第99話 ルイスの訓練の日々
「ルイス、準備はいいか?」
「ああ、いつでも来い……!」
父さんのところで、ルイスが訓練を付けて貰うようになって数日。
今は、俺と決闘形式で剣の打ち合いをしていた。
父さんから、魔法に頼った剣技ではなく、もっと実剣であることを生かした技を覚えるべきだと言われていたから、ルイスがその切っ掛けを掴むのが目的だ。
「なら、こっちから行くぞ」
「っ……!!」
一歩でルイスの懐まで飛び込み、剣を振り抜く。
それを、ルイスは剣を合わせて防ぐんだが……体勢が悪いので、このまま押し込める。
「ルイス、魔法剣と違って実剣は防御に使えるのはそうだけど、ただ盾にすればいいってもんじゃない、ぞ!!」
「分かってる、が……!!」
崩れたルイスの眼前に剣を突き付け、寸止めしたところで一度退く。
一本取られたルイスは、負けじとさっきの俺の動きを真似して突っ込んでくるが、やっぱり魔法がないせいか動きが鈍い。
そんなルイスの剣に、俺の剣を添えるように受け流し……もう一度、首筋に剣先を突きつける。
その体勢で一度固まったルイスは、そのまま腰から崩れ落ちるように座り込んだ。
「くそっ……やっぱ、強いな、ソルドは……」
「そりゃあ、こちとら剣一本でずっと戦って来たんだぞ? 魔法を使わないお前に負けてたら流石に泣くよ」
本気で悔しそうなルイスにそう答えながら、手を伸ばす。
俺の手を取って立ち上がったルイスへと、俺は更に言葉を重ねた。
「なあ、別に父さんは魔法を使うななんて言ってないだろ? 何も完全封印なんてしなくてもいいんじゃないか?」
「分かってるさ。けど、これまで純粋に魔法だけで戦うことをずっと目指して来たからな……この意識を変えるなら、しばらく魔法から距離を取るのがいいと思ったんだ」
「そうか……」
あんまり一方的に勝ち続けるのは、ルイスの精神的に良くないかと思ったんだが……何かを掴むために必死に頑張っている今のルイスを見ていたら、まだ前世の記憶を思い出したばかりだった頃の自分を思い出す。
今だって強くなるために修行は続けてるけど、なまじ強くなった分、あの頃ほど形振り構わない必死さは薄れていたんじゃないかって。
もしかしたら、父さんは俺にそれを思い出させるために、下手な口出しをせず俺に任せるような方法を取ったのかもしれない。
「父さんには、やっぱり敵わないな……」
「ん? どういうことだ?」
「いや。ルイスは絶対強くなるって思っただけだよ」
「なんじゃそりゃ……まあいい、続きを頼む」
「ああ」
その後も、俺はルイスと一緒に修行を続けた。
父さんの道場で場所を借りての修行だから、学園のように時間を気にする必要もない。
何度も打ち合いを重ねていると、俺達のところへティルティやログロイがやって来た。
「兄さん! お弁当を作って来ましたので、そろそろ休憩にしませんか?」
「ティルティ! ありがとう、頂くよ」
「お前ら、揃ってもう一人いることを忘れてないか? 一応、俺も手伝ったからな。……ルイスさんの弁当を」
「そうなのか? 感謝するぜ、ログロイ」
ここで何日も修行してるから、門下生の一人であるログロイとルイスも結構仲良くなったみたいだ。
ルイスがガシガシとログロイを撫でると、当のログロイは鬱陶しそうにその腕を払って文句を言う。
そんなわけで、俺達はひとまず昼休憩と洒落込むことに。
「兄さん、はいあーん♪」
「自分で食べれるって」
俺に食べさせようとするティルティを宥めながら、苦笑と共に弁当を食べる。
四人で囲みながらの食事なんだけど、ティルティだけやたらと俺に距離が近い。
そんなティルティに、ログロイは呆れたように口を開いた。
「本当に兄妹かよ、いちゃつき過ぎだろ」
「義理の兄妹ですからね。それに……例の事があってから、どうにも胸騒ぎが止まらなくて。出来るだけ兄さんの傍にいたいんです」
ティルティの言う例の事っていうのは、間違いなくサタンとかいう悪魔のことだな。
顔を顰め、本気で不安そうにしているティルティを撫でていると、ログロイは困ったように言った。
「……悪魔のことは、クロウ王子もライクさんも、その後のことは全く分からないって言ってたな。調査するとも言ってたけど……当分は難しいんじゃないかな」
「あ? 難しいってなどういうことだ?」
疑問を覚えたルイスが、ログロイへと尋ねる。
口調からして、単に悪魔の足取りを掴めないっていうだけじゃない別の理由がありそうだが……。
「あー……なんでも、隣の国……グランシア帝国だったか。そこで政変が起こってるんだってさ。それに対処するので忙しくなりそうなんだってさ」
「政変……?」
グランシア帝国って、確か西側にある大陸最大の国だったよな。
父さんが急に旅行に行くって言ってたのも、王国西端の町だった気がするけど……まさか……。
「マジかよ……ちっ、俺がこんな状態じゃなきゃ、あいつらの手伝いをしなきゃいけない立場だってのに……」
ログロイからの思わぬ情報に、ここのところはずっと訓練漬けだったルイスが自分を責めるように舌打ちする。
そんなルイスの言葉を、ログロイはバッサリ切り捨てた。
「ルイスさんがそれを気にしてもどうせ役に立たないんで、今は大人しく長ったらしいスランプを脱することを考えた方がいいと思いますよ」
「容赦ねえなお前……」
若干顔を引き攣らせるルイス。
けど、容赦のない口ぶりのお陰で却って割り切れたのか、大きく息を吐いて頬を叩く。
「でも、お前の言う通りだな。いざドンパチが起こるまで俺は役に立てねえんだ、それまでに、俺自身の新しい剣術を見つけ出してやる」
「その意気ですよ」
気持ちを切り替えたルイスに、ログロイも素っ気なくエールを送る。
そんな二人の様子に、俺とティルティは顔を見合わせ、小さく笑うのだった。
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