11話 嫌いな理由

「さて……移動中だけれど、少し話しながら行きましょうか」


 今回の移動は、徒歩による移動と言いたいところだが、三日以内、できれば明日辺りには到着したいと思っているため、俺たちは車による移動を敢行していた。

 この車は俺がアイテムボックスに入れていたもので、幸いアイテムボックスモドキの中にちゃんと入っていたため、それを活用することにした。


 ……実は、全力でバフ掛けを行い、空を飛べば間違いなく車よりも早く着く可能性があるが……まあ、そこはそれ。

 個人的に、この世界で車を乗ってみたい、という気持ちもあったので。


 尚、運転はエヌルである。


「お、いいっすね。ずっと張り詰めてると疲れるっすもんね!」

「えぇ。そこで、一番考えなければいけないのは……どうやって、人攫いを行ったか、ね」


 車内にて、俺は会話をしながらの移動を提案し、エルゼルドが俺の案に乗る。

 エヌルは運転中だが、いつも通りのぽわぽわとした笑みで頷き……


「あ、あの~……こ、この動く箱は一体……?」


 本日のゲストである第一王女こと、リリアさんが車の存在に戸惑っていた。

 なぜ、リリアさんが同乗しているかと言えば……答えは簡単。

 俺が例の頼みを引き受けたからである。

 ちなみに、その時の光景がこちら。




 早速出発を……と思った直後、俺はリリアさんのことを思い出し、待っていてほしいと言った場所へ向かった。

 だが、そこにリリアさんの姿は無く、駆け足で探していると、とぼとぼと歩いているリリアさんの姿を発見。


「はぁ……どうしましょう……」


 お、いたいた。


「リリアさん」

「このままじゃ、あの人が……って、え? あ、アリスちゃん? い、一体どうしてここに……?」


 悲しそうな表情だったリリアさんだが、俺が話しかけると、少し驚いた表情に変わった。

 うーむ、これは本当に悪いことをした気分になるな……。


「少し予定変更があって。それで、さっきの件なんだけれど……」

「あ、は、はい、改めてお断りの言葉を……」

「例の件、受けてあげることにしたの」

「そうですか……受けてくれる……え、受けてくれるんですか!?」

「えぇ。だから……とりあえず、一緒に来て」

「へ? ひああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」


 時間が無いという事で、俺は体を軽く成長させる、リリアさんを抱えながら走り去った。




 ということがあり、今一緒に車に乗っている、という状況になっているのだ。


「えと、あの、あ、アリス、ちゃん? さん? は、えっと……」

「あ、ごめんなさい。こっちの方がいいわよね」


 俺はそう言うと、姿を元の姿に戻す。

 うん、やっぱこっちの方がこの姿がしっくりくるな。

 だが、あれはあれでリーチが伸びるからありだな。ちょっと特訓しておこう。


「え、小さく……? あの、アリスちゃんって一体……」


 あー、まぁ、そこは聞かれるよな。

 んー……ま、他言無用ってことにしてもらえればいいか。


「他言無用でお願いしたいのだけれど、大丈夫?」

「あ、は、はい! 絶対に漏らしません!」

「ん、そういうことなら……こほん。改めて自己紹介を、わたしはアリス=ディザスター。組織、ロビンウェイクの総帥をしているわ」

「……え!?」


 ん? なんでそんな驚愕に染まったような表情を浮かべるんだ?

 一応俺の組織、イグラスたちの報告じゃ、名前は広まってないって話だったが……どういうことだろうか。


「あ、あのあのあのあの……! あ、アリス=ディザスター、ってえと……悪人の……?」

「……そうよ。ロビンウェイクは悪の組織。怖い?」

「い、いえ、その、あの…………す、すみません、怖いです……」


 正直だなぁおい。

 だが、その正直さ、嫌いじゃない。

 ってか、組織は広まっていないのに、俺の悪名は広まってんのな。

 よくわからんな……ってか、悪人って広まってるのは何気にありがたい。


「ふふ、安心して。別にあなたを殺すようなことはしないわ」

「じゃ、じゃあ、わたくしを攫って、あーんなことや、こーんなことを……!?」

「しないわ」

「で、では、わたくしを手籠めにして、ひ、人に言えないような、その、あれこれをっ……!?」

「だからそれはしねぇよ!?」

「へ?」

「あ」


 しまった、つい素が出てしまった。

 ロールプレイロールプレイ……!


「こほんっ。……ともあれ、わたしはあなたを殺す気も無ければ、害する気もない。目的は、愚王や王子たちの討伐だもの」

「……あの、国の乗っ取りとかは……」

「それこそ、する気はないわ。わたしはもとより、国になんて興味がないもの」


 俺は組織だけで十分だわー……。

 国の運営とか、絶対碌なことにならないに決まってる。


 ってか、なんで異世界転生・転移系の主人公は、国をいきなり持っても平然と運営が出来てるんだよ。おかしいだろ。お前、元の世界じゃ大多数が学生、ニート、社畜、このどれかじゃん。大体。なのに、なんで国の運営? Why?


「え、でも、その……あ、アリス、様は、悪の組織の総帥、なんですよね……? 一体どうして、わたくしの頼みを聞いてくれたのですか……?」


 まぁ、そう言う質問が来るのは当たり前か。

 ……まあいいだろう。理由を話すとしよう。


「……わたしにはこの世で最も嫌いなものがあるの。それはもう、思わず殺意が全身にまとわりつき、衝動的に元凶たちを消してしまいたくなるくらいの……それくらい嫌いな物が」

「そ、それは一体……」

「……ブラック企業よ」

「ぶ、ぶらっくきぎょー?」

「えぇ。ブラック企業は、人を人とも思わず、尊厳を踏みにじり、利益しか考えず、社員の意見はガン無視し、さらには無理難題なノルマをふっかけ、仮に体調を崩そうが、怪我をしようが、そんなことはお構いなしに出社させる。そして、最後は人を死なせてしまう……それが、ブラック企業。この世で最もおぞましく、最も悪の組織と言える組織の総称よ」

「と、ところどころわからない単語がありましたが、そのようなおぞましいものがあるのですね……!」


 俺の説明を聞いたリリアさんは、戦慄していた。

 あぁ、本当におぞましい存在だ。

 何せ俺はこれで……


「……わたしはそのブラック企業が理由で、父を亡くしているわ」


 父さんを失っている。


「「「えっ……」」」


 短い、けれども驚きが籠った声が、三つ聞こえた。

 そういや、こいつらにも話してなかったか。


「……だからこそ、わたしはブラック企業が嫌い。そして、人を不当にこき使う人間も嫌い。わたしが愚王と王子、そして騎士団長を討伐しようと思ったきっかけは……街に来ていた騎士団を見たから」


 あの時、一部は血色がいい奴らもいたが、大半は疲労困憊になっている人ばかりだった。

 あれは、ブラック企業に勤めていた俺の父さんと同じような表情だった。


 俺の父さんは、優しくて穏やかな人だった。

 どんな時でも、俺や母さんを優先しようとしてくれて、実際に優先してくれることもあった。


 だが、それをブラック企業が奪ったのだ。


 ある日、父さんがもともと務めていた会社が倒産し、別の会社に入社したのだが……その会社がかなり酷い場所だったのだ。

 時代錯誤も甚だしいパワハラなんて当たり前で、それをもみ消すこともよくあり、病気や怪我をしても出社しなければ給料を減らすと脅し、無茶なノルマが達成できなければ、さらに仕事量を増やす。

 サービス残業も当り前のようにやらせて、いつしか父さん疲労や心労により、みるみるやつれていき……最期は、会社で過労死してしまった。


 当然、この一件はもみ消される……などということはなく、とある人物の活躍により、その会社の悪事が明るみになると、芋づる式で証拠やらなんやらが掘り出され、結果的に社長や役員、その他にも何らかの悪事を働いていた奴らは軒並み塀の中へ引っ越していった。


 だがしかし、死んでしまった父さんが帰ってくることは無い。


 結局、俺と母さんの手元に残ったのは、会社からの賠償金と、父さんが自身にかけていた保険金。

 多額の金が入ってきたが、俺たち家族には虚しいだけの金だったし、何より俺と母さんの仲が冷え切るきっかけとなった。


 母さんが自暴自棄になったのだ。

 家事もろくにやらず、日がな一日怠惰に過ごすだけの、そんな人になってしまった。


 金だけは無駄にあったから、全く問題なく生活が出来ていた。

 でも、母さんは何もしなかった。


 もともとは厳しくも優しい人だったのだ。

 いつも疲労困憊な父さんを心配し、気遣っていた、そんな人だった。


 だが、その父さんが死んだら、母さんは人が変わってしまった。

 もちろん、俺も最初の頃は母さんを支えるべく、どこかへ連れ出そうとしたり、美味しい食事を作ったり、他にも何か面白そうな映画を見つけて観賞したり……そんなことをしていた。


 だが、それはあまりいい結果を生むことはなく、むしろなんて言うか……母さんが少しヒステリックになってしまったのだ。

 それは仕方のないことだったと思う。

 だが、当時の俺は中学生で、少しずつ大人の考え方に移り変わり始める時期でもあったが、それでもまだまだ子供だった。だから、やや感情的になってしまい、それ以降、俺と母さんの仲は冷え切ってしまったのだ。


 それがずっと続いていった結果が、こちらの世界へ来る前のあのやり取りだ。

 俺が二十歳になっても大して変わらず、むしろ、俺も意固地になっていたんだろうな。

 数年前のことで、未だに悪い関係性になっているのだから。


 じゃあ、俺はそんな母さんのことが嫌いなのか、と言う話になると思うが…………正直に言えば、俺的には母さんが心配だ。嫌いになど、なるはずがない。

 俺がいなくなって、余計に精神が壊れていないだろうか、そんな心配があるのだ。


 こっちの世界に来た当初、俺はどうでもいい、的なことを思っていたり、そもそも元の世界でクソ女、などと言っていたりしていたが、実際のところは本気で思っていない。

 俺がゲームに逃げるようになったのも、単純に気まずいからってのもあるし、何より母さんの普段の様子を見ていると、一人でいることを望んでいるようにも見えたから。

 ……もちろん、そんなもんは俺の勝手な予想でしかないし、母さんが実際にどう思っているのかわからない。


 だが、これだけは言える。

 悪いのは母さんではなく、ブラック企業なのだ。

 父さんが亡くなる前は、本当に仲のいい家族だったのに、亡くなった後はバラバラ。


 いつかは、元の母さんに戻ってほしいと、心の奥底では常に思ってはいたが……結局、そうなる前に俺はこっちに来てしまった。


 いや、俺から歩み寄ろうとしなかったことも問題だろう。

 何もしないで意地ばかり張るのは、ただの子供と同じ……あー、いや、むしろ俺の方がもっと悪いか。子供の方が、真っ直ぐに言えるからな……。


 まったくもって、情けない話だ。

 結局、会えなくなった時にこういうことに気付くんだもんなぁ……。


 ……それに、俺はブラック企業がトラウマになっているし、何よりこの世で最も醜い悪の巣窟だと思っている。

 だから俺は、騎士団の光景を見て、潰そうと思ったのだ。


 余談だが、俺の組織の基地がオフィスビルの形をしているのは、現代地球における悪の組織がブラック企業だと思っているからである。


 ということを、軽く濁しつつ、俺は車内にいる三人に聞かせた。

 正直、エヌルとエルゼルドはともかくとして、初対面であるリリアさん相手に話してもいいのかどうかかなり微妙だが、俺がなぜ行動を起こすかの理由についての説明をするのならば、これがマジで必要だからな。


 で、そんな俺への反応はと言えば……


「即刻潰しましょう~」

「万死に値します」

「アリスちゃん、可哀そうです……」


 三者三様だった。

 だが、エヌルとエルゼルドはなんかブチギレた。

 リリアさんは同情していたあと、もうちゃん付けに戻っていた。

 いやまぁ、あんまり様付けされるのも好きではないので、むしろありがたいくらいだが。


「エヌル、エルゼルド、その企業はもう消えているわ」

「ですが~……」

「それに、もうその男たちと関わることは無いわ。世界が違うもの」

「世界が違う……? あの、アリスちゃん、それって一体……」


 おっと、いかんいかん現代地球のことは話さない方がいいだろう。

 ……だが、うちの幹部たちには話した方がいいのかもしれないな。

 ややこしいけど。


「気にしないで。……さて、話が脱線したわ。戻しましょ」

「あ、そう言えば誘拐方法についてでしたね~。何か心当たりでもあるんですか~?」

「いえ、まったく。ただ、街の中に正面から入ったわけでもなく、突然人を攫って行く愚か者たち……さすがに、転移をしているわけではあるまいし…………………ん?」


 自分で話をしている最中、ふと引っかかりを覚えた。

 転移?

 転移か……。

 ……いや待てよ? そういや……。


「エヌル」


 一つ思い当たったものがあり、俺はそれを確認するべく、エヌルに話しかける。


「なんでしょうか~?」

「あなたたしか、転移が出来るスキルを持っていなかった?」

「はい~、持ってますよ~」

「それの効果はどのようなものなの?」

「ん~と~、私が視認した空間内のどこでも転移ができる、という物ですね~」

「制限は?」

「少なくとも、障害物があると失敗しますよ~。あ、透明度の高いガラスなら問題ないですね~」


 ぶっ壊れかよ。


「……ちなみにそれは、スキル?」

「ん~、どちらかと言えば魔法でしょうか~?」

「その魔法、もしかしてアイテムとして生成できる? 例えば、創造士の力とかで」

「あ、はい、可能ですね~。というより、腕が良ければ錬金術士でも構いませんし~、なんでしたら、ハイエルフとまではいかずとも、高レベルのエルフであれば、魔法陣として設置できますよ~? もちろん、持ち運び可能ですし~」

「……マジ?」

「マジですね~」


 なるほど……ってかこいつの転移スキル、そう言う奴だったんだ……。

 なんか知らんうちに覚えてたからよく見なかったけど、かなり強力だな。

 しかし……ふむ、なるほどなぁ……多分あいつらが使用した方法、それだろ。

 なら、話は早い。


『イグラス、聴こえる?』

『はっ、聴こえております』


 よし、成功。

 どうやら、問題なく話せるらしい。

 これは、自身が擁する組織のNPCに対してのみ有効な、《念話》というスキルである。


 組織に所属するプレイヤーは基本的に習得可能だが、相手がNPCのみだったので、さして強力なスキルではなかったが……現実となった今ならば、このスキルはかなり強力と言えよう。

 今のこいつらはNPCではない、自分で考え心臓で動くれっきとした生命体だ。

 間違っても、文字列で構成された情報体などでは断じてない。

 ならば、このスキルは遠隔で指示が出せると言う意味で、かなり有効だろう。


『一つ、住民を攫っているギミックの仮説が出来たわ』

『それはどのような?』

『転移系魔方陣が街のどこかにあるのではないか、という予想』

『……なるほど、たしかにその可能性は高いですな。ふむ……では、私めがすぐさま捜索致しましょう』

『お願い。見つかったらそのままにしておいて』

『よろしいのですか?』

『……転移って、行き来ができるわよね?』

『はい』

『それならぁ……相手がこちらに転移してきたタイミングで、愚か者共をあなたが制圧し、そして人質にして……向こうに乗り込めば戦力倍増、そう思わない? さらに言えば、あなたも行き来出来て守護もできる。……もっとも、あなたの負担が増えるから、嫌なら嫌で断ってくれて構わないわ』


 我ながら、そこそこあくどいことを言っていると思うが、同時にこれ、結構イグラスの負担がすごいのである。

 どんなにイグラスが強く、スタミナがあるとは言っても、一人である関係上、行ったり来たりしながら守護するとかなかなかに大変だろ。

 そう思っての最後の方のセリフだったのだが……


『滅相もございません。アリス様が、私めならば可能であるとお考えしての命令でしょう。故に、私めが嫌と思うことなどありはしません。確実に、その命をこなして見せましょう』


 うーん、忠誠心。


『……そう、無理はしないように』

『ありがとうございます。では、早速行動に移ります』


 念話終了。


 ……なんと言うか、優秀でありがたい限りです。

 とはいえ……やっぱマジで交代制で休みを入れないとまずいな、これ。


 よし、この一件を片付けたら、近々全員を組織の基地に集合させるとしよう。いやマジで。

 ってか、エヌルやイグラス、エルゼルドの反応を見る限りだと、他の奴らもすんごい感極まりそうで怖い……だってあいつら、基本的には俺たちプレイヤー側が作り出した存在だが、なんか知らんけど製作者である他のプレイヤーそっちのけで俺に対する忠誠心が高いんだもん……。


 エルゼルドがいい例だよね、これ。

 試しに、製作者であるマッスル権蔵についてどう思う? ってか、俺とどっちが大事? なんて聞いたんだが……


「あー、まぁ、創造主という意味では、父のように思ってるっすよ。ただほら、その父を従えてるのがアリス様ってわけで……どっちを優先するかと言われると、アリス様っすかね?」


 とのことだった。

 エルゼルドでこれだったんだ、他の奴らも同様の反応をしそうでなぁ……。

 なので、顔合わせついでに、休日のシフトでも決めようかなと。

 とはいえ…………正直、会いたくない奴もいるが……うん、考えるのは後だよ後。どうせ、その時の俺がどうにかするだろう、うん。


「アリス様?」

「あ、ごめんなさい。少し、イグラスと話していたわ」


 嘘です。

 本当はささっとイグラスとの念話は終わらせて、その後はずっと休暇のことについて考えていました、なんて言えるわけが無いので、心の中に押し込む。


「ということは、アリス様は方法について解答を得たのですか~?」

「仮説、だけれど」

「ん~……あ、なるほど~、だから私のスキルについて尋ねたんですね~」

「そういうことよ」

「え? え? どういうことっすか?」

「あの、わたくしにも説明を……」


 あ、そう言えばリリアさんは知らなかったっけか。

 んー、まぁ、色々と必要だろうな、これから敵さんの本拠地に殴り込みしに行くわけだし。


「エルゼルド、とりあえず過程の説明」

「あ、了解っす。とりあえず、王女さん――」


 かくかくしかじか。


「そのようなことが……申し訳ありませんでした!」

「いや、なんで王女さんが謝るんで? 悪いのはクソ王だと思うんだけども」

「あ、いえ、身内が多大な迷惑をかけているわけですし、わたくしもその血を引いていますので……」


 な、なんていい人なのか。

 身内がバカやったのを、自分が原因ではないと言うのに謝るとは……うーん、マジでこういう人はなかなかいないだろう。

 俺の能力により、全く嘘をついていないわけだからこれが本心からの謝罪だとわかる。

 うーむ、この国の貴族や王族ってのはクソしかいないと思っていたが……どうやら、唯一の良心と言えよう存在が王族にいたとは。

 是非とも、今後も仲良くしたいところだ。


「あなたが謝罪する必要はないわ。悪いのは問題を起こしている方。あなたは何一つ悪くない」

「でも、わたくしが止めていられれば……」

「……力なき者は、いつだって自身の無力さを嘆く。でも、それが罪とも言わないわ。適材適所。最も大事なのはそこ。自分には自分の合った分野がある。あなたは力ではない部分が分野だと思えばいいの」

「自分の……?」

「えぇ。わたしだって、苦手な分野はあるわ。けれど、そこを補ってくれる存在が、わたしの組織にいる人たち。エヌルだって、エルゼルドだって、さっきの老紳士執事だって……みんな、わたしが出来ないことを代わりにしてくれるの。もちろん、だからと言って放置をすることは無いけれど」


 できないから、合っていないから、という理由で何一つしないってのは間違っている。

 あまりにもからっきしだったらやらない方がいいが、普通程度であれば最低限度はできていた方がいい。

 ……まぁ、結局はできる奴に任せるんだけどね。


「さて、いきなり殴り込みというのもアレね……いいわ。エヌル、一度基地に寄ってくれる?」

「お任せください~」

「基地、ですか?」

「えぇ。……あ、もちろん他言無用だけれど……そうね。少しだけ、意識を失ってもらうわ」

「ふぇ?」

「『ヒュプノス』」

「はきゅっ……」


 魔法をかけられたリリアさんは一瞬で眠りに落ちると、俺の膝に頭を預けて倒れ込んだ。

 ハイ終了。


『ヒュプノス』は、催眠、特に睡眠特化の状態異常魔法で、魔族系、特にサキュバスやインキュバス、吸血鬼なんかが習得可能。

 相手とのレベル差や、相手の魔法耐性なんかによって成功する確率が変動する。


 あと、どうでもいい疑問だが、ヒュプノスってたしか、ギリシャ神話の神の名前だったと思うんだが、何故に神の名前をスキル名にしたのか。

 いやまぁ、日本じゃよくあることだけど。


「急ぐわよ」

「は~い~」


 ……それにしてもさすが王女と言うべきなのか、美少女だからと言うべきなのか、寝顔が可愛かったです。

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