第103話 ガランドの拠点内散策
俺の名はガランド・レンジャー。木っ端じゃなくなったと思ったら、今度は悪魔討伐の最先鋒にさせられそうになっている不幸の化身だ。
いや本当に不幸過ぎない? なんで危険から離れようと旅行した先で、帝国から落ち延びて来た皇帝とその娘にばったり出くわすんだよ。俺何か悪いことしたか?
「ガランド殿、改めて感謝させてくれ。あなたがいなければ、私も父もあの森で力尽きていただろう。その上で、更にこのように我が国を救援するための手配まで……あなたには感謝してもしきれない、もし祖国解放が叶った暁には、帝国最高の栄誉と褒章を約束しよう」
「いえ、そんなもの必要ありませんので、お気遣いなく」
そんな俺の気も知らず、帝国皇女のシフェア様は俺を必死に持ち上げようとして来る。
今でも俺の身には過ぎた名声のせいで苦労しまくってるのに、この上更に栄誉を乗せるとか拷問か? 嫌がらせか? 勘弁してくれ。
「なんと……栄誉も褒章もいらないと!? なんと謙虚な方なんだ、あなたは……!!」
いや違う、違うから。本当にそういうの勘弁して欲しいだけだから、そんなことで評価を上げないでくれ。
どう伝えれば理解して貰えるだろうとほとほと困り果てながら、現実逃避気味に空を見上げていると……なぜか、そんな俺を尊敬の眼差しで見つめて来るシフェア様。
いやなんで? 今の俺のどこにそんな眼差しを送る理由があるの?
えっ、他国の現状さえ憂いて遠い眼差しで佇む姿がカッコイイ?
うん、目の病気だと思うから医者にかかった方がいいと思うぞ。
「父さん!!」
「ソルドーー!! やっと来たかぁーー!!」
どうしたものかと困り果てていたら、ついに我が愛息子が国境の騎士団に合流してくれたようだ。
待っていた、ずっと待っていたんだお前を!!
「ソルド、話は既に聞いているな?」
「うん、帝国が悪魔に乗っ取られたって聞いた」
よしよし、正直悪魔がどうとか国を乗っ取られたとか、俺には話のスケールが大きすぎて何が何だか分からないが、ソルドは悪魔すら超える本当の怪物だ。
こいつに任せておけば、きっと何とかなるだろう。
「詳細については、こちらのシフェア様に聞いてくれ。帝国の皇女様なんだ、丁重にな」
ついでに、シフェア様のことも押し付けてしまおう。本物の英雄の傍にいれば、シフェア様も俺のことなんて忘れてくれるはずだ。
頼んだぞソルド、お前のたらしスキルでシフェア様の興味を引き付けてくれ!!
「分かったよ、父さん。シフェア様、俺はソルド・レンジャーです、悪魔討伐の一助となるべく参戦しました。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼む。我が祖国が不甲斐ないばかりに迷惑をかけるが……」
「実のところ、悪魔を仕留め損なったのは俺達なので……迷惑をかけたのは俺達の方だって見方も出来るんですよ。そこはお互い様ということで」
握手を交わし、すぐに打ち解けるソルドとシフェア様。
うんうん、これなら大丈夫そうだな。
「それじゃあ、後は任せたぞ、ソルド! 俺には大事な用があるのでな!!」
「父さん? ……なるほど、分かったよ」
なぜか意味深な表情で頷くソルドに首を傾げつつ、まあ納得してくれるならいいかとその場を後にする。
改めて拠点を散歩してみると、随分と大勢の騎士が集まったもんだなぁ。相手は悪魔が乗っ取った国一つだって話だし、当然のことだろうけど。
「ん? ……お前、ガランドじゃないか、久しぶりだなぁ!!」
「んんっ!? お、お前は、トードン!?」
フラフラと当てもなく歩いていると、一人の騎士に声をかけられた。
こいつの名前はトードン。ハルトマン侯爵家の招集によって肩を並べたこともある男で……つまり。
俺をへっぽこ芸人だと知っている人間の一人だ。
「こんなところで何をしているんだ?」
「い、いや、俺は……」
ここでうっかり「帝国との戦争に駆り出されたんだ」などと語っては、「なんでお前が??」と疑問を持たれ、俺の弱さが露呈してしまうかもしれない。
もちろん露呈してくれた方が楽と言えば楽なんだが、俺の力が凄まじいものだと陛下にまで誤解されているのが現状だ。うっかり露呈すれば、そのまま首を刎ねられるかもしれない。
というか、こいつは俺に対して今どういう認識なんだ? 俺の英雄譚(笑)は知っているんだろうか?
「ガランド、お前今は英雄やってるんだろう? 散歩なんてしている場合じゃないんじゃないか?」
知っていたわコイツ。知っていた上で俺を揶揄おうという意図が見え見えな感じで笑っていやがる。
おのれぇ、コイツ他人事だと思って……!!
「別に散歩しているわけじゃない、俺は見回りをしているだけだ。ここは国境から近いからな、悪魔が何かして来るかもしれないだろう」
「ぶわはははは! 見回りならなんで建物の中を歩いてるんだよ、普通外だろ」
うん、コイツの言う通りだな、どう考えても見回りで歩くような場所じゃない。
だが、そういう時の言い訳能力は、ここ数年の諸々で泣けるほどに上がっている。
これくらい、誤魔化せない俺ではない!!
「ふっ、甘いな……お前は悪魔を甘く見過ぎだ」
「というと?」
「悪魔には常識外れの力が数多く備わっている。連中が攻めて来るとしたら外からだというその発想こそ、既に奴らの術中に嵌っていると言っても過言ではない」
俺の言葉に、トードンは目を丸くしている。
そんな反応が面白くて、俺の言葉は益々ヒートアップしていく。
「俺達が外ばかりを警戒していると見抜いた悪魔達は、俺達が陣を張っているこの拠点の中に、直接転移することで乗り込んで来るだろう……そう、例えば、お前のすぐ後ろに!!」
そう叫び、俺はトードンの後ろを指差した。
俺としては、ここでトードンが大慌てで後ろを振り返ったら、その様を指差して笑ってやろうと思っていた。
だから、そう。
指差した先で、本当に真っ黒な裂け目が生まれ、そこからぬっとよく分からん魔獣か何かが顔を出そうとしているのを見てしまった瞬間、腰が抜けるかと思った。
「うおぉぉぉぉ!?」
トードンは、悲鳴にも似た声を上げながらも、素早く引き抜いた剣で魔獣の首を斬り落とす。
その時点で転送は中断されたのか、後続が出て来ることはなかったが……無言の廊下で、俺とトードンは顔を見合わせる。
「いや、すごいな、ガランド……お前、本当に英雄になってたんだな……見直したよ……」
心の底からそう告げるトードンを見ながら、俺は密かに思った。
本当に、どうしてこうなるんだ?
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