悪の組織(建前)のロールプレイガチ勢な総帥、ゲームに似た世界で暮らす
九十九一
プロローグ 招待メール
『組織間抗争終結! winner『ロビンウェイク』!』
「おーっし! 俺たちの勝ちぃ!」
やけに光属性を感じさせる建物の中で、俺を含めた数人が勝利を告げるアナウンスを耳にした直後に笑顔でガッツポーズをし、反対に俺たちの目の前には、姿かたちそのものが徐々に欠片となって消えていく様があった。
最後に恨み節というか、いろいろ言っていた気がするが気にしたら負けだろうし、何より負け犬の遠吠えだからな!
「よしよし、エニーも結構入ったし……うっはー、あいつら結構持ってたわ。見ろこれ!」
俺は今しがた得た報酬をその場にいた仲間に見せる。
俺以外には四人。
四人はそれぞれの反応を見せるが、共通して言えるのは、全員が喜んでいるという一点だな。
「あ、ほんとだー。んふふー、これだけあれば、あの子の強化もできるし、あとはあの施設も……」
仲間の一人、紫髪のロリ(なぜか巨乳)は何かを夢想して口の端から涎を垂らし、
「待て待て。そこは僕の方が優先だろ。前回、クルンさんは強化やったじゃん」
知的な雰囲気を漂わせるメガネのイケメンはロリの発言に苦言を呈し、
「えー? そうだっけー?」
ロリはすっとぼけたような反応を見せ、
「ふふ、それを言うなら、ボクも強化したいものがあるんだけどな?」
それに負けじと、白衣を着たもう一人のロリがにっこりと笑みを浮かべつつ、背後に謎の圧力を見せる。
「探☆偵ちゃん、最近お金を浪費したー! って言ってなかったっけ? だったら、あたしの方が有効活用できますよーだ!」
「おや? 喧嘩かい? 同じ生産職同士、泥仕合にはなると思うけど、受けて立つよ?」
「いやいや、使うのは僕だからな?」
「オイオイ、喧嘩すんなよー。なあ、ボス」
赤髪短髪マッチョの男は、バチバチと火花が散っていそうな三人を咎めつつ、喧嘩はいけないと俺に言ってくる。
「おうとも。喧嘩、ダメ、絶対。とりあえず、分配やらなんやらは、俺たちの基地に戻ってからにしよーぜ」
一旦はお預かりとし、俺たちはとりあえず、基地に戻ることにした。
「「「「うーい」」」」
――時は西暦2093年。
とある年から大きな技術革新が起こり、空想の産物、夢の機械、開発不可能、とまで言われていたフルダイブ型VR機器が誕生し、現代では一昔前のデバイスである、スマホと呼ばれる小型携帯端末が個人に普及していた時のように、VRが広く普及していた。
まさに、一家に一台ではなく、一家に数台、みたいな感じだ。
俺たち世代は、生まれた時から既にVRが当たり前のように存在していたから、その技術に対してすごい、以上の感想が出てこないわけだが。
そんなフルダイブ型VR機器が出てきたのは、西暦2041年。
台頭した当初は、それはもう大騒ぎだったと現代史の授業でもやるし、公民の授業にも出てきたくらい、現代における大きなターニングポイントとも言われている。
で、そんなVR機器が出てくるとなると当然というべきか、さすが娯楽大国と言うべきなのか、日本で初めてのフルダイブ型VRゲームが開発されたわけだ。
最初はまだ拙い物だった……などということはなく、ふっつーにクオリティがバカクソ高いゲームが世にリリースされ、しかもそれを創ったのは個人なんだと。
それで爆売れして、その資金を元手にゲーム会社を設立、今もVRゲームの最王手と言われるほどになっている。
しかもそこの社長未だに前線でゲームを作り続けてるって話だし、イカレてるだろ。
まあそれはいいや。
俺が語るべき本筋はそこにはないんでね。
で、俺が語るべき本筋ってのは、今から五年ほど前だ。
ある時全く持って無名な会社……かどうかすらも定かではない場所から、一つのVRMMOゲームがリリースされた。
その名も『VirtueEvilOnline』。
通称、『VEO』である。
正直、ネーミングセンスがちょっとアレだが、このゲームはリリースから少しして瞬く間に有名になり、今では現代におけるもっともプレイヤー人口、そしてプレイされているオンラインゲームと呼ばれるに至っており、所謂神ゲーという奴だ。
俺もちょっとした理由で始めたんだが……これがもう面白い。
なんつーか、自由度が凄まじいの一言に尽きるんだよこれが。
キャラクリの自由度もそうだし、基本的なゲームのシステムもそう。
遊んでも遊んでも全く飽きる気配がないどころか、新しい何かが常に見つかるから止まらなくなる。
何よりも俺が心惹かれたのはとあるシステム。
そのシステムというのは、『組織システム』というものだ。
もともとこのゲーム、ヒーローかヴィランのどちらでプレイするかによって結構変わってくるゲームで、 ヒーローになってヒーロームーブをファンタジー世界でかますもいいし、ヴィランになって好き勝手自分勝手に暴れまわるのも良し、そんなゲームだ。
その中に、組織システムと呼ばれる物があり、これは簡単に言えば、ヒーローの組織を創ったり、悪の組織を創ったりできるってことだ。
しかも、善対悪みたいな感じで陣取りゲームもできる始末。
あとは抗争とか色々あったが……そんな組織システム、条件を達成すれば誰でも設立可能で、俺も組織を作っている。
それが冒頭のあの会話ってわけよ。
神ゲーとまで言われているゲームを、俺たちは毎日のように遊ぶ、それが今の俺たちの日常の一つだ。
そして、俺たちは色々と謎多きこのゲームが一体どういう物なのか、ということを知ることにもなる。
「ただいま」
「……瞬、家事しときなさいよ」
俺が学校から帰宅するなり、まるで待ち構えていたかのように、やたらと不健康そうな女が酷く不機嫌そうな顔でそう言ってくる。
「たまには自分でやったらどうだよ」
「うっさいわね。あんたとは違って忙しいのよ!」
「へーへー、それはわるぅござんした」
ったく、家に帰るなり気分が悪くなるな……。
瞬と呼ばれていたのは俺、繰木瞬である。
ごくごく普通の男子大学生で、ごくごく普通の軽度のゲーマーって奴だ。
今会話していたのは俺の母さんの皮を被った畜生。
名前なんて覚えなくてもいい。
見ての通り家族仲は冷え切っていて、常にあんな軽い言い合いがある程度。
父親は生憎といない。
まぁ、過労死って奴だ。
父さんが死んでからはあんな風だ。
父さんが死ぬ前は家族仲が良好だったんだが、今では荒れ放題であの様である。
今なんて、碌に仕事もしないで家で日がな一日を怠惰的に過ごす。
これのどこに忙しいの要素があるのか甚だ疑問だ。
今は父さんが遺してくれた貯金や保険金、その他にも慰謝料などに加え、俺のバイト代で家計をやりくりしている状態だ。
あの親に家計を任せたらどうなるかわかったもんじゃないから、俺が常にキャッシュカードを持ってるがな。
VRが発展しまくってる現代においても、未だにキャッシュカードなのはなぜなのだろうか。
なんてどうでもいいことを現実逃避気味に考えてしまう。
とりあえず、適当に家事をして、適当に飯を作ったら、俺は部屋に引きこもって家にいる間の唯一の癒しであるゲームを始める。
プレイするゲームはもちろんVEOである。
さっそく、リクライニングチェア型のVRマシーンに座り、電脳世界へとダイブする。
最初に俺を出迎えるのは、真っ白な街だ。
地面や建物が白く、ところどころにデータの木々や芝生が存在し、空は淡い水色、そんな空間。
ここはバーチャルワールドと呼ばれる、今では第二の現実とま言われている世界だ。
まあ、ロビーってやつだ。大体の奴はそう言うし。
そこには実際の現実と全く同じ広さの世界が構築されており、VRマシーンを買うと、真っ先にここでの登録が行われ、同時に個人の家を割り振られる。
そうして、マイルームが割り振られてようやくこの世界で動き回ることができるというわけだ。
ちなみにこのマイルームシステムは、引っ越しなども可能で、金さえあれば大きな部屋に引っ越すことも可能。
とはいえ、ここにいるのはゲームではなくリアフレたちと仲良く遊ぶためのたまり場だったり、現実ではできない話をするために利用したりする奴くらいで、ゲーマーたちは初期仕様のままだ。
俺もそうだしな!
マイルームに入ったら、起動したいゲームを起動すること。
そのゲームを起動すると、目の前に扉が出現し、それを潜ることでゲームを始められる、というシステムだ。
なぜ扉なのかはわからないが、開発者曰く、
『別の世界へ行ったり、どこか遠い場所に行く物の定番はドアだから。どこでも的な』
らしい。
天才の言う事はよくわからねー。
「よし、じゃあ行くか。あいつらはいるかね?」
一緒に遊ぶ友人たちのことを思いながら、俺はVEOの世界に足を踏み入れた。
「よし、到着っと。うーむ、やっぱこの姿だと急に視点が低くなるよなー」
VEOの世界に入るなり、俺の視点は一気に低くなる。
基本、ロビーにおける自身のアバターは、大体がリアルの自分の姿を基にしており、身長もそれと同じだ(もちろん、リアルと違う姿にすることも可能。というか、こっちの方が多い)。
しかし、ことアバターごと新しく作るゲームとなると話は別で、現実の自分よりも背の高いキャラクターを創ることもできるし、反対に背の低いキャラを創ることだって可能。
あと、性別も変更可能だし、年齢も変更可能と、かなり自由度が高い。
ゲームによっては、現実と同じ性別しかできないようなゲームもあったりはするが、その手のゲームは結構前のゲームで、現代でリリースされるゲームの大半は性別を変えることも可能だ。
ちなみに俺は……。
「ま、これはこれで楽しいしいいや」
銀髪オッドアイのロリである。
いや、うん。仕方ないじゃん、俺の二次元の好みってこんな感じなんだし……。
腰元まで伸びたゆるふわな銀髪ロングで、片目蒼の片目深紅っていう、厨二心くすぐる仕上がりである。
ただ、服装自体は不思議の国のアリスをテーマとしていて、名前もアリスである。
水色と白基調としたエプロンドレスに、頭にはリボンカチューシャを着けているという、現実の俺を知っている奴見たら大爆笑間違いなしの出で立ちである。
尚、ゲーム内ボイスは現実の自分の声なので、地声だとリアル男だとバレるが、俺はミックスボイスができるのでガチ女の振りをすることもできる。
まぁ、俺の特技はどうでもいいか。
「あー……なんだ、インしてるのは俺だけか」
現在、俺が運営する組織に所属するプレイヤーは俺含めて六名。
プレイヤー規模としては少人数ではあるものの、これでもかなり上位帯の組織だったりするんだなーこれが。
うちは、プレイヤーもそうだが、NPCも強化する、というのを基本的且つ最も重要な方針にしているからな。
だからプレイヤーはそこまで必要じゃなかったり。
もちろん、常に募集してもいる。
ただ、加入条件に見合わない奴だったら普通に落とすけどな!
「んー、あいつらがいないなら、今プレイしなくていいか。とりあえず、置きメッセを残しとけばいいよな。じゃ、一旦ログアウト、っと」
俺は基本、誰かと一緒にプレイすることを好むため、一時ログアウトとなった。
たったの二分程度でマイルームに戻ってくる俺。
「んー、リアルに戻ってもなぁ……正直、あいつと顔合わせるとか最悪だし。とりあえず、ここで適当にだらだら過ごすかね」
そう決めた俺は、マイルームで過ごすことに。
このマイルーム、かなり多機能なのだ。
現代まで根強く運営されているサブスク(むしろ、今はほぼネット配信とサブスクのみ)や、動画配信サイトに、映画なんかもある。
無料で利用可能なものもあれば、有料なのもあるがそんなもんだと思う。
尚、昔はテレビなんてものもあったらしいが、VRの普及と同時に廃れて行ったらしい。
今は、レトロゲームをプレイしたり、未だにサブスクに追加されないアニメやドラマなどを視聴するのに使われるものになっているようだ。
うちにはない。
そういや俺の友達にいたな、レトロゲー好きが。
レトロゲーを遊んだことがあるが、あれはあれで面白いから俺もそれなりに好む。
「今日は……よし、これを見るか」
加入しているサブスクで、気になっていたアニメを見ることに決め、俺はアニメの視聴を始める。
いざ視聴を始めると、なかなかに話が面白く、作画もかなり良く出来ていて、おかげで、ノンストップで一話から最終話まで観てしまった。
「ふぅ、面白かった……さて、と。そろそろリアルに……ん?」
アニメを見終えて、VR空間なのに伸びをしながら、リアルに戻るかと考えていると、『ピロン♪』とメールが来たことを知らせる音が鳴る。
今のご時世、VR内でメールが主流だからな。
もちろん、小型AR端末とか、連携前提の端末なんかでもできるが、大体の人はVR内にいることが多いしな。
生物的生活以外は基本的に電脳世界に引きこもってる、なんてざらな世の中なので。
さてさて、メールが届くという事は、少なからず鳴るように設定した奴らだけという事になるな。
ふふ、あの置きメッセに気付いた身内たちかね?
なんて、リアルへログアウトする寸前で、再びVEOにログインしようと考えながらメールを開くと、
【宛先:アリス=ディザスター
差出人:ヴァルフェリア
件名:招待
本文:応じる/応じない】
意味不明なメールが届いていた。
「……なにこれ?」
え、なにこれ?
全く知らない差出人に、謎すぎる件名と内容なんですが、なんでしょうかこれは。
新手のVR詐欺ですか?
思わず言葉と思考でなにこれを言っちまったけど……いやほんとに、ナンダコレ?
落ち着け、とりあえず、考察だ。
まず、宛先。
これは俺がVEOで使用している俺のプレイヤーネームだ。
厨二病的ネーミングをしているが、そこはまぁ、俺のプレイスタイル……というか、初期で選んだ方向性的にこっちの方がいいやろ! という安直な理由でやっちまったのが理由なので、仕方ないと言えば仕方ないんだが。
ってか、もっと考えろよ、中学三年の時の俺……。
まあ、俺の黒歴史はいいとして、だ。
まず、どうして宛先が俺の実名『繰木瞬』ではなく、VEOにおける我が半身、『アリス=ディザスター』となっているのか。
これについては、二つのパターンが考えられる。
ロビーで取れる連絡手段は、通話とメールだ。
一応、ファストトラベルなんかもできるが、あれは相手側の了承が無いとできないし、場合によってはすぐに応じることができない場合が多い為、もっぱらこの二つが採用されている場合が多い。
で、このロビーに組み込まれているシステムの一つに、ゲームと連携することで、ゲーム内にもメールを送ることができる機能がある。
それを使って俺に送ってきたというパターンが一つ。
もう一つは、『繰木瞬=アリス=ディザスター』であることを知っている奴らが、いたずら目的で送ってきたパターン。
この二つが考えられるパターンだが……うーむ、これはどっちだ?
とりあえずは一旦後回しにして次の疑問。ってか、下手すりゃ次の疑問で氷解しそうだしなー。
その疑問というのは……差出人のこの、ヴァルフェリアって誰だよ、という疑問。
いや、正確に言えばこの名前自体、俺――いや、俺たちVEOプレイヤーたちにとっては聞き馴染みのある名前なのだ。
というのも、例のゲームの開発会社の名前がたしかこれだったのだ。
同時に、この名前はゲームの中でも度々登場する。
それ故、あのゲームをやっているプレイヤーであれば、必ず目にすることだろう。
それに、初めてプレイする際には確実にタイトルロゴをでかでかと見せられるしな。
だがしかし、果たして会社から個人宛にメールなんて送られてくるだろうか?
その答えとしては『否』と結論付けるほかない。
それはなぜか。
答えは簡単。
だってあの会社、ホームページがクッソ簡素だし、なんか知らんけどユーザーサポートも全くないし、そもそもバグも不具合もない、なんていう頭のおかしい会社なんだもんさ。
いくら過去に比べて機械関連のバグ発生が減ったとはいえ、0ってのは変だろ。
けど、実際運営されてるし、うーん……。
みたいなのが、サービス開始からしばらくしてあったのだ。
実際に、俺もバグを目にしたことはない。
尚、あまりにもバグが見つからなさ過ぎて、このゲームのアンチたちが必死こいて粗を探そうとしたものの……結局バグや不具合なんてものは見つからず、逆に妙に現実的なゲームであると証明されることになったという、ちょっと面白い一件もある。
だからこそ、会社から個人当てにメールなんてまずありえないのだ。
そもそもが、こちら側から向こうにメールを送る方法なんてないし、逆も然りだから。
このゲーム、一応の課金要素はあるものの、そこまでゲームに影響が出るほどではなく、課金限定の衣装なんかがガチャで売られていたり、あとは武器や防具なんかのガチャがあったりするくらいで、他はプレイヤーたちが好き勝手出来る、みたいなシステムなのだ。
そして、その課金要素も自身の口座にある現金をバーチャルマネー(VRM)に変換、それで購入するという流れなので、向こうの会社が俺たちの情報を知ることなど普通は不可能なのだ。
連絡先を向こうに送るような事柄がないから。
だからおかしい。
つまり、この名前はたまたま被っただけ、という可能性が最も高いわけだ。
よし! それで納得しよう!
別に会社から来たとか、なんか俺がやっちまったから目ぇ付けられた、とかそんなわけじゃないだろうしな! うん!
俺、あのゲームだとポジションがちょっとアレだけど、クリーンな組織運営で名が通ってるから!
よしじゃあ、最後の疑問。
「招待ってなんやねんっ!」
思わず声に出してツッコむ俺である。
いやそうだろ? だっていきなりわけわかめなメールが送られてきて、その上件名は招待の二文字だけ。
本文に至っては、応じる・応じない、の二つだけで……これっていったいどういう事よ? 俺、なんか新手の詐欺グループか何かに狙われてるん?
でもさぁ、なんか応じるの文字は青くなっているのに対して、応じないの方は赤っぽいんだよねぇ……。
これが何を意味するのか、と言えば……要は、先へ進むリンクは青で表示され、戻るリンクは赤で表示される、っていう現在のネットの基本機能なんだけどな?
じゃあ、この応じるってとこを押せばどこかへ進む、というのは確かだ。
うーむ、この手の物だと……何があるんだろう?
やっぱ、ドッキリ系のいたずらサイト、とか?
にしては、こう……凝ってないんだよなぁ。
じゃあ、このメールは一体なんだ?
という最初の疑問に戻ってくる。
ここからは堂々巡りにしかならないだろうなー。
「ふぅむ……ま、なんか面白そうだし、ここで何かいたずらサイトだったら、そん時はあいつらとの話の種になるよな! よーし、じゃあぽちっとな!」
などと、楽観的になっていたのが悪かったんだろう。
ここで押さなければ、あんなことになることはなかったとも。
応じるの文字を押した瞬間、俺の意識はぶつん、といきなり途絶えるのだった。
ひゅぅ~~~~~~……。
……なんだ、妙に風を感じる……。
ってか俺、いつの間に寝てたんだ……?
あー……なんか、意識がまだ微睡の中ぁ~……。
まだ眠いし、このまま……。
寝ぼけた思考でそう思った直後だった。
ズドォォォォォオオォォォォォォォォンッッッ!
「な、なんだなんだ!?」
突然の凄まじい衝撃と轟音に一気に目が覚めた。
慌てて体を起こして、そのまま思ったことが脳内フィルターを通さずに口から漏れ出る。
それと同時に、聞き覚えのない声も聞こえてきたが、今は謎の衝撃の理由を解明する方が大事だよな!
「く、クレーター……?」
辺り一帯砂埃が舞っていたが、次第にそれは晴れていく。
そして、視界を遮っていた砂埃がなくなると、そこにはクレーターがあった。
というか、視界の様子から察するに、どうも俺が中心っぽい?
んー、となるとー……これ、俺が落ちてきた衝撃でできてね?
いやいやいや、HAHAHAHA!
「……え、マジ?」
心の中でよくわからんことをしつつ、俺は冷静に頬を引き攣らせる。
冷静に頬引き攣らせるってなんだ。
いや、そんな自問自答はどうでもよくて……。
「俺、いつから頑丈になったん? 普通、人間って高度一万メートルから落下したとしても、半径五メートルのクレーターとかできないよね?」
うわー、俺いつから超人になったんだろーなー……。
あと、明らかに俺の声帯から出ている声が俺の声じゃない。
ミックスボイスという特技により、さまざまな声が出せる俺だけど、思わず聞き惚れそうになるほどの可愛らしい声は出せませんが?
だってあれ、あくまでも女声が出せるだけで、確実に可愛い声が出せるわけじゃないし、どっちかと言えばカッコいい系とか、美人系の声だし。
可愛い声は普通は無理だと思う。
できて……小学生時代の時くらいじゃないかな?
ふむふむ……とりあえず保留ぅゥっ!
「……とりあえず辺りは草原草原草原木が一本草原……うん、THE草原の草原地帯、ってところかな?」
草原言い過ぎだろというツッコミは是非とも飲み込んでほしい。
だって、さっきまでマイルームにいたのに、いきなり五感がごりっごりに働いてる(推定)現実に放り出された挙句、見知らぬ草原にいるんだぞ?
現実逃避気味に言っても仕方ないだるるぉぉ?
「よっこいせ…………って、あれ? いや待って? そういやこの草原見たことがあるような気が……」
そこではたと気付く。
そう言えばここ、VEOの世界の草原地帯にそっくりだなぁ……と。
だって、遠くにでかそうな壁に囲まれた街が見えるし、反対方向にはつい最近取ったばかりの陣地が見えるしで……うん。
え? じゃあ何か? もしかして俺、未だに根強い人気を誇るジャンル、異世界転生及び異世界転移をしちゃった、と?
それも、VEOにそっくりな、という枕詞付きで。
ふむふむ……。
「はいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!???」
やはり声は可愛らしかった。
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