10話 とりあえず、ムカついたので
さて、そんなこんなで喫茶店に来たわけなのだが……
「はむはむはむっ……!」
目の前の美少女ことリリアさんは注文した料理をものすごい勢いで口と胃に詰め込んでいた。
なんだかリスみたいで面白いし、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「急いで食べるとのどに詰まらせるわ」
「んぐぅっ!? んんっ! んん~~~っ!」
「ほら、言った傍から……はい、お水」
「ごくっごくっごくっ……はぁっ! ふぅまたしても命を助けられましたね……」
「これくらい、なんてことないわ」
というか、飯食って死にかけて、それを助けたら、命を助けられましたって……さっきと状況の温度差が激しいんですが。
「その様子だと、しばらく何も食べてなかったみたいね」
「ほうへふ……ひろひろはっへはひほ……」
「口の中に入れた状態で喋らないの。とりあえず食べ終わるまで待つから、ゆっくり食べなさい」
「ごくんっ。ありがとうございます……」
おや、ちょっと恥ずかしかったのか、少し頬を染めて俯いてしまったぞ?
うぅむ、可愛い。
なんかこの人、愛嬌があるな……。
ともあれ、食べ終わるのを待つか。
待っている間、適当に紅茶を飲みながら待つこと十分、ようやく食べ終わったリリアさんは、とても満足そうな表情であった。
なんというか、マジで可愛い以外の感想が出ない。
「さて、食べ終えたところで、話を聞かせてもらえるかしら?」
「あ、はい。えっと、その……あんまり公には言えませんし、突然かもしれませんが……助けてくださいっ!」
どこか視線を彷徨わせていたリリアさんだったが、意を決したような表情を浮かべると、助けてほしいと言いながら思いっきり頭を下げてきた。
「……いきなり、何?」
俺氏、困惑。
突然美少女に助けてください! とか言われると、個人的には何かの詐欺か何かを疑うんだが……見たところ、リリアさんは微妙に嘘が苦手なタイプに見える。
なので、少なからず騙そうとしている色は無いし、割と切実に頼んでるなこれ。
「あの、えと……わ、わたくしの……そう! わたくしのお友達が、ですね?」
あ、これ絶対本人の話や。
「実は、その方がかなり厄介な事件に巻き込まれそうなのです」
「事件?」
「はい……かなり非人道的と言いますか、とんでもないことをしようとしている方がいまして、その悪事をどうにかするために、わたく――こほんっ! お友達がどうにかしてくれそうな協力者を探していて……だから、その……た、助けてくださいっ!」
ふぅむ……なるほどなるほど……。
いやそれやっぱあなたのことですよね? 今、『わたくし』って言いかけたよね? どう考えても嘘ですよね? あと、作り話が下手だし、なぜ隠そうとしたし。
うーん、個人的には知り合ったばかりとは言え、なんか面白いなこの人、的な認定をしているわけだが……正直、俺にもやることという物がある。
「手伝ってあげたいのはやまやまだけれど、わたしにもやることがあるの。今はその件が片付くまでは協力はできないわ」
「そんなっ! そう言わずになんとかっ!」
「そう言われても無理なものは無理よ」
少なくとも、うちの組織の運営資金がマジでいつかでかい問題になりそうだからな。
まずは、どんどん収入が減額していることに対してどうにかしなきゃいけない。
そんな中、見ず知らずの人間の手助けをしているほど、俺は暇じゃないし、正直厄介ごとの匂いしかしてないからな。
無理だわ。うん、無理。
可哀そうだけども……可哀そうだけども!
いや別に、助けたくないわけじゃないんだがな?
「そう言わけだから、他を当たって。あ、ここの支払いは私が済ませるから安心してほしいわ」
「ど、どうしてもだめですかっ!?」
「無理ね」
「うぅっ、で、でも本当は……?」
「無理ね」
「どうしても、ですか?」
「……わたしも、色々複雑な事情があるの。ごめんなさい」
「そっ、そんなぁっ……」
すまない、これもうちの組織の奴らのためなんだ……個人的に、あいつらを優先しなくちゃいけないからさ……マジで申し訳ないと思う。
「それじゃあ、わたしはそろそろ行くわ」
「え、ほんとに行っちゃうんですか!?」
「またどこかで会えたら」
後ろで何かを言っていた気がしたが、俺はばっさりそう切り捨て、喫茶店を出た。
あ、もちろん、会計はしましたよ。
「あの、アリスちゃん、いえ、アリス様っ、本当にお願いしますぅっ……! このままだと、取り返しのつかないことになっちゃうんですよぉ~っ……ぐすっ……」
「……」
……どうしよう、リリアさんが全然諦めてくれない。
むしろ、食い下がってくるんですが。
しかも、若干半べそかいてるし。
くっ、皮はロリでも中身は普通に二十歳直前の男だから、すんごい気になって仕方ないし、すんごい心が苦しい。
だがしかし、助けない理由が組織のこと以外にももう一つ、俺にはあるのだ。
「……一つ、解せないことがあるわ」
「な、なんでしょう!?」
「あなたはなぜ、助けてほしい内容を誤魔化し、尚且つ具体的なことを言わなかったの?」
「うっ……」
これである。
正直な所、助けてほしい理由が理由になっていないのである。
いや、大雑把な理由にはなっているのかもしれないが、どうにも不透明だ。
本当の目的がわからないし、それがわからないことには手を差し伸べるなど不可能だし、何より中途半端な情報は命取りになる。
……いや、多分これ、事情を明かすと確実に断られると思ったから、って可能性もあるのか。
少なくとも、その可能性は大いにありそうだ。
だが、そんなもん言わない理由にはならんだろう。
故に、助けない、というわけだ。
……もちろん、決して助けたくない、と言うわけではないが。
「せめて、どのような事件が起きるのか、それを教えてほしいわ」
「……話したら、助けてくれます……?」
「中身次第」
「じゃ、じゃあ、その……簡単に説明します、ね?」
「えぇ、手身近にね」
よし、これで少しは情報が手に入る。
「実は、その……わ、わたくしの名前は、リリアール=クオン=グラントと申しまして……」
「グラント……? グラント……グラント?」
「は、はい……その、お察しの通りと言いますか、わたくしはこの国の王女、でして……」
おっとー? とんでもない厄ネタが出てきたんですが?
というか俺、よく素っ頓狂な声が出なかったな。
やはり、アリスのロールプレイが完全に染みついているのか……。
いいことなのか、悪いことなのか。
「それで?」
「その、事件を起こそうとしている方というのが、お父様やお兄様たちで……私は、その企てを止めたくて、でもわたくしは非力だから誰かに頼ろうとしたのです……」
「騎士団……は、ダメね。あそこはあまり良い噂を聞かないし」
「はい……ですが、副団長さんだけは信用に値する人物で、城から脱出しようとしたわたくしを手助けしてくれたのです……ですが、その……やはりと言いますか、お父様たちにバレて捕まってしまったらしく……このままでは、副団長さんが……」
「……なるほど。そういう経緯だったのね」
そりゃボロボロにもなるわ。
だが……ふむ、国王に王子たちが厄介ごとを、ねぇ?
少なくとも嘘は吐いていないな。
となると……ガチ、と考える方がいいんだろうが……個人的に、表立って動くのは少々厄介だ。
もとより、俺の組織は対外的には悪の組織。
それを加味しても、俺に頼むのは何と言うか……うん、言い方は悪いが、滑稽に見える。
しかし、国王、国王かぁ……あの愚王、今度は何やらかそうってんだ?
個人的に、関わった方がいいのかもしれないが……生憎と、俺の方は準備が整ってねぇ。
相手は国だろ? まともな貴族と騎士が少ないこの国を襲うってのは、さすがにできねぇ。
いくらうちの組織の戦力が高いとは言っても、人数は少ない。
だからこそ、俺は慎重にならなければならない。
異世界へ転移して早々国家の問題にかかわるのはさすがにできないしな……。
それに、相手の戦力がわかっていないのが問題なわけで。
だから。
「悪いけれど……」
と、俺が断ろうとした時だった。
「あぁっ、いたっ! 大将ぉぉぉぉ!」
「大将……?」
エルゼルドが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
後ろで、リリアさんが俺の呼ばれ方に違和感があったのか、後ろで不思議そうに呟いていた。
「……エルゼルド? どうしたの? そんなに急いで」
「大将! 大変っす!」
「話して」
何やらかなり慌てている様子だ。
俺は一旦リリアさんを放置して、話すように促す。
「うちの子供らや大人が攫われた!」
エルゼルドが話した内容というのは、簡潔でありつつ、同時に俺の怒りを引き起こす物だった。
「……それは、本当なの?」
「う、うっす! あの、昨日大将と話してたあの子供らが……」
「……犯人は?」
「恐らく、騎士かと……」
「……へぇ? それはもしかして、宣戦布告、ってことでいいのかしら?」
「お、おそらく……」
「なるほどね……エルゼルド、今すぐ準備を済ませなさい」
「大将、まさかっ!」
「えぇ、まさか、わたしがいる時に限って、しかも知り合った子供を狙うとは……万死に値するわ」
前言撤回。
俺どころかエルゼルドがいる前で悪さをするような奴に遠慮するのはダメだわ。
あいつら、マジ潰す。
「了解っす! すぐに準備を――」
『この街の代表はいるかッ!』
どうやらお客さんらしい。
だが、あんましいい予感しないし、なんだったら面倒ごとが降りかかってくる予感がするがな。
「……エルゼルド、どうやらお客さんみたいよ」
「みたいっすね、ちょいと行ってきますが……あー、大将も来るっすか?」
「一応」
少なくとも、俺はエルゼルドの上司だしな。
やっぱ、部下が巻き込まれた出来事は、俺も確認しておかねばな。
「あ、あの……」
「ごめんなさい。リリアさんは少しそこで待っていて」
「あ、は、はい」
なんか、きな臭い。
そんなこんなで、お客さんがいる街の正門に到着。
そこでは、何やら街の住民がまさに臨戦態勢と言わんばかりの様子で、来客者たちと睨み合っていた。
相手は……なるほど、そりゃ睨まれるわ。
「私の名は、グラント聖王国騎士団長、アローゲン=ブラスクだ! 代表者はいるかッ!」
しかも、代表者は騎士団長と来たか……なぁこれ、やっぱ結構な面倒ごとが起きてね?
「はいはい、俺が代表者だぜ」
「……貴様が?」
まさか、年若い(と言っても実年齢は結構上)なエルゼルドが出てきたことに、騎士団長は怪訝そうな表情を浮かべる。
「ああ。色々と事情があってね」
「ほう? 貴様の事情は知らんが……貴様は、この地が我がグラント聖王国所有の物であることは知っているのだろうな?」
「そりゃぁね。ってか、知らないわけないじゃん」
「つまり貴様らは、この街を占拠している、ということだな?」
「占拠? いやいや、前の統治者とは違って、俺は真っ当に街を運営してますがね」
「いいや、貴様がこの街を占拠したことにより、被害が出ている」
「へぇ? 被害、ねぇ? 一体どんな」
「貴様らの行いにより、我が国は多大な損失を被っている。故に、この街を占拠する賊や、その賊に付く住民たちには退去を言い渡す! 期限は三日だ。それまでにこの街を去るがいい!」
あー、なるほど、そう言う感じか。
期限を与えているのはいいが……それでもたったの三日、と言わざるを得ない。
三日で引っ越しができると思ってんのかね、あの騎士団長様は。
俺と同じことを思ったのか、エルゼルドは表面上はいつもの少しへらっとした顔をしているも、どこか苛立ちを見せていた。
他にも、話を聞いてた住人たちも困惑し、中には目に見えて怒っている者もいる。
だが、行動に移さない辺り、ここで何かをすれば周り被害が来るとわかっているからだろうな。なかなか心が強いと思う。俺はそんなことができそうにないからなぁ……短気な所とかあるし、正直性格がいいとは言えないし。
「ふんっ、どうやら立ち退く気が薄いらしい。まぁ、突然出て行けと言われても困るだろう。故に、男共は騎士団に所属する機会をやろう」
……騎士団に所属ぅ?
なーんでこいつはそんなことを言い出したんかねぇ?
普通に考えて、それはおかしいだろう。
どう見ても戦闘素人な男たちを雇ったところで、大して戦力にならんし、そんなだったら適性の職業に就けた方が遥かに生産的だ。
何を考えているのか……そう思った時だった。
「……おい、騎士団長様よ」
「なんだ、平民」
「お前さん、俺の息子をどうした? それに、この街の子供や若い女なんかも」
「はっ、何を言うかと思えば……我々が誘拐などと非道なことをすると思うか」
はいダウト。
あの男、自分から自白したよ。
だーれも誘拐だなんて言ってないのに、普通に誘拐とか言い出しちゃったよ。
あと、俺の能力で普通に嘘だって出てるし。
うーん、やっぱこれ強いな……。
「まあもっとも? 貴様ら女共なんかは我が騎士団で嬉しそうに働いているし? 子供共もいい労働力になっている。後ろの奴らのようにな」
なんともまぁムカつく笑顔だ。
今すぐにでもぶん殴ってやりたいが、まだ我慢せねばならないだろう、そう心に言い聞かせていた俺だったが……騎士団長の後ろにいる人たちの顔を見て、怒りが込み上げてくる。
「……おいおい、マジかよ」
思わず素で呟いてしまうくらいの光景と言えた。
そこにいたのは、虚ろな表情をする兵士たちの姿だった。
よく見れば少しやつれている人もいるし、中にはかなり疲労困憊になっている人もいた。
どう見ても、まともな働かされ方じゃねぇ……!
あれはそう、今も尚俺のトラウマとなっている表情や姿だった。
……あー、ダメだこれ。
「ともかく、だ。貴様らには三日のチャンスをやるので、それまでに考えるようにな! 行くぞ!」
騎士団長は相変わらずムカつく笑顔を浮かべながらそう言うと、兵士たちを引き連れ去って行った。
「クソッ! あのクソ騎士団がっ!」
「俺の子供は絶対あいつらに攫われたんだ!」
「私の娘もよ!」
「許せねぇ……!」
「だ、だけどよ、このままじゃ俺たちもこの街にいられなくなるぞ……?」
「国王も碌な奴じゃねぇし、王子たちだって……まともなのは、王女様くらいのもんだ……」
騎士団が去った後、住民たちがざわざわと話し出す。
中身を聞いてる限りじゃ、住民たちは騎士団が人攫いの犯人だと確信しているらしい。
しかし、人攫い、ねぇ……?
もしかして、俺が撃退したあいつらが言っていた上ってのは、貴族かと思っていたが、どうも騎士団も一枚噛んでる可能性があるな。
……だがしかし、今はそんなことはどうでもいい、やることが決まったんだ。
早速行動に移さなきゃなんねぇ。
「エルゼルド」
今まで気配を消していたが、もうその必要はないと判断してエルゼルドの前に立つ。
「あ、大将!」
「準備」
「うっす、急ぐっすよ!」
俺が準備というだけで、エルゼルドは屋敷の方に向かってすっ飛んでいった。
うぅむ、さすがの行動力と言うべきなのか、単純に忠誠心があれなのか……。
あとは……。
「エヌル、いる?」
「こちらに~」
呼んだらどこからともなく、エヌルが現れた。
なんというか、アサシンっぽくてカッコイイな、今の。
あと、今のやり取りとか、悪の組織のボスっぽくていい。
「殴り込み。行ける?」
「あら~、なんだかとてもお怒りですね~?」
「……えぇ。あの愚か者たちには、報いを見せないといけないから」
「ですね~。我がロビンウェイクでは、絶対に許されない行為ですからね~」
「そう。だから、潰すわ。エヌルはいつでも行けるかしら?」
「当然ですよ~」
「さすがね」
にしても、やはり目立つことをしたからか、やたらと視線を集めるな……ほんとは、あんまり目立たない方がいいんだろうが……こればっかりは仕方ないだろう。
本来なら、裏側で暗躍するのがうちの組織の動き方ではあるんだが、今回は最終的には表立っての事件になるだろうから。
ならば、今更隠れたところで無駄だろうし、何よりイラっと来る。
「大将!」
「早かったわね」
「そりゃぁ、一大事っすからね! あと、大将を待たせるなんて不敬なこと、できるわけないっすよ!」
「別に、不敬ではないけれど……」
「いえいえ、俺らはそう思うんで! ね、エヌル?」
「そうですね~。やはり、アリス様こそ我々にとって優先するべき存在ですので~」
「……むず痒くなるから、外では止めて」
しかも、明らかに俺よりも大人で、尚且つ強そうな見た目の奴らが、俺みたいな年端も行かないロリっ娘に恭しく接しているもんだから、余計に視線が来るし。
くっ、昔から好奇の視線に晒されるのは慣れない。
「あ、あの、エルゼルド様、このお二方は……?」
ふと、エルゼルドに話しかける者が現れた。
見たところ、年齢そこそこの老人のようだ。
「ん? あー、そっちのエルフのメイドは俺の同僚みたいなもんで、そっちの方は俺たちの主、ってところだよ」
「なんと! この方が、以前お話なされていた……?」
「そそ! ついに帰って来たみたいなんでね」
「なるほど、この方が……」
「……エルゼルド、わたしのことを話したの?」
「あー、まぁ、チラッとっすけど……ダメでした?」
「いえ、そこまでは。ただ……あまり、わたしやあなたたちの素性は話さないように、ね?」
「それはもちろんっすよ」
エルゼルドにのみに聞こえるように、小さな声で話すと、エルゼルドは大丈夫だと言わんばかりの笑みを浮かべて頷いた。
どうやら、その辺りはきちんとしているらしい。
なんだかんだ、うちの幹部は優秀そうだ。
「たしか、アリス様、でしたかな?」
「えぇ、初めまして。アリスよ。以後お見知りおきを」
「これはこれはご丁寧に。それで、アリス様はこれからどこへ……?」
「殴り込み」
「な、殴り込み、ですか?」
「えぇ。あの騎士団長……だけじゃないわ。愚王やその王子たちに対し、わたしは強い怒りを抱いているの」
「で、では、もしや……!」
「これから、わたしたちは王城へ乗り込むことにするわ。だから、そうね……いつでも、子供たちや他の誘拐された人たちが戻ってきてもいいように、受け入れ準備をしておいて欲しいの。できる?」
「それはもちろんでございます! ……ですが」
先ほどまでは怒りや悲壮感が綯い交ぜになった表情をしていたお爺さんだったが、ぱぁっ! と希望に満ちた笑顔を浮かべたものの、すぐに何かに思い至ったのか、表情を曇らせた。
「何?」
「その……エルゼルド様が強いのは存じておりますし、エルゼルド様が主と仰ぐ存在であるのならば、強者であると理解しているのですが……その、たった三人で行くのですか?」
なるほど、そう言う心配か。
たしかに、俺はそこまで強そうに見えないだろう。
だって、どこからどう見ても可愛らしいロリっ娘にしか見えないし。
しかも、こちらはたったの三人で? その上相手は国。
そりゃぁ、心配にもなるし、無謀だと思うだろう。
だが……。
「えぇ。むしろ、これ以上で殴り込めば……それは蹂躙になってしまうもの」
にっこりと微笑みながら、俺はそう告げた。
俺たちからすると、この国の騎士団程度じゃ大した相手でもない。
むしろ弱いし……さっきの騎士団長とか、見た感じエルゼルドよりも弱いぞ?
さすがに、いきなり実力行使に出たら不利になると思ったのと、人質があるようなものだからな、それで何もしなかったわけだし。
だが、こっからは違う。
俺たちが一方的に向こうを蹂躙し、そして壊滅させるために動く。
まったく、ついさっきまでの俺よ、あいつらは弱そうだから、変に慎重にならなくてもいい。
底が知れた。
もちろん、まだ何かあるのかもしれないが、そんなことをする前に俺は吹っ飛ばつもりだ。
「そ、そうでございますか……」
「あぁでも、エルゼルドがいなくなればこの街の防衛力が低下する恐れもあるわね……」
「あー、そういやそうっすね……けど、俺も行きたいんすよねぇ……」
「わかっているわ。……そうね。なら、こうしましょう」
防衛力が低下するのであれば、人を呼べばいい。
これ、常識だし定石。
というわけで……登場してもらいましょう。
「《限定召喚門:開門『イグラス』》」
俺がそう唱えると、目の前に紫色に光る魔方陣が現れる。
限定召喚門、それは組織の総帥が、基地にて待機しているNPCを呼び出すための転移魔法だ。
もちろん、なんにも制約無しに使えるわけではなく、条件がいくつかあり、それを達成することで呼び出せるのだ。
尚、その条件というのは、
1.そのNPCが召喚者に対して、一定以上の好感度があるかどうか
2.相手が応じるかどうか
3.1万エニーあるかどうか
この三つだ。
つまり、好感度が高くても応じなければ意味がないし、相手が応じても、1万エニーがなければ意味がないし、1万エニーあっても好感度が足りていなければ意味がない、そんな感じだ。
ちなみに、この時必要な1万エニーは、なんかどっかに消える。
多分、門を開くための対価なんだろうな。
あとこの魔法、よく抗争で使用して三つの内どれかが引っかかったのか、呼び出そうとして失敗した挙句、そのまま敵の組織にタコ殴りにされた奴もいたり……。
さて、イグラスは出て来てくれるだろうか……と少しだけ心配していると、魔方陣に変化があった。
魔方陣からバチバチと電気が走り、魔方陣が強く発行する。
そして、光の中に少しずつ人影が形成されていき、光が収まるとそこにはカッコいい質実が跪いていた。
「召喚に応じ、参上致しました」
「来てくれてありがとう、イグラス」
「我が身は、アリス様に捧げておりますので。……して、どのようなご用件でしょうか?」
「実は――」
俺は簡潔に先ほどの出来事をイグラスに説明した。
冷静に、それでいて穏やかな様子で説明を聞いていたイグラスだったが、次第に怒りに体を震わせ、説明を聞き終える頃にはかなり冷たい表情をしていた。
うーむ、迫力がある。
「なるほど、つまり私めはこの街をエルゼルドの代わりに護ればよいのですな?」
「えぇ。一人で大変かもしれないけれど、頼めるかしら?」
「容易いことでございます。アリス様がご命じなされた以上、それを完璧にこなせなければ側近として失格になってしまいますので」
「いえ、そこまでではないけれど……」
なんだろう、うちの幹部たちの俺に対する忠誠心がちょっと怖い。
特に、エヌルとイグラスに関しては、俺の側近として作ったからか、明らかに失敗=自決、みたいな考えを持ってそうなんだよなぁ……その内、矯正しなければ。
「でも、気合は十分、ということね?」
「もちろんでございます。この一年間、アリス様方不在であっても、誰一人投げ出さずに来たのは、こうしてアリス様と会い、そして命令を頂くためですので」
そこまでは求めてないんですが……ま、まあ、裏切る心配がないのはありがたいけど。
「そう。それじゃあ、わたしたちは出発するわ」
「かしこまりました。こちらはお任せ」
「えぇ、頼んだわ。……二人とも、行きましょ」
「「はい!」」
「イグラス、もしも敵が来た時は――」
「可能な限り、殺さずに無力化致します」
「ふふ、頼もしいわ。それじゃあ、行ってくるわ」
「ご武運を。二人とも、アリス様を頼みましたよ」
「任せてください~」
「当然」
幹部たちの士気が高くていいねぇ。
そんなこんなで、街はイグラスに任せて、俺たちは王城へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます