第102話 生徒会出陣

 ルイスと修行をしていたら、学園にいるクロウ達に呼び出された。


 一体何事かと向かってみると……久しぶりに生徒会メンバーが全員集合したその部屋で、思わぬ情報を聞かされることに。


「グランシア帝国が、悪魔に乗っ取られたらしい。皇子の体を奪い、クーデターを起こして皇帝を暗殺しようとしたようだ」


「……マジで言ってる?」


「こんなこと、冗談でも言わないさ」


 真剣な表情で告げるクロウに、俺も思わず天を仰いだ。


 逃げ出したっていう悪魔……サタンが何をしでかすつもりか気がかりだったけど、まさか国ごと乗っ取るだなんて思わなかった。


「君の父上が、国境付近で死にかけていた帝国の皇帝を保護してくれたことで、この事実が判明した。彼には、本当に助けられてばかりだな」


「父さんが……」


 急に旅行とか言い出してどうしたのかと思ったけど、まさか父さんはこうなることを予期していたのか? 流石だな、父さんは。


「話は分かりましたが、私達を呼び出した理由は何なのですか? こう言ってはなんですが、一介の学生が知ってもどうしようもないと思うのですが……」


 思わぬ事実に驚いていると、ティルティが疑問を口にする。


 確かに、国を乗っ取るレベルにまでなると、俺達に出来ることはそう多くなさそうに思えるな。

 どういう考えなのかと問われたクロウは、厳しい表情で口を開いた。


「……悪魔に対して、明確に戦果を挙げられたのが君とガランド伯爵しかいないんだ。騎士団はもちろん動くが、サタンに対抗するには君達レンジャー家の協力は不可欠だと王家は判断した。悪いが、国境の騎士団に合流し、悪魔討伐に協力して貰いたい」


 すまない、とクロウは頭を下げる。


 本来なら、学生を国を挙げて矢面に立たせるような真似はするべきじゃないけど……国を支配した悪魔を相手に、年齢を理由に出し惜しみなんて出来ないってことか。


「気にしないでくれ、悪魔の存在は俺にとっても無視出来ることじゃない。父さんもいるなら猶更、俺だけ安全な場所でのうのうとしてることなんて出来ないよ」


 そう伝えながら、俺はちらっとティルティの方を見る。


 ……悪魔に誘拐されて以来、ティルティがどうにも元気がない気がするんだよな。

 悪魔達は勝手に自滅したって言ってたし、何もなかったとは聞いてるけど……心配だ。


 ティルティが今何を抱えているのかは分からないけど、悪魔を討伐することでその憂いを晴らせる可能性があるのなら、戦わない理由なんてない。


「ありがとう、そう言ってくれると助かるよ。もちろん、君だけを戦わせるつもりはない、僕も共に行くよ」


「王子が出向くのでしたら、僕も行かないわけにはいかないですね」


 クロウに加えて、ライクも参戦を表明する。

 それに応じて、他の面々も次々と声を上げた。


「なら、私もいく。ソルドのサポートしたい」


「師匠が行くなら、私も行きます! こういう時のために修行を重ねて来たんですから」


 シルリア、そしてスフィアも手を挙げる。

 すると、隣にいたルイスも一歩前に出た。


「俺も。……俺も、連れていってくれ」


「ルイス……大丈夫なのか?」


 心配そうに、クロウが問いかける。

 悪魔に体を乗っ取られて以来、実家に戻ってずっと閉じ籠っていたルイスが、もう一度悪魔に挑もうっていうんだ。周りに流された結果じゃないかって気にかけてるんだろう。


「大丈夫だ。いや……大丈夫だって言い切るために、俺はもう一度悪魔と向き合わなきゃならねえんだ。頼む、俺にチャンスをくれ」


 真剣な眼差しで、クロウを見つめる。

 そんなルイスを援護するべく、俺も口を挟むことにした。


「クロウ、ルイスなら問題ない。いざとなれば俺がサポートするから、連れて行ってやってくれ」


「……分かった、君達を信じるよ。……ルイス」


「ん?」


「無理はするな。君がいなくなると、悲しい」


 クロウの、誰が聞いても分かるほど個人的な想いを聞いて、ルイスは目を丸くする。


 なんともいえない雰囲気に、ルイスが戸惑っていると……そんなことはお構いなしに、俺の隣でティルティが袖を引っ張った。


「私はもちろんついていきますよ、兄さん」


「ティルティ……俺としては、マニラ達と待っててくれた方が嬉しいんだけど」


「嫌です。私は、いつだって兄さんの傍にいますから」


 拒否は許しません、と笑顔を向けられ、その圧力を前にたじたじとなってしまう。


 そんな俺達に、この中で唯一生徒会メンバーじゃないログロイが声をかけて来た。


「何でもいいけど、俺もついていっていいか? 師匠とソルドが行くなら、向こうじゃないと修行出来なさそうだし……ソルドの魔法剣も、俺しか整備出来ないだろ」


「……それはそうだな」


 俺が悪魔に対して有効な攻撃手段は、現状だとスフィアの力を込めた魔法剣だけだ。


 あれは製作者であるログロイしか整備出来る人間がいないし、来てくれなきゃ困るのは確かだろう。


「……あれ、もしかして私もついて行った方がいい流れですか……?」


 生徒会メンバー全員、しかもログロイまで行くとなり、唯一残ったマニラが冷や汗を流している。


 俺達と違って、マニラは完全な非戦闘員だし、ついて来られても困るんだけど、この流れで自分だけ残るとも言いづらいんだろう。


「安心してくれ、生徒会全員でいなくなっては、学園の方で仕事が溜まり過ぎるからね。マニラにはそれを片付けておいてもらいたいんだ」


「ほっ……」


 あれ、でも一人で生徒会の仕事を全てこなすのもそれはそれで地獄では? とマニラが頭を抱えているが、そこは一応有志を募って臨時役員として働いて貰うらしい。


「さて……それでは、決まったな。僕ら生徒会は、グランシア帝国を乗っ取った悪魔の討伐に向かう。みんな……必ず、ここに帰って来よう」


 そんなクロウの宣言と共に、俺達は悪魔の王との戦いに赴くことになるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る