第98話 ガランドの新しい生徒
俺の名前はガランド・レンジャー。悪魔退治の英雄だ。
いや、俺はただ突っ立っていたただけで、悪魔を倒したのは全部門下生なんだけども。
益々後に引けない状況になって来た気がするし、もう道場なんて放り出して領地に帰りたい。
帰りたいんだが……。
「父さん、ルイスに稽古をつけてやってくれないか?」
「…………はい?」
息子のソルドが、突然押しかけて来たかと思えばそんな発言を繰り出した。
……いやいや、どういうことだ?
「悪魔に一度乗っ取られて、自信がなくなっちゃったらしいんだ。父さんなら、もう一度自信を付けさせてやることも出来るんじゃないかと思って」
いやいやいや、こいつは俺をなんだと思っているんだ?
俺自身に自信の欠片もないのに、どうしたら他人に自信を付けさせられるんだよ。
「お願いします、ガランドさん!! 俺に……俺に英雄の戦い方を教えてください!!」
だから俺は英雄じゃないんだって!!
けど、こんなに必死に……救いを求めるようにやって来た若者に、「俺は英雄じゃないから無理だ」なんて冷たく突き放す度胸は、俺にはなかった。
いや、どう考えても突き放すのが優しさなんだが。
「分かった……俺に出来ることなら、やってやろう……」
「っ、ありがとうございます!!」
「だが、ソルド。お前も一緒に訓練するのが条件だ」
「俺?」
「お前が連れて来たんだ、最後まで面倒を見ろ」
俺が教えたところで、何の意味もないが……ソルドがいれば多少はマシになるだろう。
そんな俺の情けない要望に、ソルドは快く胸を叩く。
「分かった、俺も出来るだけ手伝うよ。何をすればいい?」
「共に訓練する中で、お前が思うままにアドバイスすればいいさ。ただ、俺の訓練は厳しいからな、覚悟しろよ?」
「もちろん、分かってるよ」
「覚悟の上です!!」
基本的にはソルドに丸投げするつもりだが、それだけじゃあ不満を覚えられてしまうかもしれない。
なるべく厳しい訓練を課して、誤魔化そう。
我ながら最低なことを考えながら、ひとまずその場を切り抜けるのだった。
俺は基礎しか知らないので、指示できる訓練内容も基礎だけ。
とはいえ、基礎を延々とやらせるだけではアレなので、ソルドに「まずはいつもより厳しめの基礎訓練をやれ」って言ったんだ。
まさかこんなことになるとは思わなかったよ。
「ぜー、はー、ぜー……!!」
「頑張れ、あと百回!!」
俺の前で、汗だくになりながら訓練する二人。
基礎も基礎、素振りをしているんだが、そのために使っている道具がおかしい。
人の背丈よりも大きな重しを付けた、とんでもなくデカい棍棒で素振りしている。
どうやって作った? というかなんでそれが振れるんだ?
「お、お前、いつも、こんなもんで、訓練、してたのか……!!」
「流石にここまでデカいのはやってなかったよ。そろそろ訓練の強度を上げようと思って、フレイに作って貰ったんだ」
「なら、なんで、二つ、あるんだよ……!!」
「スフィアも使うかなって」
「くそっ……やっぱ、お前らには、敵わねえなぁ……!!」
いやいやいや、涼しい顔で素振り千回こなしてるソルドがおかしいのであって、既に九百回やってるお前も十分おかしいよ。
こいつらの基準はどうなってるんだ。
「……お前は才能あるよ、心配するな」
流石に放置するのもどうかと思い、声をかける。
いや本当に、お前十分すごいよ、なんでそれで自信喪失なんてするんだよ。
「ありがとうございます……けど、才能ってどんな……?」
「…………」
やべ、どんなって言われても、なんて返せばいいんだこれ。
怪力なんて言っても、見るからにソルドには負けてるし。
剣の才能なんて、それこそソルドより上の奴はこの世にいるのか? って感じだし。
うーんうーん……はっ、そうだ!!
「魔法剣士としての才能だ!!」
「魔法、剣士……けど俺は、ソードマン家の魔法剣術が上手く出来なくて……」
そういや、ソードマン家って魔法剣の名家だったわ!!
まずい、どんどん墓穴を掘ってる気がするぞ……何とか修正せねば!!
「否!! お前には実剣を用いた剣術の才能がある。そこに魔法の才能を組み合わせることが出来れば、間違いなくお前独自の新たな魔法剣を生み出すことが出来るだろう!!」
「新たな……魔法剣術……」
修正しようとしたんだが、なんだか余計にとんでもない発言をしてしまった気がする。
これ、ソードマン家の剣術を否定してるってことにならないよな? 大丈夫だよな?
「ソルドの剣をよく見て学ぶといい。そうすれば、自ずと新たな扉が開かれるはずだ」
もういいや、後始末はソルドに任せよう。
元々、ソルドに丸投げするつもりだったんだ、これ以上は余計な口を挟まずに、見守るだけにシフトすればいい。
「ありがとうございます!! 俺……頑張ります!!」
「おう、頑張れ」
ひらひらと手を振って、俺は見物に戻る。
さて……早く終わらないかな、この訓練期間。
いっそ、旅行と称して少し王都を離れるのもいいかもしれない。帰って来る頃には終わるだろう。
話が終わった俺は、呑気にそんなことを考えるのだった。
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