありがとうございます。その……で、できれば、我々に協力していただけないかな~って思っておりまして……」

「どのような立場で?」

「え、えと……う、裏の組織、みたいな感じで……諜報機関とか、そう言う位置付けです、ね」

「ふむ……」


 何それカッコよ。

 俺は元々、国なんざどうでもいい。

 今回俺たちが動いたのは、単純にムカつくから、というのが根本的な理由だ。

 だからこそ、国に関わるつもりなんてさらさらなかったし、これからもそういうつもりはないんだが……。

 ふぅむ。


「うーん……とりあえず、それは考えさせてほしいわ」

「そうですよね……」

「いえ、提案自体は問題ないのだけれど」

「え、そうなのですか?」

「えぇ。というより、わたしたちが治めている土地があると思うのだけれど、問題はそこの扱いね」

「あ、そう言えばいくつかあるんでしたっけ」

「そうよ。この街もそうだし、他にもいくつか。一ヵ所を除き、配下一人一人が治めていて、その数は八ヵ所」


 正直、王が変わるのならば、そこの所の扱いをどうにかしたいところだ。

 対外的に見れば、うちの組織で納めている土地と言うのは、悪徳貴族共からぶんどったものだからな。

 なので、正直傍から見るとそれはもう否定のしようがないくらい黒なので、できることなら認められるような状況になればいいわけで。


「……なるほど。たしか、あまり良い扱いを受けなかった街、ですよね?」

「えぇ、そうね」

「であるならば…………」


 リリアさんは何かを思案している様子だ。

 どうしたのだろうか?


「わかりました。それでしたら、現在アリスちゃんたちが所有している土地はあくまでも、自治区としましょう」

「いいのかしら? それは、私たちが治めることを許可すると言う事よね?」

「はい。さすがに、今回は没落貴族があまりに多すぎますし……ですので、いっそのことアリスちゃんたちが治めている街を自治区としてしまった方がいいかなと。もちろん、税なども払っていただきたいのですけど……」

「それはもちろんだけれど……それだと、仮にこの国が戦争になった場合、わたしたちはその戦争に参加しなければならないのでは?」

「いいえ。貴族であれば参加しなければいませんが、自治区であれば問題はありません。言ってしまえば、貴族が治めず、普通の平民の方が治めると思っていただければ」

「なるほど」


 悪くない話……いや、かなりいい話だろう。

 俺たちは税を払うだけで、戦争に参加する義務もなければ、大手を振って取引なんかもできるようになるわけだからな。

 しかし、それでは国側にメリットがほとんどないだろう。

 生憎と、今はうちのほうも住民が誘拐されたショックやら、そこでされたこと、その他にも色々なことがあって人手不足だ。

 元はかなり稼げていたんだが……ふぅむ、それではこちらが申し訳なくなるだろうな。


 それに、俺はリリアさんを割と気に入ってるんでね。

 実際、あのエルフたちに対し、リリアさんはそれはもう平身低頭謝り、今後の生活を保障もすると約束。


 あとはまぁ、金銭的な援助もするそうだ。

 なんでも、今までバカ貴族共からの賄賂などが、愚王や三バカたちの懐にあったみたいで、それらを分配し今回の被害者たちに充てると言っていたしな。もちろん、そこにはエルフも含まれてる。


 王族であるにもかかわらず、頭を下げて謝る姿に、エルフたちはそれはもう感銘を受けたそうだ。

 その結果、エルフたちはリリアさんをえらく気に入ったようで、できることならばこの国で暮らしたいと言って来たそうだ。


 うーん、すごい。

 俺、関り自体は浅いが、そうやって周囲が味方してくれるのは、そいつ自身の人徳があると言う事だからな、なので俺的には気に入ってるわけだ。

 できることと出来ないことの区別が出来ているのもいいな。


 それに、国民からの支持もあるのがでかい。

 もちろん、まだまだ甘い所もあるかもしれないが……まあ、あれだあれ。

 結局性格さえよければいいわけ。

 なら、そうだな。


「わかりました。その案を受けましょう」

「じゃあ――!」

「ただし」

「な、なんでしょうか?」

「もしも、戦争になった場合は、うちからも戦力を出しましょう」

「え、い、いいのですか!?」

「ふふ、さすがにそこまでされれば、ね。とはいえ、住民たちが参加するのではなく、わたしの配下――つまり、各街を治めている者たちのみの参加だけれどね」

「で、でも、アリスちゃんの配下の方たちって、その、すごく強い、ですよね?」

「当然。悪の組織たるもの、強くなくては。……だから、有事の際はわたしたちも協力しましょう」


 それに、こちらとしても動きやすい国であれば何かとありがたいしな。

 もとより、悪逆非道の限りを尽くす組織ってわけじゃないし、普通に義賊的ポジションってのもある。

 まぁ、だからと言って関わりすぎないようにはするつもりだし、俺のたちの正体も隠しに隠しまくるが。


「ほ、本当にいいのですか?」

「そう言っているでしょう? それに……わたしはリリアさんを気に入ったもの。好きよ、あなたのような真っすぐで素直な人は」


 微笑みを浮かべながら、素直に思っていることを言うと、リリアさんはぼんっ! と顔を真っ赤にして、わたわたしだした。


「んひぇ!? いや、あ、あの、え、えっと…………あ、ありがとうございまふ……」


 あ、噛んだ。

 可愛いな……。

 それにしても、何故照れているのか。


「さて、そうなると……まずは王城ね」

「あ、それでしたら、もう建設が進んでいますよ~」

「あら、そうなの?」

「はい。アリス様のことですから、既にロビンウェイクの構成員たちに指示を出し、建築を進めております」

「さすがね、イグラス」

「いえ、それほどのことではありません」


 などと謙虚な態度を取っているが、その身からはなんか嬉しそうな雰囲気があるな。

 素直じゃない奴め。

 まあ、有能なのは事実だし、かなりありがたいがな。


 一週間重要な部分にノータッチの総帥って……よくよく考えたらまずくね?

 散々休め休めと言ってる人間が真っ先にそっちの仕事をせず、その間構成員たちや幹部たちが動いてる状況って……あ、やばい、それはダメな上司だ。


 反省反省。


 いや、一応被害者たちにトラウマが残らないよう、志望者に対してのケアなんかをしていたから、決して何もしてないわけじゃないけども。


 ……ちなみに、ケアの内容は、問題の記憶を消すという物。

 あとは、エルゼルドが目の前で普通にグロい光景を見せてしまったそうなので、それのケアも含まれており、志望者はかなりいた。

 おかげでかなり疲れたよ。


「進捗は?」

「そうっすね……今日中には完成するみたいっすよ」

「さすがね」


 やはり、建築方面に振った構成員たちがいてよかったわ。

 こういう時すごい便利。


「それじゃあ、後は王城の感性を待つだけ、と。他には何かある?」

「あ、あの~」

「リリアさん」

「実はアリスちゃんにお願いしたことが一つ……」

「それは、先ほどの裏組織とは別の?」

「あ、はい。今日、お父様たちの所へ行くことになっておりまして……その、できれば一緒に来て欲しいな、と」


 お願いどんなものなのかと思えば、その程度のことか。


「構わないわ、それくらい」


 俺としても、どんな状況になってるのかは気になってたところだし、丁度いいだろう。


「ありがとうございます! それじゃあ、早速行きましょう!」

「今から?」

「はい!」

「わかったわ。……それじゃあ、悪いけど三人とも、この後の方もお願いできる?」

「かしこまりました~」

「お任せを」

「了解っす!」

「ふふ、頼もしいわね。それじゃあ、リリアさん、行きましょう」

「はい!」


 そんなわけで、俺は後のことを三人に任せ(というか任せっきりなんだが……)、俺たちは牢獄へ向かった。




 アルメルの街から聖都までは、そこそこの時間がかかった。

 本当なら車などで行きたかったところだが、さすがにそれはまずいだろうということで、仕方なく馬車での移動だ。


「アリスちゃん」

「ん、なに?」


 ガタゴトと揺れる馬車の中でぼんやりと外の景色を眺めていると、目の前に座るリリアさんに話しかけられた。

 そちらを見れば、リリアさんはかなり真剣な表情を浮かべていた。

 真面目な話かね?


「今回は本当に、ありがとうございました」


 と、深々と頭を下げてお礼を言って来た。

 まったく、王族がぽんぽんと頭を下げちゃまずいだろうに。


「気にしないで。わたしがしたくてしたことよ」

「それでも、です」

「……そう」

「本来なら、わたくしを助ける義理などないはずなのに、こうして最後までお付き合いいただいた上に、王城の建設まで……」

「いえ、それに関してはわたしが吹き飛ばしたのが原因だから」


 アレに関しちゃ、マジで申し訳ないと思ってる。

 だが、あれはマジでああしないとまずかったと言うのもある。


「ですが、何か考えがあってあのようなことをしたのですよね?」

「……そうよ」

「その理由、お聞きしても?」

「そうね……えぇ、わかったわ。そもそも、リリアさんも関係者、だものね」


 俺は苦笑いを浮かべながら、話すことを了承した。

 さすがに、言わないのはまずいもんな、当事者なのに。


「……リリアさんは、禁術、という物を知っているかしら?」

「確か、お父様たちがしようとしていたこと、ですよね? アリスちゃんたちは邪法と言っていましたが……」

「えぇ、邪法も邪法。現実でやろうとしたら、倫理観的に問題のある物よ。これは、禁術の全てに言えることだけれど」


 そもそも、『禁』術だからな。

 明らかに使うなよ? 絶対使うなよ? みたいな名称をしているのだ、まともなものじゃあない。


「禁術はわたしたちの行動により阻止。その結果、禁術は行使されなかった。……厄介だったのは、禁術が行使されそうになったこと」

「それのどこに厄介なところが?」

「いい? 禁術とは、通常の物理法則ではありえないことを引き起こすための物。言わば、理を捻じ曲げる行為に値するわ。そして、禁術を行使する際、魔方陣を通して一時的にこの世ではないどこかへと接続される。そこから特殊なエネルギーを取り入れることで、禁術の下準備が完了するの」

「ふむふむ」

「あとは禁術の発動条件を達成すればいいわけだけれど……もし、この禁術が何らかの理由で発動しなかった場合、その特殊なエネルギーは元の世界へ戻ることが出来ず、行き場を失ってしまう」

「……では、そのエネルギーがこちらに何らかの悪影響を及ぼすから、王城を……?」

「その通り」


 話が早くて助かるね。

 この話はマジだ。


 VEO時代、禁術の説明文にはそう書いてあったからな。

 あのゲームの設定がそのままこの世界に適応されていると言ってもいい。


「そのエネルギーを消し去らなければ、ちょっとしたきっかけで暴走し、行使しようとしていた規模に応じた悪影響を周囲に与えてしまうの。あの禁術であれば……そうね、想定していた魔力を回収するために、禁術の魔法陣から半径二十メートル以内にいる生物の魔力を奪い、そして殺していたでしょうね」

「――っ!」


 殺していた、そう告げた途端リリアさんは顔を強張らせた。

 まぁ、そりゃそうだ。

 まさかクソ共の不始末で人が死んでいたかもしれないんだからな、そりゃそうなる。


「とはいえ、今回は早急に対処したから暴走する前に消せたから、問題はないわ」

「そう、ですか。それならよかったです……」


 問題ないと聞き、リリアさんはほっと胸をなでおろす。

 あれはマジで厄介だからなぁ。

 実際、VEO時代とか、負けを悟った敵組織が道連れにするためにわざと禁術の行使を失敗させる、なんて自爆があったくらいだしな。

 ほんとにやばい奴はヤバイ。

 今回のなんて、まだマシな部類だ。


 一番酷いのだと、街一個分の生命が消える、なんてのもあるくらいだし。

 いやぁ、あれはヤバかったなー。

 その場にいたプレイヤーたちでなんとか暴走を止めた、なんてこともあったし。


「……(じ~)」

「ん、どうしたの? こちらを見つめて」


 話に区切りがついたので、再び外をなんとなしに眺めていると、今度はこちらをじっと見つめてくる。

 妙に、何かを期待するような目だが。


「いえ、あの……実は、アリスちゃんに女王をしてもらえたらなぁ、なんてちらっと思っていたのです……」

「絶対嫌よ?」

「そ、それはわかっています。そのような無責任なこと、しませんから」

「わかっているならよし」


 そもそも俺、絶対に国のトップになりたくないって思ってるしな。

 絶対まともに統治できないから。


「そう言えば、わたしたちの存在はグラント聖王国の裏組織と言うことになるわけだけれど……それは一体どの範囲で知らせるつもりなの?」

「そう、ですね……それとなくそう言った組織がある、とだけ思わせる程度にしようかなと思っています」

「つまり、わたしたちが変に有名になることはない、ということね」

「はい。……嫌、でしょうか?」

「いいえ、問題ないわ。むしろ、助かるくらい」


 実際問題、悪の組織として有名……なのかはわからないが、一応は有名らしいからな、ロビンウェイク。

 そんな組織が、国の裏組織として活動してます! は、さすがにまずいだろ、対外的に。

 だからこそ、そう言う組織がある程度で済むのならばいいだろう。


「それならばよかったです」

「ところで――」


 俺たちはその後、お互いの他愛のない話をしながら、和気藹々とした雰囲気で聖都へ向かった。




 牢獄に到着。


 さすがに、ロリ姿で牢獄入るのは色々と大丈夫か? と思ったので、一旦体を大人に成長させる。

 正直、肩と胸がクッソ重い。

 あと、すんごい見られる。

 やはり、この姿はかなり男受けがいいからなぁ……。

 元々、男が作ったキャラクターならば、そりゃ男受けもよくなるという物。


 逆に、女受けする女性の容姿ってなんだ? やっぱあれか、イケメンな感じの女性か? 宝塚的な。

 ま、そんなことはどうでもよくて。


「……(ぼ~)」


 なんか、さっきからリリアさんが俺を熱っぽい視線でこちらを見てるんだが……どうしたんだろうか?

 まさか、俺に惚れちゃった的な?


 ……って、ないない! さすがにないぞ、俺よ!

 思春期男子の妄想じゃあるまいし、こんな美少女が俺を好きになるとか……ないない。

 いやぁ、自惚れないようにしないとな。いくら、容姿がいいとは言っても、今の俺の外見は女だしな!

 ……うぅむ、だが存外この体は悪くないんだよなぁ……何とも言えない。


「それで、あの愚者たちはどうしているのかしら?」

「あー……それ、なのですが……」


 俺の質問に、リリアさんは困惑しながらどこか言いにくそうな、曖昧な言葉で返す。

 何があったんだ?

 俺は首を傾げながら、リリアさんと一緒に目的の牢に近づく。

 すると、そこでは……


「ゆ、許してくれ、許してくれぇ……!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ……」

「あ、あいつが、アイツが来る……!」

「ひひっ、あひゃひゃひゃひゃ!」


 なんか、ひたすら謝り続けるバカ二人、何かに怯えるバカ一人、それから狂ったように笑うドアホが一人いた。


「……リリアさん、これは?」

「その、エヌルさんが、ですね、お兄様たちをどこかへ連れて行ったらしく、そこから戻って来ると同時に、精神が壊れていたのか、ああなってしまいまして……」

「……なるほど、それで、あちらの発狂している方は?」

「目を覚ました途端からあの有様で……」

「……ふむ」


 なるほどな。

 グルドゥスに関しては、単純に俺の魔法が原因だろうな。

 絶対的な死を目の当たりにして、いざ自分が生きてると思った結果、ああして精神が逝ったんだろう。


 実際、俺を不意打ちしようとしていた奴らが一瞬で倒された時ですら、結構狼狽えてたしな。

 まぁ、これから死刑になると考えたら、ある意味発狂した方が幸せかもな。

 そして、三バカの方は……あー、おそらくだが、リリアさんの言葉から察するに、エヌルがあの魔法をぶつけた際に連れて来ていたんだろうな。

 グルドゥスを回収する際に、どこからともなくエヌルが現れたことから、至近距離にいたことは確か。

 もちろん、転移魔法で来ていた、と言う線も考えられるが、あのタイミングだと近くにいた方が自然だろう。


 で、あの魔法を見た結果がこれ、と。

 う、うぅむ、別に殺したわけではないのに、人を殺した気分だ。

 ……特段、なんとも思わない、ってのは……なんか複雑な心境だが。


「無様な物ね。あれだけ威張り散らしていた愚か者たちが、あの程度のことで発狂し、精神が壊れてしまうとは」

「いえあの、アリスちゃんのあの魔法、あの程度、ではすみませんからね? 少なくとも、アレを見ていた国民の方々は魔族が攻めてきた! って、パニックだったのですから」

「そうなの? けれど、あれは比較的マシな部類の魔法なのだけれど」


 もっとヤバいのが普通に控えてるからな、魔法。

 なんて言ったら、リリアさんの頬が引き攣った。

 王女がしていい顔をしていないんですが。


「それで……この愚か者たちは、一体どこで禁術の情報を?」

「それについてなのですが、あまりよくわかっておらず……」

「ふーん? それは、精神が壊れてしまっているから?」


 目の前の光景を見ながら、そう尋ねると、リリアさんは首を横に振る。


「情報は吐いてもらったのですが、どうやら謎の人物がある日突然現れ、禁術の魔方陣と行使の条件を教え、そして消えたようです」

「謎の人物、ね。その姿は?」

「漆黒のローブに身を包み、禍々しいオーラを放つ長杖を持った者だったそうで……容姿については見えなかった、と」


 ローブ……なるほど、あの時会ったあいつか。

 今回の件に、あの謎の人物が関わってるってわけね。


「……そう」


 顎に手を当てて考える。


 正直、禁術なんてのはそうそう知る機会が無い魔法系統だ。

 いや、そもそも魔法と言う形に分類していいのかはちょっとあれだが、だとしても通常では知ることが無く、知っているのはそれこそ長寿な者や、尚且つ魔法の研究を生業としている者たち程度。

 もちろん、NPCだが。


 プレイヤーたちは、特定のクエストをクリアすることで、禁術について知ることができ、種族によってはレベルアップで入手可能だったりする。

 一応、一部上位職でも習得が可能だが、結構習得方法が面倒だったので、積極的に取る奴は少なかったと言える。


 もっとも、抗争なんかじゃ結構有用だったので、各組織に最低でも一人くらいは知ってる奴がいたけどな。うちもいたし。

 ってか、俺も使えるし。

 絶対使わないけど。


「それにしても……国王もそうだけれど、元騎士団長あそこまで小物とは思わなかったわ」

「……アリスちゃん、一応元騎士団長のあの方って、人間では割と強い方だったのですけど……」

「そうなの? エルゼルドは瞬殺してしまったから、いまいち強さがわからないけれど……なるほど」


 あれでも人間じゃ強い方、か。

 たしかに、鑑定結果としては、悪くない方だろう。


 VEO時代のように、HPやMP、攻撃力、防御力なんかの数値なんかは見ることが出来なくなってはいるが、職業とスキルは見ることができる辺り、この世界じゃ職業とスキルくらいしか見ることができないのだろう。


 うーむ、俺としちゃ、普通にステータスがある世界だと思ったんだがなぁ、異世界物の定番だし。

 あーでも、無いやつもあるよな、うん。

 俺の場合はそれだったってだけで。


「それで、執行はいつ?」

「明日です」

「早いのね」

「あまり遅くしすぎると、国民からの不満が出てしまいますから」


 苦笑い気味に事情を口にするリリアさん。

 あー、たしかに今までのことを考えるとそうかもしれない。

 国民としては、さっさと死んでほしい、ってのがあるだろうな。


 俺自身、国王に対する不満ってのは、アルメルの街でしか知らんから、他の地域がどうなのか知らんが、リリアさんの発言を鑑みるに、やはい他の地域でも……というか、まともな感性の奴らは、あの国王に不満を持っていたんだろうな。

 当然か。


 国民やエルフたちを攫って、禁術を行使しようとするようなバカだ。

 当然と言えば当然だな、うん。


「そう」

「お二方、そろそろ面会時間が終わります」


 と、ここで面会時間終了のお知らせだ。

 まぁ、俺的にはバカがどうなったのか見れたし、何より新しい情報も得たし、いいとしよう。


「了解よ。リリアさん、行きましょうか」

「そうですね」


 用事を済ませた俺たちは、牢獄を出た。

 そういえば、元騎士団長がいなかったので、リリアさんに尋ねたところ、どうやら特殊な義手を付けられた上で、今後は危険地域での労働が課されるらしい。

 ま、あいつはムカつくからいい気味だな。

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