4話 初日は終わり、日が昇る

 三人で和やか~な食事を終え、イグラスが淹れた紅茶(俺は緑茶の方が好きなので緑茶)を呑みつつ、早速今後について話し合う。


「よっし、じゃあ早速話すとしようか」

「あ、その前にアリス様~」

「ん、なんだ?」


 これから話をしようというタイミングで、エヌルが俺に話しかけてくる。

 一体何だろうか?


「その、先の再会時も思ったのですが、以前の様なお話の仕方をしてほしいな~、と思いまして~……その~、ダメ、でしょうか~……?」

「以前の……?」


 以前と言うと何があったか。


 ……あ、もしかしてあれのことか?

 あー、まー……うん……一応この姿じゃそう言うロールプレイだったか。

 じゃあ、まあ……。


「あー、んー、んんっ! ……わかったわ、これでいい?」

「はい~! それでこそ、アリス様ですよ~!」


 そこまで言うかい。


「まずはそうね……イグラス、現状、ロビンウェイクがどんな状況なのか教えて。国内での評判や噂、それから運営状態に、各支配地についてもお願い」


 アリスが所望した話し方というのは、こういう話し方のことだ。

 もともと、この外見に合わせるため、組織内、特に組織の長として指示を出す場合などはこの話し方をしていた。


 あと、ヒーロー側との抗争時、俺の所までたどり着いたプレイヤーたちにも、俺のミックスボイスによってこの話し方をしていたので、身内以外は、この話し方=俺、みたいな図式になっているのである。


 ……ちなみに、掲示板等では、俺は実はリアル女なのでは? という噂がまことしやかにささやかれており、それを見て俺は鼻で笑っていたんだが……今であれば、嘘ではなくなったのが辛い所である。


 ちなみに、俺のアリスにおけるロールプレイのコンセプトとしては、


『物静かでちょっと声に抑揚がないけど、時に感情的になる悪役ヒロイン』


 みたいな感じ。

 何言ってんのか自分でもわからんが、マジでこれである。


「かしこまりました。では、早速国内での評判からお話致しましょう。現状、ロビンウェイクは名前こそ有名となってはおりませんが、噂という形で広まっております」

「ふむ。その噂というのは、どういうものなの?」

「我々は元々、悪の組織ではありますが、基本的には義賊に近い立場です」

「そうね。わたしがそういう方針にしたわけだもの」


 ここで軽い説明をば。


 うちの組織は、悪の組織として設定しているが、やってることはほぼ義賊だ。

 なんつーか悪事にすんごい忌避感があったわけよ。

 それなら、ヒーロー側にすればいいと思うかもしれないが、かといって俺はヒーローたちみたいに、自分の手の届く範囲どころか、その範囲を広げて助けようとする姿があんまり好きじゃない。


 こう言っちゃなんだが、なぜ見ず知らずの奴らを助けるんだ? とは思うわけで。

 たまたまその場に居合わせて、巻き込まれる形になったのならわからないでもないんだが、なぜ遠くの場所にわざわざ行ってヒーロームーブをするのかがわからない。


 その点、悪の組織はどうよ。

 自分の好きたいことをして生きてる。

 あいつらの方がよっぽど合理的だし、ロマンがあると思うんだ。

 生き方としては、そっちの方が好きではある。


 と、まぁ、そういう好き嫌いが理由で、俺はヒーロー組織にはしなかった。

 とはいえ、悪の組織は基本、悪事を働かなければいけない……などということはなく、別に悪事は働かなくても組織は運営できる。

 陣地さえ奪っちまえばいいんだもん。


 だがしかし、そんなことをするだけじゃ、上位の組織になることは不可能と言っていい。

 じゃあどうするか。

 そんなもん簡単だ。

 ヒーローなのに、悪の組織みたいな組織が支配している場所を襲えばいいんだよ。


 あのゲーム、街を自身の支配地にした後、自由に色々と出来るのである。

 税収とか、どんな作物を作るか、とか、引っ越しに関するあれこれ、とか、あとは……法律なんかも決められたりする。

 で、当然と言うかなんと言うか……それを悪用しようとする奴がいるわけよこれが。

 しかも、そう言う輩に限って、なぜかヒーロー側に多いという矛盾が生まれる。


 逆に、悪の組織側は普通の経営、もしくはちょっと悪いくらいしかないのに、ヒーロー側は極端に良すぎる経営にするか、極端に悪い経営にするかの二択しかない。


 ……まぁ、前者も後者も実際は割とクソなので、どっちみちクソなんですがね奥さん。


 尚、割とボロクソに言っているが、別に物語内における芯が通ったヒーローは別に嫌いじゃない。現実が嫌なだけである。


「我々は基本、名前を伏せて活動しており、支配地についても、各地の統治を行っているロビンウェイクの所属員についても、緘口令を敷いてあるため、特に広まることはないでしょう。故に、義賊としての噂が立っております」

「なるほど……つまり、悪い評価はない、ということ?」

「その認識で問題ございません。ですが、やはり快く思っていない者もおり……」

「構わないわ。そもそも、悪の組織だもの。むしろ、良い認識をされていることが問題な気がするけれど」


 なら俺の組織、別に悪の組織じゃなくてもいいもんね。

 だけどさ……正直な所、普通のヒーローな組織よりも、悪の組織の皮を被った義賊の方が俺的に好きなんだよね。

 こう、助けたいから助けました、みたいな。


 え? ヒーローも同じだろって?

 バカ野郎! あれと一緒にするなあれと!


 いいか、ヒーローは困っている人がいるから助ける、悪があるから倒す、みたいな少々曖昧、もしくは環境のせいにしてません? 的な理由からヒーローな行動をするが! 義賊はちょっと違うだろう!

 だってあいつら、自分のやりたいことをやってるだけなんだぜ?

 しかも、自分の出来る範囲しかやってないし。


 無理矢理範囲を広げ、しかも失敗したら罵詈雑言の嵐! 他にも信用がた落ちで? ろくなことはない。


 そもそも、そんな奴ら助けなくてもいいだろ。

 自分でどうにもできないから助けを求めてるのに、いざ失敗したらそいつのせい。

 何様だよ、と俺は言いたくなるわけだ。


 正直、ヒーローってのは、かなり綱渡りな物なのでは? と思っている。

 何せ、『無償で助けてくれる』『困っている人は見捨てない』『必ず勝つ存在』みたいな感じのイメージなわけだろ? しかも、質の悪いことに、これらはマジでそいつらの特徴と言ってもいい。

 そうなってくると、守られる側の市民はどうだ?

 自己防衛することがなくなり、しかも襲われたらすぐ他力本願。そのくせ、そいつが失敗したらそいつのせいにして、自分たちは悪くないと正当性を主張する。

 そんなバカを量産するんだぜ?


 その点、義賊はどうよ。

 本当に、心底困った奴にしか手を差し伸べていない気がするんだよ、俺。

 自分でできることは自分でやれ、と言わんばかりのスタンス……マジでいいと思う。

 ……とはいえ、その辺も義賊によるがな。


 おっと、長々とモノローグを垂れ流してしまった。


 いかんいかん。


「次、運営状態はどう?」

「早急にどうにかすべき問題はありませんな」

「その口ぶりということは……早急ではなく、いつかは対処しなければならない問題がある、そういうことで合ってる?」

「はい。現在、Eポイントは問題なくひと月ごとに支払われておりますが、運営資金の方が――」

「ちょい待ち」

「どうかなさいましたか?」

「いや待って? あの、変なことを訊くようだけれど……え、Eポイントってまだ支払われているの……?」

「「はい」」


 何を当たり前のことを? みたいな表情を浮かべながら、二人は俺の問いに対して肯定する。

 えーっと? ちょっと待ってほしい。

 なんで、Eポイントが支払われてんの?

 たしかあれ、組織の運営者じゃなきゃ渡せなかった気がするんだが……。


「そのポイントの出所は?」

「組織からとしか……」

「ですね~」


 組織から……つまり、ロビンウェイクから?

 一体なぜ?

 自動で支払いができるシステムなんざなかったはずだが……。


「ちょっと待ってもらえる?」

「かしこまりました」


 俺は一度断りを入れてから、組織運営に関するメニューを開く。

 ちなみにこのメニューだが、例のアイテムボックスモドキの検証をする際に、ついでに行った物であり、こっちは普通に操作可能だった。

 なぜだ。


「えーっと、ポイントの収支……これか」


 疑問はほどほどに、早速問題の項目をチェック。

 すると、たしかにイグラスの言う通り、ロビンウェイクの名義でポイントの支払いが行われていた。

 しかもこれ、現在組織が有しているNPCたちにも支払われてるし……って、ん? なんだこれ?

 なんか、文字化けしてる名前がいくつかあるな……。

 誰なんだこれ?


 日付は……辛うじて少しはわかるな。

 あー…………?0??年、か? いやわかるかいっ!

 明らかに見せる気ねーだろぐらいの伏字率!

 くっ、謎すぎてイラっとするなこれ……。


「なるほど……まあいいわ。ごめんなさいね、話の腰を折ってしまって」

「いえ、お気になさらず。……では、続きを」

「えぇ、お願い」

「はっ。……ごほん。改めまして、運営資金に関してですが……エヌル、例の物を」

「は~い~」


 ん、例の物?

 一体何を出すんだ?

 そう思っていたら、エヌルはパチンッ! と指を鳴らすと、宙にグラフが現れた……って、グラフて。しかも折れ線と棒グラフだし。

 マジで世界観とミスマッチすぎるだろ。


 あー、いや、ツッコミは今はいい。

 ちょっと見てみるか。


 んーと、何々?

 あ、なるほど、そう言う感じなのね。


「これ、現在の組織の収支についてかしら?」

「そうですよ~。各地の状況については一日の終わりに必ず報告書が上がってきますからね~。それをこのような形でまとめました~」

「随分と見やすい……うん、エヌル、偉いわ」


 微笑みを浮かべながら、エヌルを褒める。

 やっぱ、褒める時は褒めるが大事だと思う。


「はぅ~っ! アリス様からのお褒めの言葉ぁ~……ありがとうございます~!」


 ん? なんかエヌル、顔赤くね?

 褒められて照れてんのかね?

 そう言うタイプには見えないが……。


「ではでは~、解説させていただきますね~!」

「えぇ」

「現在、税収やその他の産業により、ある程度の収入はあるのですが~……ここ最近、少しずつ減ってきておりまして~……」

「減っているの? どうして?」

「一つの理由としましては、労働力である住民が減っている事ですね~」

「……住民? なぜ? ロビンウェイクでは、無理のない労働と、十分な休みを与えるようにしているはずだけれど……」


 少なくとも、収入源を失わないよう、常に適切な労働時間と休日を与えるような方針にしているはずだし、色々と手当てなんかもあったはずだが……。


「それについては私めから」

「ん、イグラス、何か知っているの?」

「はい。この件ですが、少々厄介なことになっているのです」

「厄介、とは?」

「どうも、聖王国が絡んでいるようです」

「……へぇ? それはもしかして、あの愚王が?」

「確証は得られてはおりませんが、おそらくは。実際、我がロビンウェイクが支配する地でも、聖王国の騎士の出入りが確認できております。しかし、あくまで確認できているだけでして……」

「なるほどね……わかったわ。その辺りは、わたしの方でも調べてみましょう」

「アリス様自らですか?」


 私……もとい、俺の提案に、イグラスが驚いたような表情を浮かべる。

 あれか、主が行くの? みたいな心境なのか?


「えぇ。それに、せっかくこの世界に来たんだし、わたしもこの目で見てみたいもの」

「なるほど……かしこまりました。では、こちらで準備はしておきましょう。期間はどの程度でお考えでしょうか?」

「そうね……とりあえず、一週間~二週間で考えているわ。可能かしら?」

「問題ございません。では、用意しておきましょう」

「ありがとう。……それで、エヌル?」

「はい~」

「あなたも一緒に来てくれる?」

「わ、私もですか~?」

「えぇ。ダメかしら?」

「いいえ、いいえ~! むしろ嬉しいくらいですよ~! じゃあ、私も準備をしてきますね~!」


 やたらテンションが高い様子で、エヌルがどっか行った。

 いや、まだ話し合いとか終わってないんだが……まあいいか。


「しかし、エヌルを連れて行くとなりますと……護衛、ですかな?」

「えぇ。いくらわたしがそれなりの戦闘力を持っているとは言っても、今はちょっと事情が違うの。まだ、体が完璧に馴染んでいるわけでもないし、何よりわたしの戦闘方法が、今の方に慣れていない、というのもあるわ」

「たしかに、私めよりも、エヌルの方が護衛は向いておりますな。エヌルの奇襲力は、ロビンウェイク内でも随一と言っても過言ではありませぬ故」

「ふふ、そうね」


 やばい、普通にこのロールプレイ楽しい。

 ゲームの時は、やっぱリアルが男ってこともあって、なんかこう……ネカマにしか見えないし、普通にきもくね? みたいな感想があったんだが、こっちでは完全にこの体が本当の体になってるからな。

 そのせいか、全然この口調で話しても違和感がない。


 ふふふ、まぁ、特に真面目な話の時以外は、素の話し方にするけどな。

 これはあれだ、『アリス=ディザスター』としての行動をする時にするべきものだ。


 ……ただ、結構しっくりくるせいか、そのうちロールプレイがロールプレイじゃなくなりそうなのが心配なところだが。


「……さて、話を戻して。イグラス、他に何かある?」

「そうですな……あぁ一つだけ。ノーグレルの街について、ご存じでしょうか?」

「ノーグレル……そう言えば、ゲームの時に何かあったような……」

「げーむ?」

「ううん、気にしないで。それで、そのノーグレルの街がどうかしたの?」

「どうもその街、少々黒い噂があるようでしてな」

「……へぇ?」


 黒い噂、ね。

 思わず目を細める俺。

 正直、ファンタジーな世界で黒い噂と言うと、碌なもんじゃないことはよく理解しているし、VEO内でも面倒な案件が多かった印象だ。

 それに、ファンタジー物の定番でもあるし。


「現状、我々も特に手を出してはおりませんが、近々本格的な調査に乗り出そうかと思っております」

「ふーん? つまり、今は静観、ということね?」

「はっ。ですが、アリス様が命令されるのであれば……」

「いいわ。我がロビンウェイクの唯一にして最大の掟は、『我々の手が届く範囲での活動』だから。イグラス、あなたのその判断は正しいわ。今はわたしがこの世界に慣れること、そして現状の調査が優先。そこに手を出すのはまだ先よ」

「かしこまりました。では、軽い監視程度にしておきましょう」

「えぇ、頼むわ」


 よしよし、これでいい。

 正直、今の俺はこの世界を自分の目で見てみたいという欲求がある。

 故に、今は余計な面倒ごとは抱えたくないし、首を突っ込みたくもない。

 それなら、一時的に監視をする程度でいいだろう。

 もとよりうちは、現状手が届く範囲しかやらないからね、人助け。

 あくまでも、そこのスタンスは崩さない。


「ちなみに、その黒い噂というのはどんな内容なのかしら?」

「そうですな……黒い噂の絶えない商会の本拠地がその街にあり、同時に出所不明な場所からかなりの大金を得ているという噂です」

「なるほど……わかったわ。ありがとう」


 とりあえず、真っ黒けっけなんだな、その商会。


「いえ、これも私めの仕事ですので」


 うんうん、こういうおじいちゃん執事っていいよなぁ……こう、有能だもん。

 やっぱカッコいいぜ。


「それで運営資金の話だったわね」

「はい。とりあえず……三ヶ月は問題なく回せるでしょうが……」

「その先が無理、そういうことね?」

「はい」

「三ヶ月、か……」


 俺の読みと同じってとこか。

 低く見積もってもいたが、あながち間違いじゃなかったらしい。

 うーん、そうなると……マジで早めに対処した方が良さそうだ。

 俺とて組織のトップ。

 こいつらや、各地で頑張っている奴らを路頭に迷わせるようなことはできないし、させる気もない。

 それに、あいつらだってこっちの世界に来るかもしれないんだ。

 もしそうなってもいいように、残しとかなきゃだしな。


「わたしの調査にかかっているわけね」

「申し訳ありません。他の者は各地の統治に忙しく……」

「ふふ、構わないわ。それにもともと、わたしはフットワークが軽いもの。ここはわたしに任せなさい」


 それ以前に、プレイヤーは基本フットワーク軽いし。

 素材を集めたり、隠しクエストを探したり、その他にもイベントの上位報酬を目指したりなどなど、むしろ拠点に引き篭もるタイプの方が珍しいと言えよう。


「ありがとうございます」

「いいの。さて……そろそろ私は休むわ。エヌルが戻ったら、明日の朝、七時にはここに来るよう伝えてもらえる?」

「かしこまりました」

「お願いね。んっ、ふわぁ~……んんぅ、そんじゃ、俺はそろそろ寝るよ」


 アリスから瞬へと戻り、俺は席を立った。


「おやすみなさいませ」

「おう、おやすみ」


 そう言って、俺は再び部屋に戻って行った。




 ギシッ……とマイルームのベッドに寝転ぶと、軋む音が鳴る。


「おー、結構こだわって作った家具だから、かなり寝心地がいいな……ゲーム内でも割と気に入ってたが、これはいいぞ。かなりいい」


 自身を包み込むような安心感のあるベッドで、一人感想を零す。

 しかしその言葉は空しくこの部屋に響き、すぐに消える。

 あるのは、カチ、カチ、という時計の秒針が鳴る音だけだ。


「……一人、か」


 エヌルとイグラスと別れ、自室に戻るなり俺を襲うのは、一人であるという事実。

 まだ一日。いや、数時間程度ではあるものの、いざこうして一人になってみると、自身が孤独になった気さえする。

 いや、ある意味孤独なんだろう。

 知っている人間はおらず、いるのは俺が、俺たちが創り上げた組織とNPCたち。


 別にそれ自体が嫌だとか思っちゃいないし、話せる相手、しかも自身が知り、向こうも俺を知っている存在がいるってのは、かなり心に余裕を生んでくれるらしい。

 少なくとも、この世界に来て、この拠点に来るまでの間は、マジで不安だったし。

 もし拠点が無かったらどうしよう、もしあいつらが俺の知るあいつらじゃなかったらどうしよう、そんな不安だ。


 俺、思うんだけどさ、よくある異世界ものの作品における主人公ってのは、どうしてこう……いきなり異世界に転移、もしくは転生したのに前の生活を捨てられるんだろう、と。

 あいつらに友達がいなかった場合もあるにはあるが、それでもそれを捨てていいのだろうか。


 俺は絶対に嫌だね。

 あの世界はあの世界で楽しいものがあるし、仲のいい奴らもいる。

 嫌な奴だってそれ以上にいるかもしれないが、そうじゃない奴と楽しく出来りゃいいじゃん、みたいな考えだ。

 もちろん、そいつらが嫌で嫌で仕方がないから、転移・転生は渡りに船、ってんなら全然いいが……家族がいるのに、なぜ捨てられるのか、友人がいるのになぜ捨てられるのか。

 それが俺には理解できない。

 俺はできることなら戻りたいが……。


「まー、無理だろうなぁ……」


 考察時にも思ったが、俺が元の世界に戻る方法はないだろう。

 世界は広いし探せばあるかもしれないが、なんとなく、本能的な部分が無理だと告げている気がするのだ。


 いや、世の中に絶対という言葉は、ゲーム内における100%勝利できないシステムと、100%選択したキャラが当たるガチャ以外は、まずありえないだろう。


 方法ももしかしたらみつかるかもしれないが……今は望み薄だな。


「……まぁ、この世界で馴染んでいくしかないよなぁ」


 0から人間関係を構築するわけじゃないのは救いだが。それでも問題がないわけじゃないしな。


「はぁ、ま、明日からはやることが多いだろうし、もう寝るか」


 そう言ってを俺は目を閉じ、意識はあっさりと眠りの世界へと落ちて行った。




 翌日。


「……んっ、んんん~~~~~っっ! ふぅ……よし!」


 六時頃に目を覚ました俺は、軽く伸びをしてから勢いよく起き上がる。

 って、おお、なんかすっごい跳ねた。

 やっぱ、あのゲーム内でのステータスになってるっぽいな。

 昨日とか、なんだかんだ基地に向かうのに一時間以上かかったのに、全然疲れなかったし、むしろかなりの余裕があったからな。

 となると、戦闘自体もVEOの時と同じ動きが出来そうだ。


「そんじゃ、今日から活動して行こうかね!」


 今日から、俺のアリス=ディザスターとしての生活が始まるのだ!

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