第96話 悪魔騒動のその後
「ティルティ、本当に大丈夫か……?」
「大丈夫です、体にはどこも異常ありませんから」
悪魔達の最後の抵抗とでも言うべき騒動から一夜明けた今日、俺はめでたく退院? というか、医務室から出たティルティを迎えに行っていた。
昨日、王都郊外で倒れているのを衛兵が見つけ、学園の関係者だろうと運び込んでくれたらしい。
医者が診た限り、体のどこにも異常はなく、悪魔に憑かれた様子もないから大丈夫だろうとのことだったけど……やっぱり心配は心配だよ。
「ごめんなティルティ、俺が守ってやれなかったばっかりに、怖い思いさせて」
「いいんですよ、お陰で色々と分かりましたし、悪いことばかりじゃありません」
ティルティによると、今回の悪魔騒動はタイタンズ残党の仕業で、そいつらに誘拐される形で悪魔の人質になってしまったらしい。
悪魔を使役し、その力でかつての力を取り戻そうとして……逆に悪魔達に全てを乗っ取られて、利用されていたんだと。
ところが、タイタンズ残党なんて戦闘員ですらなく、悪魔の力にも耐えられなかったため、すぐに自壊して消滅してしまったらしい。
そんなことあるのか? って感じだけど、ティルティがそう言ってるんだし、そういうこともあるんだろう。
ティルティが脱出の際に持ち出した資料のお陰で、残党として活動していた貴族達も判明し、騎士団も出動した。
以前の粛清と合わせて、国内に領主不在の土地が増えるから大変なことになりそうだと、クロウもぼやいていたな。
確か……今回の悪魔騒動でも、父さんが門下生達と悪魔の集団を先んじて制圧したお陰で被害が抑えられたとかで、空白になった土地をレンジャー領に組み込んではどうかって話が出てるんだっけ。
「侯爵位は、戦果以外にも色々と条件があるせいで貰えないそうですけど……領地だけなら、レンジャー領も侯爵級になりますし。ふふっ、これで兄さんもライクさんと肩を並べられますね」
「並べたのはあくまで父さんだけどな。……そういえば、クロウが言ってたっけ。王族と結婚すれば侯爵どころか公爵位だって与えられるから、うちの妹はどうだとかなんとか」
なお、クロウの妹は現在八歳らしい。
あと二十年もすれば七歳差なんて気にならなくなるかもしれないけど、現時点でそれはちょっと開き過ぎだろって断った。
クロウが本気で残念そうに見えたのは……父さんが王族に連なってくれた方が都合が良いからかな?
「兄さん……まさかその子を狙って……!? 確かに、兄さんが望めば王族の一員どころか、国王にだってなれるでしょうが……でも……うぅ……」
「いやいや、過大評価し過ぎだよ。それに……前々から言ってるけど、俺にとって一番大事なのはティルティだから。あんなことがあったばかりなんだから、俺としては四六時中だってお前の傍にいたいくらいだよ」
ティルティによると、タイタンズ残党は壊滅し、この世界にやって来た悪魔達もほぼほぼ消滅したそうなんだが……ただ一体、悪魔の親玉であるサタンとかいう奴が生きたまま逃げ出したというのが不安だ。
「兄さん、そこまで……えへへ……でしたらもう、今日から同じ部屋で生活しませんか? そうすればずっと一緒に……」
「ああ、いいぞ」
「こんなこともありましたし、せめて一日くらいは……へ? いいんですか?」
「今は実質一人部屋だからな。これだけのことがあったんだし、部屋に入れたからって文句も言われないはずだ」
そう、俺は今ほとんど一人部屋なんだよ。
悪魔に体を乗っ取られて以来、ルイスが実家に戻っちゃって、一度も学園に顔を出してくれない。
正直、心配だ。
「……兄さん、ルイスさんに会いに行ってみてはどうですか?」
「へ? いや、そうしたいのは山々だけど、まだ悪魔の件も片付いてないのに学園を離れるのは……」
「だからこそですよ。サタンの力は直接目の当たりにしましたが……あれに対抗するためには、戦える人間は一人でも多い方がいいかと。それに、町から完全に逃げ出しましたから、今すぐどうにかなることはないはずです」
確かに、ティルティの言うことにも一理ある。
それに、町には今父さんがいるからな。近いうちに、領地の移譲やらなんやらで町を離れることになるだろうし、動くならそうなる前の方がいいかもしれない。
「ありがとうティルティ、行ってみるよ」
「はい! あ、でも……自分で言っておいてなんですが、今日のところは私と一緒にいてくれませんか? やっぱりその……私も不安がないわけではないので……」
「ああ、もちろん。今日は一緒に寝るか」
前にも一度やったことだし、問題ないだろう。
そう軽く考えて、部屋へと連れ込んで……。
翌朝、虫刺されを付けて二人で部屋を出たところを寮長に見られ、少し説教タイムが始まってしまったんだけど、なぜそうなったのかは、最後までよく分からなかった。
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