1話 基地へ
一度叫んだらすっきりしたと言うか、むしろ問題が問題過ぎて一周回って冷静になったと言うべきか……。
うーん、まぁ、ここに見覚えはあるし、とりあえずもしもここがゲームの時同じく、俺の知ってる場所と一致するのだとしたら……。
「この先に俺が結成した組織があるはず、だよな?」
そう口にして、俺は城が見える方向とは真逆を見据える。
その先には、ちょっとした廃村があり、そこの地下に俺たちの組織があるのだ。
本当にあればいいんだが……。
藁にも縋る思いで、俺は目的を設定して移動を開始する。
……そう言えば、視点が低いなぁ……妙に馴染みのある高さだし。
そんなことを思いながら歩くこと一時間以上、目的の廃村を発見。
これだけではまだあの世界と同じと確信することはできないが……とりあえず、可能性はありそうだ、そう思うことにして、俺は真っ直ぐに廃村の中で最も小さく、目立たない廃屋に足を踏み入れる。
「うっ、かび臭いな……」
ゲームだから当然と言うべきか、嗅覚と味覚だけは薄かったんだよなぁ……。
大抵のゲームは普通に嗅覚と味覚はあったんだが、なぜあのゲームはその辺が薄かったんかね?
なんて疑問が再び出てくるが、気を取り直して。
「あー、んんっ! 我は至り。我は捨て。我は支配する。……いつ聞いても、いつ口にしても思わずぞわっとするくらいには恥ずかしいよなぁ……」
当時のノリはあれだったから致し方なし。
さて、これで開くはずだが……。
ゴゴゴゴゴ……。
「……どうやら、当たりらしい」
俺がほどほどなレベルの厨二病な合言葉を口にした数秒後、ゆっくりと壁が開き、おおよそ中世ヨーロッパ風な世界観(土台だけは)には似つかわしくない、随分と現代的なエレベーターが現れた。
「あいつらは……いないとは思うけど、少なくとも、あの二人はいることを願うしかないかな」
頭に浮かんだプレイヤーたちはいないと理解しつつ、最も俺が愛着を持っていると言っても過言ではないNPCがいることを願いながら、俺は下に降りた。
「……うーん、やっぱ……世界観がおかしい」
エレベーターで降りる間、最初は土や岩などしか視界に映らないのだが、ある場所を超えると自然豊かな風景が広がり、平原エリアには明らかにそんな風景とはミスマッチすぎるオフィスビルが建っていた。
周りには様々な施設が乱立しているのも猶更ミスマッチ感を与えている。
ってかあれ、温泉施設くらいじゃないかな、合ってるの。
やっぱ、色々ミスったかなぁ……でもこれ、あいつらも共犯だし……うーん、まぁ仕方ないか。
過去のやらかしだし、今更だね、うん。今更今更。
あと、さっきからガラスに映る自分がさぁ……どことなーく俺の半身に見えるんですが? どう見てもあれですよね? Menじゃなくて、Femaleですよね?
あと、幼女ですよねこれ。
やっぱ俺が創ったアリス……?
い、いやいやいやいや! そんなまさか! きっとこれは……あれだ! マジックミラー的な鏡なんだってきっと!
向こう側に俺がVEOアバターとして創り出したそっくりの奴がいるだけだって!
だ、大丈夫だ落ち着け……餅つけ、俺……!
冷や汗だらだらになりつつガラスに手を着いて下を向いている間に、エレベーターは地下へと到着。
ウィーンと開き、俺は様々な不安を抱きつつ、草原に一歩踏み出した。
「うーむ、いざこうして現実として自分たちが積み上げてきた基地に足を踏み入れるのは……こう、感動を覚えるなぁ」
まあ、できればこの感動をあいつらと一緒に分かち合いたかったがな!
しかし、ゲーム内では特殊アイテムで基地に直接転移できたけど、あのアイテムはアイテムボックスに入れてたしなぁ……そういやアイテムボックスってあるんかね?
そもそもあのゲームは基本的にステータスと言えばステータスが出てきたわけだが……。
じゃあ試しに。
「アイテムボックス、ステータス」
……………………どうやら俺が一人で恥ずかしいことをしただけらしい。
試しにもう一度言ってみるも、俺の心を羞恥心が抉るだけで、これと言って成果は得られなかった。
羞恥心からのダメージによる報酬が欲しいんですが異世界さん。
まあ、仕方ないと言えば仕方ない。
ないもんはない。
異世界系の作品だって、ステータスとかアイテムボックスが無い作品だってあったし、ある作品と比べると少なかったけども。
でもさぁ……いくら成長して、大学二年生になったとはいえ、今なお俺の中に存在し続ける男の子心的には、その辺のファンタジー要素には触れてみたいわけでさー。
なんか残念だ。
「っと、ビルに到着、と。うーむ、ゲームの時は気にしなかったけど……あれだな、結構でっかい」
少なくとも二十階建てくらいはあるしなー、これ。
とは言っても、階層の割に重要な場所は限りなく少ないという……。
Q.じゃあなんでこんなに作ったんだよ。
A.高い方がカッコいいと思ったから。
やっぱ男ってバカだね!(ブーメラン)。
「よし、いざ俺の居城!」
まあ、城じゃなくてビルだけどね。
ウィーンと自動ドアが開くと、小綺麗なエントランスが俺を出迎える。
おー、なんか生身(多分)で来ると、すっごい不思議な感覚だな……。
何度も見てきた、まさに実家のような安心感があるはずなのに、なぜか初めて来たような感覚だし。
いや、生身だと初めてだけどさ。
「とりあえず、総帥室にでも行くかー」
総帥室。
それは、我が組織のリーダーが使用する部屋のことである!
キッチン、テーブル、ソファー、トイレ、シャワールーム、ベッド完備の仕事しながら住める部屋として至極の逸品である!
……尚、俺が最も嫌うブラック企業味があるので、作った後ちょっと複雑な心境になりました。
ともあれ、エレベーターに乗り込み、20のボタンを押ししばし待つと、ポーン、という音共に扉が開いた。
その先では、
「やはり、こちらの方が~……」
「ふむ、いえこちらに致しましょう。いつアリス様がお戻りになられてもいいように……」
「むむー、でもこっちも捨てがたいですよ~?」
「一理ありますが、こちらこそが」
「……」
俺は総帥室に足を踏み入れようとした足を引っ込め、エレベーターに引きこもった。
無言になり、正直この先に行きたくないと俺の心が叫んでいる。
心が行きたがらなくなっているんだ。
「とりあえず…………なぜ、ブルマと旧スクを持ってんだよ、あの二人は……」
思わず頭を抱えてしまった。
見た目グラマラスな超が付くほどの美人エルフメイドと、渋い声にダンディでメッチャカッコいい初老の執事が何してんだよ……。
ちなみに、旧スクを持っていたのは前者で、ブルマは後者だ。
しかし、なぜ旧スク&ブルマ?
そもそもなぜそんな服がファンタジーな世界に…………いや待て。そう言えば我が組織のプレイヤーの中に一人、やたら衣装作成をしまくってる奴がいたな……。
しかも、リアルでも俺の身内というおまけつき。
あいつも俺と同じロリキャラを使ってたし、自分の体に合う物を創ってたとしても……でも、さっきチラッと見えた二つの服(服でいいの?)、どう見てもあいつの体格に似合ってなかったよ?
あいつはロリ巨乳だけど、俺は標準よ?
いや、あることをすれば巨乳に出来ますけども。
って、脱線脱線。
どうも直視したくない現実を見てしまったあまり、変な方に思考が行ってしまったらしい。
でもさ? 仕方ないと思うんよ。
見た目スタイル抜群で超美人なエルフと、見た目老紳士という言葉がしっくりくる、渋いダンディな執事が、それぞれ旧スクとブルマを持ってんだぜ? もしかしなくても、一発で通報案件だろ。事案だろ、あれ。
俺、あんな風に設計したっけかな……?
『あらぁ~? そう言えば、先ほどエレベーターが音を立てていたような気がするのですが~……』
『気のせいでは?』
『ですが、私の勘が言ってるんですよ~。そこの中に、感動的な再会が待っていると~。私のスキルが言っておりますよ~』
「勘じゃねーじゃねーか!!」
『その声……!』
あ、しまった! 普通にツッコミを入れちまったっ……。
がごんっ!
「――!?」
ちょっ! なんかエレベーターのドアの隙間から急に指が出てきたんですが!?
ドアはギギギギ……と音を立てて、徐々に開いていき……。
「みぃつけましたぁ~……」
なんか血走った目をしつつ、こちらを恍惚とした笑みで見下ろすメイドがいた。
光の加減のせいで、ただただホラー映画のワンシーンにしか見えないんですが、エヌルさん……(シャイ〇ング的な)。
「――というわけで……あー、なんだ、久しぶり?」
結局ホラーエヌルにより、俺は仕方なく事案案件が転がっている部屋に入らざるを得なくなってしまった。
その後は、なんか危険な表情をしているエヌルに抱きかかえられて、総帥チェアに座らされる。
で、とりあえずは久しぶりと切り出した俺である。
いやだって、いつ帰ってきてもいいように、なんて発言があった以上、明らかに昨日の今日ってわけじゃなさそうだし。
さて、結果は……。
「はい~っ! エヌルは、アリス様をずっとお待ちしておりましたぁ~!」
「不肖イグラス、アリス様の帰還を心よりお待ちしておりました」
どうやら間違いじゃないらしい。
あと、今ので確定したが、やっぱ今の俺……アリスなんだな。
いやまぁ、
・視点が低い
・声が無駄に可愛い
・ガラスに映る姿が我が半身
・そもそもずっと下半身がすーすーしてた
この四点の時点で、言い逃れのしようがないくらいにアリスだという現実を突きつけられていたわけだが。
「あー、うん、ありがとう。そしてすまんかったな」
「いえいえ~。他の皆様も帰っておりませんし~、アリス様が帰ってきただけでも嬉しいですよ~」
「その通りでございます」
「はは、そうか……」
なんかこう、ゲーム時代と大して変わらない気がするが、俺の種族的特性故か、こいつらが実際に心臓で動き、脳で思考しているのがわかるくらい、生命力にあふれてんなー……。
さて、ここでこいつらの紹介をすべきだろう。
まずは……エルフメイドの方な。
こいつは、エヌル=カルティア。
総帥の側近その一だ。
肩よりも少ししたほどまで伸びたサラサラな金髪に、翡翠色の瞳と、金色の瞳を持つエルフだ。
常におっとりとした柔和な笑みを浮かべており、スタイルは抜群。
包容力にあふれた、超美人なエルフメイド(まあ、種族はハイエルフだけどな)だ。
実はこう見えてアサシンのジョブを持っており、特技は奇襲や暗殺、狙撃など。
なのに直接戦闘もクッソ強いというやや理不尽なNPC……だった存在だ。
俺が結成した組織において、俺が作成したNPCの一人だ。
基本的にはゆる~いゆるふわお姉さんなのだが、怒ると豹変するという設定持ちである。もしも現実なら、多分そうなる。
怒らせないようにしよう。
続いて、その隣にいる老紳士執事は、イグラス=サンドゥマ。
総帥の側近その二だ。
彫りの深い顔で、マジで渋カッコいいおじいちゃんである。
やっぱ見事な顎鬚ってのがいいよね!
一件華奢に見えるが、その服の下にある肉体は、みっちりと鍛えこまれており、全く無駄が無い。
そのため、クッソカッコいい肉体を持っているのだ。
しかし、対応なんかは紳士だ。
こちらも俺が作成したNPCの一人。
ジョブは『拳王』。
自らの肉体を武器とするジョブで、肉弾戦がクッソ強い。
尚、肉弾戦メインだからと言って遠距離戦で攻めようとすると、普通に拳が遠距離で飛んでくるので舐めない方がいいNPCである。
実際、他のプレイヤーやNPCを倒して俺の元へ来たとしても、その前に控えているエヌル&イグラスコンビに瞬殺されるわけですが。
やっぱ一瞬の隙をついて奇襲を仕掛けてくるアサシンと、全方位対応可能な目でもあるのかってくらい空間把握能力と、掠っただけでもでかいダメージを与える拳王のコンビは害悪だったか。
どっちも遠距離攻撃持ちだし。
ちなみに、俺たちの組織は上位勢だったこともあり、ネットで攻略サイトが作られたほどである。
俺ことアリス=ディザスターの説明は……まあ、後回しでいいよね。
さして重要じゃないし。
「さて、と。まず一つ訊きたいことがある。いいか?」
「「なんなりと」」
おー、なんかリアルでこう傅かれると……ちょっと気分が良くなるなぁ。こう、組織の長、って感じがして。
もっとも、俺はクリーンな組織運営を心掛けてるがな。
「じゃまず一つ……この世界は何?」
「この世界、と申しますと?」
「あー、なんて言えばいいかな……俺さ、ついさっきまでマイルーム……あー、バーチャルワールドって場所にいたんだよ。で、とあるメール……手紙? を開いて、その内容に応じたらこの世界に、ということがあったんだ。そしたら、ここが俺の知る世界と微妙に違った場所って認識でな」
とりあえず通じるかはわからないが……一旦は軽く事情説明。
二人は真剣な表情で聞いており、しばし思案顔で考え込むと、エヌルが少し戸惑いながら口を開く。
「あの~、そのバーチャルワールド、というのは~……?」
「あー、それか。んー、そうだなぁ……簡単に言えば、夢の中で自由に動き回ることができる場所、的な?」
「なるほど、理解しました~」
マジかよすげぇ、エヌル。
「ともかくとして、アリス様はこの世界がどのような場所か、ということをお知りになりたいと?」
「そういうことだ」
うーむ、やっぱ調子狂うな、この可愛い声。
一応、ミックスボイスによるロールプレイとかしてたけど、天然物の女声が自分の声帯から出てるのが違和感で仕方ない。
「ふむ……では僭越ながら、私めが説明いたしましょう」
「頼むよ」
「承知致しました。まず……この世界は、ヴァルフェリアと呼ばれる世界であることはご存じでしょうか?」
「……はい?」
ちょい待って? 初手から爆弾投下はずるくない?
え、じゃあ何か? 俺宛……というか、アリス宛に送られてきたアレ、この世界からだったってことか?
うっそーん……。
そうなると俺、この世界に呼び出されて、俺がそれを了承しちゃったからこうなった、と。
……明記しろよ、世界。
……あれ? じゃあなぜ、あのゲームの制作会社の名前が、ヴァルフェリアなんだ?
まさかとは思うが、あのゲームを運営してたのって……はは! いやいやいや、さすがにないだろ。
偶然名前が被っただけだって。
うん、大丈夫大丈夫。
ってか、そういうのってこう……様々な冒険をした上で知り得る情報だと思うんでずがねぇ?
一応、VEO内でも、『ヴァルフェリア』という名称自体はちらほら出てきてはいたが……まさか、世界の名前だったとは思わなかった。
あれはもっとこう……ふわーっ! とした使われ方だったからなぁ。
「そこから説明が必要ですかな?」
「あー……うん、頼むよ、イグラス」
「お任せを。まず、そうですね……この世界は『ヴァルフェリア』という世界です。名前の由来につきましては、この世界で最も信仰されている宗教にて保管されております、とある文献に記されていたからとのことです」
「ふむふむ」
その文献が解読できたのかできていないのかはわからないが、少なくともそこだけは何とか読めたから、とりあえずこの世界の名前がそれになってる、と。
まぁこの辺りだろうか。
なら、偶然という線で、さっきの疑問は解消できるな。
ならばよし!
「現状、この大陸にて存在する国はいくつかありますが……アリス様、グラント聖王国については?」
「それなら知ってる。ってか、俺たちの組織があるのそこの国の中じゃん」
「その通りでございます。ですが、一年ほど前からでしょうか。いえ、実際はもっと前からだったのやもしれませんが……ここのところ、あまり良い噂を聞かないのです」
「そうなん?」
「そうですね~。少なくとも、この廃村も三年と少し前まではごく普通の村だったそうですからね~」
俺の言葉に答えたのはエヌル。
エヌルは、この組織が存在する廃村についてのことを口にした。
五年と少し前……あー、そういやこの村を俺たちが組織の隠れ蓑にしたのって、たしかそれくらいか。
あのゲームがつい最近5.5周年を迎えたし。
で、俺がこの組織を設立したのは、サービス開始から二ヵ月後だったから……つまるところ、ここの廃村が普通の村から廃村になった時期は、サービス開始くらいの時ってことになるのか。
うーん、ゲーム的設定で、たまたま廃村になった可能性も高いしなぁ……よくわからない。
「なるほどな……じゃあ、良くない噂って具体的に何があるんだ?」
「そうですな……エルゼルドの情報ですと、どうも王国の聖騎士たちが各地の村や町を訪れ、帰る頃には荷物が増えている、との情報があります」
「それ、単純に税を取りに来た、とかじゃないのか?」
「いえ、以前税を取りに来た時よりも増えていたのです。割合で言えば……三倍ほど」
「三倍? それなんかおかしくね?」
俺、別に会社の運営とか割と素人だし、国営なんかも知らんけどさ、以前よりも三倍の量に増えるとか……明らかに変だろ。
どうなってんだ、この国の政府。
あー、いや、ちょっと待て。
確かこの国、ゲーム内設定でもちょい微妙だった気がするな……。
いや、設定の量とか、単純に設定が薄っぺらいという意味での微妙ではなく、国の設定がきな臭いという意味での微妙だがな?
んー、少なくともたまに正義対悪の抗争で陣取りゲームが行われた挙句、あっさりと陣地(この場合街など)が取れる時点で、この国って結構おかしくね? なんて言われてたし。
となると……。
「なぁ、それって調べてたりする?」
「少なくとも、各地に散らばるロビンウェイクの者たちが、情報収集をしております」
「さっすがぁ! やっぱ、お前たちは頼りになるなぁ」
「もったいなきお言葉」
「ありがとうございます~」
少なくとも、上の命令なしで色々してたのは普通にすごいと思う。
たしか、過去にはゆとりなる世代たちは、指示待ち人間が多い、なんて情報がチラッと残ってたくらいだし。
自分で考えるのが苦手、という人間が増え過ぎた結果、一時経済がちょいアレになったときもあったとも教科書に書いてあったしな。
まぁ、結局はどうにかなっちゃったみたいだけども。
さすがだね。人間、本気でヤバいと思ったらマジでどうにかなるらしく、それが教科書に載るんだもん。
すげーよ。
あ、そうそう、『ロビンウェイク』って名前があったと思うが、これが俺の組織の名前である。
名前の由来は……まぁ、わかる奴はわかるってことで一つ。
ちなみに、うちの組織が善悪どちらか気になっている事と思う。
まぁ、別に隠すようなことじゃないし、実はうち……悪の組織なんだよね。
とはいっても、実態は悪の組織の皮を被ったホワイト組織、なんて周囲からは言われてたけどね。
その辺は、俺のリアルの事情が関わってくるのでちょい割愛。
「んー……あ、そうだ。お前らさ、ヴェノムスマッシャーとかどうなってるか知ってる?」
ヴェノムスマッシャー。
簡単に言えば、なぜか組織の者全員が毒系の攻撃をしてくるという、秘密組織だ。
ちなみに、秘密組織はヒーロー側の組織の総称である。
ヒーローなのに毒しか使わないとはこれいかに。
という評価を貰っている組織で、変人ばかり。
システム上は敵対するんだけど、組織の人たちとは仲が良かったんで、たまに遊んでたんだけど……。
「それについてなのですが、どうもほとんどの組織の消息がわからなくなっており、ヴェノムスマッシャーもその内の一つなのです」
「え、マジ? それってどれくらいの期間かわかる?」
「たしか……一年ほど前だったかと」
「また一年か……」
俺がこっちの世界に落ちてきたのは、どうやら俺が消息を絶って一年のようだ。
つまり、俺はあのメールに応じてから一年経過したのか、応じた瞬間に一年後にタイムスリップしたのか、その二つなわけだが……わからないなぁ。
じゃあ一旦パスで。
それよりも今は他のプレイヤーたちが結成した組織についてだ。
「ってことは、一年で組織が軒並み消えたってことで合ってるか?」
「はい。正確には少々異なりますが、現状、以前のような稼働状態で確認できているのはアリス様のロビンウェイクくらいなのです」
「他のとこはわからないってことか……」
「そう言う事です」
じゃあ、俺が友好的に接していた組織や、そこに所属していたプレイヤーたちは少なくともこの世界にはいない、ってことか?
だが、あくまでもそれはこの国、いや大陸に限った場合だ。
「イグラス、その大陸にあった組織は?」
「そちらはロビンウェイクの者がおらず、情報収集の精度が低く……申し訳ありません」
「いやいい。気にしないでくれ」
となると、だ。
今後俺以外のプレイヤーが来ないとも限らん。
そもそもあのメール自体、俺だけに送られてきた、なんて思えねぇし。
ともすると、俺の組織に入ってたあいつらにも来る可能性はある、か?
俺としては是非とも来てほしいところではあるが……少し複雑かね。
俺自身は元の世界に対する未練があるにはある。
あいつらに会えなくなったことと、学校の友人たちに会えなくなったことは寂しいからな……家族仲は最悪で、碌なもんじゃなかったけど。
そう言う意味では、ある意味こっちに来て良かったのかもしれない部分はある。
……それに、俺がどういう形で異世界に来たのかは謎だしなぁ。
あの後俺の体ごと異世界へ行って、その体がアリスになったのか、俺の魂だけが抜けて、アリスという体の中に入ったのか、というね。
前者は失踪、後者は死亡。
うーむ、どっちにしろ最悪だな。
とりあえず、あの女のことだ、捜索願は出してないだろうな。
じゃあいいや、ふははは! 俺がいなくなったことで、家事に困るがいい!
……まぁ、血のつながった親だけに、ちょっとは複雑な心境だがな。
だがしかし、あそこまで冷え切ってると俺としても心配よりも、どうでもいいの感情が湧いてくる。
すごいなー、家族の情ってのは六年程度で切れるもんなんだなぁ。
まぁ、結局は血が繋がっているだけ、というのがある意味真実であり、事実だもんな。
……うーむ、しかし家で孤独死してなきゃいいが。
「あ、ちなみにグラント聖王国の周辺国とかどうなってる?」
「一年前と変わりなく、ごくごく平穏な関係ですよ~」
「OKありがとう」
とりあえず、一年で劇的に変化した、ってのはどうやらないらしい。
「あー、とりあえず、そうだな……ちょいと部屋に一人でいさせてほしいんだけど……いいか?」
「私はもう少しアリス様と一緒がいいです~……」
「私めはアリス様に従います故」
わーお、二分した意見……。
エヌルは一緒にいたいけど、イグラスは俺の命令は聞く、と。
……うーん、五年以上こいつらを使役してきたから慣れてるっちゃ慣れてるけど、あれはあくまでゲームだったからそういうロールプレイ的なことをしていたわけで、いざ現実になるとこう……ちょっと精神を揺さぶられそうになるなぁ。
「あー、悪いな。ちょっと色々と整理したい。あとで一緒に飯でも食おう」
「わーい!」
「よろしいのですか?」
「おうよ。一年も間が空いちまったんだろ? その埋め合わせくらい、いくらでもするさ」
そう言うと、二人は感極まったような表情を浮かべ、大きく頷いたのだった。
……まあ、スク水とブルマはパスだがな。
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