16話 禁術
『――というわけで、三バカ王子は捕まえたンで』
『ご苦労様。じゃあ、地下牢に連れて来て』
『了解です』
『それじゃあ、待っているわ』
『すぐにそっちに行きますンで!』
念話終了。
「とりあえず、順調、ね」
相次ぐ配下たちの報告を聞きながら、俺はぽつりと呟く。
いやはや、この短時間で魔方陣の制圧に、第一兵舎の制圧、さらには第二兵舎の騎士の解放に、王子共の捕縛。
うーん、優秀過ぎて怖いくらいだ。
ってか、これ下手すりゃ俺いらなくね? ってぐらいなんだが。
うーむ、まあ、忠誠を誓ってくれてるみたいだし、そこはいいんだけどな。
やっぱ、今回の件が終わったら、色々としてやらなきゃだな、これは。
差し当たって、やはり休暇を取らせるべきだろうか。
何せ、俺が……というか、俺たち全員がいなくなっていた間、あいつら一年間もずっと働きづめだったみたいだしな。
うぅむ、どうにかせねば。
「あ、あの~……」
だがしかし、どういう形で休暇を取らせるか……。
「アリスちゃん? あの~、お~い」
いっそ、俺が代わりに行くか?
「聞こえていますか~?」
しかし、それをすればあいつらに反対されそうだしなぁ……。
「アリスちゃん!」
「……リリアさん、耳元で大声を出さないで」
「ずぅ~~っと呼んでいましたよぉ!」
むすっと頬を膨らませつつ、じとーっとした目で俺を見るリリアさん。
いや、まあ、うん。なんで呼ばれていたのかはわかるんだよ?
実際、原因が目の前にいるわけだしさ……でも、でもな?
「あなたの言いたいことはわかるわ。でも、でもね? ……目の前で大勢のエルフが土下座する光景はちょっと……」
名前も何も知らない大勢のエルフに土下座されているという光景は、誰だって現実逃避したくなると思うんだよ、俺。
どう思う?
俺は逃げたい。
超逃げたい。
今すぐにでも愚王をぶん殴って、そのままこの城を後にしたい。
だが、それをさせてくれそうな雰囲気じゃないからなぁ……。
なぜこうなったかと言えばまぁ……もとより副団長を救出するために地下牢に向かったら、そこには副団長だけではなくエルフがおり、ついでに助けたからだ。
尚、副団長はかなり酷い拷問でも受けたのか、体がボロボロになっていた上に、意識もなかったので、今は体の怪我全てを治療し、寝かせてある。腹が立つぜ、まったく。
「……それで、あなた方はなぜ、土下座をしているのかしら?」
とりあえず、理由を訊こう。
まずはそこだ。
やはり、相互理解こそが、最も大事だからな!
「あなた様が、我々を救ったからにございます」
「わたしは、たまたま助けただけ。気にする必要はないわ」
「ですが、我々にかけられていた、奴隷契約の呪法を解いてくださいました。そのようなことをされれば、我々としても跪かなければなりません」
「それに、あなた様からはハイエルフの気配も色濃く感じます。あなた様自身が、その方と近しい存在であると理解し、こうしているのです」
なるほど、ハイエルフの気配、ね。
しかも、その気配が原因でこうしていると。
「……ハイエルフなら、わたしの配下にいるけれど……でも、あれよ? あの娘は独特よ? 少なくとも、あなたたちを下に見るようなことはないわよ」
この世界におけるハイエルフと言うのは、エルフからすると雲の上の存在と言うべきか、高嶺の花と言うべきか……まあそんな感じなのだ。
そのため、ハイエルフはエルフの上位種と言ってもいい。
だからかはわからないが、たまーにエルフを見下すような高慢ちきが現れることがある。
そして、世の中で目立っているハイエルフってのは、大体がそう言う奴だ。
あ、一応ハイエルフの名誉のために言っておくが、そいつらはどちらかと言えば少数派で、本来はさほど気にしない奴らの方が多い。
じゃあなぜそう思われているのかと言えば……まあ、ほら、あれだ。
アイドルやアニメ等において、民度が低い部分が注目されて、全体的に民度が低いと思われる的なあれだ。
だから、間違っても、『やーい、高慢ちき野郎~』とか言ってはいけない。
……まあ、そういうまともな奴は基本的に目立つのを良しとしないからこそ、というのもあるが。
「あの、アリスちゃん」
「何かしら」
「ハイエルフってもしかして……」
「えぇ、エヌルよ。気付いていなかったの?」
「ハイエルフなんて、そうそうお目にかかれませんよ……?」
「そうね。けれど、いるのだから仕方ないわ」
まぁ、エヌルを作成するのは、それはもう大変だったんだがな。
システム的な意味でも、育成的な意味でも。
「そ、そうですかー……」
リリアさんは、なぜか諦めたような、ドン引きしたような、そんな感じの曖昧な笑みを浮かべていた。
うーん、俺的にはストーリーやら、エヌル関連やら、そもそもエヌル自身がハイエルフだからであまり不思議に思ってなかったんだが……やっぱ、現地民からすりゃ、かなり珍しい存在なんだな。
こういう常識の齟齬は、ある程度どうにかしないとだなー。
「……ともあれ、あなたたち。そろそろ顔を上げてほしいわ」
「で、ですが……」
俺が顔を上げてほしいと言うと、エルフたちはどこか渋る様子を見せる。
まぁ、エルフだしなぁ……。
だがしかし、いくら悪の組織の総帥をやっているとはいえ、さすがに目の前に大勢のエルフが土下座している光景というのは、かなり好ましくない。
というか、普通に嫌だし、止めてほしい。
「気にしないで。わたしはもとより、この国の愚王に対して心底腹を立てたからここにいるもの。愚王と敵対する者や、その被害者となった者は等しく、我々の保護対象であり、協力者だから」
「で、では、我々を保護していただける、と……?」
「えぇ。もちろん、故郷に帰すことも約束するわ。あなたたちにも、故郷はあるはずでしょう?」
ってか、この状況って、VEO内にあった戦力増強イベントだよな?
VEOでは、組織関連のイベントというか、クエストの中に、兵力を増やすと言う内容のイベントなどがあった。
一応、秘密組織か悪の組織かで、仲間にしやすい種族なんかもあったりはしたんだが……エルフってたしか、秘密組織側だったよな?
やっぱ、ゲームと現実は違うってことかね? それとも、何かの弊害か?
うぅむ、その辺の違いも、ちゃんと検証した方がいいな。
ま、さすがに戦力増強イベントではないとは思うが……。
なんて高を括っていた俺だったが、俺の言葉に対して表情に陰りを見せる。
……ねぇこれ、もしかしてなんだけどさ……。
「……我々の故郷は、にっくきグラント国王に滅ぼされました」
……地雷だったかぁっ……!
俺と同じ感想を抱いたのか、隣にいるリリアさんも酷く苦い顔をしていた。
いやまぁ、うん、あなたの場合、親族がやらかしたことだもんな……。
「つまり……行く当てがない、ということ?」
「はい……」
「なるほど、ね」
行く当てのないエルフたち、総勢百名程度。
この地下牢が割と広かったからいいが、結構いるんだよなぁ……。
だが、エルフの集落ってのは、基本的にかなり人数が少ない。
たしか、一つの集落当たり、十人~二十人ほどだったか。
少ないのには色々理由があるが……今はそれは置いておくとして。
少なからず、十カ所の集落が滅ぼされたってことだよな、これ?
……チッ、本当に胸糞わりぃなぁおい。
VEO時代からクソだクソだとは思っていたけどさ、ここまでのクズだったとは……。
あー、マジで腹立つな。
本当にこの城、吹っ飛ばしたろか?
……いや、マジでありだな。
だって、エヌルやエルゼルド、イグラスの動きによって、愚王側とそうじゃない側の仕分けはかなり順調みたいだしな……。
この城程度の建築だったら、うちの組織の下っ端の組織員たちにシフト制でやらせたとしても、一週間ちょいでできるし…………あれ、もういっそ、その方が楽?
もちろん、人は殺さない越したことはないが……俺の種族のせいか、殺しに対する忌避感という物が薄くなっている気がするのだ。
実際に殺したわけじゃないが……少なくとも、この世界で敵対した賊たちとの戦闘では、まったく躊躇せずに攻撃できていたからな。
危害を加えることに、何の疑念も抱かない、と言うべきか、これは。
それはそれで考え物だが……まあいいや。
こっちは日本とは違う。
もちろん、何の罪もない者を殺せば犯罪になるが、悪人であればその限りではない。
故に、この世界は普通に殺しが当たり前に近い位置にいる。
……実際、倫理観的な問題として、俺は常々戦争で人を殺すのと、平和な世の中で人を殺すことに対して、何が違うのか、といつも疑問に思っていたからなぁ。
結局のところ、大義名分があるかどうか、だとは思ってはいるがな。
もちろん、それでもまだもやっとする部分は大いにあるが。
……つまり、何が言いたいかというと……とりあえず、何の罪もない者たちを逃がした後であれば、この城ごと愚王を吹っ飛ばせばいいのではないか、ということだ。
……ってか、エヌルの話じゃ、禁術でとんでもないことをしようとしてるんだよな?
だとすりゃ……やっぱ吹っ飛ばした方が早いな、これ。
後始末なんかも考えると……うん、そうだな。
「リリアさん、一つ訊いても?」
「あ、はい、なんですか?」
「このお城って……国民からどう思われているのかしら?」
にっこりと、微笑みながら俺は尋ねた。
「え? んーっと……あまり良い感情は持たれていないかと……」
「その理由は?」
「やはり、罪のない人々を捕らえ、このお城に連れてこられているから、ですね……本当に、申し訳ない限りです……」
「なるほどなるほど……ふふ、ふふふふふ!」
親族のやらかしにしゅんとするリリアさんを放置し、俺はそれはもう邪悪な笑い声を出した。
その様子に、リリアさんは頬を引き攣らせ、エルフたちはどういうことかと困惑顔だ。
だが、だがしかし。
今のリリアさんの回答は、それはもう素晴らしいものだ。
「……決めたわ。わたし、このお城を跡形もなく、消し飛ばすことにするわ」
「……へ?」
「そうと決まれば準備ね。エルフの皆さん。これから、第一兵舎に向かいなさい」
「だ、第一兵舎、ですか? ですが、あの場所は……」
「安心して。わたしの配下たちが既に制圧済みよ。あの場所は既に、我々の手に落ちたわ」
「な、なんと、そのようなことまで……!」
「だから、急ぐように。そろそろ、わたしの配下の一人がここに来るかと思うから――」
「――お嬢、来ました」
「ふふ、ちょうどみたいね」
タイミングばっちりで、エヌルが地下牢にやってきた。
ぐったりとした三人の男を連れて。
「ご苦労様、エヌル」
「もったいねェ言葉です、お嬢」
「……ちなみに、いつまでその口調なのかしら?」
「こちらの方がいいですか~?」
俺が口調について尋ねると、エヌルはすぐに表情と口調を普段の柔らかい物へと変えた。
うーん、なんという変わり身の早さ。
ここまで来ると、二重人格みたいだな、マジで。
「そうね。なんと言うか、あなたの素の喋り方は、言葉に魔力でも乗っているのか、かなり威圧感があるもの。そのせいで、周囲に影響があるし」
「申し訳ありません~。以後気を付けますね~」
「えぇ、そうして」
こっちが作られた口調だと言うのはわかるんだが、素になると色々と開放的になるのかねぇ?
「さて……その三人が?」
「はい~。虫けら三人組ですね~」
虫けらて。
いやまぁ、こいつらが愚王の息子である以上、今回の一件には必ず絡んでるだろうからなぁ……。
なら、さくっと情報を抜くとしよう。
「『解呪』」
俺は状態異常系を即座に回復させる魔法を発動させ、三人を回復させる。
数秒ほどかかったところを見るに、結構強めの麻痺を使ったな、エヌル。
まあいいけどさ。
「こ、ここは……あっ、てめぇ! これはどういうことだ!?」
「なんで縛られてるわけ? 僕ら」
「こんなことをして、許されると思っているのですか!」
あー、なるほどなるほど、今のセリフを見るに、粗忽バカ、能天気バカ、権力バカ、と言った感じか。
うーむ、たしかに三バカだな、これは。
さて、そんな三バカ王子だが……
「うるさいですよ~」
ドゴンッ!
と、それはもう痛そ~うな音と共に、エヌルに頭を踏まれていた。
うーん、女王様ムーブ。
「アリス様の御前ですよ~。あまりふざけたことを言わないでくださいね~」
いつもの柔らかい声音のはずなのに、なぜか威圧感が半端じゃない。
ってか、普通に血溜まりが出来てるんですがそれは。
とはいえ、脅しというのはかなり有効的だ。
このままやるか。
「……さて、まずは自己紹介が必要かしら?」
「「「……」」」
「お返事は~?」
「「「は、はいっ!」」」
うわぁ、すっげえ心折られてる。
一度の踏みつけでこれって……。
「まずは……わたしの名前からね。初めまして、わたしはアリス=ディザスター。以後……いえ、もう会うことも無いとは思うから、見知りおく必要はないわ」
俺が自身のことを名乗ると、周囲がざわつきだした。
「あ、アリス=ディザスターって……あ、あの大悪党の……?」
「なんでそんな人がいるのさ……」
「……どういう、ことですか」
バカ三人と言えば、どうやら俺のことを知っているらしく、かなり怯えた様子を見せている。
周囲のエルフたちの方はと言えば、なんかこう……崇めてるっぽい。
勘弁してほしい。
しかし、俺とロビンウェイクってイコールで結びついてないみたいだな、やっぱ。
なんでだ?
「今回、わたしがここに来た理由は至ってシンプル。あなたたちが、わたしたちの治める地の住民を攫ったからよ」
ってか、それ以外に理由なんざねぇけどな。
「さ、攫う、だと?」
「えぇ。エルゼルドが治めていた街もそうだし、その他のわたしの部下たちが治めていた土地も、ね。しかも、わたしがいる時にも関わらず誘拐をしているなど……万死に値するわ」
最後の言葉に怒気と殺気を込める。
そうすると、三バカはガタガタと震えだす。
顔は青ざめ、がちがちと歯を鳴らす。
「もとより、あなたがた王族が碌なことをしていないことは知っていたわ。けれど、わたしの領域には被害が無かった。だから襲わなかった」
実際、VEO時代だって、俺たちに対する邪魔やらなんやらはなかった。
だから、なんかきな臭い王族たちだなー、くらいにしか思わなかったわけだ。
あとはまぁ、その時はまだゲームだったから、というのも理由としちゃあるな。
何をしようが、結局はデータのすることだし、そういう役割を割り振られた奴らだから、とも。
「けれど、あなたたちはしてはいけないことをした。いえ、わたしの領域に踏み込んでしまった、と言うべきね」
だが、今は違う。
完全にゲームではなく、現実と化してしまった。
今のところ、俺が知る範囲じゃプレイヤーは俺だけだろう。
だが、今後俺以外の奴が来ないとも限らない。
故にこそ、こいつらの蛮行を許していては、そいつらのためにならない。
……などと、長々と言ってはいるが、結局のところ、俺は単純にこいつらがムカつくのと、俺が知り合ったばかりの子供らを誘拐したことに対して、どうしようもないくらい腹が立ったのが大きな理由だ。
結局、俺がムカついたか、そうじゃないか、みたいなもんだしなー。
正直、愚王とかもう見る気ないし、吹っ飛ばすし。
まあ、生きてたらいいね、くらいにしておくとしよう。
「とりあえず、何をしようとしていたか、それを吐いてもらうとするわ。わたしが訊きたいことは……禁術について。黙秘をするのも自由だけれど、もしもそうしたら……」
ごくり、と三人の喉が鳴る。
そんな三人を見て、俺はただにっこりと、
「地獄という言葉すら生温い、そんな苦痛と屈辱、それから死にたくなるような、そんな世界に招待してあげるわ」
「は、話す! 話すから、許してくれ!」
「きき、訊きたいことは、なんでも言うから!」
「お願いします!」
うぅむ、ちょこっと脅しただけなんだが……まあいいや。
どのみち、そう言う拷問自体は俺の領分じゃないしな。
そう言う方向に伸びた(というか伸ばした)NPCがいるんで、そいつ担当だけどな。
……正直、あのNPCをリアルであまり見たくない、という気持ちがあるので、こいつらがちょっとした脅しで話すことにしたのはありがたい限りだ。
あいつは何と言うか……こう、性癖が歪みそうだから。
ってか、アレを作ったの、何気に某従姉なんだよなぁ……性癖がそっちよりだったんだろうか。
怖いな。身内。
「それじゃあ、聞きましょうか」
パチン、と指を鳴らすと、ゴゴゴゴゴゴ――と地面から椅子がせり上がってくる。
ちなみにこれ、悪の組織なら誰でも使えるスキルである。
いや、スキルと言うより……システムだろうか?
この辺は使える辺り、何が出来なくて、何ができるのか、と言う部分の基準がどこにあるのかわからなくなる。
個人的な部分はできなくなってたんだけどなぁ。
なんてことを思いながら、その椅子に座る。
「さぁ、話してくれる?」
にっこりと、だが威圧は全く消さずに、三人に禁術について尋ねた。
「――なるほど。それが禁術の全貌、ね」
話を聞き終えた俺……というより、この場にいる、三バカ以外全員が、怒りの感情を発していた。
特に、エヌルを含めたエルフたちがヤバイ。
今にも三バカを殺しそうな雰囲気すらある。
「スゥ~……フゥ~……」
話を聞き終えた俺は、なるべく冷静になるために、深呼吸を行う。
「アリス様、大丈夫ですか~……?」
「……いえ、ごめんなさい。怒りを抑えるのが難しくて」
そんな様子を見てか、エヌルが俺を気に掛けてくるが、俺は素直な気持ちで返す。
実際、このバカ共がしようとしている事ってのは、禁術と言われるのも当り前だと思うような物だった。
特に、エルフは、な。
「そんなことをするためにっ……!」
「絶対に生かしてはおけない」
「殺すべきです」
エルフたちも、なんとも物騒な方向で話が進んでいるらしく、今すぐにでも行動を起こしそうなくらいだ。
いや、内容を聞けばそりゃそうなる。
止める気もないし、正直止める権利が俺にはないとは思うが……状況が状況だ。
こいつらをここで殺せば、様々な不利益が生じるだろう。
「エルフの皆さん、今は怒りを抑えて」
「ですが!」
「大丈夫。そのまま生かすことなど、するはずもないし、させるわけもないわ」
今すぐにでも殺したいんだろうな。
一応多少の威圧も込めた言葉で言ったんだが、一応は今すぐ殺すことはしなさそうだが、それでも納得できていないような感じだ。
「然るべき場所で、然るべき罰を与えなければ意味がないから」
にっこりと言うと、エルフたちはハッとした顔をして、納得顔になる。
よし、これで問題ないな。
「さて……あなたたちがしようとしていることは、人の尊厳を踏みにじる行為そのもの。いえ、それどころか消えない屈辱を与えるようなもの。世界には、それを良いと思う者もいるかもしれないけれど……そんなものは少数。あなたたちは、自分たちが何をしようとしているかわかっているのかしら? そして、その先にあることも」
「お、俺たちの国が栄える、だろ」
「……はぁ。そんなことは絶対にありえない。いえ、最初の内はそうかもしれない。けれど……その先に待つのは戦争と衰退。いえ、滅びね」
「そんなこと……」
「あるわ。あなたたちは生まれつき、支配者側だからわからないのでしょう。いえ、それを理解する者はいる、か。リリアさんがいい例ね」
そう言いながら、俺はすぐ近くにいるリリアさんに視線を向ける。
すると、今までいたことに気付いていなかったのか、三バカたちが騒ぎ出す。
「て、てめぇリリアァッ! なんでてめぇがそっちにいやがるんだ!」
「うわー、ただでさえ無能なのに、こんな事態を呼び込んだわけ?」
「……一族の恥も良い所です。本当に、昔から気に食わないですね」
ふぅむ、こいつら状況がわかっていないらしい。
なのでここは一つ、お仕置きをするとしよう。
俺はアイテムボックスモドキ……なんかもう、長いから、IBMでいいか。アメリカの企業の名前になっちまったけど、まあいいだろう。
そのIBMからいつぞやの盗賊を返り討ちにした際に使用した棒を取り出す。
俺は棒に魔力を流し、三バカに押し当てる。
すると、
「ぐあああああああ!?」
「ぎゃああああ!」
「ぐうううあああああ!」
それはもう、素晴らしい悲鳴を上げた。
うーむ、初めて悲鳴が気持ちいいと思ったわ。
サキュバスのせいかねぇ?
「あなたたち、自分の立場をわかっているのかしら?」
「ぐっ、はぁっ……て、めぇ……」
「あらあら、随分と反抗的な目ね。いえ、いいわ。話を続けましょう」
とりあえず、話を聞く姿勢にはなったみたいだしな。
「あなたたちがしようとしたこと……『奪魔の禁呪』は、絶対に行使してはいけない禁術。それを行使しようなど……愚か。いえ、愚かすぎる」
今回、こいつらが何をしようとしたのか、それは『奪魔の禁呪』という、それはもうクソみたいな禁術のことだ。
これが禁術と呼ばれる所以は至ってシンプル。
この禁術を行使すれば、多くの者が死ぬ、そこに尽きる。
より正確に言えば、魔力を全て奪われた状態で、だ。
では、その魔力はどこへ行くのか。簡単だ。禁術を行使した奴の力になり、奪った力は一生抜けることはない。
そしてこの禁術の対象は、人種であれば誰であれ対象にできる。
つまり……人間だろうが、獣人だろうが、魔族だろうが、亜人だろうが、誰もが禁術の対象となり、その対象から魔力を奪える、ってわけだ。
そして、奪うことのできる上限など存在せず、いくらでも奪える。
そんな禁術だ。
今回、このバカ共がやらかそうとしたのは、攫ってきた各地の住民やエルフなどを生贄とし、王族が巨大な力を得ることだ。
そうして、絶対的な強者としてこの国――いや、世界に君臨し、支配しようとした、ってのがこの一件の筋書きだ。
まったくもって、とんでもないことをしようとしてやがる。
……ここで一つ、エルフについて語ろう。
VEOにおけるエルフとは、それはもう同族みな家族、という考えを持った種族。
つまり、情が深い種族なわけだが……そのエルフが、今回の一件で数多く命を落としたとしたら?
そして、そのことを知ったエルフがいたとしたら?
答えは簡単。
世界中のエルフたちが決起し、間違いなくバカ共を殺しに来るだろう。
圧倒的な個の力を持っていれば、ちょっとした軍勢なんかは蹴散らせるのかもしれないが……この国の王族はハッキリ言って弱い。
いや、一般的な強さと比較すれば強いのかもしれないが、それでも弱いと言わざるを得ない。
ってか、プレイヤー同士の抗争の方がヤバかったし。
実際、それが原因で街一つどころか、どこかの王都が一度壊滅した、なんて話もあったくらいだしな。
で、ここにいるエルフの数は百人ほど。
住民が一体どれくらい攫われていたかはわからないが、多く見積もっても二、三百くらいか?
それを全部『奪魔の禁呪』で魔力を奪った場合……それはもう、凄まじい魔力を得ることだろう。
だが、この禁術、実は致命的な欠点が存在する。
そう、この禁術、実は……魔力しか、奪えないのである。
これがどういう意味か分かるだろうか。
簡単に言えば、魔力以外、つまり魔力の制御能力やら、魔法の才能やら、そう言った物に関しては一切奪うことができず、結局は自前の力でどうにかしなければならないのだ。
で、この国の国王な。
魔法に関する才能は平凡よりも下ってところだな。
もちろん、基礎魔法でも膨大な魔力を込めれば、それはもうべらぼうな威力にはなるだろう。
しかし、使用する魔力が多ければ多いほど、それを制御する力が必要になる。
なので……結局使用できる魔力量は、今現在の魔力量と大差ない、ってことだ。
まったく、そのことを知らないのか? あの愚王。
ちなみに、なぜ俺がこの禁術に知っているのかと言えば……まあ、抗争じゃよく使用される物だったからだな。
魔法職の奴が、オラに元気をー、ならぬ、『俺に魔力をー!』をするからだな。
そうすれば、単騎で強力な魔法が放てるので、意外と使用率は高かった。
NPC? NPCは知らん。
ってか、こいつらが使ったところで、意味はないだろう。
ただ無駄死にするだけだな。
ということをかいつまんで三バカに伝える。
もちろん、VEO時代のことは伏せて。
「んなバカなことあるわけねぇだろ!」
「そ、そうだよ。だってあれがあれば」
「理解に苦しみます」
「信じないのなら、それはそれで構わないわ。けれど、事実だから」
ってか、こいつらと関わるの、なんかめんどくさくなってきたな。
話を聞いてる間も、なーんか上から目線だったしさ。
んー……もういいか。情報も得られたし。
「それじゃあ、わたしはそろそろ次のことをしたいから。『誘惑』」
用済みと言わんばかりに、俺は三バカに『誘惑』をかける。
すると、三バカの表情がストンと抜け落ち、俺の命令を聞く、従順な人形に早変わりだ。
「あなたたちはこれから、エヌルに連れられて第一兵舎へ行きなさい。その際、決して逆らわないように。そうすれば、今のところは、命は取らないでおいてあげるわ。さぁ、行きなさい」
「「「はい……」」」
「エヌル、後は頼んだわ」
「お任せください~」
「エルフの皆さんも、一緒について行って。そして、速やかにアルメルの街へ退避。ことが終わるまではそこで待機しているように」
「あ、あの、あなた様は……?」
「わたしはここに残り……ことを終わらせに行くわ」
そして、あの愚王を後悔させてやらないと、な。
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